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集団のボスは道連れにする執念じゃなくて潔さを学べ

「ボス。こいつらがさっき電話で話した侵入者です。」


海に面したコンテナヤード、時間帯は深夜2:12。

柄の悪い奴らが小さい明かりにうっすらと照らされて見える。


「おい……、田中。」


白いスーツを羽織ったスキンヘッドのサングラスの厳つい男が田中に近づく。


「……は、はい。」


返事を聞くなりすかさず田中の腹に拳をぶち込んだ。

田中はあまりの衝撃に目を見開き身体をくの字に折って唾を吐き散らす。


「いつまで待たしとんのじゃ。」


「すび……。すみばせん……。」


痛がる田中を無視し、今度は手首を縄で繋がれその縄に重りを吊られている渡理と剛田に詰め寄る。

二人は重りに引かれ腰を折った姿勢のまま、迫る男を見上げた。

近づくと暗いながらにサングラス越しに見える鋭い眼光が上から睨みつけているのが分かる。


「お前らが組に侵入して部屋を荒らしたっちゅうクソ共か。しかも田中以外の連中も不意打ちでボコしてくれよったんだと? 舐めた真似してくよってからに。」


ボスらしき立ち位置の男はそうして視線を剛田の顔に移すと口角を微かに上げた。


「おお、良い見物人じゃねぇか。田中ようやったわ。待ったかいがあったってもんだな。隆だっけか? 良かったな。親父さんのご臨終立ち会えたで。」


剛田は冷汗をかきながらも強引に笑顔を取り繕う。


「ああ、良かったよ……。」


男の微かに上がっていた口角は元に戻り、無表情となる。

剛田の冷汗が地面に滴り落ちた。

いきなり男は剛田の後頭部をバスケットボールのように掴み、仲間の方へと引きずっていった。

渡理はその様子を剛田が完全に群衆に隠れるまで見届ける。そのすぐ後、回復したのか田中が横に立ち、息を整え口を開いた。


「大丈夫なんすかね。あれ。」


「お前、意外と強かだな。」


結構酷い殴られ方した割には余裕そうな田中に渡理は追い討ちと言わんばかりにドン引いたような目を向けるのだった。

剛田は後頭部を掴まれたまま群衆の中心へと連れてかれると、そこには自身の父親が力無く首を垂らして椅子に縛られていた。

常に傲慢を纏ったような父親は、今や見る影もなく、身につけていた金目の物は全て無くなりボロボロの衣類を着用している。


「親父ッ!!」


息子の声に父親の耳がピクリと反応を示す。


「お前ら2人とも今世最後の瞬間だしっかり顔を見ておけよ。」


ボスの男が部下に顎で指示を出す。

すると父親の後ろに立っていた男が髪の毛を掴み強制的に前を向かせた。

ちょび髭を生やした父親の顔は所々腫れていて痛々しい。

そうして目の焦点が定まると、ゆっくりと、ゆっくりと口を開いた。


「…………隆。 …………わたしは、どこで踏み外したと思う。」


剛田達を中心とした取り巻きの後列の奴らがボロボロの父親が声を発したことにガヤガヤと声をあげる。

剛田は色々な感情を含んだ表情で父親の顔を見つめると、決意をしたように一息つく。


「……そんなくだらない質問に答えるために、自分がここまでやって来たわけがないだろっ!」


台詞の後半、文末に行くにつれて過去のいざこざを吐き捨てるように怒気が露わになっていく。

ギャラリーのガヤつきも収まりしんとした雰囲気に包まれる。

周りに聞こえない程度に話していた渡理と田中の会話すらも止まった。


「自分は……。 俺はっ! あんたの傲慢さが嫌いだった!」


その自分の父親に向けた言葉は20数年間生きてきた剛田の心の叫びだったのだろう。


「だが、あんたの仕事に対する真剣さは尊敬してたんだよ……。 会社にはあんたが必要なんだよ……! 戻ってこいよバカ親父ッ!!!」


剛田の父親はなんとなく目を見開いているような気がした。

剛田は少ない言の葉に全てを吐き切り、剛田の息を切らす音だけが聞こえる。


「最後の言葉はそれで終わりか?」


剛田の熱くなった感情とは対照的な冷え切った声がこの空間ごと切り裂いた。

剛田も親父が本当に戻ってくるだなんて思って口にしてはいなかった。

だが、自分の親父を切り捨てるなんてことを判断できるはずもなかった。

だから言い淀んだ。

それを無言の肯定と見なしたボスの男は無言のまま父親を椅子ごと運んでいく。

