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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 03 * JUNE HEART
17/139

○ Calculation Error

 そして、期末テストが終わった。

 手ごたえはどうなのかと訊かれても、わかるわけがない。ただ解答欄はすべて埋めた。だが日曜、暗記をやるはずだったのにほとんどできなかったので、自信はあまりない。基本五教科以外、どうでもいいけれど。

 昼休憩時間中、報告したいことがあるから放課後教室で待ってろと、エルミからメールが入っていた。無視して帰りたかった。

 部活が再開されるとかで、トルベンはダヴィデと一緒に教室を出た。

 私はカルメーラとサビナが、なんのテストのどの問題がどうこうというやりとりをするのを聞いていた。カルメーラは普段、アニタと同じくらいうるさいけれど、勉強はそれなりに──アニタ以上にできる。高校はコマース・ハイスクールを希望。

 サビナとカーリナはウェスト・キャッスル高校を希望しているのだが、エデの志望はまさかのセンテンス・ロジック高校らしい。金さえ積めば誰でも入学できると噂の、幼稚園から大学までがエスカレーター式になった私立校だ。外部入学するつもりなのだという。小学校を卒業する間際、中学からそちらに移ると噂があったものの、流れたのだ。

 先にD組の教室に現れたのは、エデとカーリナだった。教室の後方戸口からカーリナが声をかける。

 「サビナ、帰んないの?」

 「ごめん、帰る」

 彼女はテスト用紙を机の上に置いたカバンへとしまいはじめた。だがカーリナとエデも教室に入ってきた。

 「テストできた?」カルメーラが彼女たちに訊いた。

 「ぜんぜん」カーリナが苦笑って答える。「昨日の理科がまずいかも」

 「ああ、あたしも。難しかったよね」

 どたばたと足音がしたと思ったら、後方戸口から勢いよくエルミが現れた。

 「ベラ!」笑顔でこちらに駆け寄ってくる。「つきあう!」

 私はいつもと変わらないテンションで反応した。「は?」

 「フレーデリクと!」

 「へー」

 「昨日告白してオッケーもらった!」

 そう言いながら、私に思いっきりハグをした。そんな彼女の肩越しに、教室へと入ってくるジョンアとナンネ、そしてなぜかまたもハヌルの姿を確認した。

 「暑いから離せ」と、私。

 エルミは笑いながら身体を離す。

 「もうちょっと喜んでよ。紹介してくれたかんね、アイスくらいは奢ってやる」

 この女に奢ってもらえばもう終わりのような気がするのはなぜだろう。というか、テスト期間中になにをしているのだ。

 「べつにいいよ」

 話をすり替えるようハヌルが私に訊く。「ベラ、テストできた?」

 なぜまたお前がいるのだ。「盟約に従って、解答欄はぜんぶ埋めたよ。合ってるかは知らないけどね」

 「自己採点してないの?」

 「めんどくさいからしない。けどダヴィとトルベンが、数学はたぶん五十くらいはあるだろって」

 エルミが口をはさむ。「微妙だなそれ」

 「うるさいよ」

 「あたしは数学、七十二点だった」ハヌルが言う。「ぜんぜんダメ」

 「ハヌル、高校どこ希望?」

 普段はろくに話もしないカルメーラが訊ねると、ハヌルはノース・キャッスル高校だと答え、彼女に同じ質問を返した。彼女はコマース高校だと答えた。続いてエルミが──普段は特に話などしないが──サビナたちに希望進路を訊いた。

 サビナが答える。「エデがセンテンス・ロジック高校で、あたしとカーリナはウェスト・キャッスル高校」

 心なしか、ハヌルの口元が若干ゆるんだ。

 エルミはそれに気づかない。「じゃああたしと一緒だ。近いもんね」普段は見下されているけれど、あえて対等でいようとする。それがエルミだ。

 そんな彼女にカルメーラがまた質問する。「彼氏も同じ高校?」

 「ううん、カレシはノース・キャッスル高校。サッカーが強いとこなんだって。サッカー部に入っててね。地元はアシス・タスクなんだけど」

 アシス・タスクは、センター街からナショナル・ハイウェイをはさんだ反対側にある町だ。ノース・キャッスル高校は確か、ケイネル・エイジを含むいくつかの町のど真ん中にあるブロウ・マウンテンという山の南側、エイト・ミリアドという町にある。

