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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 04 * VANITY HEART
18/139

* Festival Plan

 翌日、昼休憩。

 朝から面倒なことが起きてるからと、短い休憩時間同様、関わりたくなくて机に顔を伏せて眠ったふりをしていると、いつのまにか本当に眠っていた。

 だが突然、本のようなもので思いっきり頭をはたかれ、起こされた。

 ものすごく痛くてキレそうになったものの、無視した。

 「今お前、思いっきりたたいたな」ダヴィデの声だ。「殺される」

 「殺される前に殺す」トルベンが言った。どうやら私の頭をはたいたのは彼らしい。

 「でも起きない」カルメーラが言った。

 「これはもう一発くらわせていいってことだよな」トルベンが言う。「しかも今度は角」

 「角!?」カルメーラと誰か、もう一人の女子が声を揃えた。誰だかわからない。

 「もうこれ、諦めるしかない?」

 ハリエットの声だった。同じクラスで、とりあえずうるさい女。カルメーラと声を揃えたのは彼女だ。カルメーラと同じで、それなりに誰とでも話すほう。そして、朝っぱらからクラスで面倒なことを言いだした張本人でもある。

 「だからもう一回しばけばいいんじゃね。角で」

 ダヴィデが呆れた様子でトルベンに言う。「お前、なんかストレス溜まってんの? 起こしてるっていうより、ただのうさ晴らしになってる気がする」

 「こいつが寝てるとこ見てたらなんかムカつく」

 なに言ってんだお前。

 ハリエットが苦笑う。

 「やっぱやる気ないんだろうね。予想はしてたけどさ。せっかく朝から、ベリーが起きてるうちに言ったのに。まさかここまで徹底して反抗してくれるとは思わなかった。休憩時間のたびに寝てるんだもん」

 彼女はなぜか、私のことをベリーと呼ぶ。話しはしても、学校外で遊ぶほど、特に仲がいいというわけではないのに。やめろと言っても聞かない。

 「文化祭もサボるのかな」サビナがつぶやいた。

 ハリエットが答える。「それはないっしょ? だって内申があるし、や、わかんないけど、勉強がんばってんだから、さすがにサボりはしないでしょ」

 「いや、わかんねえよ」ダヴィデが言った。「っていうか来るとしても、準備その他一切関わりたくない派だからな、実は」

 「それを言ったら俺だってそうなんだけど」

 トルベンがそう言うと、彼は笑って自分もだと同意した。

 「ダメだよ!」ハリエットが言った。「なにがなんでも、なんかやる! 最後なんだから!」

 ハリエットは今日、朝っぱらから、十月にある文化祭はとにかく大きなことをやると言いだした。三年は全クラス、ステージに立つことが決まっている。一般的には歌と踊り、もしくは劇ということになる。

 彼女はどこかの劇団に所属していて、歌や演技は並以上にできるらしい。舞台慣れしているからか、文化祭を勝ち取りたいという気持ちが強いからか、まだ七月だというのに、夏休み前だというのに、策を練るため、文化祭でなにをやるかを今週中に決めると宣言した。わざわざ、歌と踊りをやるか、もしくは劇をやるかのアンケートまでとった。

 カルメーラとサビナの話によると、どうやらクラスメイトのほとんどが、私と同じクラスになったからには相当大きなことができつつ、文化祭当日に行われる投票のステージ部門アンケートで、堂々一位をとれると思っているらしい。だが私は、どちらをやりたいかというクラス内のアンケートですら、白紙で返した。

 「ベリー、起きてよ」

 ハリエットが懇願するような声を出し、私はしかたなく起きた。関わりたくないのに。

 不満に満ち溢れる私の視線を無視して、彼女はアンケートの集計結果をメモした紙を机の上に置いた。歌と踊りが十六、演劇が二十二。私を含む五人が無回答という結果のようだ。

