表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

灼熱の砂漠と高笑いの残響、そして予期せぬ破壊!  その2

盗賊のアジトから、大量の金銀財宝と、彼らが貯め込んでいた食料を強奪したルナとルクリアは、大満足の様子で馬車に揺られていた。馬車は、金貨の重みで普段より重心が下がり、ギシギシと不穏な音を立てている。窓からは、ようやく薄れてきた霧の向こうに、緑豊かな森が広がり始めていた。


「いやぁ~、やっぱりあたし様はついてるぜ! まさか、こんなところに宝の山があるとはな! ゼフィロス、これで王室への請求も少しは減るだろ?」


ルナは、満足げに腹をさすりながら、ゼフィロスに問いかけた。彼女の顔には、大金を手に入れたことへの満ち足りた笑みが浮かんでいる。しかし、その言葉は、ゼフィロスにとって、さらなる胃の痛みを誘発するものでしかなかった。


「ルナ様……このお宝は、盗賊が奪ったものですので、本来であれば、被害者に返還すべきかと……」


ゼフィロスは、震える声で訴えかけた。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚しさに満ちていた。彼は、この旅の終焉を願う、かすかな祈りさえ抱き始めていた。


「うるせぇな! 奪われたもんを奪い返したんだから、あたし様のもんだろうが! 大体、被害者になんて返す手間があるか! それに、こんな金、王室のちっぽけな予算に比べたら、はした金だろ!」


ルナは、ゼフィロスの言葉を一蹴した。彼女の論理は、いつだって自分勝手で、ゼフィロスには理解不能だった。


「おーっほっほっほっ! まったくですわルナ! わたくしの美貌と才覚に相応しい、最高の戦利品ですわ! ゼフィロス、わたくしの取り分は、あの煌びやかな宝石と、あの黄金の装飾品全てでよろしくってよ! わたくしの美しさをさらに引き立ててくれることでしょう!」


ルクリアは、目を輝かせながら、宝の山の中から特にきらびやかな宝石を選び始めた。彼女の指は、まるで宝石を慈しむかのように、優しくそれを撫でる。彼女の瞳には、宝石を身につけた自身の麗しい姿が映し出されているかのようだった。


「てめぇ! ずるいぞルクリア! あたし様だって、宝石は好きだぞ! いいか、金貨は全部あたし様がもらう! 宝石は、半分ずつだ! 文句あるか!?」


ルナは、ルクリアの独占欲に反発し、宝石の山に手を伸ばした。彼女の顔には、子供じみた所有欲が浮かんでいた。


「なんですってぇ!? このわたくしが、あなたのような野蛮な方に、宝石を半分も分け与えるなど、言語道断ですわ! わたくしの美貌が、宝石に劣るなどとでもおっしゃるのですか!?」


ルクリアは激怒し、ルナを睨みつけた。彼女の瞳には、怒りの炎が燃え盛っている。


「うるせぇ! てめぇの美貌なんかどうでもいい! あたし様は、金が欲しいんだよ! 宝石は、換金しやすいから、あたし様の金になるんだ!」


二人の言い争いは、馬車の中に延々と響き渡った。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに胃を抱え込み、天を仰いだ。彼の胃は、もはや痛みを感じない。ただ、漠然とした絶望だけが、彼の心を支配していた。王室の財政は、今回の旅で確実に破綻するだろう。そして、彼の胃袋も。彼は、この旅が終わる頃には、抜け殻のようになっているかもしれない、そんな予感さえしていた。


馬車は、霧が完全に晴れ渡った森の中を進んでいく。木々の間からは、明るい太陽の光が差し込み、地面に美しい光の模様を描いていた。空気は澄み切っていて、鳥のさえずりが心地よく聞こえてくる。遠くには、小川のせせらぎが聞こえ、その音は旅の疲れを癒してくれるかのようだった。


「しかし、やっぱり森の中はいいな。なんか、落ち着くぜ」


ルナは、窓の外の景色を眺めながら、不意に呟いた。彼女の顔には、普段の傲慢さとは異なる、穏やかな表情が浮かんでいた。自然の美しさに、彼女の心が少しだけ和らいでいるかのようだ。


「おーっほっほっほっ! ルナ、あなたもたまには、わたくしのように、自然の美しさを解する心をお持ちでいらっしゃるのですね! わたくしの美貌は、このような雄大な自然の中でこそ、さらに輝きを増すのですわ!」


ルクリアは、優雅な仕草で胸を張り、高笑いを響かせた。彼女は、森の風景を背景に、自身の美しさをアピールしているかのようだ。


「うるせぇな! てめぇの高笑いが、せっかくの風景を台無しにしてるだろうが!」


ルナは、再び不機嫌な顔でルクリアをにらみつけた。二人の口論は、もはや旅の日常風景と化していた。


ゼフィロスは、二人の口論を聞きながら、静かに景色を眺めていた。森の木々は、次第に背が高くなり、鬱蒼とした雰囲気を増していた。道は、緩やかな上り坂となり、馬車はゆっくりと進んでいく。彼の心には、かすかな安堵感が芽生えていた。少なくとも、今は襲撃の危険はない。そして、ルナとルクリアが、珍しく穏やかな表情を見せていることに、彼はほんの少しだけ希望を感じていた。


しかし、その希望は、すぐに打ち砕かれることになる。


「おい、ゼフィロス! そろそろ腹減っただろうが! 飯にしろ!」


ルナの声が、馬車の中に響き渡った。彼女の食欲は、どんな時でも揺らぐことがなかった。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしも、そろそろお腹が空いてまいりましたわ! 今日の昼食は、わたくしの美貌に相応しい、上品で繊細な料理でよろしくってよ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で、食事の催促をした。


ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、もう何も感じない。彼は、もはや思考を伴わず、ただひたすらに食事の準備を続ける機械と化していた。


馬車の中には、昨日盗賊のアジトから奪い取った、粗末な食料が積まれていた。ルナは、それらの食料の中から、肉の塊と、固いパンを取り出した。


「フン、こんなもんで我慢するか。贅沢は言えねぇな」


ルナは、そう言いながらも、豪快に肉を齧り付いた。肉汁が口いっぱいに広がり、彼女は満足げな唸り声を上げる。


「おーっほっほっほっ! ルナ、あなたのような野蛮な食べ方では、わたくしの魔力が濁ってしまいますわ! ゼフィロス、わたくしには、このドライフルーツと、あの甘い菓子を用意なさいませ!」


