鋼鉄の都市と氷のプライド、そして崩壊するセキュリティ!
灼熱の砂漠王国サハラデス。太陽が容赦なく降り注ぐ日中とは打って変わり、夜の王都は、ようやく一息ついたかのような静けさに包まれていた。しかし、その静寂は、ゼフィロスの胃を襲う絶望感の前では、何の意味もなさなかった。地下神殿での激戦、そして新たな「バナナの皮」の出現が、彼の胃をさらに深くえぐっていた。
「くっ……このままでは、胃が砂漠の一部になってしまう……いや、その前に王室の財政が……」
宿のベッドに横たわりながら、彼は王室の財政と、自身の胃の終焉を同時に想像し、冷や汗を流していた。ルナとルクリアが地下神殿で破壊したものの修繕費、そして彼らが要求するであろう、これからの旅の準備費用が、彼の脳内で莫大な金額となって積み上がっていく。
隣の部屋からは、ルナの規則的ないびきと、ルクリアの寝言が聞こえてくる。
「むにゃむにゃ……究極の砂漠料理……もっと、もっとだ……」
「おーっほっほっほっ! わたくしの美貌は、夜闇に映えて、さらに輝きを増しますわ……」
ゼフィロスは、その声を聞きながら、深いため息をついた。彼の心は、絶望と疲労で完全に麻痺していた。この旅の終わりには、自分が一体どうなってしまうのか、想像もつかなかった。
翌朝、砂漠王国サハラデスは、まだ深い眠りの中にあった。空は藍色だが、東の地平線が、かすかに茜色に染まり始めている。町の通りは、昼間の活気が嘘のように静まり返っていた。しかし、宿屋の食堂からは、すでに活気ある声が響いていた。
「ゼフィロス! 早く準備しろ! 腹減っただろうが! 砂漠の朝飯は、一体どんな美味さなんだ!?」
ルナの声が、廊下から響き渡った。彼女の顔には、長旅の疲れなど微塵もなく、むしろ朝から漲るような活力が宿っている。彼女の金色の髪は、昨夜の寝相の悪さからか、あちこち跳ね上がっていたが、それさえも彼女の奔放さを際立たせていた。彼女の瞳は、次の美食への期待で、キラキラと輝いている。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの朝食は、昨日と同じく、この砂漠王国が誇る、最高級の香辛料を使った肉料理と、幻のオアシスで採れたという果物を使った、甘美なデザートでよろしくってよ! もちろん、器は純金製で、飲み物は、砂漠の朝露を凍らせたものに限りますわ!」
ルクリアもまた、優雅な仕草で廊下に現れた。彼女は、砂漠の清々しい朝の空気を吸い込むかのように、大きく胸を張っている。彼女の言葉は、ゼフィロスの胃をさらに抉る。
「は、はい! かしこまりました……」
ゼフィロスは、よろよろと食堂へと向かった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、無感情に機能していた。
朝食は、昨日と同じく、大量の料理が並べられた。ルナは、砂漠の珍しい肉料理を豪快に平らげ、ルクリアは、幻のオアシスで採れたという果物を使ったデザートを優雅に味わう。二人の食欲は、昨夜の激戦など、全く頭にないかのように旺盛だった。ゼフィロスは、もはや食事をする気力もなく、ただ黙って二人を見つめていた。彼の心の中には、この旅路の終焉を願う、かすかな祈りが芽生えていた。
朝食を終え、一行は王都の市場へと向かった。砂漠の王都の市場は、朝から活気に満ち溢れていた。色とりどりの布地、珍しい香辛料の香り、そして異国情緒あふれる人々の喧騒が、ゼフィロスの耳を刺激する。しかし、彼の頭の中は、今後の旅の準備と、その費用でいっぱいだった。
「ゼフィロス! 早く次の目的地の食材を探すぞ! 幻影のオアシスとやらは、一体どんな美味いモンがあるんだ!?」
ルナは、市場の人混みを掻き分けながら、目を輝かせていた。彼女の視線は、屋台に並べられた珍しい食材へと釘付けになっている。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしは、この市場で、わたくしの美貌をさらに輝かせるための、最高級の化粧品と、新たな衣装を探しますわ! もちろん、費用は、王室持ちでよろしくってよ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そしてショッピングを楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。
「は、はい! かしこまりました……」
ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、またもやキリキリと痛み始めた。彼の脳裏には、また新たなトラブルと、王室への莫大な請求額が積み上がっていく光景が鮮明に浮かんでいた。
ルナは、市場の隅にある肉屋へと向かった。そこには、見たこともないような巨大な肉の塊が吊るされていた。
「おおっ! なんじゃこりゃあ! この肉は一体なんだ!? めっちゃ美味そうじゃねぇか!」
ルナは、肉の塊を見て、目を輝かせた。彼女の顔には、食欲を隠しきれない様子が浮かんでいる。
「店主! この肉、全部くれ! あと、この砂漠で一番美味い肉も全部だ!」
ルナは、そう言い放つと、財布から金貨を取り出した。ゼフィロスは、その金貨の量を見て、胃がよじれるような感覚に襲われた。
「おーっほっほっほっ! ルナ! あなたのような野蛮な食べ方では、わたくしの魔力が濁ってしまいますわ! ゼフィロス、わたくしは、この市場で、最も高価で、最も希少な香辛料と、この砂漠でしか採れないという幻の果物を、全て買い占めますわ!」
ルクリアは、宝石店で輝く宝飾品を眺めながら、優雅に高笑いを響かせた。彼女は、市場の隅々まで目を光らせ、自身の美学にかなうものを次々と買い占めていく。
「うるせぇな! 美味いもんは美味いんだよ! てめぇの能書きはいいから、さっさと買え!」
ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。二人の言い争いは、市場の喧騒に吸い込まれていく。
ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに食料と物資の確保に奔走した。彼は、ルナとルクリアが買占めた肉と果物、香辛料を、大量の保存食や水筒と共に馬車に積み込んだ。砂漠の旅は過酷だ。食料と水の確保は、彼らの命綱となる。彼の胃は、もはや何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。
食料と物資を積み込み、一行は王都を後にした。馬車は、再び灼熱の砂漠へと向かう。太陽は容赦なく照りつけ、地面からは陽炎が立ち上っていた。空気は乾燥し、熱風がゼフィロスの顔を焼く。彼の心には、新たな困難への不安と、そしてこの先の旅路への絶望が入り混じっていた。
「うわっ、またこの暑さかよ! ふざけんな! 熱っつー!」
ルナは、馬車の窓から顔を出し、そのあまりの暑さに顔をしかめた。彼女の金色の髪が、熱気に揺らめいている。彼女の顔には、不快感が露わになっていた。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! なんて過酷な場所ですこと! わたくしの美しき肌が、砂漠の太陽で焼けてしまいますわ! ですが、ご安心を! わたくしは、この砂漠でしか手に入らないという『幻の砂漠のバラ』から抽出した、最高級の化粧水をすでに用意していますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女は、すでに大きな日傘を差し、涼しげな顔をしているが、その言葉はゼフィロスの胃をさらに抉る。
「うるせぇな! てめぇはそんな優雅にしてられるからいいだろうが! あたし様は、汗でベタベタだぜ!」
ルナは、苛立ちながらルクリアをにらみつけた。彼女の額には、大粒の汗がにじんでいる。
