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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 21 * MAKING HEART
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〇 Make Lyrics

 ディックに詞を送ると言っていたことを思い出したのは、翌朝起きてからだった。しかも祖母がプレゼントしてくれたノートPCを見て、もしこのことを話せば、なぜネット接続を頼まないのだと文句を言われそうだなと思った。ファイルの変換がどうとかいう話だ。さすがに言いにくいだろうことはわかってくれるだろうし、まとまった気がしたらと言ったこともあってか、急かすような連絡は入っていなかったけれど。

 そしてレジーとパーヴォからのメールに気づいたのは、朝学校に行ってからだった。動画が届いていたのだ。他の人間に知られるわけにはいかないので、授業中にひとりでこっそり内容を確認、昼休憩時間にアニタとエルミ、ナンネとジョンアに観せてあげた。

 暴力部分は映っていないものの、わりとふざけた感じである意味余計な映像を含んだその映像に、彼女たちには苦笑以上の感想があったらしい。ちなみに相手が十七歳ということもあって、予想どおりお金はあまり入っていなかったのだとか。

 その一方、どうでもいいことではあるものの、サビナが学校を休んでいた。カルメーラ経由で担任とクラスメイトに話が伝わっていて、調子が悪くてということだったのだが、私からすれば、とても違和感があるものだった。なぜって、メールを送ってきたナイルによると、ゼインも学校を休んでいるという話だったから。私たちはたった数度のやりとりで、奴らはふたりして学校をサボり、今頃一緒にいるのだろうという結論に至った。もちろん勘でしかないし、どうでもいいので、誰にも言ったりはしない。

 そしてふと、クリスマスプレゼントとして、十曲ぶんの詞を書いてディックに渡すのはどうだろうと思いついた。もちろんいきなり十曲ぶんも書けるとは思っていない。あくまで目標だ。

 ディックが“Sugar Guitar”とタイトルをつけたあの詞をひとつにするとしても、クリスマスまでの二週間のあいだに、あと九曲ぶんが必要ということになる。“だから”と言うにはかなり身勝手だが、授業そっちのけで内容を考えていた。キーワードとテーマをある程度考えておけば、どうにかなると思ったのだ。

 けれど授業中にそれを考えるということは、授業の影響も少なからずあって、城だの姫だの寄生虫だのレンガだのという言葉を入れようなどと思ってしまった。しかもできれば、ものすごくロックになってほしい。しかも私、わりとふざけた性格なので、ドリルという言葉まで使った。土曜のアニタたちの件や、昨日のサビナとゼインのこともあってか、言いたいことを言えずにいる姫様のことを書いた歌という設定だ。なんとなくのイメージが頭の中で出来上がった。

 早めのクリスマスプレゼントにノートPCとプリンタをもらったことは、アニタにも誰にも話さなかった。クリスマスに彼女たちが家にくればわかることだし、そのまえに来る可能性もあるものの、とにかく私はそれまでにPC操作をある程度覚え、詞を見られないようにしておかなければならない。ブラック・スターでうたうことを、誰にも言うつもりはないからだ。

 今日から金曜日まで、三年は三者面談のために短縮授業になる。よってクリスマスパーティーの準備もできず。私はさっさと帰った。


 家に帰るとさっそくノートPCを開いて、詞をどうにか隠す方法を考えた。

 メモ帳という機能がある。これはとてもシンプルだ。すぐに起動できるし、書きたいことをさくっと書ける。でも簡単すぎる。祖母が買ってくれていた、データ保存用のUSBメモリがある。メモ帳に適当な言葉を書き、それをUSBに保存してみた。USBをPCに接続していなければ、どれだけPCで遊ばれたとしても、それを見られることはない。少し面倒だが、これでいくしかない。

 そしてメモ帳機能を使って、授業中に考えた内容で詞を作りはじめた。

 最初はたいてい、思いついたことを書いていく。適当なメロディを使ってあとの言葉を考えていく。ノートと違って言葉の削除が簡単。けれど疲れる気がした。しかも私、タイピングが遅い。慣れていないから当然ではあるものの、それにしても遅い。

 途中でやめた。やめて、“Sugar Guitar”を書く時に使ったノートを取り出し、それに詞を書いていった。

 少々の文字数の違いなら、うたう時のアレンジでどうにかなることは知っているし、ディックならきっと、私がめちゃくちゃな詞を書いたとしても、どうにか音をつけてくれるはずだ。なんなら訂正してくれてもいい。

