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クリスマスツリーの密室  作者: 江東うゆう
第二章 連続する事件
13/21

桐ヶ谷美保里の場合(三)

 僕が厨房に駆け込んだとき、野津田さんは部屋の奥の方で立ち尽くしていた。

 桐ヶ谷先輩の姿はない。

「どうしたの」 

 野津田さんに近づいていくと、パントリーの奥にある扉が開いているのがわかった。

 扉は金属製で、観音開きになっている。

 辺りの空気が冷たかった。

 扉の中の小部屋が、冷蔵庫になっているらしい。

 野津田さんは、その扉の前に立っていた。

「桐ヶ谷先輩は?」

 僕は彼女の肩越しに中を覗く。

 野津田さんが、まっすぐ床を指した。

 そこには、桐ヶ谷先輩が倒れている。

 先輩の側には、コーヒーの缶が転がっていた。

「桐ヶ谷先輩!」

 僕は冷蔵庫に足を踏み入れた。

「待ってください」

 野津田さんが僕よりも前に出る。

 彼女はそのまま桐ヶ谷先輩の側にしゃがむと、手首の脈を診た。

「……」

 沈黙は、絶望を表しているようだった。

「まだ蘇生できるかもしれない!」

 僕は桐ヶ谷先輩に駆け寄ろうとした。

 野津田さんが黙って、首を左右に振る。

「でも、さっきまで」

 僕はどう言っていいのかわからず、意味もなく冷蔵庫内を見回した。

 ちょうど、桐谷が先輩が倒れている場所から数十センチ向こうに、毛布が見えた。

 毛布の下からは、人の手が覗いている。

 難波先輩の手だ。

 さらに奥に、もう一つ、毛布がある。

「まさか、天沢先輩……」

 僕はふらふらと毛布の方に歩く。

 野津田さんが、さっと立ち上がり、近づいていくと、毛布をめくった。

 そこには、天沢先輩が横たわっていた。

「誰かが運んだんですね」

 野津田さんが毛布をかけ直す。

「何があったの?」

 紫藤さんの声がした。

 振り返ると、紫藤さんと無敵さんがパントリーに入ってきている。

 とっさに、僕は冷蔵庫から出て、二人が入ってくるのを止めた。

「桐ヶ谷先輩が死んでる」

 僕の言葉に、紫藤さんと無敵さんが顔を見合わせた。

「それに、天沢先輩の遺体も安置されていた」

「天沢先輩が?」

 無敵さんが、不意をつかれたように目を丸くした。

「そう。無敵さんは見ないほうがいいと思う」

「でも」

 無敵さんが僕を押しのけようとした。

「だめだよ。倒れちゃう」

「そうそう倒れてたまるもんか」

 無敵さんが力一杯、僕を押した。

 僕は、彼女を通さなかった。

 けれど、僕が彼女を抱き留めた瞬間、冷蔵庫の中の様子が見えてしまったんだろう。

「あれは、難波先輩と、天沢先輩と、桐ヶ谷先輩?」

 僕は答えず、彼女の頭を抱きかかえようとした。

「こんな冷たいところに……」

 冷蔵庫の冷気が、僕の背中の辺りで溜まっていた。それが、無敵さんの頬にも触れているようだった。

 だんだん、無敵さんが凍えてくるのがわかった。

「めくっちゃだめ!」

 無敵さんの後ろから冷蔵庫の中を見ていた紫藤さんが叫んだ。

 僕は慌てて無敵さんの目を覆う。

 でも、間に合わなかった。

 野津田さんが、難波先輩にかかっていた毛布をめくっていた。

 毛布の下の難波先輩はうつぶせに寝かせられている。

 左の脇腹あたりにかけて、服に染みがあった。

 血で汚れているところだろう。

 僕は、腕に無敵さんの重みを感じた。

 無敵さんは真っ青な顔で、僕の腕につかまっていた。

「桐ヶ谷先輩……」

 野津田さんのすすり泣く声が聞こえた。

 紫藤さんが黙って彼女を抱きしめた。

「もう、耐えられない!」

 野津田さんは紫藤さんの腕を押しのけると、こう宣言した。

「私、不審者を捜し出します。モミの木館が密室なら、この建物の中にいるはずでしょ! 片っ端から探してやる!」

 彼女は唇をかみしめ、体を震わせていた。

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