ゼフィロスは、二人の口論を聞きながら、静かに景色を眺めていた。道は、乾いた砂地となり、馬車の車輪は、砂にめり込むたびに重い音を立てる。周囲には、背の低いサボテンがまばらに生えているだけで、生命の気配はほとんど感じられない。遠くには、蜃気楼がゆらゆらと揺れ、幻のように見え隠れしていた。彼の心には、新たな困難への不安と、そしてこの先の旅路への絶望が入り混じっていた。
「ゼフィロス! そろそろ腹減っただろうが! 飯にしろ! こんな暑いとこじゃ、食欲も湧かねぇけどな!」
ルナの声が、馬車の中に響き渡った。彼女の食欲は、どんな過酷な環境でも揺らぐことがなかった。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしも、そろそろお腹が空いてまいりましたわ! 今日の昼食は、わたくしの美貌に相応しい、上品で繊細な料理でよろしくってよ! もちろん、この砂漠でしか手に入らないという、希少な食材を使ったものを!」
ルクリアもまた、優雅な仕草で、食事の催促をした。
ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、もはや何も感じない。彼は、もはや思考を伴わず、ただひたすらに食事の準備を続ける機械と化していた。
馬車の中には、彼らが買い込んだ大量の食料が積まれていた。ルナは、それらの食料の中から、巨大な干し肉の塊と、固いビスケットを取り出した。
「フン、こんなとこじゃ、こんなもんが精々か。だが、美味いなら食ってやるよ」
ルナは、そう言いながら、豪快に干し肉を齧り付いた。肉の旨味が口いっぱいに広がり、彼女は満足げな唸り声を上げる。
「おーっほっほっほっ! ルナ、あなたのような野蛮な食べ方では、わたくしの魔力が濁ってしまいますわ! ゼフィロス、わたくしには、この砂漠でも凍らせることができる氷で作った飲み物と、最高級のドライフルーツを用意なさいませ! そして、この砂漠でしか手に入らないという、幻の『砂漠のイチジク』を!」
ルクリアは、干し肉を食べるルナを見て、顔をしかめた。彼女は、優雅にドライフルーツを口に運び、それに続く冷たい飲み物を丁寧に味わっていた。彼女は、一口食べるごとに、詩的な言葉でその味を表現し、高笑いを響かせた。
「うるせぇな! 美味いもんは美味いんだよ! てめぇの能書きはいいから、さっさと食え!」
二人の言い争いは、再び馬車の中に響き渡った。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに食事の準備を続ける。彼の胃は、もはや何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。
灼熱の砂漠を何日も進んだ。馬車の外は、果てしなく続く砂と、容赦なく照りつける太陽だけだった。日中は、熱風が吹き荒れ、視界を遮るほどの砂嵐に見舞われることもあった。夜は、一転して気温が下がり、凍えるような寒さに襲われた。しかし、ルナとルクリアは、そんな過酷な環境にも負けることなく、相変わらず騒がしく、ゼフィロスを振り回し続けた。
そして、ある日の午後、地平線の彼方に、ゆらめく蜃気楼の中に、微かにオアシスのような影が見え始めた。
「おおっ! あれが幻影のオアシスか! やっと着いたぜ! どんな美味いモンがあるんだ!?」
ルナは、馬車の窓から身を乗り出し、興奮したように叫んだ。彼女の瞳は、新たな美食への期待で、キラキラと輝いている。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! なんて神秘的なオアシスでしょう! まるで、わたくしの美貌が、この幻影のオアシスを創り出したかのようですわ!」
ルクリアは、扇子を広げ、幻影のオアシスを背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして幻影のオアシスへの期待が浮かんでいる。
ゼフィロスは、幻影のオアシスを見て、かすかな安堵の息を漏らした。彼の胃は、オアシスの景色を前に、ほんの少しだけ痛みが和らいだ気がした。しかし、彼の心には、新たなトラブルへの予感と、そして王室への請求額が増えることへの絶望が入り混じっていた。
馬車が幻影のオアシスへと近づくと、オアシスの様子が次第に明らかになってきた。そこには、確かに水があり、椰子の木が生い茂っていた。しかし、そのオアシスは、まるで時が止まったかのように、不気味なほど静まり返っていた。人影はほとんどなく、まるでゴーストタウンのようだ。窓は固く閉じられ、そこからは何の音も聞こえてこない。そして、そのオアシスの入り口に、またしても見覚えのあるものが転がっていた。真新しい、熟れすぎたバナナの皮だった。
「なっ……またバナナの皮だと!? あたし様をからかってるのか、あの野郎!」
ルナは、驚いて目を見開いた。彼女の顔には、困惑と、そして激しい苛立ちが入り混じっていた。
「おーっほっほっほっ! ルナ! やはり、これは、わたくしたちの知性を試す、高度な謎解きの手がかりですわ! このバナナの皮は、きっと、この幻影のオアシスに、新たな謎が隠されていることを示唆しているのですわ!」
ルクリアは、バナナの皮をじっと見つめ、何かを思考しているかのような表情を浮かべた。彼女は、まるで芸術作品を鑑賞するように、そのバナナの皮を観察している。
ゼフィロスは、そのバナナの皮を見て、背筋が凍りつくのを感じた。王女失踪の不可解な手がかり「バナナの皮」……。それが、幻影のオアシスの入り口に、またもや現れたのだ。彼の胃は、再びキリキリと痛み始めた。彼の脳裏には、また新たなトラブルと、王室への莫大な請求額が積み上がっていく光景が鮮明に浮かんでいた。
灼熱の砂漠王国サハラデス。幻影のオアシスにたどり着いた一行は、そこで再びバナナの皮に遭遇するという謎の現象に見舞われ、ゼフィロスの胃をさらに追い詰めることになった。しかし、その過酷な砂漠の旅の中で、ルクリアは一つ、画期的な発見をしていた。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしは気づいてしまいましたわ! この暑い砂漠で、常に冷たい水を用意する方法をですわ!」
オアシスの畔で、ルクリアは優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、大発見をしたかのような誇らしげな表情が浮かんでいる。
「なんだ、今さらそんなことに気づいたのか? てめぇの魔法で氷を出して、それが溶ければ水になるってだけの話だろうが。当たり前だろうが、アホか!」
ルナは、冷たい水で喉を潤しながら、呆れたようにルクリアを一蹴した。彼女にとって、それはあまりにも単純なことで、改めて気づくようなことではない、という認識だった。
「おーっほっほっほっ! ルナ! わたくしの知性が、この単純な真理を、この極限の状況でこそ見出したのですわ! これぞ、真の美学ですわ!」
ルクリアは、ルナの言葉にもめげず、高笑いを響かせた。ゼフィロスは、その様子を遠巻きに眺めながら、ようやく冷たい水を口にすることができた。彼の胃は、ほんの少しだけ、安堵のサインを送っていた。
しかし、その安堵も束の間、新たな王宮からの伝令が、一行の元に届いた。伝令は、西の技術大国ギアハルトで発生した、衝撃的な事件を報じていた。
技術と革新の最先端を突き進む、西の技術大国ギアハルト。そこでは、国の頭脳とも称される最高科学庁の公爵令嬢、セシリア=フォン=ギアハルトが、厳重なセキュリティを突破されて失踪したという。彼女は、自身が開発した最新鋭の魔導セキュリティシステム「アイギス」によって守られた、地下数百メートルの研究施設、通称「ラボ」に滞在していたはずだった。ラボへの出入りは、指紋認証、虹彩認証、声紋認証、そして最新の魔力パターン認証を組み合わせた四重のロックが必須であり、監視カメラは隅々まで配置され、不審な動きは即座に警報を発するはずだった。
しかし、事件が発覚したのは、朝、警備主任が定時の巡回を行った時だった。セシリア令嬢のプライベート区画の扉は、何事もなかったかのように閉じられ、警報システムも正常稼働している。だが、中に令嬢の姿はなかった。
