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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 03 * JUNE HEART
13/139

○ Visitors Of Weekend

 土曜日。

 バスに乗ってケイネル・エイジへと向かい、バス停まで迎えに来てくれていたアドニスとルキアノスと三人でランチをとると、ルキの家に行った。一学期末のテスト勉強のためだ。

 彼の部屋は二階にあって、インテリアにはダークグレイとブラウンとシルバーといった色が多く使われている。てっきりモノがない部屋だと思っていたのだが、そうでもない。贅沢にもクイーンサイズのベッドとテーブル、そしてテーブルをはさむよう、ソファベッドがふたつと壁掛けテレビが、さらにPCが置かれたデスクもある。まあ、意外とモノが多い。

 それを言うと、彼はインテリアなど興味がなく、親が気まぐれに買ってきたり、友達や親戚にもらったものをそのまま置いているだけだと答えた。ついでに言えば、アドニスの趣味も少々混じっているらしい。

 今年は受験ということもあり、テスト前は毎回、教師が数枚のプリントを配ってくれる。アドニスが提案した、解答欄はぜんぶ埋めることという条件のもと、まずは私ひとりで問題を解き、終わったら彼とルキが訂正するという、地味な方法をとった。もちろん、数学と外国語は解説つき。

 アドニスは解るまで教えるなどということはしないのだが、過去に自分がなにをどう勘違いしていて、それをどう正して覚えたかというのを教えてくれた。そのおかげで私もルキも、サクサクと勉強を進めることができた。私だけだと、自分がなにを理解していないのかすら、理解していないわけだから。

 勉強の合間、一時間おきに約十分間の休憩をとる。学校か。その十分のあいだに、私たちはひとまず一階のキッチンへ向かう。カフェオレだのコーヒーだのジュースだのを用意するためだ。アドニスはパントリーを漁ってお菓子を調達する。

 だがこの日は午後三時頃、ルキアノスの母親であるエウラリアがケーキを手土産に帰ってきてくれたので、ありがたくそれをいただいた。彼女には以前この家に来た時に会っていて、今日も私が勉強を教えてもらいに来ることを知っていたという。“高校に落ちたらこの子たちのせいにしていいから”と、さらりと言ってくれたりもしている。

 ルキアノスの部屋、少し長めの休憩時間。ケーキを食べ終わると、向かいでソファにもたれたアドニスが切りだした。

 「そういやな。適当に声かけた後輩に調べさせたけど、ウェスト・キャッスルのネストールなんて奴、イー・キャスにはいなかったぞ」

 ネストール・ブランカフォルトは、私たちのひとつ上の学年、ウェスト・キャッスル中学の前生徒会長のことだ。アニタが以前惚れていた相手。ほぼ全校生徒と言える人数の前で、私を好きなことを私によってバラされ、しかもストーカー扱いされてフラれるという、私からの最低最悪な復讐を受けた男。

 「入学してないってこと?」

 私は訊き返した。調べてくれと頼んだわけではないのだが、アニタが惚れつつ、私に惚れたストーカーのような男というのに、彼は興味を持ったらしい。

 「らしいな」とアドニス。「ウェ・キャス繋がりでダチがいて、挨拶したいからクラス教えてくれって、先公にも頼んでみたんだけど。調べもしてくれたけど、そんな名前の生徒はいないって。そのあとルキがウェ・キャスから入学してきた一年の女をひとり見つけて、そいつに訊いてみたんだけど」

 彼の視線を受け、左隣でソファに腰をおろしているルキアノスがあとを引き継いだ。

 「入学してないらしいんだ。噂じゃ、春休みのあいだずっと引きこもってて、いつのまにかどっかに引っ越したとか。よくわかんないし、周りは誰も、なにも知らないんだって」

 引きこもったあげく、引っ越し。「精神弱すぎじゃね」

 アドニスが苦笑う。

 「いや、さすがに無理だろ。全校生徒の前で好きな気持ち暴露されて、ストーカー扱いされたあげくフラれて、廊下で吐いたわけだろ? のこのこ進学なんてできるはずねえじゃん。同じウェ・キャス出身の奴もいるのにさ」

