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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 21 * MAKING HEART
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〇 After The Party

 アニタはしかめっつらをカルロに向けた。「それ言うな。もう言うな。マジで言うな」

 トルベンがヤーゴに言う。「っつーか喋れよ。お前の話だっつの」

 彼はどうでもよさそうにうなった。「あの嫉妬さえなきゃな──」

 「実際どうなの? あれ」ゲルトはアニタとペトラに訊いた。「嫉妬の連続。ベラの意見はまったくもって参考にならないんだけど、お前らどうなの」

 彼女たちは顔を見合わせた。

 アニタが答える。「あたしが一年の時につきあってた先輩は、ありえなくらい嫉妬するヒトだったし。それがイヤで別れたってのもあるし──」

 「あたしもしなかったかな」とペトラも言う。「っつーかむこうの女関係なんて知らないけど。同期だったりおんなじ学校のとつきあったことがあるんじゃなきゃ、アウニの気持ちはわかんないと思う」

 「ああ、そういやそうか。んじゃお前らは?」今度はカルロに訊いた。「嫉妬とかなかったんか」

 ゲルトの突然の振りに、なぜかカルロは焦った。

 「オレ!? いや、ない──」なぜかイヴァンに同意を求める。「よな」

 イヴァンが苦笑う。「なかったよ、たぶん」

 「なんだそのやりとり」セテがつっこんだ。「ジョンアは? オトコできたんだろ? やっぱ相手の女の連れの話とかってでねえの?」

 「や、出るよ、普通に。でも嫉妬はないかな。男友達と女友達何人かの、仲のいいグループがあるらしくて、イヤじゃないなら今度紹介するって言われてる。ヤじゃないから会うよ。みんな年上だけど」

 そう答えたジョンアと並んでいるナンネとエルミは、小声でなにかを言いながらひたすらメールを続けている。おそらく“プラージュ”のメール相手だ。

 「やっぱアウニが異常なんじゃんか」と、ヤーゴ。「女の番号消せとかありえねえだろ」

 アニタはうんざりそうな顔をした。「ああ、あれだわ。その、一年の時つきあってた先輩がおんなじレベルだった。あんま男と話すなとか言うし、男友達の話題出すだけで不機嫌になる。うざい気持ちはわかる」

 「だろ!?」

 カルメーラはアウニを庇った。「だから、それだけ好きってことじゃん。うざいとか言わないでよ」友達なので。

 「まあ、ちょっと言いすぎだわ」ペトラは基本的に中立を守るタイプ。「されるほうはきついかもだけど、性格? 性分? なんだからしょうがないし」

 だがアニタは無愛想に言葉を返す。「実際やられてみなよ。マジでうざいよ。周りにまで気遣ってもらわなきゃいけないし」

 「めんどくさかったよな、あれ」ダヴィデがつぶやく。「まあ今ほどアニタと話してなかった気がするけど。あのままあの先輩とつきあい続けてたら、お前だって今この場にいないかもだよな」

 イヴァンがあとを引きとった。「それどころか、花火とかも無理だったんだろな。それはそれでベラが喜びそうだけど。面倒事がなくていいわー的な」

 「ってゆーかさ」エルミが突然割り込んだ。「その、女のアドレス消せとかなんとかって、もし消したら、自分も消すわけ? たとえばアウニに言われてヤーゴが女のアドレス消したら、アウニも男のアドレス消すわけ?」

 ヤーゴが答える。「消すだのなんだの言うほど登録してねえよ、あいつ。オレとトルベンと、あとスニヤ──いても十人いかないくらいじゃねえかな。ダヴィデたちのだって知らんと思うし」

 「うん、知らん」と、ダヴィデ。

 「あ、オレは知ってる」イヴァンが言った。「一年の時、何人かの女子に訊かれたから教えた。連絡なんて一回もしたことない気がするけど。セテも一緒に」

 セテが補足する。「オレも連絡なんてしてない。もともと仲いいっつーわけでもないし。中学入ってからも、そんなに話してないし」

 「基準がよくわかんねえな」と、カルロ。

 「ダヴィみたいに冷たくなくて、話しかけやすい男限定じゃないの」アニタが言った。

 「冷たいのはゲルトだ」

 ダヴィデの言葉に、ゲルトはどうでもよさそうにはいはいと返事をした。

 「ダヴィはクールなんだよ、冷たいんじゃなくて」

 セテがそう訂正すると、すかさずカルロがなにが違うんだとつっこみを入れた。

 「言葉のニュアンス?」ものすごく適当な返事。「ってゆーかぜんぜん喋ってないな、お前」セテは私に言っている。

 自分の席にダヴィデのほうを向いて座っている私は、机に腰かけているアニタの脇で右肘をついて手で頭を支え、ひたすらぼーっとしている。

 詞のネタになりそうな話をしてくれないかなとか、もうちょっとロクな話はないのかなとか、マルコとの電話、本当によかったのかなとか、嫉妬なんてくだらねえよとか、アマウント・ウィズダムの施設に折り紙で作った紙飛行機を飛ばすのはアリかな、などということを考えながら。