そして、不審な点が一つだけ。ラボのメインモニターに映し出された、前夜の監視カメラの記録映像。そこには、セシリア令嬢らしき人物が、警報音が鳴り響く中、なぜかキレッキレのディスコダンスを踊る姿が映っていたのだ。映像はそこで途切れ、音声はノイズまみれ。
「これは、一体どういうことです!? 警報が鳴っていたのに、なぜ誰も駆けつけなかったのですか!?」
警備主任の怒号が響き渡る。だが、どの警備員も「そんな警報音、聞こえませんでした」と首を傾げるばかり。システムを開発した科学者たちも、頭を抱える。システムは完璧なはず。バグもエラーも検出されない。まるで、そのディスコダンスの映像自体が、現実を歪めたかのような奇妙さだった。
ギアハルトの誇る最先端技術は、無力だった。令嬢は消え、残されたのは不可解なダンス映像だけ。この国のプライドは、音を立てて崩れ去った。技術大国をもってしても、その失踪の謎は解き明かせなかったのだ。彼らは、これを「魔導技術の限界」と絶望した。
この事件の報せを受けた一行は、その手がかりを探すため、灼熱の砂漠王国サハラデスから、技術大国ギアハルトへ向かうことになった。
伝令を読み終えたルナは、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、新たな「獲物」を見つけたかのような、狩人のような光が宿っていた。
「ディスコダンスだとぉ!? なんだそりゃ!? 王女が消えて、今度はディスコダンスの映像か! ふざけてんのか! 面白ぇじゃねぇか!」
ルナの顔には、困惑と、そしてどこか面白がるような表情が浮かんでいた。しかし、すぐに彼女の顔は真剣なものに変わる。
「だが、最高科学庁の公爵令嬢が、厳重なセキュリティを突破されて消えるってのは、尋常じゃねぇな……。しかも、あの『闇の連鎖』の紋様と関係があるかもしれねぇ」
ルナは、そう呟いた。彼女にとって、不可解な事件は、新たな挑戦であり、そして新たな美食への道標となるかもしれない。
「おーっほっほっほっ! ディスコダンスですって!? なんて滑稽な事件でしょう! ですが、わたくしの美貌と才覚があれば、どんな謎でも解き明かすことができますわ! ゼフィロス! その『技術大国ギアハルト』とやらに向かいなさいませ! わたくしが、この事件の真実を、美しく解き明かして差し上げますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな謎への挑戦を楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。
「よし! ゼフィロス! ギアハルトに向かうぞ! 食料と水を、ありったけ買い込むぞ! 金は、もちろん王室持ちでよろしくな!」
ルナは、そう言い放つと、立ち上がった。彼女の瞳は、新たな冒険への期待で、キラキラと輝いている。
「は、はい! かしこまりました……」
ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、諦めに満ちていた。技術大国ギアハルト……そこは、精巧な機械と、複雑なシステムが支配する場所だという。彼の胃袋にとって、それはまた新たな種類の地獄を意味していた。彼は、不可解なディスコダンスの映像と、セシリア令嬢の行方を巡る謎を抱えながら、馬車をギアハルトへと向かわせた。
灼熱の砂漠王国サハラデスを後にし、一行は広大な砂漠を横断し始めた。砂漠の太陽は容赦なく照りつけ、地面からは陽炎が立ち上っていた。日中は、熱風が吹き荒れ、視界を遮るほどの砂嵐に見舞われることもあった。しかし、ルクリアが魔法で作り出す冷たい水は、過酷な旅路において、一行の命綱となっていた。
「くっそ、相変わらず暑いな! てめぇの魔法がなきゃ、とっくに干からびてたぜ、ゼフィロス!」
ルナは、ルクリアが作り出した冷たい水を一気に飲み干し、喉を潤した。彼女の額には、大粒の汗がにじんでいるが、表情には、どこか満足げな様子が浮かんでいる。
「おーっほっほっほっ! ルナ! わたくしの美しき魔力があれば、どんな過酷な環境でも、優雅に過ごせますわ! これぞ、わたくしの美学の結晶ですわ!」
ルクリアは、涼しげな顔で高笑いを響かせた。彼女は、冷たい水を優雅に口に運びながら、どこか誇らしげな表情を浮かべている。
ゼフィロスは、冷たい水で喉を潤し、ほんの少しだけ胃の痛みが和らいだのを感じた。しかし、彼の心には、新たな目的地である技術大国ギアハルトへの不安が募っていた。これまで彼らが関わってきた事件は、魔術や精霊といった、ある種「アナログ」な要素が絡んでいた。しかし、今度の相手は、最新鋭の魔導技術と、複雑なシステムが支配する国だ。彼の胃は、未知のトラブルを予感し、再びざわつき始めた。
何日も砂漠を旅し、やがて地平線の向こうに、巨大な建造物の影が見え始めた。それは、これまで見てきたどの国の建物とも異なり、無機質で、しかし洗練された印象を与えた。
「おおっ! あれがギアハルトか! なんか、ガラクタの山みたいだな!」
ルナは、馬車の窓から身を乗り出し、目を輝かせた。彼女の言葉は、技術大国の誇る建造物に対して、あまりにも率直だった。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! なんて無骨な建物でしょう! ですが、わたくしの美貌が、この無機質な光景に、生命と輝きを与えて差し上げますわ!」
ルクリアは、扇子を広げ、ギアハルトの街並みを背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな舞台への期待が浮かんでいる。
ゼフィロスは、その光景を呆然と見つめていた。彼の胃は、再びキリキリと痛み始めた。彼の脳裏には、ルナが機械を破壊し、ルクリアがセキュリティシステムを誤作動させる未来が、鮮明に浮かんでいた。そして、王室への莫大な請求額が、また積み上がっていく光景が目に浮かぶ。技術大国ギアハルトは、今、彼らを静かに待ち受けている。
技術と革新の最先端を突き進む、西の技術大国ギアハルト。その中心にそびえる最高科学庁は、巨大な鋼鉄の塊のようだった。無機質で、しかし精巧に組み上げられたその城は、昼間の日差しを吸い込み、鈍く輝いている。周囲の空気は、これまでとは異なり、オイルと金属の匂いが混じり、微かに機械の稼働音が聞こえてくる。しかし、ゼフィロスの胃は、その独特な環境にさえ、新たな絶望感を抱いていた。ここが、彼の胃にとって、これまでの旅で最も過酷な試練となることを、彼は漠然と予感していた。
「くっ……この国の技術力は素晴らしいが、私の胃には優しくない……。王室への請求書が、また増える……」
彼は、額に滲む汗を拭いながら、最高科学庁の巨大なゲートを見上げた。ゲートには、複雑な紋様が刻まれ、その奥には、無数の監視カメラが設置されているのが見て取れた。セシリア公爵令嬢が失踪したという地下数百メートルの研究施設「ラボ」は、この城のさらに奥に位置するという。
「ちっ、なんだこのガラクタどもは! いちいちスイッチなんて押してられるか!」
ルナは、最高科学庁の巨大なセキュリティゲートを見て、不機嫌そうに顔をしかめた。彼女の顔には、苛立ちと、そしてどこか面倒くさそうにしている様子が浮かんでいる。彼女の金色の髪も、機械的な空気の中で、どこか収まりが悪いように見えた。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! なんて無骨な造形美でしょう! ですが、わたくしの美貌が、この無機質な空間に、生命と輝きを与えて差し上げますわ! まるで、わたくしがこの城の真の主であるかのようですわね!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げ、セキュリティゲートを背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな舞台への期待が浮かんでいる。
「うるせぇな! 美学とかどうでもいいから、さっさと中に入るぞ! あたし様の腹は限界なんだよ!」