ルクリアは、肉を食べるルナを見て、顔をしかめた。彼女は、優雅にドライフルーツを口に運び、それに続く菓子を丁寧に味わっていた。彼女は、一口食べるごとに、詩的な言葉でその味を表現し、高笑いを響かせた。


「うるせぇな! 美味いもんは美味いんだよ! てめぇの能書きはいいから、さっさと食え!」


二人の言い争いは、再び馬車の中に響き渡った。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに食事の準備を続ける。彼の胃は、もはや何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。


旅は順調に進み、午後になると、遠くの地平線に、巨大な湖の姿が見えてきた。湖面は、太陽の光を反射してキラキラと輝き、まるで巨大な宝石のようだった。湖の周囲には、緑豊かな木々が生い茂り、湖畔には、家々の屋根が並ぶ小さな町が見える。


「おお! あれが『湖畔の町ミストラル』か! やっと着いたぜ!」


ルナは、馬車の窓から身を乗り出し、興奮したように叫んだ。彼女の瞳は、湖畔の町の美食への期待で、キラキラと輝いている。


「おーっほっほっほっ! なんて美しい湖でしょう! わたくしの美貌が、この湖に映し出されたら、きっと絵になることでしょうね! ゼフィロス、わたくしの写真を撮りなさいませ!」


ルクリアは、扇子を広げ、湖畔の風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心が浮かんでいる。


ゼフィロスは、湖畔の町ミストラルを見て、安堵の息を漏らした。彼の胃は、町の景色を前に、ほんの少しだけ痛みが和らいだ気がした。しかし、彼の心には、新たなトラブルへの予感と、そして王室への請求額が増えることへの絶望が入り混じっていた。


馬車が湖畔の町へと近づくと、町の様子が次第に明らかになってきた。町は、湖畔に沿って栄えており、多くの漁船が停泊しているのが見える。魚市場からは、活気のある声が聞こえてくる。町の建物は、白い漆喰の壁に、青い屋根が特徴的で、まるで絵葉書に出てくるような美しい風景だった。


しかし、町の入口に差し掛かると、ゼフィロスは、あることに気づいた。町の入口には、見慣れない男たちが立っており、町に入る人々を厳しくチェックしているようだった。彼らは、顔に布を巻き、鋭い目つきで周囲を警戒している。その雰囲気は、どこか不穏で、里の活気とは対照的だった。


「ゼフィロス……あれは、何だ?」


ルナは、男たちの様子を見て、不機嫌そうな顔で呟いた。彼女の表情には、美食への期待よりも、警戒の色が濃く浮かんでいた。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! あの方たちは、わたくしの美貌に魅せられて、わたくしを歓迎するために並んでいるのかしら!」


ルクリアは、呑気に高笑いを響かせた。彼女は、男たちの警戒心には全く気づいていないようだった。


「ルナ様、ルクリア様……どうやら、この町にも、何か異変が起きているようです……」


ゼフィロスは、そう呟くと、手綱を握る御者に指示を出し、速度を落とさせた。彼の心臓は、薄暗い霧の中で、ドクドクと音を立てていた時と同じように、強く鼓動していた。


馬車が町の入口に近づくと、男たちの一人が、馬車の行く手を遮った。彼は、槍を構え、厳重な表情でルナたちを見つめた。


「止まれ! お前たちは、何者だ!? この町は、今、外部の人間は一切立ち入り禁止だ!」


男の言葉に、ゼフィロスは顔を青ざめた。彼の胃は、再び激しい痛みを訴え始めた。


「なんですってぇ!? このわたくしを、この町に入れるなと!? 無礼な! わたくしは、この国の王女であるルクリア・フォン・エレガンス・ド・ヴァンクールですわよ!」


ルクリアは、激怒し、男に向かって高笑いを響かせた。彼女の瞳は、怒りで燃え盛る炎のように輝いていた。


「うるせぇな! てめぇごときが、あたし様の邪魔をするんじゃねぇ! あたし様は、この町の美味いもんを食いに来たんだよ! さっさと道を空けろ! でねぇと、お前らごとぶっ飛ばしてやるからな!」


ルナは、そう言い放つと、掌から紫色の魔力の光を放ち始めた。その光は、男たちの顔を青白く照らした。彼らは、ルナのただならぬ雰囲気に、恐怖で震え上がった。


湖畔の町ミストラルへの入り口で、ルナの放つ紫色の魔力の光が、男たちの顔を青白く照らした。彼らは、ルナのただならぬ雰囲気に、恐怖で震え上がっていた。その場の空気は、一瞬にして凍りつき、湖面を渡る風の音さえ、不気味な静寂に吸い込まれていくようだった。


「ひぃっ! ひぃぃぃぃぃぃ! も、申し訳ありません! どうぞお通りください!」


男たちのリーダーらしき人物が、慌てて槍を下ろし、道を空けた。彼の顔には、冷や汗がびっしょりとにじんでいる。他の男たちも、まるでルナに呪われたかのように、顔面蒼白で一歩下がった。


「フン、最初からそうしろ。全く、あたし様の美食の時間を邪魔するんじゃねぇよ!」


ルナは、そう言い放つと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳は、美食への期待で、再びキラキラと輝き始めている。恐怖に震える男たちを見ても、彼女の心は微塵も揺るがなかった。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! わたくしの美貌とルナの威厳の前には、どんな障害も無力ですわ! さあ、わたくしの胃袋が、この町の美食を求めていますわ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で胸を張り、高笑いを響かせた。彼女の言葉は、まるで町の空気を震わせるかのように、高らかに響き渡る。


ゼフィロスは、胃を抱えながら、深いため息をついた。彼の胃は、男たちの恐怖を敏感に察知したかのように、再びキリキリと痛み始めている。彼は、もはや自分の胃が、ルナとルクリアの行動に連動して悲鳴を上げているのだと悟っていた。


馬車は、町の入り口を通過し、石畳の道をゆっくりと進んでいく。町の建物は、白い漆喰の壁に、青い屋根が特徴的で、まるで絵葉書に出てくるような美しい風景だ。湖から吹く風は、涼やかで、潮の香りが微かに混じっている。しかし、町の通りは、どこか閑散としていた。店は閉まっているところが多く、町を歩く人々の表情には、どこか陰鬱な雰囲気が漂っている。漁師たちが魚を捌く活気ある声も、なぜか控えめに聞こえる。