 ディックが以前、ポップスも入れたいと言っていたことも思い出していた。ポップな詞は書いていない気がするので、意識してみようかな、とか。詞のテーマとしてはエデの“プライド”が浮かんだものの、それだけ。内容に関してはまったくだ。先にあの詞の答えが欲しい気もした。というか、ポップスというのも意外と難しいのだ。特に私みたいなふざけた人間にとっては。


 「気にしなくていいです」と、私。

 ダヴィデは思い出したように話題を変えた。「っていうか、今年も映画の割引券、取れんかった。なんでだ」

 「ジャンケンが弱いから」ゲルトがあっさりと答えた。

 「オレ、いいとこまで行った」カルロが言う。「あと二人だったのに、主事強すぎ」

 ペトラが笑う。「あそこで一気に減ったよね。妙なプレッシャーあんのかな」

 そんな会話の中、ふと思い出した私はアニタの脚をどけるように促し、カバンに手をつっこんでがさごそと中を漁った。白い封筒をふたつ掴んでカバンから出すと、それをダヴィデに見せた。

 「一組ずつ入ってる。ただしトルベンと腕相撲ね」

 「は?」

 「え、まさか」

 カルロに続いてアニタ、声をあげた。「まだ隠し持ってたの!?」

 なんだか私、とてもテンションが低い。「や、去年欲しそうにしてたから、なんかいっぱいもらったし、けどストラップも買ったから、半分はダヴィとイヴァンにあげようかなーと」

 ダヴィデが口ごたえする。「なら普通にくれよ。なんで腕相撲!?」

 トルベンも少々不機嫌になっていた。「しかもなんで俺だよ」

 「なんとなくに決まってるじゃん」本当になんとなくだ。「イヴァンはね、ヤーゴに勝ったらあげる」

 イヴァンは乗り気な様子でヤーゴに言った。「よし、やるか。ぜんぜん負ける気しないけど」

 彼が空笑う。

 「オレもぜんぜん勝てる気しない。っていうかなんでオレだよ」

 ダヴィデは不満。「なんかすごいヒイキのような気がする。なにこれ」

 「いいじゃん、とりあえずやれば」ペトラが促した。「たぶんトルベンが勝つよね」

 セテは悪戯ににやついた。「お、賭けるか。めんどくさいから金は使わんけど」

 「よっしゃ」イヴァンはダヴィデの机からおりた。「やるぞ、ヤーゴ」

 イヴァン対ヤーゴ。ほとんどがイヴァンが勝つと予想した。ヤーゴの不満そうな表情に、セテとダヴィデ、それに便乗したナンネとジョンアが同情票を入れた。イヴァンが勝った。私は彼に割引券一組をあげた。といってもこれは、お姉さんにあげて恩を売りたいだけとのこと。

 続いて妹にあげたいシスコンのダヴィデ対トルベン。アニタとナンネ、ジョンア、カルロが、とりあえずといった感じでダヴィに賭ける。しかし彼は見事に敗退。二回目の挑戦をしたけれど、トルベンが手加減などしてくれるはずもなく、やはり負けた。

 「はい、残念賞」私は割引券の入った封筒をダヴィデに差し出した。「残念すぎる残念賞」

 「え、なに」彼が受け取る。「けっきょくくれんのかよ」

 ヤーゴは怒る。「なんのための腕相撲だよ!? たんなる恥晒しじゃねえか!」

 私は屁理屈を返した。「誰も負けたらあげないなんて言ってないじゃん」

 「てっきり」と、ゲルトが言う。「ジョンアにやるのかと」

 考えもしなかった。「そういやあげてもよかったね」

 「いいよ」ジョンアが答える。「映画行こうなんて話、ならないもん」

 ギャングというのはどんな映画を観るのだろう。「ま、またもらったらあげる」

 「なんで映画観ない人間にそんだけくれるのかって、謎だよな」ダヴィデが言った。「言ってないの? 観ないって」

 「んーん、言ってるよ。二人とも、いらないなら友達にあげろって言ってくれる。ちょっとくらい観ろよとか思われてるかもしれないけどね」

 ペトラが口をはさむ。「こいつ映画館に行かせたらえらいことになるし。最悪だし」

 赤の他人のアフロ兄さんにポップコーンを投げるとか。

 アニタが笑う。「やだよね、絶対一緒には行きたくないよね」

 教室のドアが開いた。生徒指導主事が顔を出す。

 「なんだお前ら。いつまで残ってんだ。さっさと帰れ」

 いつのまにか外は暗くなっていた。私たちは二十五日の待ち合わせ時間を決め、ぞろぞろと学校をあとにした。

 冬休みが、はじまった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 祖母の家に帰ってシャワーを浴びると、作詞用のノートを開いた。

