○ Girls World
ランチを食べながらも、ゼインはしつこく悩んでいた。今までどおりつきあうとしても、このメンバーと一緒に遊ぶのはもう無理だろうと思うと、どうも微妙らしい。どうしてそう思うかって、ナイルが微妙そうだからだ。そこで今現在、サビナのことを誰がどう思っているかという話になった。
ナイルは正直、好きではないという。今改心していたとしても、性悪なら多少は平気なものの、陰険は違う、とのことらしい。
アドニスは、キライとまではいかない。けれどそういう眼で見てしまうかもしれないし、冗談でそういった方向の話を振って、彼女の気を悪くしてしまうかもというのが心配なのだとか。
ルキアノスは、今はなんとも言えない。私が気にしてないのだから、気にするべきではないとは思う。今までと同じ態度を貫きとおす自信はある。私と同じで、アドニスが呼んだりゼインが連れてくるというなら、それに反対しないだけのこと。どちらでもいいらしい。
ゼインの本音はというと、戻りたい気持ちはあるものの、陰険という言葉が頭の中にあり、しかも自分の友達にもそう思われている。改心しているだろうとは思うが、イメージが一気に崩れたというか、信じていたものが一気に壊れた気がして、今までと同じ態度を貫きとおす自信がないらしい。それでまた、彼は悩みはじめた。ランチが終わっても悩んでいた。
ひとまず店員を呼び寄せると、食器をさげてもらい、デザートを注文した。店員が立ち去ると、私は再びゼインに質問した。
「けっきょく、どうしてほしいの? 戻れって背中押してほしいの? 戻るからって、こいつら全員を納得させてほしいの? それとも別れる決心をさせてほしいの? どれ?」
彼はテーブルに顔を伏せた。
「わかんねえ」
めんどくせー。
私の呆れた表情を見たルキが苦笑う。「じゃあとりあえず」手に頬を乗せてこちらに微笑んだ。「説得してみてくれる?」
説得コース。「っていうか、女なんてわりと、そんなもんだし」
アドニスとナイルが声を揃える。「は?」
「だから。表で仲よさそうにしてたって、そいつがいなくなれば、愚痴ったり悪口言ったりする。ちょっと度胸があれば、細かくダメ出ししたり、嫌味だって悪口だって直接言う。もしくは、内心見下したりバカにしたりしてるのに、いい奴ぶってやさしくして、相手が喜ぶのを見て、あとで陰で笑う。それでプライドや立ち位置が守れると思ってる。それが女っていう生き物よ。あいつらに限ったことじゃない」
ルキは思いついたような顔をした。「あ。そういえばそうだ。直接の嫌味や悪口なら、エルミがそうだ」
「そう」私はうなずいた。「私が気にしないのを知ってるから、エルミは直接言ってくる。あいつは小学校から私のこと、妙に見下してるから。女ってのは、嫌味を言われたり自慢されたり、ちょっとムカついたら、同じく嫌味で返す。詮索して利用して嫉妬して、ワガママで振りまわして他人に構ってもらおうとする。どうしようもなくなったら、とにかく泣きわめく。それが普通」
「それを“普通”って言葉で締めるなよ」ナイルが反論した。「怖いわ」
私は曲げなかった。「でもそれが普通。私の大嫌いな女の生態」
「いや、頼むから全員とは言うな。せめて半分にしろ」
「まあ、個人差はあるからね。嫌味で返す度胸すら持ち合わせてない奴もいるし。三分の一くらいにしとこうか。でも内心はそんなもんよ」
「フォローになってないんだけど?」
「フォローするやさしさはない」私はあっさり返した。「私だって一部の相手になら、誰かの悪口を言うことはある。っていうか愚痴。ばら撒きはしない。訊かれたらこういう奴だって答える。わざわざ自分がされたこととかを言ったりは、あんましないけどね。女なんてそんなもんだし、ガキなんてそんなもんよ」
アドニスは悩ましげに眉を寄せた。「まあ、バレンタインの話は中一だっけか。二月だから、二年になる前だけど。確かにガキ。オレにうざったらしいことをしてきたあのアホと同類ってことか」
彼の黒歴史。「そう。そっちはケイネル・エイジっていう、小学校がふたつある広い町の出身で、しかも今高校二年で、他の町の奴らとも知り合って、それなりに世間を見てるかもしれないけど。こっちはまだあの窮屈な町で、地元の奴らしか知らないわけよ。上や下、他の町の人間と知り合って深く関わるのなんて、極一部だし。
いくら周りより上に立とうとしたところで、所詮はあの小さな町で、自分たちと同期の、百八十足らずの人数を相手にしてるだけ。女っていう生物同士で張り合ってるってことを考えれば、実際はその半分の九十人弱しか相手がいない。でも本人たちはそんなことに気づいてない。そいつらより少しでも上に立つことに必死になってる。ほんとにアホくさいと思う」
私が言い終えると、またも数秒、沈黙が流れた。そしてなぜか絶句してるらしいアドニスをよそに、私の隣でルキアノスは笑いだした。