「あら? なんとなく、活気がないですわね。まるで、この町の美しさが、何かに曇らされているようですわ」


ルクリアは、馬車の窓から外の風景を眺めながら、不審そうに首を傾げた。彼女の瞳には、町の美しさを曇らせる「何か」に対する不満が宿っている。


「ちっ、こんな雰囲気じゃ、美味いもんも美味くねぇだろうが。さっさと、一番の飯屋を探すぞ! 腹が減って、イライラするんだよ!」


ルナは、不機嫌そうな顔でゼフィロスをにらみつけた。彼女の食欲は、町の不穏な雰囲気にも、全く影響を受けていないようだった。


町の中心部に近づくと、一軒の大きな建物が見えてきた。そこは、『湖畔の美食亭シーブリーズ』という名のレストランのようだった。店の前には、新鮮な魚介類の絵が描かれた看板が掲げられており、中からは香ばしい匂いが漂ってくる。ゼフィロスは、胃が痛むのをこらえながら、その店へと馬車を誘導した。


店の中は、清潔で、木製のテーブルと椅子が並んでいた。窓からは、キラキラと輝く湖面が見え、開放的な雰囲気だ。しかし、客はまばらで、店員もどこか元気がないように見える。


「おい! そこの店主! ここのメニュー、全部だ! それと、この町の名物料理は全部で何種類あるんだ!? あるもん全部、10個ずつ出せ! 金は王室持ちでよろしくな!」


ルナは、席に着くなり、威張ったように告げた。彼女の言葉に、店主は目を丸くし、他の客たちも、一斉にこちらを振り返った。彼らの顔には、驚きと、そしてどこか呆れたような表情が浮かんでいる。


「へ、へい! 全てでございますか!? そして、名物料理が10個ずつ……!?」


店主は、戸惑いながらも、慌ててメニュー表をめくった。


「ああ、そうだ! さっさと用意しろ! あたし様は腹ペコなんだよ! 早くしないと、この店、ぶっ飛ばしてやるぞ!」


ルナの容赦ない言葉に、店主は青ざめ、急いで厨房へと引っ込んだ。


「おーっほっほっほっ! ルナ! あなたはなんて控えめな注文ですこと! 店主! わたくしは、ここのメニュー、全てと、それに加えて、この湖でしか獲れない伝説の深海魚を使った料理を特別に用意させなさいませ! もちろん、お値段は問いませんわ! ゼフィロス、ちゃんと確認しなさいませ!」


ルクリアは、自信満々に胸を張り、店主の背中に向かって指示を出した。彼女の瞳は、伝説の深海魚を思い浮かべているのか、うっとりと夢見がちな表情を浮かべている。


ゼフィロスは、その言葉を聞いて、胃の痛みが限界を突破したのを感じた。王室への莫大な請求額が、彼の脳内で計算され、彼の顔はさらに青ざめていく。彼は、もはや言葉を発することさえできなかった。ただ、かすかに胃の奥から「もうやめてくれ……」という悲鳴が聞こえるような気がした。


「てめぇ、ルクリア! 伝説の深海魚だと!? ずるいぞ! あたし様もそれに便乗させろ!」


ルナは、ルクリアの行動に激怒し、今にも魔法を放ちそうな勢いで睨みつけた。しかし、そこは美食を前にして、なんとか理性が働いたようだった。


やがて、熱々の料理が次々とテーブルに並べられた。この町の料理は、新鮮な魚介類をふんだんに使った、香り高い料理が特徴だった。特に、名物の『新鮮な湖魚のグリル! 特製ハーブソース』は、黄金色に焼き上げられた湖魚が皿に乗せられ、その上には色とりどりのハーブが散りばめられている。香ばしい焼き魚の匂いと、爽やかなハーブの香りが混じり合い、食欲を極限まで掻き立てる。


ルナは、我慢しきれないといった様子で、まず『新鮮な湖魚のグリル』を手に取った。まだ熱い魚の身は、ナイフを入れるとホロホロと崩れ、中から白い湯気が立ち上る。特製ハーブソースをたっぷりつけて一口齧ると、湖魚の淡白ながらも濃厚な旨味が、ハーブの香りと見事に調和し、口いっぱいに広がる。

「うめぇぇぇぇ! なんだこれ、すげぇうめぇじゃねぇか! 魚の身がフワフワで、ハーブの香りがたまらねぇ! これなら何匹でも食えるぜ!」


ルナは、至福の表情で目を閉じ、その味を心ゆくまで堪能した。彼女の口元には、魚の脂が少しついていたが、そんなことさえ気にならないほど、彼女は料理に夢中だった。その様子は、まるで子供のように純粋な喜びに満ちている。


「おーっほっほっほっ! ルナ、わたくしが注文した伝説の深海魚のソテーは、もっと素晴らしいですわよ!」


ルクリアは、誇らしげに伝説の深海魚のソテーを手に取り、一口味わった。透き通るような白身は、口に入れた瞬間、ふわりととろけるような舌触りだ。上に添えられた、この湖畔でしか採れないという希少なハーブの香りが、魚の旨味を最大限に引き出している。


「くっ……! なんて完璧な味わいですこと! この魚は、まるで湖の女神が姿を変えたかのようですわ! 口の中で広がる深海の神秘が、わたくしの美貌をさらに磨き上げますわね!」


ルクリアは、恍惚とした表情で目を閉じ、自らの料理に酔いしれた。


「なっ……てめぇ、そんな姑息な手で!」


ルナは、ルクリアの伝説の深海魚のソテーの存在に気づくと、一瞬で不機嫌な顔になった。彼女は、自分のパイを高速で平らげると、ルクリアの料理へと手を伸ばそうとする。


「てめぇの魚も寄越せ! あたし様のパイの方が美味いに決まってるが、てめぇの伝説の深海魚とやらも試食してやるよ!」


「おーっほっほっほっ! 何をおっしゃいますのルナ! これはわたくし専用の料理ですわ! あなたのような野蛮な食べ方をする方に、この芸術品を味わう資格などありませんわ!」


ルクリアは、料理を胸元に抱え込み、ルナから守ろうとする。その表情には、普段の傲慢さとは異なる、子供のような純粋な所有欲が浮かんでいた。


「んだとぉ!? てめぇ、このクソアマ! あたし様に食わせねぇってのか!? いい度胸してやがるな! 爆裂撃滅弾バースト・エクリプスでぶっ飛ばしてやる!」


ルナの掌から、再び紫色の魔力の光が集中し始める。店内の空気は一瞬で張り詰め、他の客たちは震え上がって後ずさる。


「ひぃぃぃぃぃぃ! ちょっとお待ちくださいませルナ様! わたくしはただ、あなたにわたくしの魔法の素晴らしさを知っていただきたかっただけでございますのよ! ほ、ほら、これ、一口だけ、一口だけですから!」