 ある程度の設定を考えただけのはずだったのに、書いているうちにどんどん、その詞のストーリーが出来上がっていった。おそらくそういうのを作るのが好きなのだと思う。ちゃんとした意味で形にするというのは苦手だし、できもしないけれど。

 基本的にはバカなお姫様のことを書いていたものの、Cメロに留まらなくて出来てしまったDメロ部分では、少しだけ“私”という言葉も使った。親のことを訊く勇気のない人間がなにをほざいているのだという話になってしまう気がするけど、気にしないことにする。完全に夢中になっていた。

 出来あがったと思えば祖母が帰宅、慌ててノートを隠して一階におりた。

 数時間後、屋根裏部屋に戻ると、タイピングの練習も兼ね、メモ帳機能を使って詞を打ち込んでUSBに保存、ディックに渡す用に印刷もした。用紙がとてももったいない気がする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 火曜日。

 学校に来ていたサビナは、妙に申し訳なさそうな表情を向けてきた。無視した。婚姻届にサインしたのかと訊きたかったけれど、それもとりあえずやめておいた。

 と思ったら二時限目の授業中、ゼインが学校に来た、やっぱり昨日はサボッてサビナと一緒にいたらしいという報告メールがナイルから届いた。サビナも婚姻届にサインして、それは彼女が持っているという。よくやるわ、というのが私たちの感想だった。

 授業中はやはり詞のことを考えていた。けれどそれを誰が知るはずもなく、トルベンは私が真面目に勉強していると思いこんだようで、静かすぎるから不気味だとかいう、わけのわからない文句をまた言ってきた。私のことをなんだと思っているのだろう。

 静かすぎると文句を言われるわけなので、途中からは邪魔ばかりしてさしあげた。といっても教室では席の位置的に細かいことは無理なので、主に移動教室の時にだ。ものすごく怒られた。邪魔してもうるさくしても静かでも怒られるものだから、ダヴィデやカルメーラ、サビナはずっと笑っていた。うるさい、真面目にやれと、教諭たちにも何度も怒られた。

 詞の内容はあまり思いつかなかった。“Black Star”を書く時にディックに言われた言葉を思い出した。あの時、なんでもいいから書いてみろと言った彼の言葉。“はじまりを意識しなくていい”。

 つまり、“はじまり”を意識すればいい。それから私の性悪な性格と、周りの連中の、他人を羨む言葉たち。ブラック・スターでの“はじまり”。掃除の時間になってやっとテーマが決まった。学校が終わると家へと急ぎながら、頭の中をフル回転させ、イメージを固めていった。

 家に帰ってすぐ、ノートを開く。かなり長くなった。これもロックにしてもらいたい。書いているうちにどんどん自己中度が増して、自分はどうなのだという領域にまで入った。だって私、他人と自分を比較して劣等感に浸ったりというのはあまりないものの、自分のことはキライだし。

 けれどそんなことは書かなかった。完全に自己中女の歌。おそらくこれ、“Acting Out”というタイトルになるだろう。“暴走列車は逆襲を始めるつもり”って、どうなのだ。“飼い犬にだって牙はあること、知らなかった?”って。なぜ私、こういうわけのわからない一行を思いつくのだろう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 水曜日。

 そろそろ疲れてきた。気づけば詞のことばかり考えている。現実では授業に集中するべきな受験生なのに。けれど詞を考えるのは素直に楽しいので、勉強との掛け持ちに疲れた、ということにしておく。

 ということで、やはりバカの歌を思いついた。アニタやエルミたちに向けた歌とも言える。というか、男を欲しがるバカ女に向けた歌。

 テーマが決まれば早かった。家に帰るとノートを広げ、まるで暴露話のようにそれを仕上げた。“Sugar Guitar”を抜きにして、月曜に書いた詞を一曲め、火曜に書いた詞を二曲めにすると、自分の中の勝手なイメージでは、一曲めがものすごくロックで、二曲目がわりとロックで、今日の三曲めがそれなりにロック。つまりだんだんおとなしくなっていくような。

 次はなんだろう。ポップ? バラード? 思えばこの三曲、というか“Sugar Guitar”も含めれば四曲、ものすごくめちゃくちゃな詞を書いている気がする。真面目にやれとディックにまでつっこまれそうだ。というか私のこのノリ、いつまで続くのだろう。

