チェリーブロッサム ~ 初恋の人を間違えましたが、結果幸せになりました ~
読んでいただきありがとうございます。
桜の花が咲いているうちにと書き始めましたが、あまりに開花のスピードが速く焦りました。
「スプラ、今日は王太子殿下がお見えになるから、早く戻りなさいね」
「はい。お母様」
今日は私の婚約者となる、レオナルド王太子殿下がお見えになる。
レオと会うのは、何年ぶりだろう。
私との約束、覚えているかしら?
✿ ✿ ✿
ブロッサム王国では、ライザー辺境伯が守る領地に、チェリーブロッサムの群生がある。
領地の半分を埋め尽くす、ピンク色の固まりは、国のどこからでも見えて、決して枯れる事も、散ることもなく、年中小さなピンク色の花が咲き誇っている。
このチェリーブロッサムは数千年前、干ばつで荒れはてていたこのブロッサム王国に、遠い東の国より嫁いだ王妃様が持ってきて、植えたものだ。
王妃様がこの地にチェリーブロッサムを植えると、長く苦しんだ干ばつが治まり、緑の生い茂る国に変わったと言い伝えられている。
そして数百年に一度、辺境伯家にはアッシュグリーンの髪を持つ娘が産まれ、その娘は王家に嫁ぐことが不文律となっている。
私はその数百年にいちどの、アッシュグリーンの髪色を持ち生まれた。
伯爵家以外と関わることが無く、領地にこもり育った私は、8歳の時に2歳年上の、初めての友達ができた。
名前はレオ。
レオはお家の事情で、家《ライザー辺境伯》に預けられていて1年ほど一緒に過ごした、実の兄たちとは10歳近く年が離れていた私は、レオと直ぐに仲良くなって、チェリーブロッサムの木の下で、かくれんぼしたり、追いかけっこしたり、オルレアの花を摘んだりいっぱいいっぱい遊び。
いつの間にか、小さな私の胸に、淡い恋心が育った。
「レオはキラキラの髪でいいな~」
「スプラの、芽吹く前のつぼみみたいな髪色も素敵だよ」
「お兄様達からは、枯草だって言われるわ……。」
レオが、私の髪をひと束すくう。
「これから芽吹く力のある色だよ、それにスプラの瞳は、このチェリーブロッサムの花びらみたいに、やわらかいピンク色でかわいいね」
私は、急に恥ずかしくなってうつむいた。
「あのね、レオ、この髪色を持って生まれたライザー辺境伯の娘は、王子様と結婚しないとこの辺境の地を離れることはできないんだって……。私は……。」
言葉に詰まって、レオを見上げると、春天の霞色みたいな優しい瞳と眼があう。
「僕が王子様になって、必ずスプラを迎えに来るよ」
私は、嬉しくてこくりと頷く。
その約束から少しして、レオはライザー辺境伯を去って行った。
✿ ✿ ✿
レオナルド王太子殿下を迎えるために、私はオルレアの花を、両手いっぱいに積み、屋鋪への道を急ぐ。
オルレアの花を、レオは覚えているかしら?
花を抱えたまま、玄関ホールに入ると、お母様と家令やメイド達が、ざわざわとなにやら話している。
「お母さま?レオナルド王太子殿下は、どうされたのですか?」
「それがね、レオナルド王太子殿下は、リジノン公爵令嬢のローザ様と一緒にいらして、約束の時間より早いためスプラがまだ戻らないと言うと、ローザ様がチェリーブロッサムを見たいとおっしゃって、お二人で、チェリーブロッサムの群生に向かわれたの……。婚約の話に来ると伺っていたのに、他の令嬢を一緒に連れてくるなんて……。」
私は、慌ててレオの後を追う。
チェリーブロッサムの木立を進むと、プラチナブロンドの髪を後ろに結んだ青年と、ふわふわの髪が風に揺れる、かわいらしい令嬢の姿が見えた。
声をかけようとすると、二人の話し声が聞こえる。
「田舎者は、ちゃんと出迎えもできませんのね?」
「わざわざこんな田舎まで来てやったのに……だいたい、なぜ私があったこともない、枯草みたいな頭の女と結婚しなければならないんだ、今日は、私の妻となる令嬢はローザだと、宣言しに来たんだ。さあ、チェリーブロッサムの花も見たことだし、話を片付けに行こうか」
2人が振り返り、レオナルド王太子殿下と目が合う。
深い海の底の様な、青い瞳。
「あらどなたかしら?もしかしてスプラ様?」
「さすがに田舎貴族でも、あんな小汚いわけないだろう~。使用人か?スプラ令嬢は、戻ってきたのか? おい!返事をしろ」
「………………。」
どうして?
あれは、誰?
レオナルド王太子殿下は、レオではないのね。
どうして、酷いこと言うの?