ルナは、ルクリアをにらみつけ、もはや我慢の限界といった様子で、掌を前方へと突き出した。彼女の瞳は、美食への渇望で、ギラギラと輝いている。
「紅蓮粉砕波!!!」
ルナの叫びと共に、彼女の掌から、燃え盛るような紅蓮の魔力の奔流が放たれた。それは、巨大なセキュリティゲートを全て飲み込み、轟音と共に破壊しながら突き進んでいく。鋼鉄製のゲートは、まるで紙のように千切れ飛び、監視カメラは火花を散らしてショートした。警報音がけたたましく鳴り響き、最高科学庁全体が激しく揺れた。
「なっ……なんて破壊力ですことルナ! わたくしの美しき氷槍乱舞の方が、優雅で美しいですわ!」
ルクリアは、ルナの力任せな突破に驚きながらも、負けじと掌から氷の槍を連射した。その氷の槍は、ルナが破壊し尽くしたゲートの残骸をさらに荒らし、無関係な警備ロボットに次々とぶち当たっていく。ロボットは火花を散らして爆発し、オイルと金属片が飛び散った。
「うるせぇ! てめぇは邪魔だ! 余計なことすんじゃねぇ!」
ルナは、破壊の限りを尽くすルクリアに、苛立ちを隠せない様子で怒鳴りつけた。
ゼフィロスは、その光景を目の当たりにし、全身が震え上がった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼の脳裏には、また新たなトラブルと、王室への莫大な修繕費用が積み上がっていく光景が鮮明に浮かんでいた。彼は、崩れ落ちる警備ロボットの残骸を避けながら、どうにか二人の後を追った。
最高科学庁の内部は、外部の無骨な印象とは打って変わり、未来的なデザインが施されていた。白い壁には、無数のコードが張り巡らされ、天井からは、淡い光が降り注いでいる。しかし、至る所にルナとルクリアが残した破壊の痕跡が、生々しく残されていた。
「ちっ、こんなとこ、まるで迷路みてぇだな。とっとと公爵令嬢とやらを見つけて、美味いモンでも食いに行きてぇぜ!」
ルナは、通路を歩きながら、不機嫌そうに呟いた。彼女の顔には、機械的な環境への不快感と、そしてどこか面倒くさそうにしている様子が浮かんでいる。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! なんて無機質な空間でしょう! ですが、わたくしの美貌が、この無機質な空間に、生命と輝きを与えて差し上げますわ! まるで、わたくしがこのラボの真の主であるかのようですわね!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げ、周囲の光景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな舞台への期待が浮かんでいる。
「うるせぇな! 美学とかどうでもいいから、さっさと進むぞ! あたし様の腹は限界なんだよ!」
ルナは、ルクリアをにらみつけ、もはや我慢の限界といった様子で、掌を前方へと突き出した。彼女の瞳は、美食への渇望で、ギラギラと輝いている。
彼らが進むにつれて、次々とセキュリティゲートが現れた。それは、指紋認証、虹彩認証、声紋認証、そして最新の魔力パターン認証を組み合わせた四重のロックが施された、最新鋭の魔導セキュリティシステム「アイギス」だった。しかし、ルナは、そんなシステムには一切興味を示さなかった。
「なんだ、このガラクタどもは! いちいちスイッチなんて押してられるか!」
ルナは、そう言い放つと、次々と現れるセキュリティゲートを、全て**紅蓮粉砕波**で破壊しながら突き進んでいく。ゲートは、爆音と共に火花を散らしてショートし、周囲の壁は大きく抉られた。警報音がけたたましく鳴り響き、最高科学庁全体が激しく揺れた。
「なっ……なんて破壊力ですことルナ! わたくしの美しき氷槍乱舞の方が、優雅で美しいですわ!」
ルクリアは、ルナの力任せな突破に驚きながらも、負けじと掌から氷の槍を連射した。その氷の槍は、ルナが破壊し尽くしたゲートの残骸をさらに荒らし、無関係な監視カメラに次々とぶち当たっていく。監視カメラは火花を散らして爆発し、ガラス片が飛び散った。
「うるせぇ! てめぇは邪魔だ! 余計なことすんじゃねぇ!」
ルナは、破壊の限りを尽くすルクリアに、苛立ちを隠せない様子で怒鳴りつけた。
ゼフィロスは、その光景を目の当たりにし、全身が震え上がった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼の脳裏には、また新たなトラブルと、王室への莫大な修繕費用が積み上がっていく光景が鮮明に浮かんでいた。彼は、火花を散らすセキュリティシステムと、砕け散る監視カメラの破片を避けながら、どうにか二人の後を追った。
地下数百メートルに位置する研究施設「ラボ」の奥深くへと進むと、そこには、セシリア公爵令嬢のプライベート区画があった。扉は、何事もなかったかのように閉じられ、警報システムも正常稼働している。しかし、ゼフィロスは、その扉の前に立つと、言いようのない不気味さを感じた。
「ゼフィロス! 早くこの扉を開けろ! あたし様は、もう待てねぇぞ!」
ルナは、苛立ちながらゼフィロスに命じた。彼女の顔には、早く次の場所へと進みたいという欲求が露わになっていた。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの美しき魔力で、この扉を優雅に開いて差し上げますわ! わたくしの美学に共鳴する鍵が開きますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女は、扉のロックシステムに興味を示しているようだった。
「うるせぇ! てめぇは邪魔だ! 余計なことすんじゃねぇ!」
ルナは、ルクリアをにらみつけ、もはや我慢の限界といった様子で、掌を前方へと突き出した。
「爆裂粉砕撃!!!」
ルナの叫びと共に、彼女の掌から、これまでにないほどの巨大な魔力の塊が放たれた。それは、扉を全て飲み込み、轟音と共に爆発した。鋼鉄製の扉は、まるで紙のように千切れ飛び、周囲の壁は大きく抉られた。警報音がけたたましく鳴り響き、ラボ全体が激しく揺れた。
土煙が晴れると、そこには、セシリア公爵令嬢のプライベート区画が姿を現した。しかし、部屋の中には、セシリア令嬢の姿はなかった。あるのは、散乱した研究資料と、部屋の隅に置かれた、メインモニターだけだった。
「ちっ、またいねぇのかよ! なんだこの無駄な破壊は!」
ルナは、部屋の中を見回し、不機嫌そうに呟いた。彼女の顔には、目的の人物が見つからないことへの苛立ちが浮かんでいる。
「おーっほっほっほっ! なんてことですのルナ! わたくしの美学に反する破壊ですわ! ゼフィロス! 監視カメラの記録映像を見なさいませ! きっと、そこに真実が隠されていますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女は、メインモニターに目を向け、何かを期待しているようだった。
ゼフィロスは、震える手でメインモニターの電源を入れた。画面に映し出されたのは、前夜の監視カメラの記録映像だった。そこには、セシリア令嬢らしき人物が、警報音が鳴り響く中、なぜかキレッキレのディスコダンスを踊る姿が映っていた。映像はそこで途切れ、音声はノイズまみれ。
「これは、一体……!?」
ゼフィロスは、その映像を見て、言葉を失った。彼の胃は、再びキリキリと痛み始めた。彼の脳裏には、不可解なディスコダンスと、セシリア令嬢の行方を巡る謎が、渦巻いていた。
「ディスコダンスだとぉ!? なんだそりゃ!? 王女が消えて、今度はディスコダンスの映像か! ふざけてんのか! 面白ぇじゃねぇか!」
ルナは、思わず噴き出した。彼女の顔には、困惑と、そしてどこか面白がるような表情が浮かんでいた。しかし、すぐに彼女の顔は真剣なものに変わる。
「だが、この映像、何かおかしいな……。警報が鳴ってるのに、誰も気づいてない。そして、このディスコダンス……。この事件、ただの失踪じゃねぇな」
