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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 05 * BEWILDERED HEART
26/139

○ Counting Anniversary

 カーヴ・ザ・ソウル。

 店長のカレルヴォは、またも新規の客がいることにぎょっとしていた。カノジョに指輪を贈りたがっているけど指のサイズがわからないと相談すると、彼は手のサイズが違うハンドマネキンを数点用意してくれた。手をつないだ時の感じをハンドマネキンで何度も確かめるゼインの姿は、なんだかものすごく笑えた。

 けっきょく彼、おおよそのサイズを決めたうえで、少々ならサイズ直しができるペアリングを教えてもらい、なにかの刻印を頼んだ。忙しいので二日かかると言われたものの、ゼインが止めるのも聞かず、カレルヴォを説得した。夜七時までには仕上げておくという話になった。

 一方こちらは、サビナはともかく、五人で色違いの革ブレスレットを買うことになった。刻印に五人のファーストネームの頭文字をとろうということになったのだが、私からはじまり、全員がおかしな言葉しか思いつかず、言葉はなかなか決まらなかった。というかゼインの“Z”、単語があまりないのだ。文章にするにはお金がかかりすぎるので、最終的な文章を決め、その頭文字を順番に並べることにした。

 刻印に頼んだのは“B.A.L.Z.N”。なんのことだかさっぱりわからないのだが、文章にすると“Blesses Abiding Long Zenithal Night”。やっぱりよくわからない、“変わらぬ長い天頂の夜を祝福する”、というような意味合いだ。ようするに、夜を終わらせることなく、ずっと乾杯し続けようというか。違うと思うけれど。

 私の名前が本当はベラではなくイザベラだということ、頭文字が本当はBではなくIだということは、彼らの中の誰も知らない。ゼインもなにも言わなかったので、サビナも話していないのだろう。

 選んだのは金具がベルト風になったデザイン、バックルがポイントになったものだ。私はブラックかワインレッドかで悩んだものの、ルキアノスがワインレッドにすると言ったので、私がブラック、ナイルがキャメルでゼインがチョコブラウン、アドニスがオレンジというカラーを選ぶことにした。これは完成に一週間ほどかかると言われたので、来週の土曜に彼らが受け取り、持ってきてくれることになった。私、文化祭の準備で忙しいので。

 次に、ルキアノスキの女避けの指輪。これは刻印なし。けれどペアで買うと安くなるので、私も無刻印で彼と同じデザインの、右手の中指につけるシンプルな指輪を買った。

 カレルヴォいわく、指輪をつける指にもそれぞれ意味があるのだという。右手の中指に指輪をつけるのは、自分の意志の力で意志のままに行動したい時や、現実的なパワーが欲しい時。 落ち込んだ状態から早く回復したい時や、ここいちばんの力が欲しい時等。間違っていないかなと思った。でもゼインとナイルに、これ以上力を持つのはやめてくれと言われた。無視した。

 カーヴ・ザ・ソウルを出ると、思わぬ出費でゼインとナイルがもう動きたくないというので、またルキアノスの家に行き、ゲームルームでゲームをして時間を潰した。

 夕飯は外に食べに行こうとしていたのだけれど、ルキアノスの母親であるエウラリアが、祖父とお父さんは今日も帰りが遅いし、ルキのお姉さんはデートだしで、最近大勢で夕食を食べていないとか言うので食事を一緒に、その夕食を彼女と私が作ることになった。といっても、私は簡単な作業を手伝うだけだ。エウラリアは祖母とは違い、ちゃんと分量を量るヒトだった。何年経っても、目分量というものが怖くてできないのだという。時折面倒になって目分量で作ってみても、ほとんどは失敗するか、味を調節するために調味料を通常の倍以上使ってしまうことになるのだとか。

 ナイルは辛いものが好きだとエウラリアに教えられ、彼のぶんのスパイシーチキンに、目分量でカイエンヌペッパーを入れてみるかと訊かれたので、適当にやってみた。オーブンで焼いたそれは、他と比べ二倍以上の赤色になっていて、食べたナイルにさすがに辛すぎると怒られた。辛いのが苦手な自分のぶんの、辛くないノーマルチキンを奪われた。

 途中ディアンティアというルキアノスのお姉さんが、彼氏と喧嘩したとかで帰宅、一緒にディナーの席についた。彼女も私と同じ、友達は友達だというタイプで、妙に意気投合した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 夕食のあと、ゼインと二人でカーヴ・ザ・ソウルに行った。完成したばかりのそれを見て、彼は感動していた。なにを刻印したのかはゼインとカレルヴォ以外、誰も知らない。カレルヴォは立派なケースを用意してくれていて、おまけにと映画館の割引券も彼につけた。

 店を出ると、一緒にバスに乗ってウェスト・キャッスルへ向かった。あまりヒトは乗っていなかった。私たちの他には老夫婦らしきが二組と女子高生三人組が一組だけだ。

 左列、前から四番目の窓際の席。ガラス越しに外を見ながらゼインがつぶやく。

 「なんて言えばいーんだろ」

 「“結婚してください”」と、私。

 「アホ」

 「でもよくわかんないな。カップルの指輪ってなに? 永遠なの? 婚約なの?」

 「さあ。なんかノリで言って、ノリで買ったってのはあるけど」

 「あんた、わりと半端な男だよね」

 うるさいよと答えると、彼はシートに背をあずけてこちらを見た。

 「お前は? 一年半くらいだっけ、つきあってたんだろ? 指輪とか買わなかったわけ?」

 「ないな。そういうの、興味なかった。修学旅行のおみやげでアクセも買ったけど、揃いとかより、似合うかどうか、イメージかどうかってのだし」

 「ふーん。最初のカノジョなんか、好きだったけどな、揃いだの記念日だの。しまいにクイズだよ。明日はなんの日でしょう? はじめてキスしてからちょうど四ヶ月です! みたいな」

