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月とミルクティー

 あれから三年。あの猫、いや、あの人は来るだろうか。

 場所も変わったし、私もあの頃とは違う。

 たとえここにたどり着いたとしても、気づかないかもしれない。

 やっぱり、あれは夢だったのだろうか。


 少しの緊張と高揚感をかかえ、店のカウンターに腰かけて待つ。

 時計は夜中の一時半を過ぎていた。

 もうすぐ、月が欠け始める。

「くるかなぁ」

 ミルクティーを用意し、カウンターにカップを置く。外では、皆既月食が始まり、月がゆっくり欠けていった。そろそろ赤褐色の月になるころだ。私はいても立ってもいられず、店の外へ出た。夜気は思ったより冷たく、真夜中の月が静かに空に浮かんでいた。

「そうだよね。くるわけないか」

 ため息をついて店に入ろうとしたとき、遠くで猫の鳴き声が聞こえた。幻聴……いや、幻聴ではない。闇夜に目をこらすと一匹の白い猫が静かに近づいてきた。私の前にちょこんと座り、ニャーとひとなきした、その瞬間。ふっと視界が揺れ、次に見えたときには、そこに人間の姿があった。

「こんばんは。お菓子、まだありますか?」

 一瞬で三年前の記憶が、私の脳裏を駆け抜けた。私はこの声を知っている。私の体の全細胞がドクンとはねたような感覚。忘れるはずがない。あの人だ。

「うそ、また会えた……」

「ふふっ、覚えていてくれたの?うれしいわ。お元気だった?ねぇ、あなた今すごい驚いた顔をしているけれど、私どこかおかしい?変身失敗している?」

 矢継ぎ早に話す口調、心配そうにこちらを覗き込んだり、自分の容姿を気にしたり。三年前にあったあのままだった。

「いえ、大丈夫です……」

 言葉がうまくつながらず、喉の奥がひくりと鳴った。

「そうよね。いつ会えるかなんて誰にもわからない。私もあなたも、でもこうして会えた。そのことが奇跡よね。でも、よかったわ。お店、開いたのね!お菓子、いただいてもいいかしら?おすすめはなあに?」

 相変わらずキラキラとした目をしていて、しばらくぼんやりとその姿を眺めていたが、おすすめを聞かれていることを思い出し、言葉を発した。

「えーと、おすすめは月の形をしたクッキーです。今夜は皆既月食なので、特別に月のクッキーを焼いてみました。もしかしたら、あなたに会えるかもしれないと思って」

 最後の言葉は、ほとんど自分にしか聞こえなかった。彼女はふわりと笑った。

「もしかして、ミルクティーも用意してくれていたりする?」

「もちろんです!」


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