 ハリエットが補足する。「でもね、これは、ちゃんとどっちかを答えてって言った結果なの。最初のアンケートは答えたの、半分ちょっとくらい」

 カルメーラがさらにつけたす。「踊りなんかやりたくないって思ったら、演劇になるんだけど。なにを演るかってのが決まらなさそうだし、セリフ覚えるのも難しいし、配役もね、なんかモメそうだし。去年舞台でミスした子たちは内心、もうステージになんか立ちたくないって思ってる。そうじゃなくても、男子はステージに立つっての、あんまりやりたがってない。踊りなんか特に」

 「裏方なら喜んで」と、ダヴィデ。

 トルベンが私に言う。「お前が居るからな。俺らはわりと勝手通すつもりでいる」

 私に言われても困るのに。「あんたはなにがやりたいの?」ハリエットに訊いた。「アンケート結果とか、可能不可能は無視して」

 「ミュージカル!」即答だった。

 訊いた私がバカでした。「んー」

 頭を抱えて唸った。唸りながら、考えた。私だって出たくない、関わりたくない。なにもしたくない。音楽。演劇。ミュージカル。

 「ようするに」と、視線を合わせず私は言う。「セリフ覚えなくてよくて、歌で、裏方があって、演技があって、でもやりなおしができて、でかいことで、ステージでできるのならいいんだよね」

 「サイレント劇!?」

 どんな結論だ。「や」再びハリエットの視線を受け止めた。「ちょっと違う。PV作りなら? 去年A組であんたたちがしたみたいに、写真使ってもいいし、なんなら映像でもいいけど。三曲くらい選んで──ストーリ性のある曲を使えば、たぶんできるよね。元A組のうるさい連中、わりといるし。文字入れたり古めかしくしたりっていう細かい編集はいらない。しかもD組だけじゃなくて、他のクラスの写真もあいだにはさむ。クラスのプログラムっていうよりは、学年のアルバム。もちろんぜんぶでとは言わない。でも目立ちたくない奴でも、写真や映像なら、顔を隠したりして参加できる。声を張り上げる必要もない。どういうシーンを撮るかはあんたたちが考える。踊りたいならその映像を撮ればいいし、ステージでうたいたいっていうなら、その映像を流しながらうたえばいい」

 彼女の表情は、去年ホラーハウスという言葉を聞いた時のアニタと同じくらい、キラキラしていた。

 「それやろ!」

 「おもしろそう」口元をゆるめたカルメーラがサビナへと視線をうつす。「アルバムってのがいいよね」

 彼女の口元もゆるんでいた。「うん」

 「こいつの脳内、どうなってんだ」トルベンがダヴィに言う。「学年のアルバム作るって」

 彼が苦笑う。「だから変人。こういうこと平気で言うからマジでヒく」

 失礼な奴らだ。「撮影と編集っていう裏方作業を作ったんだから感謝してよ」私はまた、テーブルに腕を寝かせてそこに頬を置いた。「私は考案者だからもう仕事は終わりました」

 カルメーラとハリエットが声を揃える。「そんなのダメ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 けっきょく本当に、今年の文化祭の三年D組プログラムは、私の提案したもので話がまとまった。

 目立ちたい人間も目立ちたくない人間も、当然いる。元二年A組で、編集作業の過程を覚えた者、独学でさらにPCに詳しくなった者、実は元二年A組の作業に興味を持っていた者も。ステージの上で目立ちたくなくても、写真でなら参加できる。曲のテンポや編集方法によっては出演を一瞬にもできる。

 ハリエットは、少しでもストーリー性のある曲を思いつく限り書き出せと、クラスメイトに命令した。とにかく集めて、そこから絞るからと。私はカルメーラに、ノリがよくて好きな曲と、できればティーンエイジャーの青春をテーマにした曲も一緒に集めるよう言った。彼女は慌ててクラスメイトに声をかけた。言いだした当人の私はそんなもの、書き出さなかったが。

 私が好きなのは恋愛の、しかも失恋だったり怒っていたりする曲だ。そんなもの、拒否されるに決まっている。

 残った休憩時間を含め、三年D組の放課後はわりと騒がしかった。クラスメイトの半数以上がいくつかのグループに分かれ、携帯電話で使えそうな音楽を探したのだ。私も携帯電話を持っていないグループに自分の携帯電話を貸した。