 ポップスを意識してエデへのメッセージといった感じで、“プライド”についての詞を書いた私は──ひとり笑っていた。

 なんだこれ。二番。“まるで野良猫”って。蛙じゃないのかよ、みたいな。エデ蛙。だって蛙って、さすがに繋がらないし。それどころかCメロ。“屈辱からなにも学ぶことができない心はまるで孤独なハリネズミ”、だって。やばい。笑える。ふざけすぎだ。

 例えは間違っていない。だってどこまでもツンツンしている。ただ、それをポップスで詞にしていいのかとなると、とても微妙なのだ。笑えるものの、これは出来が悪い。“仮”にしかできない。

 やはりポップスは難しい。なんというか、男はともかく女の詞となると、わりと真面目なのが多い気がする。比喩も多い。ドリルなんて言葉は絶対使わないだろうし──ロックなら他人を嘲笑う勢いで馬鹿にしていいけれど、ポップスなら冷静冷酷に冷たく見下す、という感じだ。“プライド”にもそういうのを意識したつもりだったのだが、やはりダメだった。どうもふざけた言葉を使いたくなってしまう。“エデ蛙”という言葉が頭にあるからかもしれない。

 というわけで、新しいページを開いた。

 明日の土曜はルキアノスと買い物で、日曜はアニタたちとセンター街に行く。昼間の時間が潰れる。二十三日の月曜なら家にいる予定なものの、書きかけのあれをカウントしないとして、あと三曲ぶんの詞を書かなければならない。毎日毎日なにか書けるわけではないのだろうから、今日ひとつは書いておきたい。けれどポップスを意識すると、かなり難しい。

 ポップスにも、インパクトのある曲は存在する。歌詞だったりサビだったりが、聴いたあとしばらくは頭から離れないようなものが。そういうものをつくりたいのだが──メロディや曲はディック任せだし、私にできるのはそういう詞を書くことだけだ。

 ただノートを見つめていても、なにか出てくるわけではない。溜め息をついて煙草に火をつけた。

 いつのまにかあたりまえに吸っている煙草。アゼルに教えられた煙草。教えられ、はじめて吸った時、肺になにかが入ったのがわかって、むせて、アゼルがすごく笑っていた。

 ただの煙じゃんか、と私は言った。毒を吸うくらいなら深呼吸しとけよ、なんてことも言った。アゼルがやめられないと言っていた意味が、今ならわかる。しばらく吸わなかったあとに吸うと、頭がくらくらする。それもまたやみつきになる。

 身体に悪いとわかっていて、私もアゼルも吸っていた。マスティもブルも、リーズもニコラも。

 やみつき。中毒。身体に悪い。一度はまったらやめられない。蜘蛛の糸? 身動きできなくて──けれど吸わない人間からすれば、とても愚か。自業自得。

 あとは肺が汚染されてくだけ──でも──。

 煙草の火を消して、ノートにペンを走らせた。

 夕食を食べながら祖母が、大晦日になにも予定が入らなければ、バーゲンセールに繰り出そうかと言ってくれた。絶対に行くと答えた。

 部屋に戻ると、“Addicted”の続きを書きはじめた。煙草を人間に例えているせいか、なんだかそのうち、アゼルのことを書いているようになってきて、なんだか落ち着かなかった。

 周りに警告されたわけではないし、厳密には状況が少し違うものの、最悪になることがわかっているのに別れられなかったという意味では、間違っていない。

 そんなだから、二番はかなり省いてやった。一番を書きすぎたことも理由のひとつではあるものの、書いたあとでへこんだ。なんだか認めているみたいでイヤだ。

 できれば自分の自己中な部分以外──自分の恋愛のことは、書きたくない。けれど他人の気持ちなどわからないから、勝手にストーリーを作りあげるのでなければ、誰かの話を書くのも難しい。

 アゼルとつきあって、昔よりは他人の気持ちを考えるようにはなったはずだがそれでも、理解して、受け入れているわけではない。サビナの心配もアウニの嫉妬も、エデやハヌルの見栄や私へのおかしな執着心も、私にはさっぱりわからない。

 嫉妬というのは、そもそもなんなのだろう。

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