 「私がつきあうなんて死んでもイヤだとか、二人っきりでカラオケボックスっていう密室に長時間籠るなんて死んでもイヤだって奴らは、今も元気に学校に来てるわよ? まあ冗談まじりだし、さすがに吐いたりはしてないけど」

 「なんだお前。告られてんのか」

 「そんなんじゃない。カラオケのほうは、他の女に嫉妬させるため。もうひとりは、キスしてやったら調子に乗っただけ」

 「は?」

 彼らが身を乗り出して声を揃えたものだから、私は思わず少し身構えた。

 「え、なに」

 「いやいや。なに、キスって」

 なにを誰にどこまで話したか、よくわからなくなっていたのだけれど、そういえば話していなかったか。

 簡単に説明することにした。「だから、球技大会の優勝の褒美? みたいな。私をやる気にさせるために、アニタたちがくだらないゲームをしてたってのは話したでしょ。それに参加してた連中のうち二人が、私のクラスが優勝したらキスしてやるとか言ってて。だから、そっちが優勝したらキスしてあげるって言ったの。で、まあけっきょく、二人にしたんだけど。そのうちのひとりが、ね」

 彼は呆れていた。「お前、そんな軽いノリでできるもんなの? マジで?」

 「フレンチくらいじゃなんとも思わない。だって私、あのアホとつきあってるあいだに、三人の男とキスした。あいつも知ってることだし、なんにも言わなかったし。同期のあいだではもう、私はキス魔だとかいう話になってて」

 今度はアドニス、苦笑った。

 「堅い堅いと思ってたけど、変なとこだけガードゆるいな」

 「っていうか、そっちと同じでしょ? つきあってもないのにアニタとキスしたわけだから」

 「いや、あれはちょっと違うだろ」言い訳がはじまった。「そりゃ流れ的なもんはあったけど、けっきょくはつきあったし、そうなってもいいって思ってのことだったし。お前は気持ちがまったくないのにできるわけだろ?」

 「だからフレンチだけよ」言葉を少々強調した。「それに、ちゃんとした友達の枠の中にいる奴にはしない。や、その中にいても、勝手にされてってのはあるけど」いつのまにか言い訳がましくなっている。「球技大会の時の約束は、まだ気持ちが安定してなかったのよ。今なら絶対イヤだって答える」と、思う。

 「とりあえず」ルキが割りこんだ。「休憩しすぎ。続きやる」

 私は安心した。こういう時、自分がどれだけおかしくなっていたのかがわかってくる。どうでもいいのだが、ずいぶん不安定だったのだと実感してしまう。なんだかへこむ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 どんより曇り空の、蒸し暑い日曜日。

 私は再びルキアノスの家へと向かった。ただし今日は、祖母が作ってくれたサンドウィッチを持っている。アニタから話を聞いていたアドニス、興味があったらしい。味がツボだとかで、彼はがっついて食べた。ルキにも好評だった。

 食べ終わると、眠気に負けそうになりながらも、また勉強にとりかかった。今日はやっぱりさっぱりな外国語と、昨日の復習で数学を少し、あとは暗記系をやる。

 ──つもりだったのだけれど。

 クイズ形式で問題を出してもらっているところで突然、ルキアノスの部屋のドアが開き、ゼインとナイルが現れた。

 「あれ、ベラがいる」ゼインが言った。

 私は挨拶した。「ハイ」

 「なにやってんの?」ナイルはテーブルの上に散らかった教科書の類を見やる。「ああ、勉強か。なんか懐かしい光景」

 ルキアノスは呆れた顔をした。「お前ら、また勝手に入ってきたの?」

 「勝手にじゃねえよ」ゼインはアドニスとハイタッチをして挨拶し、その隣でソファに腰をおろした。「家の前で向かいのばーさんと話してたエウラリアには、ちゃんと声かけたし」

