偽りの少年
お久しぶりです。この話はギルティクラウン19話を見ているときから書こうと思っていた話です。だいぶ遅くなりましたが、何とか書き上げました。それでは、どうぞ!
少年はその時偽りの仮面を外した。
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「俺は今までみんなに嘘をついていた」
一人の少年は煌々と燃え盛る炎を背景に心の中にため込んできたものを吐き出した。
それを3人の少年少女が静かに聞いていた。
「俺はみんなとは違う。本来ならばみんなと一緒にいてはならない存在なんだ」
少年の独白は、口調は荒々しいもののどこか悲壮感を漂わせていた。
「俺は今の今まで平凡でただの人間を演じていた。本当の俺はそんな生温いものなんかじゃない。もっと邪悪で粗暴で、周りに迷惑をかける存在なんだ」
少年の目からきらりと涙が一滴流れ落ちる。
「これが本当の俺達魔族なんだ。街を破壊し、城壁を燃やし、人を簡単に殺める。それが俺なんだ」
少年は悔しそうに顔を歪める。
「こんなことしたくないのに、本当はみんなともっといたかったのに・・・」
少年は言葉を区切る。
「俺が魔族なばっかりに・・・俺は魔族を演じなければいけないのか」
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そこは地球とは違った世界。この世界では当たり前のように魔法が存在し、精霊が存在し、魔物が存在する。人間は、魔法を使い生活を豊かにし、精霊に力を借り、魔物と敵対し殺し合いをしてきた。
人間はその中で魔物が闊歩する大地から一線を引くことによって身を守ろうとした。
それが城塞都市の建設である。
人間は周りを高く頑丈な塀で囲まれた中に都市を作ることによって束の間の発展を遂げることになった。
都市を覆う塀が動物的思考しかしない魔物を寄せ付けることはなかった。
しかし、ある時魔物の中に人間と同じだけの知能を持つ魔族が現れた。
彼等は初め数が少なかったが、持ち前の知能を使いあっという間に魔物たちを束ねるようになった。
そして、頑丈な塀に囲まれた城塞都市を攻め落とすようになった。
そんな中、人間は警戒を強め、対抗するだけの力を作ることになった。
それが、学園である。この学園によって人間の子供たちはよりよい魔法を学び戦力を蓄えることになった。
いつしか、どの城塞都市にもこの学園が作られ魔物たちと対抗するようになった。
子供は10歳になればこの学園に入り、18歳になる頃にやっと騎士になることができるという制度ができていた。
ある時、広大な森を傍にもつ城塞都市バーグがあった。
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このバーグにある少年がいた。名前はアルフ・グランベール。バーグ都市学園6ヵ年だ。
穏やかで、何でも頼られれば引き受ける性格だ。
成績は中の下。どれも卒なくこなせるがどちらかと言えば炎系統魔法を得意としている。剣技の腕前もそこそこ悪くはない。
容姿は至って平凡。背はそこそこ高く、普段から黒いローブを着ていた。
そんな少年がアルフだった。
アルフは至って平凡な学園生活を送っていた。
彼の周りには何人かの友達がいた。
レイ・スタンベルト。アルフの第一の友人であり互いの気心が知れた男友達だ。
優男でそこそこのルックスを持っている。人に優しく相手に不快感を与えたことはほとんどない。
成績は上の下。アルフとの馴れ初めは学園に入学したときにまで遡り、席が隣だったことから仲良くなった。
その後、成績でクラスが離れ離れになってもその交友は途切れていない。
得意魔法はアルフと同じ炎系統魔法で、剣技はクラスで上位の実力を持つ。
カイン・セイバー。彼もまたアルフの友人である。
バーグの中でも有数のセイバー家の次男であるが、貴族らしさがなく男気に溢れている。
彫が深く筋肉質な顔だちをしている少年だ。
成績は中の下。得意魔法は地系統魔法で、剣技は学園で名を轟かせている。
アルフとはたまたまクラスで一緒になり交友関係になった。
ラム・ナリエール。アルフの数少ない女友達である。
小動物のような姿であるが、性格はお世話焼きのお姉さんじみている。
成績は中の上。水系統魔法を得意として剣技は得意ではない。
アルフのことがほっとけなくいつも世話を焼いていた。
そんな仲間たちに囲まれて。
アルフは学園生活を謳歌していた。
全てが変わるその時まで。
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魔族の侵攻。
城壁は無残にも燃やされ破壊され、街に侵入した魔族や魔物が街の住人を蹂躙していく。
騎士達が応戦しようにもあまりに侵入してきた魔族や魔物の数が多すぎて数を減らすことができていない状況だった。
その魔族を率いているのが、魔王ハデス。
魔族でありがら、城砦都市バーグに潜り込んだアルフの父だった。目的は城塞都市バーグの調査。
「最初の頃は、たしかに魔族のためにっていう思いはあった。だけど、今は違う。こんなはずじゃなかった」