ルクリアは、慌てて料理の一部をルナに差し出した。ルナは、その料理をひったくるように受け取ると、一口味わった。


「ちっ……まぁ、悪くはねぇな。だが、あたし様が焼いた肉の方が、もっとワイルドで美味いぜ!」


ルナは、そう吐き捨てると、すぐに自分の料理を再び平らげ始めた。結局、二人は、それぞれの料理を高速で食べ尽くし、テーブルの上に残ったのは、空になった皿の山だけだった。ゼフィロスは、その光景をただ見つめるしかなかった。彼の胃は、もはや完全に機能停止し、胃酸の泉と化していた。店主は、呆然とした顔で、大量の皿の山と、信じられないほどの請求額が記載された伝票を眺めていた。


食事を終え、ようやく落ち着いたルナは、満足げに腹をさすると、ゼフィロスに指示を出した。


「よし、ゼフィロス。腹も満たされたことだし、情報収集だ。この町で娘が消えたという商家の場所を聞き出すぞ!」


「かしこまりました、ルナ様。この町の者たちは、皆口を閉ざしているようですが……」


ゼフィロスは、弱々しい声で答えた。


「うるせぇ! 金を使えば、喋らねぇ奴なんかいねぇんだよ! お金は、もちろん王室持ちで頼むぞ!」


ルナは、そう言い放つと、店主に向かって高額な金貨を放り投げた。店主は、驚きながらも、すぐに商家の場所を教えてくれた。


商家の家は、町の中心部から少し離れた、人通りの少ない場所に位置していた。家は、他の建物と同じように白い漆喰の壁に青い屋根だったが、どこか寂しげな雰囲気が漂っている。窓は固く閉じられ、まるで内部の悲しみを閉じ込めているかのようだ。


商家の当主である老夫婦は、憔悴しきった表情でルナたちを出迎えた。彼らの目には、娘を失った悲しみと、そしてどこか諦めのような色が浮かんでいた。


「娘が、突然姿を消してしまって……。王都の貴族の娘さんたちも、同じように消えていると聞いて、どうすればいいか分からずにおりました……」


老婦人が、すすり泣きながら語る。その声は、震えていた。彼らの話を聞きながら、ゼフィロスの心は重くなった。


ルナは、腕組みをして、老夫婦の顔をじっと見つめた。彼女の表情は、いつになく真剣だった。

「安心しろ。あたし様が、その娘を必ず探し出してやる。ただし、その代わり、あたし様には報酬が必要だ」


老夫婦は、驚いてルナの顔を見た。彼らは、王室からの調査員が無償で助けてくれるものだと思っていたのだろう。


「お、報酬でございますか……? どのようなものがよろしいでしょうか……?」


老当主が、恐る恐る尋ねる。


「フン、そうだな……。お前らの家には、この湖でしか採れない『深海の真珠』ってのがあるんだろ? それを、あたし様によこせ」


ルナの言葉に、老夫婦は絶句した。彼らは、まさか、王室からの調査員が、家宝を要求するとは思ってもみなかったのだろう。


「そ、それは……代々伝わる、我らの一族にとって、かけがえのないものでございます……」


老当主が、震える声で答える。


「うるせぇな! てめぇの娘の命と、家宝と、どっちが大事なんだ!? あたし様が本気を出せば、娘なんざすぐに見つかるんだぞ! 早く決めろ!」


ルナの掌から、再び紫色の魔力の光が集中し始める。その光は、老夫婦の顔を青白く照らした。彼らは、ルナのただならぬ雰囲気に、恐怖で震え上がった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ! か、かしこまりました! 娘が無事に戻って参れば、必ず『深海の真珠』を、あなた様にお渡しいたします!」


老当主は、観念したように頭を下げた。ルナは、満足げに頷くと、口角を吊り上げた。


「おーっほっほっほっ! ルナ! あなたはなんて強欲なことを! わたくしは、報酬など一切求めませんわ! ただ、わたくしの美貌と才能が、人助けに役立つことこそが、わたくしへの最大の報酬なのですわ!」


ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。その言葉は、まるでルナを嘲笑っているかのようだった。しかし、彼女の瞳の奥には、どこか満足げな色が宿っている。


「うるせぇ! てめぇは黙ってろ! あたし様は、欲しいもんは欲しいんだよ!」


ルナは、ルクリアをにらみつけ、再び二人の口論が始まった。ゼフィロスは、その喧騒の中で、老夫婦の前に深く頭を下げた。彼の胃は、もう何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。


商家の家を出たルナたちは、再び美食亭へと戻った。今度は、本格的な情報収集のためだ。町の人々は、王都からの調査員であるルナたちが、町に入ったことに驚いているようだった。彼らは、ルナたちの出現を、何か異変の始まりだと感じているかのようだった。


ルナは、カウンターに座り、ゼフィロスに命じた。

「ゼフィロス! この町で一番耳の早い奴を見つけ出して、消えた娘が会っていた男について、詳しく聞き出すぞ! 金はいくらでも使っていいからな!」


「かしこまりました、ルナ様。しかし、あまり目立つ行動は……」


ゼフィロスが言いかけたが、ルナは彼の言葉を遮った。

「うるせぇ! 目立って何が悪い! 目立てば、情報が集まるんだよ!」


ゼフィロスは、ため息をつくと、美食亭の隅でひそひそと話している漁師たちに近づいた。彼は、王室の身分を明かし、丁寧に話を聞き始めた。


「そう言えば、あの商家の娘さん、最近、妙な男と会ってたって噂があったな……。いつも夜遅くに、湖の奥にある、『水底の祠』で会ってたらしいぜ」

「ああ、あの男なら、顔を布で隠してて、どこから来たのかも分からねぇって話だ。まるで水の中から現れたように、現れては消えるってな」

「噂では、そいつは人間じゃねぇって話も……。娘さんも、会うたびに、なんだか生気がなくなっていくような気がしたって、親が心配してたんだよ」


「その男、妙に顔が青白かったとか、喋り方が不自然だったとか……。それに、娘さんと会うたびに、湖の色が少しだけ、不気味な色に変わっていったって話も聞いたぞ」

「そうそう! 湖に満月が映る夜には、特に霧が深く立ち込めて、何も見えなくなるんだ。そんな夜に限って、娘さんがこっそり家を出ていくのを見たって話もあるぜ」


村人たちは、それぞれが知っている噂を、次々とゼフィロスに語った。彼らの顔には、恐怖と不安が入り混じっていた。ゼフィロスは、それらの情報を注意深く聞き取り、頭の中で整理していく。彼の心の中には、不気味な男の姿が、次第に鮮明に描かれていく。


