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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 21 * MAKING HEART
103/139

〇 Conspiracy

 木曜。

 授業中、うとうとしながら詞のテーマを考えていると、ものすごくどうでもいいことを思い出した。

 以前ナイルと、チーズケーキにキャンドルは合わないなどという話をメールでした。まあ、私は当然挿したけれど。ものすごく微妙な、残念な感じで、ナイルにものすごく文句を言われたけれど。それはともかく、昔住んでたあの家には、いくつか変な決まり事があった。

 バースデーケーキのキャンドルは普通、年齢の数だけ用意する。十五歳を祝うなら十五本。それをケーキにセットして火をつけ、願い事をして一気に吹き消す。火が一度で消えれば、その願い事が叶うというもの。そんなわけがないだろうと、私はいつのまにか鼻で笑うようになっていた。

 それもともかく、私が住んでいたあの家では、キャンドルは、年齢の数にもう一本を足すことになっていた。つまり十五歳の誕生日を祝うとすれば、あともう一本足して、十六本のキャンドルをケーキにセットする。

 そしてひとつひとつに願い事を込めながらキャンドルに火をつけて、それをひとつずつ吹き消していく。叶いますようにと祈りながら。

 もう曖昧な記憶でしかないけれど、確か火をちゃんとひとつずつ消すことができれば、未来が願い事を受けつけたという証拠になる──とかいう話だったような気がする。

 けれどそれはあの家だけの決まり事で、しかもそれは秘密で、誰にも言ってはいけない、と言われていた。誰かに話すと自分の願い事が叶いにくくなるからとか、そんな理由で。

 なぜ今さらこんなことを思い出すのかはわからない。あの家には秘密が多かった。家が壊れるまえからそうだった。ニュー・キャッスルということもあってか、アニタママとはともかく、あの人たちも近所づきあいなどというのはほとんどしなかった。

 もうなにがあったかもよく覚えていないが、三人だけの秘密だとか、二人だけの秘密だとか、そういうのが多かった気がする。だから私、こんなに秘密主義になったのかもしれない。いや、そうでもないか。どうなのか。どうでもいいか。


 そしてふと、ゼインと話した時のことも思い出した。デジカメの写真がどうこうという話で、それを紙に印刷すればいいという話をした時のことだ。

 そういえば祖母がプレゼントしてくれたプリンター、A3用紙対応で、祖母はちゃっかりA3用紙も用意してくれていた。ちょっとした本ができる。

 受験生にそんなものを作る暇があるのかというのは微妙なところだが、詞も考えなければいけない時になにをという話でもあるが、文化祭云々で撮った写真を紙に印刷して渡してしまえば、メモリーカードの中身を削除できる。

 ああ、これいい。写真で適当なレイアウトだけを考えて印刷して、あとはアニタたちに頼んで、手書きでいろいろと書き込めるようにしてもらえばいい。原本さえ作ってしまえば、あとはコピーして製本すればいいだけなのだから。

 私、すごい。天才だ。面倒なことを思いつく天才だ。もうやだ。なにこれ。


 そんなわけで昼休憩中、職員室に行って、三年A組の空回り担任、ババコワ教諭に質問を投げかけた。インターネットに接続していないノートPCで、少々本格的にデジカメ写真を編集するにはどうすればいいか、と。

 意外そうな顔をされたものの、逆に返されたいくつかの質問に答えていると、デジタルカメラを買った時に写真編集用ソフトがついていたはずだから、まずはそれを確認してみろと言われた。

 そういえばわけのわからないディスクがついていたような、というのを思い出した。説明書と一緒に箱に入れたまま、今はクローゼットで眠っている。PCをもらった時にPCとデジカメを繋ぐため、その箱を開けたのに、そのディスクには見向きもしなかった。

 暇だからうちに来るというアニタたちを放置して家に帰ると、さっそくディスクを出して、まずはソフトをインストールすることを試みた。親切丁寧な説明がついていて、あっさりインストールできた。しかもレイアウト機能までついていた。

 操作に慣れるまで、少々時間がかかった。写真の加工というのもしてみたくなって、わざわざそちらにまで手を出してしまったからだ。といっても、見やすくするために明るくしたりという程度で。

 夕食後もその作業は続いた。ひとつのページに載せる写真に写った人間を絞っておけば、自分たちで好きなことを書き込める。それを回収してコピー、本にする。用紙がもったいない気はするけれど、片面印刷だ。それを二つ折りにする。確か職員室に、数十枚をまとめて留められる業務用ステプラーがあったはずだ。

 そしてけっきょく、この日も夜更かしした。バカだ、私。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 金曜。