ルナは、そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、新たな「獲物」を見つけたかのような、狩人のような光が宿っていた。この不可解な事件は、ルナにとって、これまでで最も手強い「獲物」となるだろう。
「おーっほっほっほっ! ディスコダンスですって!? なんて滑稽な事件でしょう! ですが、わたくしの美貌と才覚があれば、どんな謎でも解き明かすことができますわ! ゼフィロス! この映像を詳しく分析しなさいませ! わたくしが、この事件の真実を、美しく解き明かして差し上げますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな謎への挑戦を楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。
ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、諦めに満ちていた。
技術大国ギアハルトの最高科学庁、その地下深くにある研究施設「ラボ」は、セシリア公爵令嬢の失踪という未曾有の事態に見舞われ、騒然としていた。しかし、その騒乱の中心にいるのは、紛れもなくルナとルクリアの二人だった。ゼフィロスの胃は、もはや痛みや恐怖といった感情の範疇を超え、ただただ自身の存在意義を問い続けていた。彼の脳裏には、瓦礫と化したラボの残骸、そして天文学的な修繕費の数字が、無限にループしていた。
ラボのメインモニターに映し出された、セシリア公爵令嬢らしき人物がディスコダンスを踊る奇妙な映像は、科学者たちの間で議論を巻き起こしていた。彼らは、完璧なはずのセキュリティシステム「アイギス」のバグではないかと、頭を抱えている。そんな中、ルナとルクリアは、それぞれの「美学」と「破壊衝動」に従い、ラボの調査を開始していた。
「ちっ、こんなつまらねぇガラクタばっか見せやがって。さっさと公爵令嬢とやらを見つけて、美味いモンでも食いに行きてぇぜ!」
ルナは、ラボに並べられた精密機械の数々を見て、不機嫌そうに呟いた。彼女の金色の髪が、ラボの冷たい空気の中で、どこか収まりが悪いように見えた。彼女の瞳は、美食への渇望で、ギラギラと輝いている。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! この鉄の塊がわたくしの美貌を上回るですって!? 馬鹿なことを! なんて無骨で醜い造形でしょう! わたくしの美学に反する存在ですわ!」
ルクリアは、精密機械の一つを指差し、高笑いを響かせた。彼女の顔には、機械に対する侮蔑と、自らの美しさへの揺るぎない自信が浮かんでいる。彼女にとって、無機質な機械の塊は、美の対極に位置する存在であり、それは彼女の美学に対する挑戦だと捉えているようだった。
「うるせぇな! 美学とかどうでもいいから、さっさと手がかりを探すぞ! あたし様の腹は限界なんだよ!」
ルナは、ルクリアをにらみつけ、もはや我慢の限界といった様子で、掌を前方へと突き出した。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの美しき氷晶魔法で、この醜い鉄の塊を、美しい氷の芸術品に変えて差し上げますわ! 絶対零度氷棺!!!」
ルクリアの叫びと共に、彼女の掌から、全てを凍てつかせるような強烈な冷気が放たれた。それは、ラボに並べられた精密機械に次々と命中し、機械は瞬く間に巨大な氷の棺へと閉じ込められた。氷の棺は、透明で、その中に精密機械の複雑な構造が鮮明に浮かび上がっていた。そして、氷の棺は、ミシミシと音を立てながら、次々と粉砕されていく。
「なっ……なんてことだ! 我々の研究の結晶が……!」
ラボの科学者たちは、ルクリアの破壊行為を目の当たりにし、顔面蒼白で叫んだ。彼らの顔には、絶望と、そして怒りが入り混じっていた。彼らにとって、これらの精密機械は、長年の研究の成果であり、ギアハルトの誇りそのものだったのだ。
「フン! 美しいだぁ!? こんなガラクタ、さっさとぶっ壊して、次に行こうぜ!」
ルナは、ルクリアの破壊行為に、満足げな顔で頷いた。彼女は、ルクリアの「美学」など理解できるはずもなく、ただ目の前の破壊行為に、自身の破壊衝動を重ね合わせているようだった。そして、彼女自身も、ラボの壁や床に、無差別な紅蓮粉砕波を連発し始めた。
「ちっ、こんなとこ、いちいち見てられるか! 紅蓮粉砕波!!!」
ルナの叫びと共に、彼女の掌から、燃え盛るような紅蓮の魔力の奔流が放たれた。それは、ラボの壁や床、そして残された精密機械を全て飲み込み、轟音と共に破壊しながら突き進んでいく。壁は大きく抉られ、床は陥没し、ラボ全体が激しく揺れた。天井からは、配線が千切れ、火花を散らしながら、次々と落下してきた。
「や、やめろーっ! これ以上は、国の重要機密が……!」
科学者たちは、ゼフィロスの背後で悲鳴を上げていた。彼らの顔には、絶望と、そして怒り、そして半狂乱の表情が入り混じっていた。彼らは、ルナとルクリアの破壊行為を止めようと、必死に懇願するが、二人の耳には届かない。
ゼフィロスは、その光景を目の当たりにし、全身が震え上がった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼の脳裏には、半壊したラボの残骸と、王室への天文学的な修繕費の請求書が、鮮明に浮かんでいた。彼は、崩れ落ちる壁や、火花を散らす機械の破片を避けながら、どうにか二人の後を追った。
ラボは、もはや研究施設としての原型を留めていなかった。ルナの破壊と、ルクリアの「美学」による粉砕によって、国の重要機密ラボは半壊状態に陥っていた。理屈っぽい科学者たちは、ルナとルクリアの破壊行為を止めようと、必死に抗議するが、彼らの言葉は、二人の高笑いと爆音にかき消されるだけだった。
「なぜ、このような破壊行為を繰り返すのですか! 我々の研究は、人類の未来を……!」
「未来など知るか! 今、あたし様が腹減ってんだよ!」
科学者たちの悲痛な叫びに対し、ルナは一蹴した。彼女にとって、人類の未来よりも、自身の美食への欲求の方が、はるかに重要だったのだ。
「おーっほっほっほっ! あなた方のような凡人には、わたくしたちの美学は理解できないでしょうね! 破壊の中からこそ、真の美しき秩序が生まれるのですわ!」
ルクリアは、高笑いを響かせた。彼女の言葉は、科学者たちの怒りをさらに煽る。
この理屈っぽい科学者たちとルナ&ルクリアの対立は、まさに戦争だった。科学者たちは、なんとかシステムを復旧させようと、必死に作業を続けるが、ルナとルクリアの破壊は止まらない。
しかし、そのルナの無差別な破壊が、結果的に予期せぬ発見をもたらした。彼女の紅蓮粉砕波が、偶然にも、これまでシステムが検知できなかったエラーを引き起こし、隠されたメンテナンス用通路の入り口を露わにしたのだ。
「なんだ、この穴は? またガラクタか?」
ルナは、壁に開いた大きな穴を見て、不機嫌そうに呟いた。彼女は、それが重要な手がかりだとは、全く思っていないようだった。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! ご覧なさい! わたくしの美しき破壊が、新たな道を開きましたわ! これぞ、真の美学ですわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女は、自らの破壊が、偶然にも重要な手がかりをもたらしたことに、どこか満足げな表情を浮かべている。
ゼフィロスは、その穴を見て、背筋が凍りつくのを感じた。彼の胃は、今や痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼は、ルナの破壊が、偶然にも重要な手がかりをもたらしたことに、驚きと、そしてどこか諦めのような感情を抱いていた。彼は、この穴が、公爵令嬢の失踪の真実に繋がることを、かすかに期待していた。
メンテナンス用通路は、薄暗く、埃っぽい。通路の壁には、無数のコードが張り巡らされており、微かに機械の作動音が聞こえてくる。通路の奥へと進むと、小さな部屋があった。その部屋の中央には、簡易的な研究台が置かれ、その上には、いくつかの書類と、奇妙な機械が置かれていた。