 ハヌルがまた私に訊く。「エルミの彼氏のこと、紹介したんだって?」

 一度会っただけの、よく知らない男のアドレスをまわしただけです。「したよ」

 「どうやって知り合ったの?」

 「センター街で逆ナンしたの。なんか歩いてたから、なんとなく。二人いて、もう一人は彼女持ちだったんだけど。アドレス交換してね、エルミが男紹介しろってうるさいから、紹介してやった」

 エルミが反論する。「紹介してとは言ってない!」

 私はすっとぼけた。「そうだっけ」

 「いいなー」ハヌルが言う。「あたしも誰か紹介してよ」

 全身に悪寒が走った。本気で言っているのかこいつ。「もう紹介できるようなの、いない」

 「イースト・キャッスルに通ってる友達は? もうつるんでないの?」

 「つるんでるよ。こないだの土日もね、勉強教えてもらってた。んで、他の高校の子とも知り合った。みんなでプールで遊んだの。勉強そっちのけで」

 カルメーラが口をはさむ。「プールいいなー。入りたい」

 「すごいよ。屋根つきプールだもん。冬は温水にできるんだって」と、私。

 「まじで!」

 ハヌルはまだ詮索をやめない。「彼女いんの?」

 もう黙れ。「さあ」ふと思いつき、私はハヌルに質問を返した。「っていうかあんた、彼氏と別れたの?」

 彼女はぽかんとした。「は?」

 「あれ? なんか噂なかったっけ」ジョンアと並んで腰窓にもたれるナンネへと視線をうつす。「ハヌルが春休みにセンター街で、すごくかっこいい男の子と手つないで歩いてたって」

 ナンネの口元がゆるむ。「そういえば──」

 すかさずエルミが乗った。「そういえば、誰かが言ってたよね。一回きりだったしよくわかんなかったから、けっきょく訊かなかったけど。別れたの?」

 「ああ、あれね」わけがわからないはずなのに、ハヌルはさもそれが事実であるかのように答えた。「別れたんだ。なんか飽きちゃって」

 「ええー? もったいない!」エルミのエンジンは全開らしい。「モデルとかできそうなくらい、すごい背高くてかっこいい子だって話だったのに!」

 「いやいや、あんなん顔だけだし」と、ハヌル。

 いろいろと盛りすぎだろ。

 「私の友達、自分に自信ない子ばっかりだからね」意味不明なホラを吹きながら、私はカバンを持って立ち上がった。「元彼がすごいかっこいい子だったって知ったら、ヒいちゃうんだよね。自分じゃダメだ、みたいな。だから紹介は無理。ってことでもう帰ります。さよーなら」

 ナンネとジョンアもあとについてきて、一緒に教室を出た。廊下には、笑いをこらえるアニタとペトラがいた。二人も話を聞いていたらしく、わざわざ中央階段に移って爆笑した。彼女たちは改めてカルメーラを呼び、エルミとハヌルを見送ると、ハヌルの見栄っ張りぶりに改めて爆笑した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌週。

 一学期期末テストの採点済み答案用紙がすべて返ってきた。

 友達同士でテストの結果を報告し合うにしても、わざわざその答案用紙を見せる必要はない。基本の五教科だけは、細長い紙に教科と各テストの点数を打ち込んで印刷したものをもらえるからだ。といっても各教科、各授業でテスト問題の解説があるので、けっきょくは答案用紙が必要になるけれど。

 テストの点数を知られたくない人間は必ずと言っていいほど、右上にある点数欄を隠すために答案用紙の角を何度も折る。ふいに広がることもあるので、徹底する人間はセロハンテープで留めたりもする。私は二十点だろうとそんなことをしないし、したこともない。

 特に難しかったとみんなが不満を漏らす理科、B組の担任教諭は、多くの愚痴を浴びせられていた。が、ベテラン教師はそんなことは気にしない。

 テストの採点結果がプリントされたその細長い紙を全員が受け取った放課後、D組の教室で見せ合いがはじまった。

 先週日曜は半分遊んでいたにも関わらず、私はまた点数が上がっていた。しかも数学はまさかの五十四点。アニタより二点高い。彼女は本気でへこんでいた。なんて失礼な奴なのだろう。社会科は同じ点数、外国語はアニタのほうが三点高く、国語は完敗。

