表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

まいちゃんとの出会い

 そして今、あれから3日ほどたっただろうか。いつでも寝られる。おなかも減らない。トイレに行きたくもならない。でも、動けない。これは、私が望んでいた世界。何も考えないで怠けていても良い世界なのである。私にとっての理想郷であり私が夢にまで見ていた世界だ。しかし、怠けているのが好きな私でも少しだけ苦しくも感じる気がする。そんな夢のような空間の中、変化が起こった。周りが揺れている。ぬいぐるみの隙間から、照明の明るさをなんとなくかんじた。多分、少し移動した。私には、カーテンの隙間から照らす太陽のような気分でとても気持ちがよかった。しかし、周りには値札が張ってある陳列棚。揺れが収まり、「犬のぬいぐるみはここでいいですか?」という声が聞こえた。私が乗っていのは商品を運ぶカートだと考えた。また、もしかして私「ぬいぐるみになってる」。そう思った。今更である。それと同時に恐怖を感じた。なぜかって、多分私は商品であり、誰かの持ち物として買われる未来が待っている事に気が付いたからである。恐怖は感じたが、今の私は周りの人からみたらぬいぐるみ、そのぬいぐるみに意識があり助けを求めているなんて誰も考えるはずがない。いや、本当に助けを求めているのだろうか?以前から私は動かなくてもよいこの状態を望んでいたのであり、助けを求めようという私の考えは間違っているようにも思った。その後、上のぬいぐるみから順番に商品を入れるかごに店員が投げ入れているのを見ている。正直、痛そうで怖い。そう思って私の体感では1時間くらいに感じたが、多分ほんの1分くらい後の事だ。私も商品もかごに投げ入れられた。かごの枠に当たって痛かった。


 私はこの世界は夢だと考え、寝ることにした。寝れば解決する私はそう考えた。何分くらいたったのかはわからないが、起きたら店の中に客が入っていた。夢ではなかった。私の入ったかごの横を人が通る振動で私は恐怖を感じた。でももし、この姿になった事が嫌だと思うならば今までの「おもち」に憧れていた私に失礼だと思った。いや、「おもち」に失礼だと思った。だんだん上から押される感覚が弱くなっていく。上の方のぬいぐるみから、ショッピングカートに連れていかれていることが分かった。私はどうなってしまうのだろう、なぜか不安だった。私に買われる前の「おもち」はこのような気分だったのだろうか。気が付けば私が連れていかれるタイムリミットも近いようで、私の上のぬいぐるみが連れていかれ天井が見えた。それはとてもまぶしく感じる。太陽の光を浴びて目が覚ますように、覚悟が決まったようなな気がする。なぜなら、もうご主人様の言いなりになる事が確定したから。人間の頃とあまり変わらないからである。今までは両親であったが、それが新しいご主人様に変わるだけなのだから。かごの横を人が通ると「私のご主人はどの人だろう」と思う。「あの男の子は乱暴してきそうで嫌だな」とか、「あのおじいちゃんは孫へのプレゼントを探しているのかな」とか、「あのカップルは興味ないだろう」とか。そのような事を考える。ふと気が付いたら、かごの横によちよちと歩く3歳くらいの女の子を連れたお母さんが来た。


女の子 「あの犬のぬいぐるみほしい。ママ買ってよ」


お母さん「ぬいぐるみ一つしか持っていなかったね。」


女の子 「買ってよ。「わんわん」のお友達が欲しい!ひとりで寂しそう。」


お母さん「仕方がないわね。どの子がいい?」


そう聞くとお母さんは女の子を抱っこした。そしてその女の子は、私のいるかごをじっと見て私に指をさした。


女の子「この子がいい!」


そう言われ、私がお母さんにそっと持ち上げられるとショッピングカートに乗せられた。私はとても安心した。この女の子は、まいちゃんとお母さんに呼ばれていた。カートの上からお母さんとまいちゃんとの会話を聞いていた。


まいちゃん「ママ、ありがとう。まいちゃん大切にするね」


お母さん 「大切にするのよ」


まいちゃん「ママおなかすいた。今日のおやつなに?」


おかあさん「これからスーパーに行くから、好きなお菓子を1つ選んでいいわよ。あと、今日の夜ごはんは、まいちゃんの好きなカレーだから。」


まいちゃん「やったー」


そのような平和な話の内容だった。ここ数日間いや、数年間の間、感じなかったこの安心間。いや生れてから感じたことのない感覚だったのかもしれない。その後ベルトコンベアー式のレジを通された後まいちゃんに抱っこされて車に乗った。その後、まいちゃんによってぬいぐるみ化した私に名前が付けられた。


おかあさん「まいちゃん、その子の名前は決めた?」


まいちゃん「わんた!男の子。」


私、心の声「私、前世、女なんですけどー。ってか、わんたって名前安直すぎません?多分、犬がワンって鳴くから「わんた」絶対そうでしょ。私これから「わんた」として生きていくの?」


おかあさん「わんた。いい名前ね!大切にするのよ。」


私、心の声「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ、おかあさん。もっといい名前にするように言ってよ。例えば「ムギ」とか、「チョコ」とか、「ココア」とか、もっとかわいい名前あったでしょ。」