「ちっ、こんなとこにもガラクタばっかか。さっさと公爵令嬢を見つけて、美味いモンでも食いに行きてぇぜ!」
ルナは、部屋の中を見回し、不機嫌そうに呟いた。彼女の顔には、苛立ちが露わになっていた。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! ご覧なさい! この無骨な機械も、わたくしの美貌が、新たな輝きを与えて差し上げますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女は、研究台の上に置かれた奇妙な機械に興味を示しているようだった。
ゼフィロスは、研究台の上の書類を手に取った。そこには、セシリア公爵令嬢の筆跡で、何かの研究記録が記されていた。そして、その中に、小さな通信機が隠されているのを見つけた。その通信機は、これまで見てきたどの通信機とも異なり、奇妙な紋様が刻まれていた。
「は、はい! これは……セシリア公爵令嬢が、密かに開発していた小型通信機のようです! そして、この紋様は……まさか!」
ゼフィロスは、通信機に刻まれた紋様と、以前発見した「闇の連鎖」の紋様を見比べ、驚愕の声を上げた。その紋様は、これまでの失踪事件で共通して現れた「闇の連鎖」の魔力の波動と酷似していることが明らかになったのだ。
「なるほど……。つまり、この通信機が、あの紋様と関係があるってことか。そして、『闇の連鎖』……」
ルナは、そう呟くと、通信機をじっと見つめた。彼女の顔には、事件の核心に近づいていることへの興奮と、そしてどこか、理解を超えた現象への好奇心が入り混じっていた。
「ふーん、こんなもん、まとめて焼き払ってやる!」
ルナは、そう言い放つと、掌に再び魔力を集中させ始めた。彼女にとって、新たな発見も、結局は破壊の対象に過ぎないようだった。
「待ってください、ルナ様! これは、非常に貴重な手がかりでございます! まだ、全てを解明したわけでは……!」
ゼフィロスは、慌ててルナの前に立ち、貴重な通信機を守ろうとした。彼の胃は、ルナの破壊衝動と、ルクリアの無駄な高笑いに挟まれ、限界を迎えていた。彼は、この手がかりを失えば、事件の真相が永遠に闇に葬られることを恐れていた。
ルナは、ゼフィロスの必死な抵抗に、不機嫌そうな顔をしたが、最終的には魔力の集中を解いた。彼女は、面倒くさそうに腕組みをしながら、ゼフィロスの説明に耳を傾けた。
ゼフィロスは、通信機と「闇の連鎖」の紋様について、詳しく説明した。
「この通信機は、特定の周波数の魔力を感知し、その魔力の波動を追跡する機能があるようです。そして、この紋様が、その魔力の波動と酷似しているということは……セシリア公爵令嬢は、この通信機を使って、『闇の連鎖』の魔力の波動を追跡しようとしていたのかもしれません……」
ゼフィロスは、震える声で説明した。彼の心臓は、この恐ろしい真実を前に、激しく鼓動していた。失踪した令嬢たちが、何らかの形で「闇の連鎖」に関わっていた可能性が浮上したのだ。
「なるほどな……。つまり、この通信機を使えば、『闇の連鎖』の奴らの居場所が分かるってことか。そして、あのディスコダンスも、この通信機と何か関係があるのかもしれねぇな……」
ルナは、そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、事件の全貌が見えてきたことへの興奮と、そして、この「闇の連鎖」とやらをぶち壊してやるという、強い決意が宿っていた。
「おーっほっほっほっ! なんてことですの! わたくしの美貌と才覚が、こんなにも恐ろしい真実を解き明かしたのですわ! ゼフィロス! この通信機を使って、その『闇の連鎖』の本拠地を、いますぐ特定しなさいませ! わたくしが、その醜い儀式を、美しく粉砕して差し上げますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、自らの美学を汚されたことへの憤りが浮かんでいた。
ゼフィロスは、通信機を手に取り、その機能を確認した。通信機は、確かに「闇の連鎖」の魔力の波動を感知し、その方向を示している。そして、その方向は、このギアハルトのさらに奥深く、『混沌の魔境』と呼ばれる場所を指し示していた。
「は、はい! この通信機が指し示す場所は……このギアハルトのさらに奥深く、『混沌の魔境』でございます……。そこは、魔物の巣窟として知られており、決して足を踏み入れてはならない場所と言われております……」
ゼフィロスは、震える声で答えた。彼の心臓は、新たな危険を予感して、激しく鼓動していた。混沌の魔境……そこには、一体何が待ち受けているのだろうか。そして、彼の胃袋は、この旅の果てに、一体どうなってしまうのだろうか。
「混沌の魔境だとぉ!? 面白ぇじゃねぇか! ゼフィロス! さっさと準備しろ! あたし様は、美味いモンを食いに、混沌の魔境とやらに行ってやるぜ!」
ルナは、そう言い放つと、立ち上がった。彼女の瞳は、新たな冒険への期待で、キラキラと輝いている。彼女は、もはや混沌の魔境そのものよりも、そこにあるかもしれない未知の美食に心を奪われているようだった。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! 混沌の魔境ですって!? なんて神秘的な場所でしょう! わたくしの美貌が、その混沌と融合し、さらに輝きを増すことでしょう! わたくしに相応しい、最高の化粧品と、美しい衣装を早く!」
ルクリアは、優雅に扇子を閉じながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして混沌の魔境への冒険を楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。
「は、はい! かしこまりました……」
ゼフィロスは、深いため息をついた。
技術大国ギアハルトの最高科学庁を半壊させた夜、一行は、かろうじて残された一部の宿泊施設に身を寄せていた。夕食は、ギアハルト特有の、人工肉と栄養ペーストを加工した、見た目は悪いが機能性に優れた簡素なものだった。ルナは相変わらず不機嫌そうにそれを平らげ、ルクリアは優雅に一口だけ口にして高笑いを響かせた。ゼフィロスの胃は、もはや食事すら受け付けないほど疲弊していた。彼の心臓は、この国の科学者たちの怒号と、それに伴う王室への莫大な修繕費の請求が、彼の脳裏を駆け巡るたびに、鉛のように重くなった。
「くっ……明日は、あの『混沌の魔境』か……一体、どんな胃痛の種が待っているのか……」
ゼフィロスは、夜空を見上げ、深いため息をついた。ギアハルトの夜空は、王都のそれとは異なり、無数の人工衛星や飛行機械の光が瞬き、まるで別の宇宙のようだった。しかし、その輝きは、彼の心に安らぎをもたらすことはなかった。
隣の部屋からは、ルナの規則的ないびきと、ルクリアの寝言が聞こえてくる。
「むにゃむにゃ……魔物の肉……美味い……もっと……」
「おーっほっほっほっ! わたくしの美貌は、夜闇に映えて、さらに輝きを増しますわ……」
ゼフィロスは、その声を聞きながら、深いため息をついた。彼の心は、絶望と疲労で完全に麻痺していた。この旅の終わりには、自分が一体どうなってしまうのか、想像もつかなかった。
翌朝、ギアハルトは、夜の静けさとは打って変わり、朝から活気に満ち溢れていた。最高科学庁の半壊は、街のニュースとなっていたが、市民たちは、それよりも日々の生活に追われているようだった。しかし、宿屋の食堂からは、すでに活気ある声が響いていた。
「ゼフィロス! 早く準備しろ! 腹減っただろうが! ギアハルトの朝飯は、一体どんな美味さなんだ!?」
