雪の人
僕は知ってる。
雪、なんてものは汚いものだって。
汚染された空間にフワフワ漂う雪は、地面に落ちて、固くて濁った氷の塊になる。
歩きにくいし、寒いし…これっぽっちも良いことない。
帰り道の途中、同学年の子達は空き地で盛大に雪合戦なんてしている。
手袋もしないで、冷たくて汚い氷によく触れるな…霜焼けになるだけじゃないか。
ワーワー騒がしい光景を横目に、僕は通り過ぎた。
雪の為か、いつもより人通りの少ない帰り道、差し掛かった交差点のガードレールに、白いお姉さんが座っていた。
白いコートと白い帽子を被ったお姉さんの顔も真っ白で、頬っぺただけがポン、とピンク色だった。 見たことない、知らない人だ。
なんだか目が離せないでいると、お姉さんがコッチを向いた。
わ、目が合った、笑った。
「こんにちは」
「こ、んにち…は」
挨拶されて、挨拶をかえす。
「この町の男の子?」
いつの間にかお姉さんは僕の目の前で、僕と同じ背の高さにしゃがんで、聞いてきた。
お姉さんの綺麗な顔を近くで見ると、心臓がドクドクって早くなる。
「は、い」
だから、僕は地面の汚れた雪を見つめて返事した。
「男の子くんは雪で遊ばないの?」
「冷たいし汚いから…遊ばない」
お姉さんの質問に小さな声でボソボソと答える。
知らない人と話しちゃダメだってママが言ってたのに…不思議と僕は話していた。
「もったいない!」
突然、大きな声を出したお姉さんは僕の手を引っ張った。
「え、え?お姉さん!?」
僕は目をクルクルと回して、されるがまま手を引っ張られる。
いつの間にか立ち上がったお姉さんは、歩きながら首だけ振り返って、僕を見下ろす。
「お名前は?男の子くん」
「さ、佐藤賢次」
名前を聞かれて僕はすぐ答えた。
あ、駄目だ。
知らない人に自分の名前、教えてしまった…。
「賢次くん、お姉さんが教えてあげよう!雪はとっても綺麗なんだってこと!」
チラチラと雪がまた降り出した。 ニッコリ笑うお姉さんの綺麗な笑顔の後ろで舞う雪は、とても綺麗で…僕は真っ赤になった顔で、お姉さんと雪を見つめたまま、ひかれていった。
私は嫌い。
雪がだいっ嫌い。
「寒い、寒いなぁもう!」
ただでさえ寒い冬にチラチラ舞う雪が余計に寒さを感じさせるし、顔に当たると冷たいし、積もれば歩きにくいし、もうとにかくだいっ嫌い!!
そりゃあ小学生の頃は遊んだりはしゃいだりはしたけど、今やセーラー服の中学生。
いちいち雪が降って喜ぶ子供じゃないし、ロマンチックだなんて余裕を楽しむ大人でもない。 校則で決められたコートは防寒着としての意味もなく、すき間風に噴かれ、雪で色は濃くなる一方。
「雪なんて降らなきゃいいのに…」
ハァっと吐いた息は湯気みたいに白くて、暖かいストーブが恋しくなる。
もうすぐで家に着くし、頑張ろ、なんて自分で言い聞かして角を曲がる。
曲がり角の先、ポツンと立つ寂しい街灯に、もたれるように立つ人影が見える。
珍しい…ここ、人通り少ないのに。
「わ」
思わず声が出た。
近付くと、その人はこの辺では珍しい綺麗な男性だった。
真っ白のロングコートに、女性のように白い肌を持つその人は美少年ならぬ、美青年だ。
わ、コッチ見た!笑った!!カッ、カッコイイ!!!
「こんにちは」
「こ、こんにちは!」
突然話しかけられて、声がひっくり返る…恥ずかしい、なにやってんの私。
「この町の女の子?」
「は、はい」
もたれた体を起こした彼の声は、甘くて溶けそうで…私、絶対顔が赤くなってるんだろうな。
頭の芯まで溶けてしまったような私は、微笑む彼に手を握られる。
「ねぇ君は雪が嫌いなの?」
「まぁ…寒いし冷たいし歩きにくいし…嫌い、かな」
彼の質問に答えれば、クンと握られた手を引っ張られる。
「もったいない…」
ポツリ、と彼は呟いた。
「お兄さんがおしえてあげよう。雪がとても素敵なものだってことを。きっと、君も好きになるよ…さぁ、君の名前を教えて」
優しい彼の声と笑顔に、私は抵抗せずに足と口を動かす。
「私の名前は…」
なんちゃってミステリ童話、「雪の人」を最後までお読み頂きありがとうございます。
童話は子供に教訓を教える為に作られたお話、時代や語る側によって変化する。と、いう解釈で童話ジャンルにチャレンジしてみました。
また、冬の童話祭2012という公式企画の参加作品なので、雪にちなんだお話にしました。
ただ、今回はなんちゃってミステリ童話というわけで、そこはかとなくミステリ的要素を少々…のつもりが、ホラーになった気が…否めない。
ファンタジーで可愛い童話を求めていた方には、モヤモヤするラストに後味悪く感じてしまったかもしれませんね…申し訳ありません。
教訓、時系列、登場人物の関係性など、様々な解釈をして楽しんでいただければ…と、あえて解説は致しませんが最後に一言だけ…
よい子は知らない人に声をかけられても、ついていかないようにしましょうね。