 全体的にゲルトのほうが私よりも点数が高かったものの、外国語では私のほうが二点高かった。彼も本気でへこんでいた。ものすごく失礼な話だと思う。

 不思議なことに、私が本気で勉強しようとすると、なぜか彼らも本気になる。受験生だからというのは当然のことながら、それよりももっと大きな理由がある。私にだけは負けたくないのだという──私が彼らの火種になっているらしい。

 肝心の五教科合計は、二百四十五点だった。目標にあと五点足りない。

 けれども不満に思うことはない。二年の三学期末と三年になってからの一学期末、ルキとアドニスに勉強を教えてもらっただけで、ここまで点数が伸びた。ダヴィデとイヴァンが、これで今までいかに私が勉強をサボッていたかがわかったな、と言っていたけれど、そのとおりなのかもしれない。私はやればできる子なのだ。おそらく。

 フロアを抜けて校舎を出ようと、ぞろぞろと東階段に向かっていると、全開にされた戸口から、A組の教室内にいたエルミに呼び止められた。私はゲルトやアニタたちを行かせ、ひとり彼女たちのいる教室へと入った。教室内には数人の生徒が別グループで話をしていて、エルミとジョンア、ナンネとハヌルは中央列の席に集まっている。エルミが中央右側の席、前から四番目で、ナンネはその左隣。ハヌルはエルミのうしろの席らしい。C組のジョンアはハヌルの隣の席に座っていた。

 近づく私に、エルミがテストの結果はどうだったのかと訊いてきた。私はわざわざカバンから、テスト結果が印刷された細長い紙を出し、彼女に渡してあげた。

 紙を凝視するエルミがつぶやく。「すごい。マジでまた点数上がってる」

 「マジで?」見てはいないがハヌルが訊き返した。

 私はハヌルの右隣の席に腰かけ、あくびをした。

 「っていうか!」エルミが声をあげる。「理科、負けてるし!」

 「え」

 「あんたより上だよ。一点差だけど」

 「嘘」ハヌルはぎょっとし、エルミから紙を奪った。「──ほんとだ」

 一点下ということは。「四十八?」

 私の質問に、メガネゴリラが口元をひきつって言い訳する。

 「理科、あんま勉強してなかったんだよね。社会科のほうばっかりやってて」

 「友達がヤマ張ってくれたからね。それが当たったっぽい」フォローしてあげた。「けどそれなら合計、相当いいんじゃないの? 数学、七十二点だっつってたもんね」

 「ああ、なかったよ」ハヌルから受け取った紙をこちらに返しながら、エルミはけろりと答えた。「なんか計算間違いだったっぽい」

 「へー」紙を胸ポケットにしまう。「何点?」

 「何点だっけ」エルミがハヌルに訊いた。顔を引きつらせる彼女は言いよどんだものの、エルミは思い出した。「あ、六十二だ。合計はあたしが二百七十六。で、確かハヌルは二十点くらい高かった。三百なかったけど」

 六十二点ということは、十点も計算ミスしていたのか。その誤差は計算ミスと呼べるのか。

 「へー。ちなみにね、私たちの中じゃ、ダヴィとトルベンがダントツで一位だった。細かい点数は覚えてないけど、あいつら合計が同じで、揃って三百五十以上もあった」

 「マジで!」エルミの反応はいちいち大げさだ。「すごいな。イー・キャス行けるじゃん」

 「たまたまだとか言ってたけどね」私は立ち上がった。「眠いから帰るわ」

 「あ、あたしらも帰る!」

 そう言ってナンネが席を立つとジョンアもあとに続き、私たちは揃って教室を出た。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 テストの結果を、祖母はとても褒めてくれた。同時に、ルキアノスとアドニスにも感謝していた。言ってくれればランチはできるだけ作るから、と。

 そして、買ってから二年以上経つし、そろそろ携帯電話を機種変更しに行こうかという話になった。私はほとんど使わないし、不便なことなんてないのでいいと言ったのだが、気分転換になるかもと祖母が勧めてくれ、土曜に機種変更に行くことになった。

 今日、水曜はルキアノスとアドニスの期末テスト第一日目で、結果報告は彼らの試験が終わってからでいいかと思っていたのだが、夜、ルキアノスから電話があった。結果が気になって勉強に集中できないらしい。アドニスも一緒にいたらしく、結果を伝えると、アドニスは満足したものの、ルキは不満そうだった。彼の中では、合計を二百五十点にしたかったのだという。もちろん私を責めたわけではなく、やはり日曜に遊びほうけたのは失敗だったな、と。責任感が強すぎると思う。

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