遠くに喧騒は聞こえるもののここはまだ戦火に包まれてはいなかった。
「俺は必死に反対したんだ。この街を攻めることだけは止めてほしいと。それでもハデスは言うことを聞いてくれなかった。むしろ俺に街を攻める手伝いをさせようとした」
アルフの言葉は闇と火の中に吸い込まれて消えていく。
「俺は必死に抵抗した。ハデスに抗議した。それでも返ってくる答えは一緒だった」
アルフは息を吸い込んだ。
「俺はこの街が好きなんだ。それよりも、みんなのことも失いたくないんだ。だから、みんなで逃げよう。俺は魔族の侵攻ルートを知っている。うまくルートをやり過ごせれば俺達は命が助かるんだ!」
アルフの言葉に、それまで静観を保っていたラムが言葉を返す。
「命が助かるのはあなただけでしょ?魔族であるアルフ、あなただけでしょ?」
「えっ・・・」
「そう言って私たちを騙して、何が助かる術があるなんて。どうせ、それも嘘偽りで私たちを嵌めようとしているのでしょ?」
「そんなんなんじゃない!本当のことなんだ!」
アルフの第一の親友だったレイが口をはさむ。
「だったらなぜ、魔族の侵攻ルートを知っている?君はたしか調査のためだけにこのバーグに来たって言ったよね。魔族の侵攻には直接は関与していないと。それなのになぜ機密事項を知りえるんだ?さぁ答えてみろ!」
「レイ・・・」
「気安く名前を呼ぶな。魔族というだけで虫唾が走るというのに、僕たちを騙して側にいたなんて・・・今すぐにでも斬りたくなる」
「・・・っ!」
アルフが黙り込んだところにそれまで目をつむって話を聞いていたカインがしゃべりだす。
「所詮、魔族は信用ならないということだな」
カインのセリフにラムとレイは同調の声を上げる。
「そうね、今までアルフのこと信じていたのに、魔族だということ隠して・・・」
「あまつさえ、僕たちを殺そうとするなんてな」
「違う!俺はみんなのことを殺そうとなんてしていない。むしろ、生きようと言っているんだ!」
アルフのセリフにカインは呆れたように言葉を返す。
「お前の言いたいことは分かった。仮にそれが本当だとしよう。しかしな、お前と違って俺達はこの街バーグで生まれ、バーグで育ってきた。この意味がわかるか?」
「・・・・・・」
「わからないだろう?そう、魔族であるお前にはわかりっこない。俺達はこのバーグを愛している、バーグを失うということは俺達にとっては“死”だ」
「・・・!」
「それもわからないから、お前はどう足掻いても俺達とは違うんだよ」
そうこうしている内に戦火は広がり、アルフ達がいるところに近づいていく。
「・・・・・・」
「魔族であるお前と僕たちがわかりあえることはない。諦めろ、今なら切り殺さないでやる。ささと目の前から失せろ」
「そうよ、早く消えて」
カインとレイとラムはただアルフがこの場からいなくなることを願っていた。いくら魔族とは言え、何年もの付き合いがある関係だ。問答無用で切り殺す真似はしたくなかった。だが、アルフのいうことに耳を貸すということはなかった。
「・・・一つだけ聞かせてくれ。そしたら俺はここからいなくなるから」
アルフは絞り出すようにして言葉を紡いでいく。
「なんだ?」
「俺はどうしていたらみんなと一緒にいられたと思う?」
その言葉にレイは言葉を返す。
「無理な話だ、今の今まで僕たちと一緒にいられたことを光栄に思え」
ラムが続いて言う。
「最初から嘘をつかないでくれたら・・・良かったのに」
ラムのセリフにレイは突っ込む。
「それだったら最初から敬遠するだろ?そもそもアルフが魔族であることが悪いんだ」
そんな中カ、カインが口を開く。
「少なくとも、魔族侵攻がなかったら気がつくことはなかっただろうな。それは真実だ」
アルフは弱々しく笑う。
「今まで仲良くしてくれてありがとう。じゃあな」
アルフは振り向くことなく歩き出す。
少し行ったところで、アルフは駆け出した。
アルフの心の中には3人のセリフがぐるぐると渦を巻いていた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
叫びとともにアルフの背中から翼が伸びる。
「今まで俺が嘘をついていたから、自分の心にさえ嘘をついていたから、自分に力がないから・・・!」
アルフは絶叫する。
「もう俺には後悔はない。すべてを終わりに・・・」
「今こそここに、自分の心を曝け出す」
アルフの身体から黒い光が輝く。アルフの身体はその光に飲み込まれ天空へ上っていく。
アルフの心。『魔族であることへの嫌悪』。それが具現化し、一つの事象を起こす。
天空へ昇った黒い球体から幾重にも積み重なる黒い雷が放たれた。
その雷は寸部にも違わず魔族・魔物に突き刺さった。
それによりバーグに侵攻していた魔族・魔物の姿が消え去った。
それと同時にアルフ自身も消え去った。
その様子を見ていた3人は魔族や魔物を消し去ったのがアルフであることに気がついていた。
3人の目から一滴の涙が流れた。
偽りを露わにした少年はすべてを失い、そして一滴の涙を手に入れた。