ルナの声が、廊下から響き渡った。彼女の顔には、長旅の疲れなど微塵もなく、むしろ朝から漲るような活力が宿っている。彼女の金色の髪は、昨夜の寝相の悪さからか、あちこち跳ね上がっていたが、それさえも彼女の奔放さを際立たせていた。彼女の瞳は、次の美食への期待で、キラキラと輝いている。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの朝食は、昨日と同じく、この技術大国が誇る、最新鋭の人工食材を使った、上品で繊細な料理でよろしくってよ! もちろん、器は純金製で、飲み物は、最高級の合成ワインに限りますわ!」
ルクリアもまた、優雅な仕草で廊下に現れた。彼女は、ギアハルトの清々しい朝の空気を吸い込むかのように、大きく胸を張っている。彼女の言葉は、ゼフィロスの胃をさらに抉る。
「は、はい! かしこまりました……」
ゼフィロスは、よろよろと食堂へと向かった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、無感情に機能していた。
朝食は、昨日と同じく、大量の料理が並べられた。ルナは、ギアハルト特有の加工肉や合成野菜を豪快に平らげ、ルクリアは、見た目も美しい人工デザートを優雅に味わう。二人の食欲は、昨夜の破壊行為など、全く頭にないかのように旺盛だった。ゼフィロスは、もはや食事をする気力もなく、ただ黙って二人を見つめていた。彼の心の中には、この旅路の終焉を願う、かすかな祈りが芽生えていた。
朝食を終え、一行はギアハルトの市場へと向かった。技術大国の市場は、王都のそれとは異なり、整然としていて、どこか機械的な印象を与える。色とりどりの電子部品、精密な機械のパーツ、そして効率を追求した加工食品の匂いが、ゼフィロスの鼻を刺激する。しかし、彼の頭の中は、今後の旅の準備と、その費用でいっぱいだった。
「ゼフィロス! 早く次の目的地の食材を探すぞ! 『混沌の魔境』とやらは、一体どんな美味いモンがあるんだ!?」
ルナは、市場の人混みを掻き分けながら、目を輝かせていた。彼女の視線は、屋台に並べられた珍しい食材へと釘付けになっている。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしは、この市場で、わたくしの美貌をさらに輝かせるための、最新鋭の美容機器と、新たな衣装を探しますわ! もちろん、費用は、王室持ちでよろしくってよ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そしてショッピングを楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。
「は、はい! かしこまりました……」
ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、またもやキリキリと痛み始めた。彼の脳裏には、また新たなトラブルと、王室への莫大な請求額が積み上がっていく光景が鮮明に浮かんでいた。
ルナは、市場の隅にある食料品店へと向かった。そこには、見たこともないような栄養価の高い保存食や、加工肉が大量に並べられていた。
「おおっ! なんじゃこりゃあ! この肉は一体なんだ!? めっちゃ美味そうじゃねぇか!」
ルナは、肉の塊を見て、目を輝かせた。彼女の顔には、食欲を隠しきれない様子が浮かんでいる。
「店主! この肉、全部くれ! あと、この国で一番美味い肉も全部だ!」
ルナは、そう言い放つと、財布から金貨を取り出した。ゼフィロスは、その金貨の量を見て、胃がよじれるような感覚に襲われた。
「おーっほっほっほっ! ルナ! あなたのような野蛮な食べ方では、わたくしの魔力が濁ってしまいますわ! ゼフィロス、わたくしには、この市場で、最も高価で、最も希少な人工香辛料と、このギアハルトでしか作れないという幻の合成果物を、全て買い占めますわ!」
ルクリアは、最新鋭の美容機器を品定めしながら、優雅に高笑いを響かせた。彼女は、市場の隅々まで目を光らせ、自身の美学にかなうものを次々と買い占めていく。
「うるせぇな! 美味いもんは美味いんだよ! てめぇの能書きはいいから、さっさと買え!」
二人の言い争いは、市場の喧騒に吸い込まれていく。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに食料と物資の確保に奔走した。彼は、ルナとルクリアが買占めた肉と果物、香辛料を、大量の保存食や水筒と共に馬車に積み込んだ。魔物の巣窟と言われる『混沌の魔境』の旅は過酷だ。食料と水の確保は、彼らの命綱となる。彼の胃は、もはや何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。
食料と物資を積み込み、一行はギアハルトを後にした。馬車は、荒野を突き進む。ギアハルトの郊外は、奇妙なほど静かで、人気がない。大地は、不毛で、植物はほとんど生えていない。空は、鉛色で、太陽の光は、どこか薄暗く、不気味な印象を与える。そして、遠くからは、微かに、そして不気味な魔物の咆哮が聞こえてくる。
「くっそ、なんだこの不気味な雰囲気は。早く魔物をぶっ飛ばして、美味いモンでも食いに行きてぇぜ!」
ルナは、馬車の窓から顔を出し、不機嫌そうに呟いた。彼女の顔には、苛立ちと、そしてどこか、未知の強敵への期待が入り混じっていた。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! なんて不気味な場所でしょう! ですが、わたくしの美貌が、この不気味な光景に、生命と輝きを与えて差し上げますわ! まるで、わたくしがこの魔境の真の女王であるかのようですわね!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げ、荒野の光景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな舞台への期待が浮かんでいる。
「うるせぇな! 美学とかどうでもいいから、さっさと進むぞ! あたし様の腹は限界なんだよ!」
二人の言い争いは、馬車の中に響き渡った。ゼフィロスは、その喧騒の中で、静かに景色を眺めていた。道は、徐々に険しくなり、岩肌が剥き出しになった崖が、馬車の両脇に迫っていた。空気は重く、そしてどこか澱んだような匂いがする。彼の心には、明確な不安感が芽生えていた。この場所は、ただの荒野ではなく、何か不穏な力が潜んでいることを示唆していた。
馬車は、さらに奥へと進んでいった。やがて、彼らの行く手を阻むかのように、巨大な岩肌の魔物が現れた。その体は、岩のように硬く、鋭い爪が生えている。
「グオオオオオオオオオオッ!!!」
魔物は、咆哮を上げ、馬車へと向かって突進してきた。その巨体は、地響きを立て、周囲の砂埃を巻き上げた。
「ハッ! やっとまともな獲物が出てきたじゃねぇか! てめぇのその醜いツラを、あたし様の爆裂魔法でぶっ飛ばしてやるぜ!」
ルナは、獰猛な笑みを浮かべた。彼女の瞳には、強敵との戦いへの純粋な喜びと、そしてどこか底知れない破壊衝動が宿っていた。彼女の全身から、紫色の魔力が噴出し、髪は逆立ち、瞳は不気味な光を放つ。
「爆裂殲滅弾!!!」
ルナの叫びと共に、彼女の掌から、これまでにないほどの巨大な紫色の魔力の塊が放たれた。それは、魔物へと一直線に突き進み、轟音を響かせた。魔物は、ルナの爆裂魔法をまともに受け、轟音と共に爆発した。岩のような体が砕け散り、周囲に破片が飛び散った。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! なんて無様な魔物でしょう! わたくしの美しき氷晶魔法で、あなたを永遠に凍りつかせて差し上げますわ! 氷の女王の吐息!!!」
ルクリアは、ルナの攻撃に遅れて、氷の槍を放った。その氷の槍は、爆散した魔物の残骸をさらに粉砕し、周囲の岩壁にぶち当たっていく。岩壁は砕け散り、砂埃がさらに舞い上がった。
「うるせぇ! てめぇは邪魔だ! 余計なことすんじゃねぇ!」
ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。