そこで音が響いた。

きっとこの静けさがなければ聞き逃すような小さな音だった。

ブチッという何かを引きちぎるような音。

剛田は反射的に自分の手首を縛っている縄に目を向ける。太さは3センチ程、人力では絶対に外せないはず。

剛田の周りを囲う人々が一斉に視線を向けた先では手をプラプラと慣らすように振っている渡理がいる。

その隣にはいつの間に倒されたのか田中が伸びていた。


「お前ら、さっきから毎回毎回揃いも揃って俺の方向くのやめてくんない?」


音といい誰が見ても渡理がこの縄を強引に引きちぎったのは明白である。

その驚愕に加えて渡理のすっとんきょうな発言に一同唖然としていた。


「あれ、なんも喋らんの? 俺と会話できるの今が最後だと思うけど。」


渡理は近くの男に向かって歩くと目を疑うほどの速度で顔に手を伸ばす。言わずもがなそれに対応できなかった男は抵抗する隙も無く顔を鷲掴みにされる。

顔を掴まれた男は突然腕から力が抜けたようにすとんと落ち、そのまま地面に崩れ落ちた。


「はい、1人目。」


この場の誰もが何が起きたのか分からなかった。しかし何をすればいいのかは動物としての本能で理解し

たのだろう。

一斉に渡理に襲いかかった。

しかし見る間に男達は崩れ落ちていく。

そうして倒れた男たちが折り重なり、さきほどの事務所で見たような肉の塊が出来上がっていた。


「よっし、まあこんなもんだろ。」


剛田は驚愕の表情を浮かべて物言えぬ石像のように固まっていた。

剛田のすぐ横からカチャッという洋画で耳にするような金属音が聞こえた。


「お前何者だ?」


渡理は感情を読み取れない表情で拳銃を構えるボスを見つめる。


「ここまで来たら分かるだろ。剛田商店お抱えの仕事人だよ。」


銃口は即座に剛田のこめかみに向かう。その意味は剛田も渡理も即座に察した。


「お抱えさんならこの意味が分かっとるよな。」


その男は淡々と告げた。

剛田の額に緊張の汗が流れる。

だが渡理はその空気感の中、表情を崩し普段のようなふざけた笑みを見せた。


「ふっ、撃てるもんなら撃ってみろや。 俺の依頼内容はなぁ、おっさんの奪還なんだよ。 本人の警護なんて言われてないんだよ。」


恐らくこの男のことだからただ揶揄うために人質が人質にならないという宣言をしたのだろう。

それに対し、こいつこの場で何を言い出すんだとばかりに目を見開き、生きた心地を失った剛田。

人質じゃなくなる意味など理解していなかった。

剛田は震える口で渡理の最大の見落としを指摘する。


「……依頼料払うの自分なのだが。」


渡理は致命的な点を突かれ表情が壊れる。

思い返すと金額的な驚愕が大きく今回先払いにするのを忘れていた。


「いや、まじ、冗談でっせ……、剛田社長……。」


今更取り繕っても時すでに遅いが渡理はいそいそと腕を構える。

ボスはもはや呆れ果てて虚空を見上げてしまった。


「こんなふざけた奴らにここまで追い込まれるとは焼きが回ったか……。」


さっきまでの空気感とは打って変わって微妙な雰囲気になってしまった。

するといきなりボスは握っていた拳銃を自分の首筋に押し当て……。

渡理たちが驚愕の表情を浮かべる中。

その引き金を引いた。

しかし銃口からは発されたのは気の抜けるような音だった。

銃弾じゃない。

呻き声をあげながら首を抑えて苦しむボス。

血管が浮き上がり脈動しているのが見える。

状況を瞬時に察した渡理は剛田をすかさず回収して距離を取った

剛田はこの状況に理解を求めてふと渡理の顔を見上げる。

しかしその視界に映る渡理の表情はどこか笑っているような理解に苦しむ表情をしていた。


「……やっと、か。」


“因子活性”


渡理の体が一瞬ブレた気がした。

白目をむいたボスの動きが止まり一瞬落ち着いたかと思った束の間、さらに激しく苦しみだし泡を吐きながら地面でのたうち回る。

身体が大きく脈動した。

ブクブクと膨れ、萎み、蠢く。

そして異形の姿へと変貌する。

剛田の目に映ったのはそれが最後だった。次の瞬間には渡理の掌が視界を埋めつくし、暗転した。


「チッ、Manticoreかよ……。」


渡理は心底不愉快そうな顔つきでその変形を呆然と眺めていた。

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