1話 ユーキとフリージア①
「けっこう進んだかな」
変わっていく景色を見ながらボクはぽつりとつぶやいた。
セレーネお嬢の元から旅立ってからまだ半日程度だったが、キャンピングカーは順調に進んでいる。この調子なら変態に追いつかれることはないだろう……と願いたいが、あの変態は色んな意味でボクの予測を超えてくるのでまだ安心はできないかなと、つい溜め息を吐いた。
「ユーキ様って、本当になんでも作れるんですね!」
するとキャンピングカーの中をキョロキョロと見渡しながらフリージアが楽しそうに声をあげた。まるで小さな子供のようなはしゃぎようだが、キャンピングカーなんて《《この世界》》には無い物だから珍しいのだろう。
「こら、フリージア。まだケガが治りきってないんだから、おとなしくしてなよ」
「もう大丈夫ですよー。ユーキ様って意外と心配性ですよね」
ぷくっと頬を膨らませるフリージアの姿に元王女の面影は欠片もない。出会ったばかりの頃を思い出すと少し笑みがこぼれそうになってしまう。
ボクもフリージアも、《《色々あった》》からなぁ。
「それにしてもこんな乗り物まで作ってしまうなんて、ユーキ様に作れない物なんかないって感じですね!」
こらこら、運転中なんだから後ろでぴょんぴょんするんじゃない。危ないだろ……ってことで自動操縦に切り替えたよ。どのみちボク、運転免許とかって持ってないんだよね。
「あー、運転って肩が凝るんだなぁ。もう二度としないよ」
ボクが肩を回しながらキッチンスペースに行くと、フリージアがすでにコーヒーを準備してくれていた。
「ユーキ様はぶらっくこーひーで、わたしはかふぇおれです」
ちなみにこの世界にコーヒーが無いってわかった時には衝撃を受けたよ。紅茶も飲むけどボクは断然コーヒー派なんだ。まぁ、偶然森の中にコーヒー豆の代わりになる植物を見つけてそれを材料に生成できたからいいんだけどね。でもこの世界の人はコーヒーは飲まないだろうからとセレーネお嬢にも教えてなかったんだけど、フリージアは特別に飲ませてみたよ。だって一緒に生活するのに隠れて飲むのなんて無理だろう?そうしたらブラックコーヒーは苦くて飲めないけどカフェオレにしてみたら気に入ったみたいだね。もちろん、他言無用さ。「ふたりだけの内緒だよ」って言ったらなんか赤くなったり泣いて天を仰いだりして変な反応してたけど。
「うん、ありがとう。いい香りだ」
フリージアもコーヒーを淹れるのが上手くなったなぁ。今ではフリージアの淹れたコーヒーじゃないと物足らないんだよね。ついでにお茶請けにプリンがあれば言うことなしさ。苦いコーヒーと甘いプリンは最高だろう?
「……一応言っておくけど、ボクにだって作れない物もあるからね?」
「そうなんですか?ユーキ様なら不可能はないって断言するかと思ってました」
熱いカフェオレをフーフーと冷ましながらフリージアが驚いたように目を丸くして言うが、ボクはそんな自信過剰なんかじゃないよ?失礼な。
「ボクを何だと思っているんだい?」
「えー、なんとなくユーキ様ならなんでもありかと思いまして……。逆に作れない物ってなんなんですか?」
「ん?そうだなぁ。例えば……未来や過去に行ったりする引き出しとか、物体のサイズを変えるライトとか、あっという間に違う場所に行けるドアとか?」
試してみた事はあったんだけど、さすがに未来製の青い猫型ロボットみたいなことは無理だったんだよね。作ってみたかったんだけどこの世界にその材料が存在しなかったんだ。四次元ポ◯ット欲しいなぁ。
「……なんですか、それ?」
「説明するとなると難しいかなぁ」
ボクが「うーん」と首を傾げると、フリージアは目を細めて「ユーキ様ったら冗談ばっかり」と楽しそうに笑っていた。
「まぁ、いいや。それよりもこれからどこに行こうか。フリージアはどこに行きたい?」
「わたしが決めていいんですか?」
「もちろんだよ。それにボクはセレーネお嬢がいた国以外は全く知らないからね、頼りにしてるよ」
するとフリージアは一気にカフェオレを飲み干した。そしてボクに向かって浮き足立つように身を乗り出してくる。
「実は、昔から行ってみたかった所があるんです……!」
興奮気味にその場所の事を語るフリージアの瞳がキラキラと輝いて見えた。それがなんだか面白くて……フリージアが嬉しそうだと、ボクも嬉しいんだなって思ったんだ。
「よし、じゃあそこに行こう。途中に町があれば食料も買えるしね」
セレーネお嬢がくれた軍資金が尽きる前にどこかで商売もして稼がないといけないし、材料も調達しなきゃいけない。やることはたくさんあるのだ。
「しばらくは退屈しなくて済みそうだ」
こうしてボクとフリージアを乗せたキャンピングカーは勢いよく走り出したのだった。
「さぁ、ユーキ様!仕事もビシバシやりますよ~!」
「はいはい。フリージアは仕事熱心だね。在庫はいっぱいあるから頑張って売りさばいてよ」
「任せてください!」
こうして、ボクとフリージアの新たな“日常”が始まったのだった。