まいちゃん「犬だから「わんた」。かわいい」


私、心の声「私、これからわんたとして生きていくのか。慣れるしかないな」


おかあさん「うちの「わんわん」と仲良く遊ぶのよ」


私、心の声「わんわん?犬だとしたら怖いな。嚙まれそう。この感じだと犬だから「わんわん」なのかな?小さい子のネーミングセンスには恐ろしいものがある。」


まいちゃん「わんた!これからよろしくね!」


突っ込みどころも非常に多いが、人間だったころの生活よりも希望を感じた。




 その後スーパーについたらしい。まいちゃんは「わんた、ちょっと待っていてね。すぐに戻ってくるね」とだけ言い、スーパーにおかあさん手をつないで入っていった。太陽が車の中を照らし、窓の外を見ると椛が色付き始めていた。この世界は今、秋なのかと思いつつ秋の暑すぎない心地が良い素晴らしいコンディションであり気温で気が付いたら寝ていた。安心して寝ていたら、まいちゃんの「わんた!いい子にしてた?」という声で目を覚ました。まいちゃんは、おかあさんにクッキーを買ってもらっていたらしく、私にも食べさせてくれようとした。


まいちゃん「どう?おいしい?まいちゃんが選んだんだ。」


私、心の声「おいしそうだよ。口元に運ばれてもにおいもわからないし食べる事も出来ずに少し悲しい。でも、まいちゃんが楽しそうだからいいかな。」


まいちゃん「まいちゃん食べるね。サクッ。もぐもぐ、おいしい。わんた、もう少し食べる?」


このような、実に平和的で素晴らしい気分だった。気が付いたらまいちゃんの家についた。住宅街にある一軒家であり一般的な家だった。おかあさんが車を止め、家のドア鍵を開けた後まいちゃんは私を抱っこして家に入った。まいちゃんは寝室に直行し「わんわん」というぬいぐるみとあいさつさせられた。


まいちゃん「「わんた」、「わんわん」だよ。仲良くしてね!「わんわん」、「わんた」とけんかしちゃダメ」


「わんわん」と名づけられた犬のぬいぐるみは、ゴールデンレトリバーの子犬のような雰囲気のモサッとした私と同じくらいの大きさのぬいぐるみだ。もちろん、「わんわん」とは、コミュニケーションをとる事は出来なかった。まいちゃんは、寝室で私と「わんわん」を5分くらい観察した後、私たちを抱えてリビングに向かった。その後、教育番組を一緒に1時間ほど見ていたらドアがガチャっといい誰かが入ってきた。


まいちゃん「パパ!おかえり!見て、「わんた」!「わんわん」のお友達」


おとうさん「ただいま!まい、よかったな。わんたって名前はまいが付けたのかい?」


まいちゃん「うん。かわいいでしょ。初めて名前つけたんだ!」


私、心の声「ん?じゃあ、「わんわん」って誰が名付けたんだろう?」


おかあさん「「わんわん」はパパが名付けていたものね」


私、心の声「え、は?この人のネーミングセンスどうなってんの?ぱぱさん?3歳児みたいなセンス、付けられる側からしたら本当に笑えないんですが。」


 そのような会話をしていたら夕飯の時間になっており、平和な夕食を「わんわん」の横で見ていた。「わんわん」には意識があるのかなとか考えていたら、まいちゃんたちは夕食が終わっていて、まいちゃんは、私たちに「お風呂に入ってくるね」と言ってお父さんと一緒にお風呂に入っている間に、私たちはお母さんによって寝室に運ばれた。お母さんは敷布団をひき、枕に頭を乗せるような形で私と「わんわん」を向かい合うように寝かせてくれた。その後、すぐにまいちゃんは寝室にきて私達を抱っこした。その後、お父さんが「コンコンコン、くまちゃんが遊びにきたよ。早く寝ないと連れてかれちゃうよ」と言い、純粋なまいちゃんはすぐ布団に入って右わきに私を、左腕に「わんわん」を抱っこして寝てしまった。この体になってからは疲れを感じなくなっていたが、眠かったので寝ることにした。


 寝ていたらお母さんが「あ!」っと深夜2時くらいだろうかいきなり叫んだ。お父さんも飛び起きた。


おかあさん「まいが、また、」


おとうさん「被害は?」


おかあさん「確認・・・」


 私の視点からは、「わんわん」が又に頭が挟まれた状態でお漏らしした事だけがわかった。非常に恐ろしく悲惨な光景だった。ちなみに私はまいちゃんの寝相によって遠くに飛んでいたため助かった。


おかあさん「わんわんが又に挟まった状態で漏らされたっぽい。あと掛け布団、敷布団。あと、パジャマも。」


おとうさん「いつもどおり、俺がまいを持ち上げて風呂場に連れていくから、いったんそっちの処理は頼んだ。」


おかあさん「了解」


 すごい連携だなと思いながら私はあんな風にはなりたくないと思った。お母さんは「わんわん」や布団などを風呂場に持って行った。私は何もすることが出来なかった。動けない、手伝えない自分が虚しくなった。今までの自分だったら自ら手伝おうと思う事はなかったが、まいちゃんと出会って、私も少し変わったのかもしれない。そう思ったが結局、私は何もできない。見なかったことにして寝ることにした。

 


 

 翌朝、まいちゃんは洗濯ネットに入れられて吊るされた「わんわん」にずっと「ごめんね」と言っていた。私はソファーの上で寝ながらその光景を見ていた。


まいちゃん「「わんわん」ゆるしてよ、わんわん、「わんわん」ごめんね」


おかあさん「もう許してくれてるよ」


まいちゃん「ごめんね、「わんわん」」


母わんわん「まいちゃん、もういいよ許すよ。これからは気を付けてね。」


まいちゃん「まい、気を付ける」


これで一軒が落着した。正直、まいちゃんが純粋で可愛い。昔の自分には持っていないものを持っていて羨ましい。しかし、私は過去の自分について考えてしまった。私は猫のぬいぐるみである「おもち」の事をどのように考えていたのか。私の悩みばっかり言ってしまっていなかったか。心の中ではぬいぐるみだから思っていることは何もないと考えてしまっていなかったかと。こうして私は、「八雲影」改め「わんた」としての生活が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