ルナは、ゼフィロスが情報を集めている間、黙って美食亭の様子を観察していた。彼女の鋭い視線は、客たちの顔から顔へと移り、わずかな変化も見逃さない。彼女の頭脳は、既にいくつかの仮説を立てているようだった。


「なるほどな……。水底の祠で、水の中から現れる男、か。そして、会うたびに生気がなくなる……。そして、湖の色が変わる……。どうやら、今回の事件は、ただの誘拐事件じゃなさそうだな」


ルナは、そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、新たな「獲物」を見つけたかのような、狩人のような光が宿っていた。彼女にとって、この不気味な事件は、新たな挑戦であり、そして新たな美食への道標となるかもしれない。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしは、この町で最高の湖畔ワインを手に入れましたわ! これぞ、わたくしの美貌をさらに引き出す、最高の美酒ですわ!」


ルクリアは、どこからともなく取り出した、光り輝く瓶に入ったワインを掲げ、高笑いを響かせた。そのワインは、この町でしか作られない、幻のワインだとゼフィロスは知っていた。当然、莫大な値段がする。


「てめぇ! また勝手なことしやがって! 後でぶっ飛ばしてやるからな!」


ルナの怒鳴り声と、ルクリアの高笑いが、湖畔の町ミストラルの美食亭に響き渡る。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに胃を抱え込み、天を仰いだ。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、静かに魂を失いかけていた。


湖畔の町ミストラルに日が沈み、あたりは再び深い闇に包まれた。宿屋の窓からは、微かに揺れる湖面の光が見える。町は静まり返り、昼間の不穏な空気は、夜の帳に溶け込んでいくかのようだった。しかし、ゼフィロスの胃は、依然として不穏な状況が続いていた。宿のベッドに横たわりながら、彼は胃の痛みと、この先の旅路への不安で、ほとんど眠ることができなかった。


「くそっ……明日には『商都バザール』か……また大量の食料を買い込むんだろうな……」


彼の脳裏には、ルナとルクリアが、次なる町で狂乱の美食を繰り広げる光景が鮮明に浮かんでいた。王室の財政は、もはや風前の灯だ。彼の胃も、この旅の終焉を待たずに、破裂してしまうのではないかという恐怖に囚われていた。


隣の部屋からは、ルナの規則的ないびきと、ルクリアの寝言が聞こえてくる。


「むにゃむにゃ……黄金の肉……もっと、もっとだ……」

「おーっほっほっほっ! わたくしの美貌は、夜闇に映えて、さらに輝きを増しますわ……」


ゼフィロスは、その声を聞きながら、深いため息をついた。彼の心は、絶望と疲労で完全に麻痺していた。


翌朝、夜明け前のミストラルは、清冽な湖の風が吹いていた。空はまだ藍色だが、東の地平線が、かすかに茜色に染まり始めている。宿の窓からは、静かに波打つ湖面が見える。


「ゼフィロス! 早く準備しろ! 腹減っただろうが!」


ルナの声が、廊下から響き渡った。彼女の顔には、長旅の疲れなど微塵もなく、むしろ朝から漲るような活力が宿っている。彼女の金色の髪は、昨夜の寝相の悪さからか、あちこち跳ね上がっていたが、それさえも彼女の奔放さを際立たせていた。彼女の瞳は、次の美食への期待で、キラキラと輝いている。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの朝食は、昨日と同じく、この湖の伝説の深海魚のソテーと、最高級のハーブティーでよろしくってよ! もちろん、グラスはクリスタル製で、ハーブティーは、この湖畔の朝露で淹れたものに限りますわ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で廊下に現れた。彼女は、湖畔の町の清々しい朝の空気を吸い込むかのように、大きく胸を張っている。彼女の言葉は、ゼフィロスの胃をさらに抉る。


「は、はい! かしこまりました……」


ゼフィロスは、よろよろと食堂へと向かった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、無感情に機能していた。


朝食は、昨日と同じく、大量の料理が並べられた。ルナは、肉料理を豪快に平らげ、ルクリアは、伝説の深海魚のソテーを優雅に味わう。二人の食欲は、昨夜の事件の捜査など、全く頭にないかのように旺盛だった。ゼフィロスは、もはや食事をする気力もなく、ただ黙って二人を見つめていた。彼の心の中には、この旅路の終焉を願う、かすかな祈りが芽生えていた。


朝食を終え、馬車は『湖畔の町ミストラル』を後にした。町を出ると、道は緩やかな上り坂となり、湖畔の景色が次第に遠ざかっていく。湖から吹く風は、涼やかで、潮の香りが微かに混じっている。道は、舗装された街道となり、両脇には広大な平原が広がっていた。遠くには、小高い丘陵地帯が見える。空は抜けるような青空で、白い雲がゆったりと流れていく。


「いやぁ~、やっぱり平原は気持ちいいな! なんか、気分が晴れるぜ!」


ルナは、馬車の窓から外の景色を眺めながら、大きく伸びをした。彼女の顔には、爽やかな風を感じていることへの満足感が浮かんでいる。彼女の金色の髪が、風になびいてキラキラと輝く。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! この雄大な景色が、わたくしの美貌をさらに引き立ててくれますわ! まるで、わたくしがこの世界の女王であるかのように、輝きを放っていますわね!」


ルクリアは、扇子を広げ、平原の風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心が浮かんでいる。彼女の言葉は、周囲の静かな平原に響き渡る。


「うるせぇな! てめぇの高笑いが、せっかくの景色を台無しにしてるだろうが!」


ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。二人の口論は、もはや旅の日常風景と化していた。


ゼフィロスは、二人の口論を聞きながら、静かに景色を眺めていた。広大な平原には、風に揺れる黄金色の麦畑が広がっており、その向こうには、点々と小さな村が見える。遠くには、牛や羊の群れが草を食む姿も見え、のどかな風景が広がっていた。彼の心には、かすかな安堵感が芽生えていた。少なくとも、今は襲撃の危険はない。そして、ルナとルクリアが、珍しく穏やかな表情を見せていることに、彼はほんの少しだけ希望を感じていた。


しかし、その希望は、すぐに打ち砕かれることになる。


「おい、ゼフィロス! そろそろ腹減っただろうが! 飯にしろ!」


ルナの声が、馬車の中に響き渡った。彼女の食欲は、どんな時でも揺らぐことがなかった。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしも、そろそろお腹が空いてまいりましたわ! 今日の昼食は、わたくしの美貌に相応しい、上品で繊細な料理でよろしくってよ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で、食事の催促をした。


ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、もう何も感じない。彼は、もはや思考を伴わず、ただひたすらに食事の準備を続ける機械と化していた。