枯草……。
私の頬を、ボロボロと涙が伝う。
「私も、レオでなきゃ、婚約なんてしたくない!」
私が叫ぶと、チェリーブロッサムの花が、パラパラと散り始め、大量の花びらが舞い上がり吹雪となる。
遠くで、叫び声が聞こえる。
………………。
視界はピンク色に染まり、私の意識は途絶えた。
✿ ✿ ✿
レオン・カットブロア王国王太子 視点
カットブロア王国は、王位継承権争いが激しく、俺は7歳の時に命を狙われ、一時的に遠縁である隣国の辺境伯家に預けられた。
預けられたライザー辺境伯には、ふたつ年下のかわいいスプラ嬢がいた、すでに人間不信で、他人に優しくもない俺の後ろを、いつもつニコニコしながらいてまわり。
キラキラと、俺を見上げるピンク色の瞳は、今まで兄妹も敵であった俺の気持ちを、ほぐし虜にした。
話を聞けばスプラ嬢は、ライザー辺境伯に生まれる髪色の定めとして、王家に嫁ぐ不文律があるらしい。
幼い俺は、スプラを守るため、逃げるのではなく王位に就くことを決心し、ライザー辺境伯を後にした。
その後は何度も命の危機を回避し、努力を重ね、ついに王位継承権を手に入れた、さらに王家に伝わる禁書庫で真実の物語を知る。
これでスプラを、迎えに行ける。
スプラを迎える根回しに、走る俺の元に急報が告げられた。
「レオン殿下。大変です。
ブロッサム王国の山辺りに見えた、チェリーブロッサムの花がすべて枯れ落ちました」
「なんだと!」
カットブロア王国からも、隣接する山の半分ほどをピンク色の塊が染めていて、挫けそうな時はいつもその景色を見ては、気合を入れていた。
「ライザー辺境伯に先触れを、準備でき次第、早馬で私も向かう」
✿ ✿ ✿
駆けつけた俺が目にしたのは、惨憺たる景色だった。
年中見事に咲き誇っていた、ピンク色の花はどこにも見当たらず、チェリーブロッサム以外の木々も、枯れ木となり、緑に茂っていた草木もかれ台地がヒビ割れている。
「どうしてこんな……。」
遠くに眼を向けると、見渡す限り茶色に変化した、ブロッサム王国の中で辺境伯家の周りだけ、ピンク色に染まっている。
「レオン殿下。あれは?」
「ああ。行ってみよう」
屋敷に近づくと、ピンク色の固まりは、チェリーブロッサムの花びらが積み重なったものだった。
屋敷からライザー辺境伯が、俺を見つけてやってくる。
「レオン王太子殿下、お久しぶりです。立派になられましたな」
「ライザー辺境伯卿、お久しぶりです。これは……。どうされたのです」
「昨日、ブロッサム王国、第一王子であるレオナルド王太子殿下が、婚約のことで話があると当家を訪れたのですが、リジノン公爵令嬢のローザ様を伴っており……。
予定の時間より早かったためスプラは出かけており、スプラを待つ間レオナルド王太子殿下とローザ嬢はチェリーブロッサムの花を見に散策にでかけ、それをスプラが追いかけたのですが……。」
「スプラ嬢の行方が、分からないのか?」
ライザー伯爵は、ため息とともに頷く。
「スプラつきの侍女が、直ぐに後を追ったのですが、追いついた時には花吹雪に飲まれる、スプラの姿が見えただけで……。吹雪がおさまると、花びらの山の向こうに、レオナルド王太子殿下とローザ様が、老人の姿になって倒れていました」
「老人の姿に?」
「はい。姿は老人ですが、二人とも意識はしっかりあり、話しを聞くとレオナルド王太子殿下は、スプラとは婚約せず、ローザ様を妻に迎える話をするため、こちらに来たと話されました。スプラをみて、使用人と間違い声をかけたその時に、花が散り舞い上がったと……。スプラは、その花びらの山に埋もれているのではないかと、皆で探すのですが一向に見つからないのです」
屋敷の周りには、いくつもの花びらの山が出来ていて、屋敷の周りだけ緑も残っている。
「レオナルド殿下はどこに?」
「殿下とローザ様は、自分の姿を見て気を失われ、家臣の者とともに城に戻られました。今、ブロッサム王国全体の植物が枯れ、水が干上がっているようです。我が辺境伯家には備蓄がありますが、この状態が続けば、豊かな緑を誇り農産物と畜産で、生計を立てているこの国が、いつまで持ちこたえられるか……。」
「スプラがいる花びらの山に、連れて行ってはもらえないだろうか?」
ひときわ大きな、花びらの山に案内される。
「こちらです。みなで何度も花びらをかき分けたり、掘ったりしているのですが、一向に進まないのです」
スプラつきの侍女が、涙ながらに訴える。
「きっとお嬢様は、レオナルド王太子殿下に、酷いことを言われたんです!お嬢様は、婚約者となる殿下のために、朝からオルレアの花を摘みに行ったのに……。」