 アニタとペトラとカルメーラが家に押しかけてきた。イヤだと言ったのに。忙しいと言ったのに。私今日、三者面談があるのに。夕方六時からなので、まだ数時間はあるだろうと。

 ノートPCとプリンターを見て、彼女たちはひどく興奮した。私がやっている作業を知って、さらに興奮した。PCのマウスを取り合いながらも作業を手伝いはじめた。かなりうるさかった。けれど効率は上がった。ペトラがPC操作に慣れているからだ。

 夕方六時前、作業に夢中になりすぎている三バカトリオを家に残したまま、仕事から帰ってきた祖母と一緒に学校に行った。USBメモリは外出用の化粧ポーチに入れて持ち歩いている。ノートはデスクの引き出しの中、奥底だし、あの三人なら勝手にヒトの部屋を漁るなどということはしない。

 裏門から正面玄関のほうへ向かっていると、まさに正面玄関前で、前方からハヌルとその母親が現れた。

 ハヌルもこちらに気づいた。「あ、ベラ。もしかして今から?」

 すでに冬服に変わっているものの、それすら似合わない。もうゴリラの着ぐるみでも着てればいいと思う。顔がゴリラなので身体用だけの着ぐるみでも違和感はないし、顔にそれをかぶったとしても、なにも違和感はないだろう。

 「そー」とだけ答える。

 「ひさしぶりやね、ベラ」彼女の母親が言った。ダークブラウンの髪は肩下まである。今はメイクをしているが、私はどちらかというとこのヒトの素顔のほうが見慣れていて、そのせいか、彼女のメイクをした顔というのが少々不自然にも思える。メイクが似合わない顔というのはあるらしい。「またキレイになったやないの」

 「おひさしぶりです」私は礼儀正しく答えた。「おばさんもぜんぜん変わりませんよね。むしろ若返ったくらい」

 彼女は豪快に笑った。「相変わらずお世辞が上手!」数年前の再婚でニュー・キャッスルに引っ越しはしたものの、このヒトは典型的なオールド・キャッスル人間といった感じだ。それは今も変わらないらしい。「そちらはおばあさま?」

 「そう」

 祖母はにっこりした。「はじめまして。いつも孫がお世話になっています」

 なってないよ。

 ハヌルの母親が答える。「いえいえ、こちらこそ。ホンマに昔から、こっちのほうがなにかと世話になってる感じで」

 「お母さんは?」ハヌルが突然訊いた。「来ないの?」

 笑えるが、私は笑わないし動じなかった。「来ないね、いないから」

 祖母も冷静に応じる。「仕事が忙しいのよ。本当に仕事ばかりなの。おかげで私が今日、学校にこられたわ。感謝しないと」

 ハヌルは縮こまった。「そうですか」

 そんなハヌルの後頭部を母親が叩く。

 「すみません、ほんとに。ほら、行くよ!」

 ハヌルの母親はゴリラを叱りながら、そそくさと立ち去った。

 教室へと向かいながら、苦笑う祖母に、ハヌルのことを簡単に話した。どれだけ仲が悪いか、どれだけ嫌っているか、どれだけ喧嘩を売ってくるか、なんてことを。“いつもお世話になっています”と言ったのは間違いだったわねとつぶやいてくれたので、私は笑った。

 三者面談はあっさり終わった。このままの成績をキープできれば問題ないだろうとのこと。ただ最近、授業中に眠っていたり騒いだりというのがまた目立つようになってきたとも言われた。なにをしたかを私が具体的に説明すると、祖母は叱りもせずに笑っていた。

 家に帰ると、アニタたちに夕食をどうするかを訊いて、当然のようにもらいたいという答えが返ってきたので、祖母と一緒に多すぎる夕食を作った。それを四人で部屋で食べた。ハヌルのことを少々話しながら。

 彼女たちは土日も作業しようとか言いだした。勘弁してくれと言ったものの、泊まらないからというわけのわからない説得をされ、渋々了承した。二十二時頃、祖母の車で彼女たちを送り届けた。

 そのあとは詞だった。奴らに復讐する詞を書いてやろうかと思ったけれど、もう書いてしまっている。しかたがないので、忌まわしき男、ネストール・ブランカフォルトをモデルに書いてあげることにした。だが今現在どこでどうしているかがわからないので、可能性を想像して。

 哀れな男の話。ストーカー的な男の話。

 流れが決まれば、わりとあっさりと書きあがった。あの男は本当に、惨めすぎる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 土曜も日曜も、アニタたちは本当に家に来た。私はルキアノスに、コードをもう少し借していてくださいとメールで頼んだ。了承されついでに、来週の土曜か日曜、買いに行こうかと誘われた。こちらも土曜で了承した。