ゼフィロスは、その光景を目の当たりにし、全身が震え上がった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼の脳裏には、破壊された魔物の残骸と、この先の旅で待ち受けるであろう、さらなる破壊の光景が鮮明に浮かんでいた。彼は、砕け散る岩の破片を避けながら、どうにか二人の後を追った。
魔物を倒しながら、一行は『混沌の魔境』のさらに奥へと進んでいった。周囲の景色は、さらに荒涼とし、大地は黒ずみ、所々に不気味な色の植物が生えている。空気は、重く、淀んだような匂いがさらに強くなっていた。そして、魔物の数は、次第に増えていった。
「グルルルルルルルルルッ!!!」
突如として、どこからともなく、複数の咆哮が響き渡った。闇の中から、無数の魔物が姿を現した。彼らは、獣のような姿をしており、鋭い爪と牙を持っている。彼らの瞳は、血のように赤く輝き、ルナたちを獲物と見定めているようだった。
「ハッ! 大勢で来やがって! 面白ぇじゃねぇか! まとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」
ルナは、獰猛な笑みを浮かべた。彼女の瞳は、強敵の群れを前に、興奮でギラギラと輝いている。彼女は、全身から紫色の魔力を放出させ、まるで嵐の前の雷雲のように、周囲の空気が歪み始めた。
「爆裂連弾!!!」
ルナの叫びと共に、彼女の掌から、無数の紫色の魔力の弾丸が放たれた。それは、魔物の群れへと一直線に突き進み、次々と魔物を爆散させていく。魔物は、轟音と共に爆発し、肉片が飛び散った。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! なんて無様な魔物たちでしょう! わたくしの美しき氷晶魔法で、あなたたちを永遠に凍りつかせて差し上げますわ! 絶対零度氷棺!!!」
ルクリアは、ルナの攻撃に遅れて、氷の槍を連射した。その氷の槍は、爆散した魔物の残骸をさらに粉砕し、残った魔物たちを次々と氷の棺へと閉じ込めていく。氷の棺は、ミシミシと音を立てながら、次々と粉砕されていく。
「うるせぇ! てめぇは邪魔だ! 余計なことすんじゃねぇ!」
ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。二人の共闘は、魔物の群れを、瞬く間に瓦礫の山へと変えていった。
ゼフィロスは、その光景を目の当たりにし、全身が震え上がった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼は、この二人の女性が、一体どれほどの破壊力を持っているのか、改めて思い知らされた。そして、この旅の終焉を、心から願っていた。彼の脳裏には、血と肉片と瓦礫にまみれた『混沌の魔境』の光景と、それに伴う王室への莫大な「清掃費用」の請求が、鮮明に浮かんでいた。
無数の魔物を倒し、一行はついに『混沌の魔境』の核心へと到達した。そこは、巨大な洞窟のような空間だった。天井は高く、暗闇の奥深くへと続いており、所々から、不気味な光が漏れ出している。空気は、これまで以上に重く、濃密な魔力が渦巻いていた。
そして、その空間の中央には、巨大な祭壇のようなものがあった。祭壇の上には、黒い靄が立ち上っており、その靄の中から、かすかに、そして不気味なほど、歌声のようなものが聞こえてくる。それは、かつてファティマ王女が失踪した際に流れていた、あのディスコダンスの音楽の一部のように聞こえた。
「ちっ、なんだこの不気味な歌声は。さっさと元凶をぶっ飛ばして、美味いモンでも食いに行きてぇぜ!」
ルナは、祭壇を見上げ、不機嫌そうに呟いた。彼女の顔には、苛立ちと、そしてどこか、理解を超えた現象への不快感が入り混じっていた。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! ご覧なさい! なんて不気味で神秘的な光景でしょう! まるで、わたくしの美貌が、この魔境の真の闇を照らしているかのようですわね!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げ、祭壇を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな謎への期待が浮かんでいる。
ゼフィロスは、祭壇を見つめ、背筋が凍りつくのを感じた。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼の脳裏には、この祭壇が、「闇の連鎖」の儀式が行われている場所であるという確信が、鮮明に浮かんでいた。そして、その儀式の先には、一体何が待ち受けているのか、想像もつかなかった。
彼は、震える手で、セシリア公爵令嬢が残した小型通信機を取り出した。通信機は、祭壇の中心へと向かって、強い反応を示している。そして、その通信機から、再びあのディスコダンスの音楽が、かすかに聞こえてくる。
「は、はい! この祭壇が……『闇の連鎖』の儀式が行われている場所のようです……。そして、この音楽は……まさか!」
ゼフィロスは、震える声で答えた。彼の視線は、祭壇の奥へと向かう。
「なるほどな……。つまり、あのディスコダンスの映像も、この儀式と関係があるってことか。そして、あのバナナの皮も……」
ルナは、そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、事件の全貌が見えてきたことへの興奮と、そして、この「闇の連鎖」とやらをぶち壊してやるという、強い決意が宿っていた。
「おーっほっほっほっ! なんてことですの! わたくしの美貌が、こんなにも恐ろしい真実を解き明かしたのですわ! ゼフィロス! この儀式を、いますぐ止めなさいませ! わたくしが、その醜い儀式を、美しく粉砕して差し上げますわ!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女の顔には、自らの美学を汚されたことへの憤りが浮かんでいた。
こうして、ルナとルクリア、そしてゼフィロスの旅は、『混沌の魔境』の核心へと到達し、ついに「闇の連鎖」の儀式が行われている場所へと辿り着いた。
技術大国ギアハルトの地下深く、『混沌の魔境』の核心部。そこは、濃密な魔力が渦巻き、不気味な光が揺らめく、異様な空間だった。祭壇の上からは、あのディスコダンスの音楽が、かすかに、しかし確かに聞こえてくる。だが、そこに人の姿はなく、儀式が行われた痕跡もない。
「ちっ、なんだこれ。誰もいやしねぇじゃねぇか! せっかくぶっ壊してやる準備万端だったのに、肩透かしかよ!」
ルナは、祭壇の周囲を見回し、不機嫌そうに呟いた。彼女の顔には、期待外れだったことへの苛立ちと、どこか不満げな表情が浮かんでいる。戦闘を期待していた彼女にとって、この静寂は、拍子抜け以外の何物でもなかった。
「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! ご覧なさい! なんて美しき虚空でしょう! わたくしの美貌が、この空っぽの空間に、新たな美の概念を与えて差し上げますわ! まるで、わたくしがこの虚空の創造主であるかのようですわね!」
ルクリアは、優雅に扇子を広げ、空っぽの祭壇を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そしてこの謎めいた状況への好奇心が浮かんでいる。
ゼフィロスは、その光景を目の当たりにし、背筋が凍りつくのを感じた。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼の脳裏には、儀式がすでに終了した可能性と、セシリア公爵令嬢たちがどこか別の場所へと転送されたという不安が、鮮明に浮かんでいた。そして、また新たな場所へ移動しなければならないという絶望感が、彼を襲った。
「くっ……まさか、儀式はすでに……。我々は、一歩遅かったのか……」
ゼフィロスは、通信機を手に取り、反応を確かめた。通信機は、この場に特定の周波数の魔力が存在したことを示しているが、その魔力は、すでに消え去っていた。