 外がすっかり暗くなった頃、ディックからメールが届いた。また音楽ファイルが添付されている。どうやら私が詞に悩んでると思いこんで、ならばと曲を送ってくれたらしい。ヘッドフォンをつけて聴いた。

 嫌がらせだと思った。

 ものすごくロックだ。ロックを通り越してハードロックだ。ものすごくかっこいい。しかもこんな感じでという、詞を入れる部分にまで音がついていた。替え歌の要領でやれということなのだろうが、それにしたってハードロックすぎる。あえて言えば、宗教ロックのイメージもあるかもしれない。そういうロックもモノによっては好きだけれど、詞はさすがに、なにを書けばいいのかわからない。だってあいつら、宗教で覚醒しているせいか、なにを言っているのかわからないんだもの。意図を汲み取るのが大変なんだもの。

 それでも私は、かっこよければいいというロックバカなので、好きなものは好きだ。だからといってこれは、つまり私にどうしろと? というか詞のメロディまで考えるなら、もう詞も考えろよ。なんなのだ。

 とりあえず、ロック度一、二、三、どれがいいかとディックにメールを送った。

 電話がかかってきた。

 「もしかして詞、書いてるのか?」と、彼が訊く。

 「書いてる」少々ぶっきらぼうに答えた。

 「なんで送ってこないんだ」

 「クリスマスプレゼントに、九曲ぶん、まとめて渡そうと思ってたの」

 「九曲ぶんまとめて? そりゃすごい」いかにも“大人”という態度で応じる。「で、いくつできた?」

 「だからみっつ。イメージだけど、ロック度が違うの。ものすごくロックになってほしいものから、テーマは警告だから、同じロックでもちょっと暗い感じにしてほしいな、みたいなのも」

 「なるほど。三曲ともよこす気はないのか」

 「ない」と言ってみた。

 彼は笑った。

 「ならいちばんロックにしたいやつを送れ。詞のメロディは考えてないのか」

 「特に。そこはいいの。受けた印象で、やりやすいようにして」

 「わかった。送った曲、詞つけろよ」

 私は三十ポイントのダメージを受けた。「あんな宗教的ハードロック、なに書けばいいかわかんない」

 「お、イメージ伝わったか。平気だ。なに書けばいいかわからないなら、なに言ってるのかわからない詞を書けばいいだけの話なんだから」

 この男はいったい、なにを言っているのだろう。「わかった、とりあえずやってみる──」できるかは知らない。「でもすぐにできるなんて思わないでよ」

 「わかってる。楽しみにしてるよ」

 ミスター・横暴。「私も、今から送る詞がどれだけロックになるか、楽しみにしてる」

 電話を切ると、月曜に作った詞を携帯電話に打ち込んで、彼にメールを送った。せっかく印刷したのに。なんてもったいない。

 ふと、どうにかしてディックからのメールを、というか添付された音楽ファイルを、PCに送れないものかと考えた。ディックに訊けばよかったのだが、もう詞を送ってしまった。邪魔したくない。さっさと仕上げてほしい。

 PCといえば、他には彼しか思いつかない。

 ルキアノスに電話をかけて、携帯電話に届いた添付ファイルつきのメールをネット接続していないPCに送る方法はあるかと訊いた。

 「携帯電話とPCを繋ぐコード、持ってない?」彼が訊き返す。「携帯電話を買う時、確か無料でくれるはずなんだけど」

 「そんなのはもらってないと思う──けど、もしかしたら訊かれたかも。でも確か、PCなんか持ってないからいらないって答えたような」

 「ああ──なら買うしかないかな。携帯電話ショップか、たぶん家電量販店にも売ってると思うけど」

 チック・ノーティドのショッピングセンターに行けばあるか。「わかった。行ってみる」

 「今すぐ必要?」

 本音は今すぐ欲しい。「そうね、できれば。明日学校が終わったら買いに行く」

 「貸そうか? 俺とベラの携帯電話会社は同じだから、普通に使えるし。なんなら今からタクシー飛ばして持っていくけど」

 「さすがに悪いからいい」

 「っていうか、PC買った?」

 どう言えばいいのだろう。「もらったの、クリスマスプレゼントに。で、音楽を携帯電話用のファイルに変換したのをメールで送ってもらったんだけど、それをPCで聴きたいなと思って」

 「ふーん──なんかよくわかんないけど──あ、ディアンティアが帰ってきた」お姉さんのことだ。「今、家だよな?」

 「そう」

 「ディアンティアに送ってもらう。持っていく。二十分くらい待ってて」

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