侍女は、花びらの前に座り込み、顔を両手で覆い泣きはじめた。
「侍女殿、私がスプラを取り戻そう」
一度侍女の肩をポンと叩き、俺は花びらの山に手を伸ばす。
伸ばした先の花びらが、バラバラと崩れ出し俺の手を中心に、渦を巻く。
俺は、思いきって手を前に差し出したまま進む。
「スプラ!」
「スプラ!」
何度もスプラの名前を呼び前に進む、花びらの渦は、どんどん大きくなり俺の全身を飲み込んだ。
「スプラ!迎えに来た、遅くなってごめん」
「スプラ!」
花びらの渦をどんどん進むと、突然に俺の周りの花びらの渦が消え、真っ白な空間にでた。
眩しさに眼を細めてから、ゆっくりと瞼を開くと、空間の真ん中にスプラが横たわっている。
急いで駆け寄る。
「スプラ!」
スプラは、チェリーブロッサムの花びらと、オルレアの花に埋もれる様に、すやすやと寝ている。
「スプラ……。」
つぶやきながら、スプラのアッシュグリーンの髪に触れると、スプラの髪が、みるみる若葉の様なライトグリーンに変わり輝きだす。
輝きは、どんどんまして、スプラの大きな瞳が開く。
「レオ?」
「そうだよ、スプラ。 レオだよ、迎えに来るのが遅くなってごめん」
俺がスプラを抱きしめると、白い閃光が走りチェリーブロッサムの花びらが、バンと吹き飛んだ。
スプラの体を抱き起して、一緒に空を見上げる。
俺とスプラを、祝福するかのように、花びらがヒラヒラと降り注ぐ。
花びらが落ちた地面から、緑が広がり辺境伯領に緑が戻り、チェリーブロッサムの木にも、つぼみが膨らんだ。
✿ ✿ ✿
スプラ 視点
ヒラヒラと花びらが降り注ぐ。
「あぁ。春の空みたいな瞳……。レオだ」
私は目の前に座る、大人になったレオの顔に手を伸ばす。
頬に触れると、レオはにっこり微笑んだ。
「迎えにきたよ、スプラ」
私は両手を広げ、レオの胸に飛び込んだ。
「本物だ。本物のレオは……暖かい……。」
しばらくの間私たちは、お互いの存在を確かめ合うように、抱きしめあっていた。
✿ ✿ ✿
それからの私達の日々は、多忙を極めた。
ブロッサム王国は、レオナルド王太子殿下しか子供がいない、今回の勝手なふるまいは、貴族からも問題視され、老体のまま王席を剥奪された。
その後も、ライザー辺境伯以外に草木は芽吹かず、多くの民が新天地を求めて国を出る。
我がライザー辺境伯も、カットブロア王国に国替えをし、実質ブロッサム王国は崩壊した。
そして、レオと私は婚約をした。
レオは私と離れてから、努力を重ねカットブロア王国の王位継承権をつかみ取り、私を迎える準備を進めてくれていた。
そして王家に伝わる、禁書庫の中でチェリーブロッサムにまつわる物語を見つけ、婚約を結んだあと私にそっと教えてくれた。
それは数千年の昔の物語。
遠い東の国から、カットブロア王国第一王子の元に、王女が嫁いでくるはずだった。
2人は幼少期から交流を重ね、婚約し結婚に至ったが、王女は嫁ぐ道中のブロッサム王国で、なにものかに連れさられる。
事態を知った第一王子は、王女の元に駆け付けるも、命からがら逃げだした王城は、あと少しでカットブロア王国に入る山道で倒れている所を見つけた。
王女は既に息絶えており、かけがえのない王女を失った悲しみで、王子もその場で命を落とす。
2人の供養に、東の国からチェリーブロッサムの木が贈られ、その木は二人が命を落とした場所に植えられた。
植えられた木は大きく育ち、ある日そのチェリーブロッサムの幹から、アッシュグリーンの髪を持つ女の子が産まれた。
女の子は、辺境伯で大事に育てられ、この地でチェリーブロッサムの木を、守り育てる役目をはたした。
「悲しいお話ね……どこでこんなに、話が曲げられてしまったのかしら?」
私は、レオとチェリーブロッサムの群生を眺めながら思う。
「きっとチェリーブロッサムのおかげで、干ばつは本当に改善されたんだろう。ブロッサム王国はその力を他国に奪われまいと、王家に娘を取り込むように、話を捻じ曲げたんじゃないかな。でもきっと、今度こそ悲恋にならない様に、二人が俺とスプラを守ってくれたんだね」
レオがほほ笑むと、散らないはずの花びらが、ヒラヒラと私達の頭上に降り注ぐ。
青空に、ピンクの花びら。
「きれいね」
「ああ祝福してくれているね」
私達は手を取り、歩き出した。
~ 終わり ~
桜の群生とその花びらが舞い上がり空いっぱいに広がる風景を描きたくて書いたのですが、うまく伝わっていたら幸いです。
誤字脱字などいつもありがとうございます。




