表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリスマスツリーの密室  作者: 江東うゆう
第一章 モミの木館
7/21

密室の証明(二)

「これって、カギが壊れているってことですか」

 紫藤さんは諦め切れないらしく、もう一度、ドアノブをつかんだ。

「そうなんだろうな」天沢先輩は、眼鏡のブリッジを人差し指で押さえた。「私がここに来たときには、もう開かなかったから確かなことは言えないが、カギ自体が折れるか、引っかかるかして動かなくなっているのだろう」

「扉を壊せば開きますよね」

 紫藤さんがドアノブから手を放す。

「無理だろう。この扉は分厚いし、外開きだから(ちよう)(つがい)も屋外にあって、いじって外したりはできない」

「でも、難波先輩が殺されたんですよ? 外に連絡を取らないと」

 紫藤さんの声は、悲鳴に近かった。

「……難波先輩は、ケガをしているわけじゃない」

 天沢先輩の声は、落ち着いていた。

「だから、死んでるって!」

「ケガをしているのなら、治療の必要があるだろう。だが、死んでいるのなら、もう手遅れだ。どうすることもできない」

 天沢先輩が、僕らを見回した。

 眼鏡に玄関の明かりが反射して、表情がよく見えない。

 その代り、天沢先輩のきつく結ばれた唇だけが、僕の脳裏に焼き付く。

「そんなのって……!」

 紫藤さんが拳を握りしめた。

「――難波先輩はどうすることもできないとしても」

 澄んだ声が、僕の背後からした。

 無敵さんだ。

「難波先輩を殺したという犯人は、探さなければなりませんよね?」

 無敵さんの表情も、さすがに硬い。

「犯人?」

「そうです。天沢先輩は、いつから一階にいらっしゃいますか?」

「停電の前からだ。固定電話を探しに降りてきて、見つからないから外に出ようとしたら、扉が開かなかった」

「私の部屋は二階で、扉の上にあるといってもいいくらいなんですけど、難波先輩の悲鳴が聞こえるまで、玄関を開けた音は聞こえませんでした。その後、私や()()が難波先輩の部屋に向かいました」

「そうか。私は同じ階だからな、一番乗りだった」

「そのとき、桐ヶ谷先輩と(ここ)()ちゃんは?」

「まだだ。でも、エレベーターホールから近かったせいだろう。君たちよりは速かった」

「そうでしょうね。私が部屋から飛び出したとき、廊下のガラス越しに、エレベーターの位置を確認したんです」

「エレベーターの位置?」

「三階で止まっていました。猫屋敷君、私たちが乗ったとき、エレベーターはどこ?」

「えと」急に話を振られて、僕は記憶を探りながら言う。「呼び出した覚えがないから。三階に止まっていたんだと思う」

「そうだよね。それで、天沢先輩は、どうやって一階に?」

 答えを促すように、無敵さんはてのひらを天沢先輩に向けた。

「非常階段だ。君たちが上がってくると思ったから」

「三階から、わざわざ?」

「大したことじゃない」

「急いで電話を探さなければならないときに? 私たちなんて、ただの野次馬ですよね」

「無敵さんが非常階段なんて駆け上がったら、三階に着いた途端に倒れるだろう。気を遣ったんだよ」

 天沢先輩が、はーっと面倒くさそうにため息をついた。

 無敵さんは、むっとした顔で一瞬黙った。

「お気遣いありがとうございます。でも、先輩が非常階段を降りてくださって、ちょうどよかったです」

「ちょうどよかった?」

 天沢先輩が、軽く体を引く。

「そうです。この建物の中って、廊下がガラス張りだから、丸見えですよね。もし、殺人犯が難波先輩の部屋から出て、外に逃げようとしたら、私たちの誰かに見つかってしまうはずです。停電を起こして逃げるにしても、天沢先輩が一階にいらっしゃったし、玄関扉は開かないし。そうなると、犯人にできることって、一つだけですよね?」

 無敵さんは淡々と話している。

 紫藤さんと野津田さんが顔を見合わせた。

 天沢先輩は、困ったように顔をしかめている。

 僕は、だんだん鼓動が速くなるのを感じていた。

 無敵さんから見られるような状態で、犯人はエレベーターを使うことはできない。そして、天沢先輩のことがあるから、非常階段も使えない。停電のうちに逃げることもできない。

 できることは、このモミの木館に潜むことだけだ。

 僕がその結論にたどりついたとき、無敵さんが口を開いた。

「つまり、私たちは殺人犯と共に、このモミの木館に閉じ込められた、ということです」

 辺りの空気が、一瞬、凍りついたように感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