「ねえ、なんで笑うの?」
「いや──」
彼はツボに入ったらしく、テーブルに顔を伏せ、肩を震わせて笑っている。
かと思えば、ふきだしたナイルも顔をそむけて笑いはじめた。
そしてつられたらしく、伏せっていたはずのゼインも笑いだした。
で、とうとうアドニスまで笑いはじめた。
デザートを運んできた店員はぎょっとしていた。店員が立ち去り、彼らはどうにか笑いをこらえてデザートに手をつけものの、笑わないようにしようと努力した結果の沈黙がひとりの笑いを呼び、それがまた広がって爆笑に変わった。笑ったら罰としてランチを奢るとかデザートを奢るだとかっていう謎のルールを決めたが、けっきょくまた沈黙が笑いに繋がり、話がまともに進まないまま、彼らはなぜか笑いすぎな状態でデザートを食べ終えた。
食器を片してもらうためにまた店員を呼んだものの、彼らは店員がさがっても、とにかく笑っていた。私は呆れ顔で、もくもくとパフェを食べていたが。
無駄に笑いながら、彼らは説明した。百八十足らずで女子だけでも九十人弱というのは、確かにケイネル・エイジ中学校や高校の一学年に比べれば少ない。で、その少ない人数を相手に必死になってるという部分にも笑えるし、けれど普通に考えれば九十や百八十人というのもわりと多い数なのに、それを少ないと言いきって、しかもアホらしいなどという私に、なんだか笑えたのだとか。説明されてもどこに笑いのツボがあるのか、さっぱりわからなかった。
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「なにされても態度、変えなかったわけ?」ゼインが私に訊ねる。「たとえばそのバレンタインのあととか。なに考えて二年の文化祭の打ち上げに誘ったんか、それがよくわからん」
「態度っていうか、基本私は相手にしないし。あいつらだって話しかけてこないし。あ、でも一年の時、三月、うちのクラスの担任やってった教諭が別の学校に移るっていうから、その教諭に贈るアルバムみたいなの、みんなで作ったのね。クラス別に分けて写真撮って、スケッチブックに貼っていって、メッセージとか書いて。クラスごとにページ区切って進めてたんだけど、C組を仕切るのはあいつらにやらせた。喧嘩腰で」
「喧嘩腰ってなに」
「だからみんなの前で、あんたらは仕切られるより仕切るほうがいいでしょ、みたいな。なんだかんだでエデがリーダーなわけだから、あいつはサビナやカーリナ、同じクラスの連中の視線を浴びて、やらざるを得なかったっていう」
ルキアノスが苦笑う。「女の子の世界は複雑だな」
「それでやったわけ?」アドニスが訊いた。
「もちろん」と、私。「あとバレンタインに被害受けた女友達と、カーリナとつきあってた男ってのは、そのあとしばらく、ものすごく普通に話しかけてた。まあ話題なんてないから、挨拶したり、体育おつかれとか、たいていそんなだけど。私が、ああいう奴らは高すぎるプライドを崩してやるのがいちばんだって言ったから、それを実行して」
ナイルがつぶやく。「鬼か」
悪魔です。「文化祭の打ち上げは、特になにを考えてたわけでもないよ。クラスを仕切った連中がいたほうがいいよなってのと、まあ嫌味も混じってるかな。あいつらはB組で、こっちはD組だった。A組とB組、C組とD組で二チームの紅白に分かれてカラオケ合戦。私はうたう気、それほどなかったけど、負けそうだったらうたうってことにしてて、負ける気なんてしてなかった。当然圧勝。お前らはなにやったって私には勝てないよ、みたいなね」
「半端なく性悪なんだけど」ナイルはヒき気味につぶやいた。「なんでそれでお前が周りに肯定されてんのか、本気で謎」
アドニスが口をはさむ。「けどあいつらからすれば、逆転のチャンスでもあったわけだよな。あいつらは遠慮してうたわないなんてことはしないだろうし、むしろ目立ちたくて勝ちたくて、ベラより多くうたうほう。うまくいけば勝てた可能性があったわけだろ?」
「そーよ。あいつらも勝負する気でいたの。後半はだんだん焦ってたけど」
「で、けっきょく負けたと」ルキが締めた。「ヒくより同情するべきな気がしてきた」
遠い目をしてゼインがつぶやく。「自業自得にしても、わりとやられてるな。陰険さはともかく、これに喧嘩売ったところは、むしろ褒めるべきかも」
「修学旅行のは?」ナイルが訊いた。「なんで助けたわけ?」
私は答える。「ほとんどは男共だけど、捕まった奴らのことは、他の奴らも言ってきてた。どこに捕まってるとか、教諭たちと一緒にランチとってたとか、かなり悲惨だとか。しかも助けろって、はっきりとは言わない。私が頼られるのキライだってのはほとんどの奴らが知ってるし、さすがに教頭や生徒指導の教諭を相手に、問題児を解放させるなんてこと、できるかはわからないから。でも女友達をとおしてサビナが助けたいって言ってきて、だからキレたの。サビナにだけじゃなくて、挑発してどうにかさせようとしてくる奴らに対して。助けたってのはちょっと違う。私は教諭たちに八つ当たりしに行ったようなもんだし」
