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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 03 * JUNE HEART
15/139

○ True Mind

 しばらく四人で遊んでいると、乾いたバスタオルを数枚持ったゼインが戻ってきたので、私は彼と代わることにした。すれ違う時にゼインが小声で、「ナイルも俺も、今日はじめてベラに会ったって言っちゃった」と言ってきた。話を合わせろということらしい。

 サビナは移動してパティオの、私が座っていたのとは別のチェアに腰かけている。親切なことに、テーブルには八脚もチェアがあるのだ。放置していたパレオをトップスで身につけると、サビナに渡されたバスタオル軽く髪を拭いて、勉強道具をテーブルの隅に片づけた。

 正直、かなり疲れた。春休みに引きこもっていた私は、体質的に太りこそしなかったものの、進級してからの体育の授業も、当然球技大会も、実はけっこうきつかった。体力は戻ったと思っていたけれど、プールで遊ぶにはまだ足りていないらしい。

 サビナからひとつぶんの席を空けて腰をおろす。煙草が欲しいと思いつつも、テーブルの上に置かれた瓶コーラを一口飲んでから、彼女に訊いた。

 「入んないの?」

 彼女は小声ながらも全力で否定した。「むりムリ無理! スタイルよくないもん」

 まだそんなことを言っているのか。男全員がそんなことを気にすると思いこむのがまず、間違っている。そして制服のスカートは膝上なのに、なにをそこまで気にするのだろう。

 「いちいち気にしないでしょ。その水着なら、ちょっと気をつけてればそんなに目立たないよ」

 「うーん──」口ごもると、彼女はルキとアドニス対ナイルとゼインでビーチバレーをする光景を見やった。「来ないほうがよかったかな、とは思ってる」

 「なんで」

 「ゼインは遊ぼうって言ってたけど、あたしが拒否してたから、話につきあってくれてた。何回も、見てるから行ってきていいよって言ってたんだけど──何度目かでやっと、じゃあちょっと遊んでこようかなって。呼べそうだったらベラ呼ぶからって。それもいいって言ったんだけど」

 呼ばれたわけではない。

 彼女が続ける。「でもあたしが来ないほうが、ゼインも普通に遊べたのになって」

 お前が一緒に遊べばなにもかもが解決するじゃない。と思いつつも、私はまたコーラをまた一口飲んだ。ビールを飲むようになってから、以前よりは炭酸飲料が飲めるようになった。こんなものを飲むくらいなら、ビールを飲んだほうがいいとは思っているけれど。

 「んじゃ」私は瓶の蓋を閉めながら切りだした。「スタイルがどうこうっていうのを抜きにして、他に遊ばない理由は? ナイルはどうか知らないけど、アドニスやルキとは話せないわけじゃないじゃん」

 「そうだけど──ゼインの前であんまり、他の男の子と話したくないっていうか、話せないっていうか──」言葉を濁す。「ナイルは話したことない。会ったのも今日がはじめて。特に挨拶したわけじゃないし──アドニスは話しかけてくれるから答えるけど、ルキはそれもあんまりしないし──」

 なにが言いたいのかよくわからなかった。私もなぜそんな質問をしたのか、自分でもわからない。そもそも今さらではあるが彼女、私が知っているサビナ・モラッティとは別人になっている気がする。イトコのリーズと同じで、恋愛で自分を見失うタイプなのか。

 「目の前で他の男と仲良く話してて、気悪くされんのがイヤってこと?」

 そんな私の質問に、サビナは小さくうなずいた。

 「っていうか」これ以上ないくらいの小声で、とてつもなく遠慮がちに言葉を継ぐ。「──まだ、してないの」

 私はぽかんとした。「──キス?」

 首を横に振った。

 「それはした。つきあって三ヶ月経った頃に。今は、デートの時にはしてる」

 ということは、答えはひとつだった。まさかだ。ゼインはそれほど純情なのか。だが思い出してみれば四月に会った時は確かに、まだキスもしていないと言っていた気がする。つまり、していないうちから体型を見られて引かれるのがイヤだ、などという考えなのか。太ってはいなくて、痩せすぎというわけでもない。胸はない。くびれも微妙だ。まだ幼児体型から抜け出せていないというか、太ってはいない寸胴体型というか。