 泊まりこそしなかったものの、四人で朝から晩までPCにかじりついたおかげで、作業はどんどん進んだ。私のカメラだけでもかなりの枚数を撮ってある。ただ、学年全員ぶんの写真はないし、そこまで用意する義理は私にはなく、さすがに負担が大きすぎるので、私を基準に、自分たちがある程度話す人間にだけ渡すということにした。

 ただこれで終わりというわけがなく、クリスマスパーティーも撮影しようという迷惑な話になってしまった。つまり冬休みにまでそれを持ち越すということだ。やってられない。

 さすがに疲れて、詞はぜんぜん書けなかった。


 翌週、授業時間が通常に戻る。

 月曜の昼休憩時間や放課後は、クリスマスパーティーの最終打ち合わせをした。金曜が終業式兼パーティーだからだ。私もしっかりと参加した。なぜかペトラやカルメーラ経由で了承を迫られ、サビナとカーリナまで加わって。

 しかもその風景をも、アニタたちは私のデジタルカメラで写真に収めた。意味がわからない。次は水曜の放課後、体育館を使って実行組が打ち合わせる。木曜の放課後には、作り溜めた飾りで体育館をクリスマスモードになるよう少し、飾りをする。

 どうでもいいことなのだが、ハヌルが先日の三者面談で私の祖母に会ったと周りに触れまわっているらしかった。ナンネたちに話すのはもちろん、つきあいのない奴にも聞こえるよう大きな声で。

 話を聞いたアニタやペトラは、その祖母の料理が半端なくおいしいと触れまわった。ついでにハヌルが近くにいるところでは、ろくに話してもいないのによくみんなに言ってまわれるよね、などという嫌味を、あからさまに聞こえるように言ったという。それでハヌルは黙ったのだとか。なんの戦いだよ。

 そして夜はけっきょく、数日前に思い出したキャンドル話を恋愛に置き換えて詞を書いた。ロックだとは思っているものの、シンプルバラードのイメージなものの、少々意味深だ。さすがに失敗かなとも思った。内容が内容だけに難しい。まあディックの反応しだいということにする。残り三つ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「そういや、おまえに言ったっけ」

 火曜、一時限目の休憩時間。ふいにダヴィデが切りだした。カルメーラはアニタたちと一緒に、私のデジカメでまたも学年の連中の写真を撮りに行っている。もういいのに。

 「言ってないよ」と、私。なにをかは知らない。

 「先週、やたら変な電話がかかってきてた」

 私はぽかんとした。「なに、変な電話って。ラブコール? 受験に落ちろ呪文? 落ちろ落ちろ落ちろ落ちろみたいな」

 「アホか」トルベンがつっこんだ。「怖いわ」

 「今いいこと言ったよね、私。非通知でそれ、キライな奴にやるってどうよ。しかも夜中。低い声で落ちろ落ちろ落ちろ落ちろみたいな」

 ダヴィが笑う。

 「最悪。マジで呪われそう。けどそんなんじゃない」

 「ならべつにいいじゃない。呪いの電話じゃないなら特に気にする必要はないんだから」

 「聞く気あるのかないのか、どっちだ」

 「聞いてあげてもいいけど、どうでもいい」

 「ムカつくな」

 「元凶がお前なの、確実なんだけど」トルベンが言った。「まあ今さらではあるけど。終わったっぽいし」

 「なんで私?」

 ダヴィデが説明する。「まえにお前、おやすみって言えとかっつー電話、してきたじゃん。あれが他の女子にも広まってただろ。んでなんか、そんな感じで、“ありがとう”って言えとか、“ごめんなさい”って言えとか、あと好きな番組だの音楽だのっていう質問を、女子何人かが一部の男子に訊くっていう、わけのわかんない電話が」

 「まじで」

 「たぶん短縮授業のせいだな」と、トルベン。「学校終わって家帰って、三時から五時のあいだくらい。しかも電話に出なかったら、発信者替えてしつこくかけてくる奴らもいたし」

 「あらら。愛されてるのね」

 「単なる嫌がらせだっつの」

 彼の言葉にダヴィも同意した。「あれは嫌がらせだわ。ハリエットなんかは何回もそんな電話してきて、もういいよとか思って電話無視してたら、しまいにワンコール攻撃になったからな。怖いっつーのに」

 私は笑った。「男はしょせん暇つぶしの道具だってことよ」

 「なんだそれ。最悪」

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