 「なにそれ」

 彼が苦笑う。「まじで。つきあった記念日ってのなら、まだ理解できる。それも、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月──までなら、まあいいんだけど。四ヶ月とか五ヶ月なんて、数えると思わないじゃん。来週記念日だって言われて、なんの? って訊き返したらキレられた。七ヶ月記念日だよ! って」

 「ありえない」

 「それが普通になってんのかも。まえの彼女も、そこまで細かくはないけど、一ヶ月と三ヶ月と半年、あと一年記念は、絶対一緒にいるって約束してた。一年記念日はなかったけどな。最初のは半年で、安物だけど指輪買ったし、まえのは三ヶ月で買った。半年記念はペアのペンダント。別れたら後始末に困るってのはわかってんだけど、なんかこう、モノに頼りたくなるというか」

 私は小首をかしげた。

 「頼るってなに。なにを頼ることがあるの」

 「いや、なんでかな、最初の彼女もまえの彼女も、最初はすげーいい子だったのに、だんだんわがままになってきたんだわ。待ち合わせに遅れるって連絡入れたら、つきあいはじめの頃は、じゃあ待ってるーとかってなるんだけど。半年くらい経つと、キレてじゃあもういい! だよ。喧嘩も増えるし。わけわかんね」

 「遅れるほうが悪いと思うんですけど」

 「そうだけど、どうしようもない事情だってあるだろ。寝過ごした時とか、先公にあれやれこれやれって言われた時とか。道がやたら混んでてバスが進まない時とか!」

 「ねえ、律儀なの? 律儀じゃないの? マメなの? 大雑把なの? よくわかんないんだけど」

 「ナイルたちが言うには、最初は暴走するタイプらしい。すげーだいじにする。それこそもう、壊れ物を扱うように。けど相手のことがわかってきたら徐々に、それほど慎重じゃなくなるだろ。これくらいなら大丈夫、怒られてもああ言えばどうにかなる、もうすぐ記念日だから、なんか渡したら、みたいな」

 「クロいなー」

 「けど相手も、だんだん可愛くなくなってくるというか、新鮮さというか、ウブさがなくなってくるんだよな。そこらの女と一緒になってくる。まえの彼女は気づいたら、短いスカートで歩道に、しかもあぐらで座る女になってて。爪も長く派手になっていくし、香水くさいし化粧くさいし、携帯電話につけた大量のストラップが半端なく邪魔くさいし、言葉遣いも悪くなっていくし、極めつけに煙草吸うし。下着姿で部屋うろついてマニキュア塗ったりメイクしたりすんのが普通になったら、もう終わりだろ」

 私はけらけらと笑った。

 「なんで? なにがあったの? 高校デビュー?」

 ゼインもまた苦笑う。

 「まあ、そんな感じ。オレが相手に対して手抜きになってるのと同時進行くらいで、むこうは高校でできた友達と遊んでるうちに、気づいたらそんなのになってた。もともと明るくてまっすぐで素直な奴ではあったんだけどな。まっすぐで素直って部分が、変な方向に行ったというか」

 高校は、実は恐ろしい場所なのかもしれない。「サビナがそうならないよう、祈っとくしかないね」

 彼は空笑った。

 「やめて。脅すなよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ウェスト・キャッスル。

 乗ったのはナショナル・ハイウェイを西へと向かうバスだったので、降りて歩くしかなかった。ウェスト・キャッスルからはキャッスル・ロード以外にも何本か、ナショナル・ハイウェイへと出られる道がある。バス停はキャッスル・ロードに近い場所にあるので、マブの前を通る必要はない。

 マブ──マスティのM、アゼルのA、ブルのB。三人のファーストネームの頭文字をとって、私がつけた呼び名。アゼルが小学校六年の頃から住んでいた、マスティの亡くなった祖父の家。今年二月、クソ男に復讐するために行ってから、一度も見ていない、みんなのたまり場。ふざけて笑って喧嘩して、アゼルと愛し合った家。

 もうきっと、二度と行くことはないだろう。だから今、存在そのものがどうなっているかもわからない。見たいとも思わない。過去を振り返ることになるような気がするからだ。

 ゼインは歩きながらサビナに電話した。今ウェスト・キャッスルに来てる、話があるから会いたい、と。サビナがウェスト・キャッスル中学まで自転車で来ると言うので、私は祖母の家があるブロックの角で別れた。そのあとのことは知らない。

 と、思っていたのだが。

 午後十時すぎ、登録していないアドレスからメールが届いた。ゼインからだった。ヴァーデュア・パークで一時間近く話をし、なんだか色々と衝撃で、どうしていいかわからなくなったけど、昔のことで別れたくはない、と、指輪を渡したらしい。そしてサビナは、泣きながらそれを受け取ったという。

 夏休み中、文化祭の準備にサビナを行かせられなかったらごめんとも言われた。べつに来なくても困らないと返事をするとスルーされ、とりあえずといって電話番号が返ってきた。

 そしてナイルからもメールが届いた。電話番号つきだ。アドニスが教えたという。登録名を名前ではなく悪魔にしておくと言われたので、それならこちらはマフラーにしておくと返した。怒られた。

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