馬車の中には、宿屋で補充したばかりの、大量の食料が積まれていた。ルナは、それらの食料の中から、大きな肉の塊と、焼きたてのパンを取り出した。


「フン、やっぱ肉は最高だな! これさえあれば、どんな道中でも乗り切れるぜ!」


ルナは、そう言いながら、豪快に肉を齧り付いた。肉汁が口いっぱいに広がり、彼女は満足げな唸り声を上げる。


「おーっほっほっほっ! ルナ、あなたのような野蛮な食べ方では、わたくしの魔力が濁ってしまいますわ! ゼフィロス、わたくしには、この村の特産品であるチーズと、熟成されたワインを用意なさいませ!」


ルクリアは、肉を食べるルナを見て、顔をしかめた。彼女は、優雅にチーズを口に運び、それに続くワインを丁寧に味わっていた。彼女は、一口食べるごとに、詩的な言葉でその味を表現し、高笑いを響かせた。


「うるせぇな! 美味いもんは美味いんだよ! てめぇの能書きはいいから、さっさと食え!」


二人の言い争いは、再び馬車の中に響き渡った。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに食事の準備を続ける。彼の胃は、もはや何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。


旅は順調に進み、午後になると、遠くの地平線に、巨大な町の影が見えてきた。町の周囲には、高い城壁がそびえ立ち、その向こうには、無数の建物がひしめき合っているのがわかる。町の入口からは、人々の活気ある声と、様々な物の匂いが漂ってくる。


「おお! あれが『商都バザール』か! やっと着いたぜ!」


ルナは、馬車の窓から身を乗り出し、興奮したように叫んだ。彼女の瞳は、商都の美食と、そして新しい「獲物」(おそらく、新しいお金になるもの)への期待で、キラキラと輝いている。


「おーっほっほっほっ! なんて雄大な町でしょう! まるで、この世界の富が、全てこの場所に集まっているようですわ! ゼフィロス、わたくしの美貌が、この商都でどれだけ輝くか、楽しみですわね!」


ルクリアは、扇子を広げ、商都の風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして新たな贅沢への期待が浮かんでいる。


ゼフィロスは、商都バザールを見て、安堵の息を漏らした。彼の胃は、町の景色を前に、ほんの少しだけ痛みが和らいだ気がした。この町には、これまでの小さな村や町とは比べ物にならないほどの情報と、そして何よりも多くの人々がいる。事件解決への糸口が見つかるかもしれないというかすかな希望が、彼の心をよぎった。しかし、彼の心には、新たなトラブルへの予感と、そして王室への請求額が増えることへの絶望が入り混じっていた。


馬車が商都の城門へと近づくと、町の様子が次第に明らかになってきた。城門の前には、多くの人々が行き交い、様々な商品が並べられた露店が軒を連ねている。活気に満ちた人々の声と、香辛料や革製品、焼きたてのパンなど、様々な匂いが混じり合い、ゼフィロスの嗅覚を刺激する。この町の活気は、これまでの旅で訪れたどの町とも異なっていた。


しかし、城門をくぐると、ゼフィロスは、あることに気づいた。町の通りは、多くの人で賑わっているが、その中に、どこか不穏な雰囲気を漂わせる人々が混じっている。彼らは、顔に布を巻き、警戒した表情で周囲を見回している。その雰囲気は、どこか異様で、町の活気とは対照的だった。


「ゼフィロス……あれは、何だ?」


ルナは、男たちの様子を見て、不機嫌そうな顔で呟いた。彼女の表情には、美食への期待よりも、警戒の色が濃く浮かんでいた。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! あの方たちは、わたくしの美貌に魅せられて、わたくしを歓迎するために並んでいるのかしら! なんて素晴らしい歓迎ですこと!」


ルクリアは、呑気に高笑いを響かせた。彼女は、男たちの警戒心には全く気づいていないようだった。


「ルナ様、ルクリア様……どうやら、この町にも、何か異変が起きているようです……」


ゼフィロスは、そう呟くと、手綱を握る御者に指示を出し、速度を落とさせた。彼の心臓は、薄暗い霧の中で、ドクドクと音を立てていた時と同じように、強く鼓動していた。彼は、これまでの町で経験してきたトラブルの予感と、そして新たな事件の匂いを敏感に感じ取っていた。


馬車が町の中心部に近づくと、町の様子がさらに明らかになってきた。広場では、様々な露店が並び、商人たちが大きな声で客を呼び込んでいる。活気に満ちた町の雰囲気とは裏腹に、ゼフィロスの心には、拭いきれない不安が募っていた。彼は、この商都バザールで、どのようなトラブルが彼らを待ち受けているのか、想像もつかなかった。


商都バザールの城門をくぐった瞬間、ゼフィロスの胃は、これまで経験したことのないほどの激しい痙攣に見舞われた。それは、これまでの旅で蓄積されたストレスと、目の前に広がる町の膨大な情報量、そして何よりもルナとルクリアの際限なき食欲を予感させる、胃の最終警告だった。町全体が、熱気と活気に満ち溢れ、様々な匂いと音が混じり合い、まるで生きているかのように蠢いている。


「おおお! なんて活気のある町ですこと! これぞ、わたくしの美貌と才能に相応しい、最高の舞台ですわ!」


ルクリアは、馬車から身を乗り出し、高笑いを響かせた。彼女の瞳は、町中に並ぶきらびやかな商品に目を奪われている。彼女の言葉は、町の喧騒にも負けないほど、高らかに響き渡った。


「フン、賑やかすぎても落ち着かねぇな。だが、これだけ店があるなら、きっと『黄金のスパイスカレー』もあるはずだぜ!」


ルナは、そう言い放つと、迷うことなく馬車から飛び降りた。彼女の鼻は、すでに、街中の様々な匂いの中から、目的のスパイスの香りを嗅ぎ分けているようだった。彼女の顔には、美食への期待に満ちた、獰猛な笑みが浮かんでいる。


「おーっほっほっほっ! そうですわルナ! この商都バザールならば、どんな珍しい食材でも手に入るはず! わたくしは、この町の美食で、わたくしの魔力をさらに満たさなければなりませんわ!」


ルクリアも、ルナに続いて優雅に馬車を降りた。彼女の白い肌と、煌びやかな衣装は、町の雑踏の中で異様なほど鮮やかに浮かび上がる。彼女の言葉は、町の活気をさらに増幅させるかのようだった。


ゼフィロスは、胃を抱えながら、深いため息をついた。彼の心は、絶望と疲労で完全に麻痺していた。この町での食料調達が、彼の胃袋に止めを刺すことになるだろう、そんな予感さえしていた。