 身を乗り出し、サビナは深刻そうな表情をこちらに向けた。

 「絶対絶対、内緒にしてほしいんだけど」

 他の人間もそうなのだが、どうしてこう、面倒そうなことをわざわざ言おうとしてくるのだろう。とは思っても応じないわけにいかないので、こちらもテーブルに腕を乗せ身を乗り出した。

 「なに」

 「カーリナはね、一年の時、カルロと──したんだけど」

 あはは。すごい暴露。笑えないし聞きたくもない。

 サビナが続ける。「エデがね──たぶん、まだなの。──だから、なんか──」

 「まだって、そう本人から訊いたの?」

 「ううん。でもあたしとカーリナが知る限り、誰ともつきあってない。アゼル先輩のことが好きで、それがダメになって、ルキのことを好きになったけど──フラれたし」

 知っている。「ああ」

 「アドニスにカノジョができて、けっきょくダメになったけど、カーリナは一応経験者で、二人の時は恋話もする。けど──エデはそうじゃないし、三人では恋愛の話、できなくなってる。カーリナが、エデはプライド高いから、あたしまで経験者になったら、すごい不機嫌になる気がするって──」

 プライドが高いのはお前も同じだろうと、カーリナに言ってやりたい気がした。エデほどではないのだろうが。

 まだあるらしく、彼女はさらに続けた。「それに、今はエデもカーリナも彼氏がいないから、あたし、立場が微妙。ペトラとかカルメーラとかチャーミアンが一緒だったら、そうでもないけど──土曜はよく、エデに誘われる。カーリナも一緒で、ほとんど毎週。だからゼインと会えるのは日曜の、しかも隔週だったりする。別の隔週で、日曜はエデたちや他の友達と遊ぶことになるから。今日はゼイン、ナイルと約束してたし、あたしも家族と買い物に行ってたんだけど。

 ゼインは家に誘ったり、泊まりにこいなんて言わないし、夜は電話してくれて、すごい大事にされてると思う。でも正直、最近、どうすればいいのかわかんない。このままだと──」言葉を切った。

 とりあえず、話を整理しようか。

 泊まりなら普通、土曜から日曜にかけてだ。だがその土曜にエデたちに誘われるという、一種の嫌がらせを受けている。このままだと、フラれる可能性もある。

 状況が呑み込めたところで、私は春休みのことを質問した。

 「春休みは、もっとしょっちゅうだった」サビナが答える。「よくセンター街に行ってた。はっきりとは言われなかったけど、たぶんナンパされにだと思う。でもナンパなんてそんなにされないし、声かけられてもほとんど中学生。高校生でも──顔が、タイプじゃないとか。エデは年上の、レベルの高いハンサムにしか興味ないし、それもけっきょく、うまくいかなくて」

 笑える。

 彼女の話はさらに続いた。「あと、エデはルキに、カーリナはアドニスに夢中になってて、紹介された男の子ともけっきょく、うまくいかなかったのね。今は連絡もとってないみたい。こないだゼインから訊いたけど、エデがメールしてた子、カノジョできたらしいし」

 さあ、もう一度話を整理しようか。

 サビナを連れてナンパされに行く。声をかけてくるのは中学生か残念顔。ああもう、考えるのが面倒だ。エデとカーリナはけっきょく、アドニスから紹介された相手となんの進展も得られず。理由、ルキとアドニスに夢中になっていたから。暴走しすぎ。

 なにを言えばいいのかわからず、気づけば適当すぎるアドバイスを口にしていた。

 「とりあえず年上にナンパされたいなら、チェックのワンピースだとか、ガキっぽい格好はやめたほうがいい。毎回毎回高校生に見られる私にとっては、羨ましい限りだけど。それに、あいつらのことを考えるのは変。ゼインがどう思ってるか知らないけど、あんまり引き伸ばしてると、好きじゃないのかもとか思われる。そりゃ早過ぎても、軽いと思われるかもだけど」

 自分で自分の首を絞めている気がするのは気のせいか。

 私は続けた。「その気があるなら、エデたちに誘われる前に、自分から土曜に遊びたいってゼインに言いなよ。親にする言い訳が欲しいならペトラの名前でも使って、エデたちに誘われたら、デートだからって言えばいいじゃん。ツレの恋路邪魔する奴なんて、友達だなんて思わなくていいんだから」