「けど解放したんだよな」アドニスが割りこんだ。「なに言ったんだ」
「時間はお金に換算されるのか、みたいなことを、ちょっと質問しただけ。毎回毎回反省には時間がかかるからって、解放することにしてくれた。ちなみにここだけの話、うさ晴らしはしてある」私は身を乗り出し、声を潜めて続けた。「同期の奴らは誰も知らないことだけど、その日の夕食の時、捕まった奴らが順に名前呼ばれて、提出した反省文をみんなの前で読まされたのよね。仕組んだのは私と教頭と生徒指導教諭。私が提案した恥の罰。当然エデとカーリナもそれ、受けてる」
口元をゆるめて言い終えると、彼らはふきだして笑ったり、苦笑ったりした。
「やばい同情になってきた」アドニスが笑いながら言う。「修学旅行だけなら直接ベラになんかしたわけじゃねえのに、なんか嫌がらせされてるし」
笑いをこらえてナイルが訊ねる。「え、サビナは? お前がなに言ったかとか、それ仕組んだこと、知らないの?」
「うん知らない。あいつらのところに一緒に連れて行きはしたけど、私は教頭たちと、ちょっと離れたところで三人で話したし。仕組んだことも口外しないって話だったから。校長には伝わってるけどね」
ルキは苦笑っている。
「先生たちまで味方につけてる。すごいな」
そのあと、これ以上ないほどにがっかりさせてしまったのだけれど。
「あいつらなんて、私にとっては相手にならないのよ。小学校やバレンタインの時は、それをあいつら、わかってなかった。私にガチで喧嘩売るとロクなことにならないってのもね。だから今はおとなしいもんよ。三人でいたところに声かけてきたっていう嫌味以降、たぶんなにもされてないし」
アドニスが言う。「どっちかっつーと、サビナのほうがベラに関わりたくない気がする」
ゼインは小首を傾げた。
「そうでもなさそーだったけどな。どっちかっつーと、ベラたちのほうに入りたいんじゃね? エデやカーリナが変わってないなら、の話だけど。とにかく昨日、ベラがなに考えてるかはともかく、嫌われて当然だって言ってた」
遠慮なくキライだ。
アドニスが相槌をうつ。
「まあそれは当然だけど。あいつが改心してるとしても、立場的に微妙なんかもな、仲悪い同士のあいだに挟まれて。しかも最初、リーズってイトコがいたわけだし」
「だからって陰険に成り下がるのは、どうかと思うけどな」ナイルが言った。
ルキアノスも続く。「まあ、戻るにしても、サビナだって居づらい気はする。ベラはこの中の誰とでも話すし遊ぶけど、サビナに対してだってそれは変わらないけど、この話を誰も知らないでとおすとしても、サビナがまともに話すのはゼインかベラか、たまにアドニスかだろ。ひっついてくるのって、わりと気まずいし」
「え、なんかオレに矛先、向いてねえ?」アドニスが言った。「え、やっぱ呼んだの失敗?」
ナイルが応じる。「この件、元はといえば、ベラの突っ張り陰険女発言が原因だけど、そこは言っても仕方ないし。それにしても、ゼインがよけいなこと訊かなきゃってのはあるかも」
そう言われて、彼は空笑った。
「オレがどんだけ後悔してるかはわかってるだろ!」
「はいはい、わかってるよ」
「でもさ」とルキが言う。「サビナからすれば、自分がいなきゃゼインはもっと俺たちと気兼ねなく遊べるのに、みたいなのは、思ってるかも」
「あ、それは言ってた」私は口をはさんだ。「最初のプールの時。遊んできていいって何回も言ったのに、なかなか行こうとしなかったって」
ゼインが肩をすくませる。
「それ覚悟で呼んだから、べつにどっちでもいいんだけどな。まあちょっとうずきはしてたけど。ベラと二人にしたら喧嘩になって、あれーだけど」
あはは。
彼が続ける。「それに昨日で、少々事実が捻じ曲がってるにしても、ぶっちゃけられてラクにはなった。普通にダチだってわかってもらえたんなら、もうみんなでってのは、あんまする必要ないかも」
「ああ、もうそれでいいじゃん」ナイルが言った。「勝手にふたりで遊んでろよ」
アドニスがにやつく。「どうせお前は友情より恋愛をとるタイプだし?」
ゼインは怒った。「丸ごと鵜呑みにしないでくれる!?」
「じゃ、そろそろカーヴ・ザ・ソウル、行こうか」ルキが言った。「なにもオーダーしてない状態で居座るのもどうかと思うし」
「え、オレは?」
「知らない」
「こーいう時は?」アドニスが私に訊いた。
訊かれても困る。「指輪買ってサビナの家に乗りこむ?」
ナイルがけらけらと笑う。
「かなりキザだ。しかもそれ言うお前、男以上にオトコマエ」
「指のサイズ、わかんねえよ」とゼイン。
「手つないであげよーか?」私は嫌味を込めて言ってみた。「わかるかも」
彼は遮るように手で払った。「怖いからやめとく」