 その日の夜、ケイから、自分たちのほうでも文化祭の話がはじまっているとメールがあった。彼は自分のクラスである二年E組で、私が去年やったホラーハウスを実行する。けれどもそのままを再現するのではなく、引き継いだ小道具にさらに手を加えて、演出も少し変えて、さらに怖いものにするという。しかも、去年三学期の終業式のあとのクリスマスパーティーでやったようなアテレコを、二年D組に実行させることで話がまとまっている。どちらのクラスもかなり乗り気らしい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 金曜日。   

 三年D組が文化祭の準備にとりかかったことを知ると、他のクラスも同じように話し合いをはじめた。

 ちなみにハリエット、曲と歌詞を確認してもPVは観ないことというのはもちろん、なにをやるかというのも、できるだけ他のクラスの連中に言わないようにと、クラスメイトに口止めしている。サプライズ的にしたいらしい。

 そして二時限目の休憩時間、私はエルミとハヌルに呼び出され、アテレコをやってもいいかと訊かれた。二年がやるからダメだと答えると、彼女たちは肩を落として教室へと戻っていった。

 D組で使う曲は、いくつかをブラックボードに書き出してそれに投票するという、かなり地味な方法で絞られていった。地味ではあるが手堅い方法だ。

 だが放課後、ハリエットがさらに面倒なことを言いだした。

 「大好きなんだ、この曲」私の机の傍らにしゃがんだハリエットが言う。「ノリはよくないけど、ストーリ性はある」

 「いい歌だよね。あたしも好き」

 サビナが同意すると、カルメーラも同じ答えを返した。

 この曲なら知っている。“Pretty In Pink”という、少し古い曲だ。ポップ路線ではあるものの、私もこのアーティストは好きなので、アルバムも持っている。確かにストーリー性はあるけれど。

 「やるとしたら、完全ストーリー仕立てになるよね」机の上に置かれたCDケースの脇で歌詞カードを見ながら私は言った。「バラードだし、かなり本腰入れることになる」

 「できると思う?」

 ハリエットのこの質問には、無理というよりイヤだと答えたかった。主役は女二人だ。あとはカップルが一組と、大半はエキストラ。後半の舞台はパーティー。かなり大掛かりになる。

 私はひとまず質問を返した。「パーティーはどうすんの?」

 「あたしの家。まだ許可とったわけじゃないけど、説得する。庭でホームパーティー風でも、どうにかなるっしょ?」

 一応考えているらしい。まあ、それしかない。教室では雰囲気が出ない。

 「やるとしたらお菓子パーティーだね。とりあえず保留にしとこうか。他の三曲の合間で、できそうだったらやる。シンガー役と主役の女役、それから相手の男とそのカノジョが必要だけど。そいつらさえ暇なら、夏休みを使うのでもいいし」

 「主役はハリエットがシンガー側、やるんだよね」カルメーラが言った。

 彼女は笑顔で答える。「もちろん。最初からそのつもりだよん」

 「周りの反感買わないといいけどね」と、私は目立ちたがり屋に少々皮肉を言ってみた。

 彼女が反論する。「だから三曲の中には入れようとしてないじゃん! それに男子と女子がひとりずつ、絶対必要になるし、あたしともうひとり、二人しか出ないってわけじゃないんだから!」

 はいはいそうですね。

 「黒髪といえば、リカだよね」

 カルメーラの言うリカは、黒髪ロングヘアで、性格がものすごく地味というか、おとなしいというか、静かな女だ。ぴったりといえばぴったりなのだが、少々問題がある。彼女、一年の半分は学校を休んでいる。彼女の連れまわりいわく、リカは球技大会だとか文化祭だとか修学旅行だとか、イベントがある時には、必ずと言っていいほどきちんと参加する。

 ハリエットが空笑う。

 「リカ、今日も学校休んでるけどね」

 「今日帰ったら電話してみる」カルメーラが言った。「自分に自信なさげだけど、目は大きいし可愛いんだから、メイクすれば絶対、もっと可愛くなる。説得してみるよ」

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