 デスクチェアに前後逆向きに座り、ナイルはバックレストに両腕を乗せた。

 「って言っても、ほんとに声かけてお前の在宅確認して、勝手に入ってきただけだけど」

 「それが普通だもんな」と、アドニス。

 「よくキレないわね」私はルキに言った。「私だったら蹴飛ばして追い出してる」

 彼は肩をすくませた。

 「こいつらなんかまだマシ。アドニスなんか、一家公認で合鍵持ってるからな。ほんとに勝手に入ってくる」

 「まじで」

 「だってオレ、ルキの保護者だから」

 「いや逆だろ」すかさずゼインがつっこんだ。「しかもお前あれじゃん、昔家出してここに逃げ込んで、その時の合鍵をいまだに持ってるってだけじゃん」

 ナイルが補足する。「ルキがいくら返せっつっても返さないんだよな」

 「もうイヤになる」と、ルキ。「とりあえず今はこのとおり、勉強中。お前らの相手してる時間はない」

 「ああ、それはいい」ゼインが応じた。「オレらプール入りに来ただけだから」

 私は「手ぶらじゃん」と彼らに言った。

 ナイルが答える。「服のまま入るんだよ。上は脱ぐけどな。さすがに家のプールで、しかも男ばっかで水着になっても、なんか不気味だろ」

 納得した。「帰り、ものすごくにおう気がするんだけど」

 ゼインが言う。「ずぶ濡れの状態でチャリ乗って帰る。チャリなら十分かからないし、なんならルキの着替えパクるしな」

 めんどくさ。

 私の呆れた表情を読んだのか、ルキは苦笑って、もう慣れたとつぶやいた。

 アドニスはずっとうずうずしている。「オレも入ろうかな。気分転換に」

 「一昨日入っただろ」

 そんなルキの言葉を無視し、彼はゼインに言った。「サビナも呼んでやれば? したらベラも遊べる」

 面倒なことを。「私はプールになんて興味ありません」

 「なに、カナヅチ?」

 薄笑いを浮かべるナイルの質問に、「んなわけあるかボケ」と返した。

 「んじゃすっぴん見られたら相当まずいとか」

 「あほ」とだけ言ってみた。「でも夏休みなら」ルキへと視線をうつす。「あり?」

 彼が微笑む。「ま、いいんじゃないの」

 アドニスが再度サビナを呼んでみるようゼインに言って、彼はまあいいかと彼女に電話をかけた。私がいることを伝えて、でも不安がっているらしく、私は電話を代わった。

 「ハイ」と、私。めんどくさい。「ごめん。ルキとアドニスと三人で勉強してたんだけど、ゼインたちが来て。私が、サビナ呼んでくれないならイヤだとか言っちゃったから」また適当な嘘をついた。「ヤならいいんだけど」

 「ヤではないんだけど──」電話のむこう、サビナは気まずそうに答えた。「恥ずかしくない?」

 「いや、べつに。っていうか私は勉強してるから、入る気もあんまないんだけど。あ、でも着替えは持ってきたほうがいいかも。服のままっつっても、こっちはバスで帰るんだし。なんならタクシー呼ぶけどさ。入らなくてもいいよ。遊ぶゼインの横で、ルキに勉強教えてもらうのでもいいし」

 彼女は苦笑った。

 「じゃあ、一応行こうかな。ベラは? 着替え貸そうか?」

 「いいよ。なんならゼインがあんたを迎えに行ってるあいだに、買いに行ってもいいし」

 「そっか──ちなみに今、どんな格好?」

 「ショートジーンズとタンクトップとロングカーディガンだけど」

 「あ、そっか。わかった。じゃあ行く」

 なんの確認だったのだろう。というか来るのか。「ん、ゼインに代わる」

 携帯電話を返すと、ゼインは彼女に降りるバス停を説明した。

 意外とやさしいとこもあるんだなと、からかうようにナイルが言ったので、黙れボケと返してやった。褒めたのになんでキレられなきゃならないんだと逆ギレされた。

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