町の通りは、人でごった返していた。商人たちが、大きな声で客を呼び込み、露店には、色とりどりの商品が山のように積まれている。香辛料の甘い香り、焼きたてのパンの香ばしい匂い、革製品の独特の匂い、そして遠くからは、金属を叩く音が聞こえてくる。まるで、この世の全てが、この町に集まっているかのようだった。


ルナは、その活気に満ちた通りを、まるで獲物を探す猛獣のように迷いなく進んでいく。彼女の視線は、周囲の店を素早く巡らせ、目的の「黄金のスパイスカレー」の看板を探している。


「おい! そこのゼフィロス! ぼやぼやしてないで、早く美味いもんを探しに行くぞ! 腹が減って、この活気が余計に気味悪く感じるんだよ!」


ゼフィロスは、その言葉に促され、人波をかき分けてルナの後を追った。彼の胃は、すでに麻痺しているため、痛みを感じることはないが、代わりに冷たい汗が背中を伝っていた。


町の奥へ進むと、ひときわ強いスパイスの香りが漂ってくる一角があった。そこには、大きな看板に『伝説の黄金カレー亭』と書かれた店が見えた。店の前には、すでに長い行列ができており、中からは人々の賑やかな声が聞こえてくる。


「あった! これだ! 『黄金のスパイスカレー』の店だ!」


ルナは、その看板を見つけると、目を輝かせ、吸い寄せられるように店へと向かった。彼女の顔には、これまで見たことのないような、興奮と期待の表情が浮かんでいる。


「おーっほっほっほっ! ルナ! やはり、わたくしたちの嗅覚は、間違いありませんでしたわね! この香りは、まさに至高のスパイスの香りですわ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で胸を張り、高笑いを響かせた。彼女の瞳は、カレーへの期待で、キラキラと輝いている。


二人は、店の行列を無視し、堂々と店の中へと入っていった。店内は、スパイスの香りで満ちており、多くの客が、それぞれのテーブルでカレーを味わっていた。


「おい! そこの店主! ここのメニュー、全部だ! それと、この店の名物、『黄金のスパイスカレー』を……」


ルナは、席に着くなり、威張ったように告げた。彼女の言葉に、店主は目を丸くし、他の客たちも、一斉にこちらを振り返った。彼らの顔には、驚きと、そしてどこか呆れたような表情が浮かんでいる。


「へ? へい! 『黄金のスパイスカレー』を……」


店主は、戸惑いながらも、言葉を続けた。


「……20人前だ! それと、他のメニューも全部、20人前ずつ用意しろ! 金は王室持ちでよろしくな!」


ルナの容赦ない言葉に、店主は絶句した。店内の客たちも、一斉にざわめき始めた。20人前とは、この店の今日の仕込み分を全て使い果たすほどの量だ。


「なっ……20人前でございますか!? そ、それは少々……」


店主は、青ざめて言葉を詰まらせた。彼の額には、冷や汗がにじんでいる。


「うるせぇな! てめぇの店が、こんな大量の注文も受けられねぇってのか!? 大体、あたし様は腹ペコなんだよ! 早くしないと、この店、ぶっ飛ばしてやるぞ!」


ルナの掌から、すでに紫電が迸り始めている。ピリピリとした空気が、店内に広がる。店主は、そのただならぬ雰囲気に、恐怖で震え上がった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ! か、かしこまりました! 全力で用意させていただきます!」


店主は、観念したように頭を下げ、慌てて厨房へと引っ込んだ。厨房からは、すぐに慌ただしい音が聞こえ始めた。


「おーっほっほっほっ! ルナ! あなたはなんて控えめな注文ですこと! 店主! わたくしは、ここのメニュー、全てと、それに加えて、この商都バザールでしか手に入らない伝説の香辛料を使ったカレーを特別に用意させなさいませ! もちろん、お値段は問いませんわ! ゼフィロス、ちゃんと確認しなさいませ!」


ルクリアは、自信満々に胸を張り、店主の背中に向かって指示を出した。彼女の瞳は、伝説の香辛料を使ったカレーを思い浮かべているのか、うっとりと夢見がちな表情を浮かべている。


ゼフィロスは、その言葉を聞いて、胃の痛みが限界を突破したのを感じた。王室への莫大な請求額が、彼の脳内で計算され、彼の顔はさらに青ざめていく。彼は、もはや言葉を発することさえできなかった。ただ、かすかに胃の奥から「もう終わりだ……」という絶望の叫びが聞こえるような気がした。


「てめぇ、ルクリア! 伝説の香辛料だと!? ずるいぞ! あたし様もそれに便乗させろ!」


ルナは、ルクリアの行動に激怒し、今にも魔法を放ちそうな勢いで睨みつけた。しかし、そこは美食を前にして、なんとか理性が働いたようだった。


爆裂令嬢、世界を壊して謎を解く! ~傲慢魔女と高笑い女王、世界を股にかけるドタバタ事件簿~

第十章:商都バザールの喧騒と、黄金のカレー狂乱

商都バザールの城門をくぐった瞬間、ゼフィロスの胃は、これまで経験したことのないほどの激しい痙攣に見舞われた。それは、これまでの旅で蓄積されたストレスと、目の前に広がる町の膨大な情報量、そして何よりもルナとルクリアの際限なき食欲を予感させる、胃の最終警告だった。町全体が、熱気と活気に満ち溢れ、様々な匂いと音が混じり合い、まるで生きているかのように蠢いている。


「おおお! なんて活気のある町ですこと! これぞ、わたくしの美貌と才能に相応しい、最高の舞台ですわ!」


ルクリアは、馬車から身を乗り出し、高笑いを響かせた。彼女の瞳は、町中に並ぶきらびやかな商品に目を奪われている。彼女の言葉は、町の喧騒にも負けないほど、高らかに響き渡った。


「フン、賑やかすぎても落ち着かねぇな。だが、これだけ店があるなら、きっと『黄金のスパイスカレー』もあるはずだぜ!」


ルナは、そう言い放つと、迷うことなく馬車から飛び降りた。彼女の鼻は、すでに、街中の様々な匂いの中から、目的のスパイスの香りを嗅ぎ分けているようだった。彼女の顔には、美食への期待に満ちた、獰猛な笑みが浮かんでいる。


「おーっほっほっほっ! そうですわルナ! この商都バザールならば、どんな珍しい食材でも手に入るはず! わたくしは、この町の美食で、わたくしの魔力をさらに満たさなければなりませんわ!」