 私が言い終えると、サビナは泣きそうな表情で悩みはじめた。

 その煮えきらない態度になんとなくイライラしてきた私は、呆れ顔で溜め息をついた。

 「あんたさ、いいように使われすぎ。リーズたちに媚売るのとか、私に声かけるのとか。いつもあんたじゃん。拒否しなよ」

 今度は顔をしかめた。「友達だもん」弱気な声だった。

 「だからさ。利用が入ったら、そんなの友達じゃないから。本物じゃないから。時と場合によるんだろうけど、あんたの場合は違う。変。第六感が働いたりして忠告するとかじゃなくて、順調にいってる恋路を邪魔するのは友達じゃない。わざわざ話せとは言わないけど、あんたとゼインがどう進展しようと、あいつらには関係ないじゃん。つってもアニタとペトラみたいな仲を考えれば、一緒に騒いで喜んで怒ってってのが、普通なんだろうけど。あんた本人が利用されてるって思って、且つそれをイヤだと思うなら、それははっきり言ったほうがいい。言わなくてもわかるのが友達だとは思うけど、言えるのが友達でしょ」

 「でも」彼女は言い訳がましく切りだした。「そんなふうに割り切れないよ。どっちも大事だもん。エデは違うけど、カーリナとは同じ高校に行こうって約束もしてる。失くしたくない」

 呆れるしかなかった。こいつは本当に、リーズのイトコなのか。ワガママと暴走をぶっ通す一族ではないのか。

 「ならもうゼインと別れればいいじゃん」身体を起こしながら、私は冷たく返した。「そしたら悩む必要、なくなるんだから。そんでそうやって一生、エデとカーリナに男ができたら自分も誰かとつきあって、あいつらが男と別れたら自分も別れてっていう、媚売りの友達ごっこしてればいいよ。そんで十年後、あいつらが結婚したらあんたも結婚して、離婚したらあんたも離婚して? 再婚したら再婚すんの? 本気でくだらない」

 言葉を吐き捨てた。それでも私の口はまだ止まらない。

 「リーズとニコラが気に入らなかったのは、あんたのそういうとこ。主体性がないとこ。カーリナと一緒に、いつもエデにくっついて調子合わせて、リーズに会うたびに、エデやカーリナの話を持ち出すところ。一年のバレンタインの時、そう言ってた。リーズがどれだけアニタやアゼルにあやまったか、あんた知らないでしょ」

 アゼルにあやまったのは、私がカルロにキスするなどという、かなりバカなことをしたせいですけど。

 私は返事を待たずに続けた。「知ってると思うけど、リーズが戻ってくるのは約三年後。それまでにちょっとは成長しなよ。二年の修学旅行、エデとカーリナが煙草を吸うのを知ってて抜き打ち検査のことを言わなかったのは、あんたが便利に利用されてんのをわかってて、それを手助けするようなことをしたくなかったから」

 これは修学旅行のあと、リーズから聞いた。というか今になって、リーズたちがいなくなってからはじめて、サビナの前でリーズの名前を持ちだしたことに気づいた。

 サビナの目に涙が浮かんでるのにも関わらず、私は立ち上がり、彼女にさらなる追い討ちをかけた。

 「あんたがエデだのカーリナだのって言い訳してると、ゼインのことがどうでもいいって言ってるように聞こえる。実際あんたの頭ん中がどうなってんのかは知らないし、どっちを優先しろなんてのは言えないけど。私にはどうでもいいことだけど。どっちにしたって、あんたがやってるのはぜんぶ中途半端。私を利用するのはかまわないけど、特に仲がいいわけでもないのに、私に本音言ってどうすんの? あんたが本音言わなきゃいけない相手は私じゃなくて、エデとカーリナ、それにゼインでしょ? いつまでもうわべで取り繕ってんの見てると、本気でムカつく」

 サビナは泣きだした。私は無視し、肩にかけていたバスタオルをチェアに投げ置いて、いつのまにかアドニスたちと一緒になってこちらを見ていたルキアノスに向かって「ビールもらう」と言い、家の中へと入った。

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