2話 ユーキとフリージア②
「わぁ!新しい街が見えますよ、ユーキ様!」
とりあえずの目的地が決まってから数日。ボクの作ったキャンピングカーは燃料いらずの特殊仕様だがボクとフリージアは飲まず食わずというわけにはいかない。2人で三食おやつコーヒー付きの食生活をしていればどうしても食料の在庫が減ってしまうのでどこかで補充する必要があった。さすがにボクでも野菜や肉を作り出すことはできないからね。
「……なぜか水とコーヒー豆の在庫だけはなくならないんだけどなぁ?」
ボクは脳内に浮かぶ在庫リストをチェックしながら首を傾げた。〈なんでも収納くん〉は希少な材料をしまっておけるが決して物があふれ出てくるわけではない。まぁ、見た目は小さな箱なのに中にはいっぱい入るんだけどね。
え?四◯元ポケットみたいだって?全然違うよ。だって、これをポケット状にするのは無理だったんだよね。未来型ロボットに比べたらボクの発明なんてまだまださ。
「ユーキ様、どうしたんですか?あの街で買い物するんですよね?」
「ああ……なんでもないよ。そうだね、食料と……フリージアの欲しい物があったらそれも買おう」
ボクの言葉に両手をあげて喜ぶフリージアの姿に、ケガはすっかり治ったようだとホッとした。早く元気になるように栄養ドリンクやサプリメントを作った甲斐があったよ。
でもフリージアは時々ムチャをするから要注意だけどね。
街が近づいてくると、フリージアはいそいそと自分の荷物からつばの大きな帽子を取り出して頭に装着し始めた。肩までしかない髪の毛がすっぽりと帽子の中におさまり、フリージアの顔にはその素顔を隠すように影が落ちる。
そう言えばフリージアは、生まれ故郷特有の変わった髪色と瞳の色をしているのだと言っていた。知っている人間が見ればすぐわかるそうなので、母国を追放されているフリージアにとっては余り好ましいものではないようだ。
あの国にいた頃はセレーネお嬢の庇護下にいるということもあって実害などはなかったが、国を出てしまったからにはどこでなにがあるかはわからない。隠しておくに越したことはないんだろうけど、旅をする以上フリージアにはこれからずっとそんな生活をさせることになってしまうのだ。
「フリージア、ボクから離れるなよ」
「迷子になったりしませんから、大丈夫ですよ!」
そして、キャンピングカーを近くの林に隠して散策をしながら順調に買い物をしていく。どうやらこの街は発展途上中の小さな国の一角にできたばかりの場所らしく、すれ違う人間たちも国の住人というよりはボクたちと同じく旅の途中で立ち寄った者が多いようだった。名産品などは特にないようだが、多種多様な品揃えの出店は確かに魅力的だ。値段はピンキリだがそれを交渉するのも楽しみのひとつのように感じられる雰囲気があった。
なんていうんだろうか……まるで活気溢れる大阪の商店街のような?
