無敵雫冠の推理(二)
「利桜が書いたなら、私の名前は、花ではなく、冠という字を使って書いてあるはず。だから、この手紙は誰かが利桜を装って書いたもの。まったくあてにならない手紙ということになる」
無敵さんは居間のテーブルに手紙を置いた。
「でも誰が?」
「誰が? じゃあ、最初から考えてみようか。まず、難波先輩。難波先輩の部屋から悲鳴が聞こえて私が駆けつけたとき、部屋の中には天沢先輩と桐ヶ谷先輩、心葉ちゃんがいた。そのあと、猫屋敷君が来るまでに天沢先輩が出ていったんだよ」
「そりゃ、部屋が近い順に到着するだろうから」
「でも、あなたは眠っていたでしょ? それは何故」
「コーヒーに睡眠薬を入れられていたから?」
「そう。なんであなたに来て欲しくなかったのか。それは、天沢先輩、桐ヶ谷先輩、心葉ちゃんと違って、あなたが計画に加わらない者だったから」
「え、どういうこと?」
「ちょっと待ってね」
無敵さんは、ポケットに手を突っ込み、ごそごそと探る。
ポケットにものを詰めこむのは、保育園時代からの彼女の癖だが、あまり美しいとはいえない。
「はい、こちらに難波先輩の部屋にあった血だまりに浸したハンカチがあります。そして、こちらの溶液は、何と、ルミノール液!」
ジャジャーンという効果音を使ったら似合うくらい、彼女は力強く瓶をこちらにつきだして見せる。
いつになく、子どもっぽい動きだ。
「何でそんなの持ってるの」
「合宿中に何かあるといけないから、実験キットを持ってきておいたの。料理の合間に溶液を作っておいたんだ」
「……あの感動の料理の最中に、そんなの作ってたの」
「さて、明かりを全部消して、この溶液を使いますと」
彼女が溶液をハンカチにかけ始めた。
僕は慌てて居間の明かりを消す。
辺りが真っ暗になった。
でも、何も起こらない。
「ねえ、もうルミノール液はかけたの」
「もちろん。どう? 光ってる?」
ルミノール反応なら、血の痕が青白く光るはずだ。
だが、そんな光はどこにも見えない。
「大丈夫? その溶液。偽物なんじゃない」
「これが偽物だったら、全国のキッズの自由研究が壊滅すると思う」
彼女にしては珍しく、大げさなことを言う。
「そこまでのことじゃないけど。反応してないじゃないか」
「そう。反応するわけがないの。明かりを点けていいよ」
居間が明るくなると、自信満々の彼女の顔が目に入った。
「じゃあ、次は大きな冷蔵庫に入ってみよう」
「ちょっと待って。あそこに行ったら、しーちゃん倒れちゃうだろ」
「さあ、どうかな」
やけに楽しそうに言うと、無敵さんは厨房の奥に入っていく。
「僕が先に開けていいかな」
僕は彼女を守るように回り込むと、扉の取っ手に手を掛けた。
「どうぞ。でも、倒れないでね?」
「なんで僕が、いまさら」
そうは言ったものの、心臓に圧迫されているような重さを感じる。
僕は気持ちを定めて、一気に扉を開けた。
そこには、毛布にくるまれた遺体が――。
僕は、頭をぶん殴られたような気分になって、よろめいた。
棚は、ほぼ空だった。
そして床には。
一つの遺体も見あたらなかった。