「見たことない物がたくさんありますよ!」
「うん、確かに楽しいね。新しいアイデアがでてきそうだよ」
普段は引きこもりのボクだが、たまにはこうやって歩きながら買い物をするのも悪くない。そう思っていた矢先の出来事だった。
「あっ……!」
突風がフリージアの帽子を天高くさらっていったのだ。
フリージアの髪色が太陽の下に晒された。そしてそれを見た一部の人間がざわめき始めたのである。
「おい、あの髪の色ってまさか」
「あの国の」
「そう言えば王女が追放されるような悪行をしたって」
どうやらフリージアの親はフリージアを追い出して縁を切ったことを他所の国にも大々的に発表していたようだ。もちろん悪い噂と共に。
フリージアの生まれ故郷がある方とは反対方向に進んできたのに、やはりセレーネお嬢に盾突いた影響は大きかったようだ。たぶん、そのセレーネお嬢がもうフリージアを許していることなんて関係ないのだろう。
ざわめきと一緒に悪意のある視線が突き刺さってくる。ボクの白衣の裾を掴むフリージアの顔は真っ青だ。すでに買い終えたいくつかの果物が紙袋から落ちて下に転がるがそれを拾う気力もなさそうだった。
「……キャンピングカーに戻ろう、フリージア」
「……はい、ユーキ様」
返事をして俯きながら歩き出すフリージアだが足が震えている。周りからはピリついた空気が流れてくるし、出来ることならフリージアを抱えて逃げたいところだがあいにくボクは非力な引きこもりだ。体力にはあまり自信がない。ここは周囲を刺激しないようにこの場からフェードアウトするのが一番だろう。
その時だ。その場にさらなる風が吹いた。その時に気がついたんだ。
いや、違う。この風は“風圧”だと。
《《何か》》が、ものすごい勢いでこちらに向かってきている。その疾風の如き速さが周りの空気を巻き込み、まさに災害級の竜巻のような風を生み出していたのだ。ボクらに注目していた人間たちもこの異常を感じ取ったのか慌て出しているが、ボクにはその要因がはっきりとわかった。
え、なんでわかるのかって?だって……。
「ユーキぃぃぃぃぃぃ!!結婚してくれぇぇぇぇぇ!!」
その“姿”こそまだ確認は出来ないが、地鳴りのような走る音とエコーがかかったように聞こえてくる声はまさしくボクにとっての災害そのものだからだ。
「ヤバい、オスカーだ!まさか、もう追いついてくるなんて……というかあいつ、走ってきたのか?!」
なぜそこまでボクに執着するのかはわからないが、ボクに結婚を申し込んできては迷惑をかけてくるオスカーのしつこさにゾワッと背筋が寒くなった。昔のトラウマもあってしつこい男は苦手なんだよ。
「……やだなぁ」
一気に疲れを感じて思わずそう呟くと、それまで下を向いていたフリージアの顔がぐりん!とボクを見上げた。そこにはさっきまでの落ち込んだ暗い表情は微塵も見当たらない。
「……ユーキ様!ユーキ様を困らせる存在はわたしが排除します!」
「え?」
そして、どこから出したのか100トンくらいありそうな巨大なハンマーをぐるんぐるんと回して「どうりゃぁぁぁああ!天誅ぅ!!」と叫びながら竜巻の方向に投げたのである。
ひゅーん!「ほげ!?」どすん!
あ、竜巻が止まった……。うん、命中したみたいだね。いやいや、そのハンマーどうしたのさ?
ボクの視線の意味を理解したのか、フリージアは「実は〈なんでも収納くん〉にちょっと手を突っ込んだら出てきちゃって……ごめんなさい」と、テヘペロっと誤魔化し顔をする。
「……あんなシテ◯ーハ◯ターに出てきそうなハンマーなんか入れてたかな?結局あれってどこにしまってたのか謎のままだし────まぁ、なんとかなったからいいか。でも、もう勝手に〈なんでも収納くん〉を触っちゃダメだよ?危ないからね」
「はい!」
この後、なぜかフリージアのことは「元王女があんなハンマーを振り回して災害を倒すなんて出来るはずがない。似てるだけの別人だ」となり、和解して無事に買い物をすることができた。
それから便利グッズを持ってきて販売したらみんなが珍しがって買ってくれてフリージアは看板娘とまで言われていたよ。まぁ、髪の色ひとつでどれだけ騒がれるかは身に染みたからその後に回った国や街ではフリージアの髪は徹底的に隠したよ。染色スプレーも作ってみたけど、半日もしたら色が落ちちゃうからきっとフリージアの血筋の髪色は特殊なんだろうね。いや、異世界の髪色事情なんて知らないけど。
そう言えばオスカーの気配が消えたみたいだけど、どこからともなく現れた大きな鳥?がその辺りに落ちている“何か”を掴んで飛び去っていったから……それかなぁ?なんか「う、うわわ、うわーっ?!」とかなんとか声が聞こえたような聞こえなかったような……。うん、ボクは何も聞いてないよ。やっぱり異世界って不思議だね。
ああ、でもやっぱり人混みは疲れるなぁ。でも、フリージアのおかげで食料や材料もたんまり買い込んだし資金の余裕もできたね。そろそろフリージアが行きたがっている場所に出発しようか。
そうだ、その場所って秘境みたいだし……しばらくは自給自足でのんびりするのもいいよね?