ルクリアも、ルナに続いて優雅に馬車を降りた。彼女の白い肌と、煌びやかな衣装は、町の雑踏の中で異様なほど鮮やかに浮かび上がる。彼女の言葉は、町の活気をさらに増幅させるかのようだった。


ゼフィロスは、胃を抱えながら、深いため息をついた。彼の心は、絶望と疲労で完全に麻痺していた。この町での食料調達が、彼の胃袋に止めを刺すことになるだろう、そんな予感さえしていた。


町の通りは、人でごった返していた。商人たちが、大きな声で客を呼び込み、露店には、色とりどりの商品が山のように積まれている。香辛料の甘い香り、焼きたてのパンの香ばしい匂い、革製品の独特の匂い、そして遠くからは、金属を叩く音が聞こえてくる。まるで、この世の全てが、この町に集まっているかのようだった。


ルナは、その活気に満ちた通りを、まるで獲物を探す猛獣のように迷いなく進んでいく。彼女の視線は、周囲の店を素早く巡らせ、目的の「黄金のスパイスカレー」の看板を探している。


「おい! そこのゼフィロス! ぼやぼやしてないで、早く美味いもんを探しに行くぞ! 腹が減って、この活気が余計に気味悪く感じるんだよ!」


ゼフィロスは、その言葉に促され、人波をかき分けてルナの後を追った。彼の胃は、すでに麻痺しているため、痛みを感じることはないが、代わりに冷たい汗が背中を伝っていた。


『黄金のスパイスカレー』の発見と、狂乱の注文

町の奥へ進むと、ひときわ強いスパイスの香りが漂ってくる一角があった。そこには、大きな看板に**『伝説の黄金カレー亭』**と書かれた店が見えた。店の前には、すでに長い行列ができており、中からは人々の賑やかな声が聞こえてくる。


「あった! これだ! 『黄金のスパイスカレー』の店だ!」


ルナは、その看板を見つけると、目を輝かせ、吸い寄せられるように店へと向かった。彼女の顔には、これまで見たことのないような、興奮と期待の表情が浮かんでいる。


「おーっほっほっほっ! ルナ! やはり、わたくしたちの嗅覚は、間違いありませんでしたわね! この香りは、まさに至高のスパイスの香りですわ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で胸を張り、高笑いを響かせた。彼女の瞳は、カレーへの期待で、キラキラと輝いている。


二人は、店の行列を無視し、堂々と店の中へと入っていった。店内は、スパイスの香りで満ちており、多くの客が、それぞれのテーブルでカレーを味わっていた。


「おい! そこの店主! ここのメニュー、全部だ! それと、この店の名物、『黄金のスパイスカレー』を……」


ルナは、席に着くなり、威張ったように告げた。彼女の言葉に、店主は目を丸くし、他の客たちも、一斉にこちらを振り返った。彼らの顔には、驚きと、そしてどこか呆れたような表情が浮かんでいる。


「へ? へい! 『黄金のスパイスカレー』を……」


店主は、戸惑いながらも、言葉を続けた。


「……20人前だ! それと、他のメニューも全部、20人前ずつ用意しろ! 金は王室持ちでよろしくな!」


ルナの容赦ない言葉に、店主は絶句した。店内の客たちも、一斉にざわめき始めた。20人前とは、この店の今日の仕込み分を全て使い果たすほどの量だ。


「なっ……20人前でございますか!? そ、それは少々……」


店主は、青ざめて言葉を詰まらせた。彼の額には、冷や汗がにじんでいる。


「うるせぇな! てめぇの店が、こんな大量の注文も受けられねぇってのか!? 大体、あたし様は腹ペコなんだよ! 早くしないと、この店、ぶっ飛ばしてやるぞ!」


ルナの掌から、すでに紫電が迸り始めている。ピリピリとした空気が、店内に広がる。店主は、そのただならぬ雰囲気に、恐怖で震え上がった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ! か、かしこまりました! 全力で用意させていただきます!」


店主は、観念したように頭を下げ、慌てて厨房へと引っ込んだ。厨房からは、すぐに慌ただしい音が聞こえ始めた。


「おーっほっほっほっ! ルナ! あなたはなんて控えめな注文ですこと! 店主! わたくしは、ここのメニュー、全てと、それに加えて、この商都バザールでしか手に入らない伝説の香辛料を使ったカレーを特別に用意させなさいませ! もちろん、お値段は問いませんわ! ゼフィロス、ちゃんと確認しなさいませ!」


ルクリアは、自信満々に胸を張り、店主の背中に向かって指示を出した。彼女の瞳は、伝説の香辛料を使ったカレーを思い浮かべているのか、うっとりと夢見がちな表情を浮かべている。


ゼフィロスは、その言葉を聞いて、胃の痛みが限界を突破したのを感じた。王室への莫大な請求額が、彼の脳内で計算され、彼の顔はさらに青ざめていく。彼は、もはや言葉を発することさえできなかった。ただ、かすかに胃の奥から「もう終わりだ……」という絶望の叫びが聞こえるような気がした。


「てめぇ、ルクリア! 伝説の香辛料だと!? ずるいぞ! あたし様もそれに便乗させろ!」


ルナは、ルクリアの行動に激怒し、今にも魔法を放ちそうな勢いで睨みつけた。しかし、そこは美食を前にして、なんとか理性が働いたようだった。


黄金のスパイスカレーの饗宴

やがて、店の奥から、芳醇なスパイスの香りが漂ってきた。そして、店員たちが、大きな皿に山盛りのカレーを次々と運んできた。その皿は、黄金色に輝くカレーで満たされており、上には、色とりどりの野菜と、香ばしく焼かれた肉が乗せられている。湯気が立ち上り、食欲を極限まで掻き立てる。


ルナは、我慢しきれないといった様子で、まず『黄金のスパイスカレー』に手を伸ばした。スプーンで一口すくうと、とろりとしたルーが、ご飯と肉に絡みつく。口に運んだ瞬間、様々なスパイスの香りが複雑に混じり合い、舌の上で踊るような感覚が広がる。辛味と甘み、そして香ばしさが絶妙なバランスで調和し、奥深い味わいを生み出していた。

「うめぇぇぇぇ! なんだこれ、すげぇうめぇじゃねぇか! スパイスの香りが最高だぜ! こんな美味いカレー、生まれて初めて食ったぞ!」


ルナは、至福の表情で目を閉じ、その味を心ゆくまで堪能した。彼女の額には、うっすらと汗がにじんでいるが、それは辛さによるものではなく、純粋な喜びによるものだった。彼女は、一口食べるごとに、まるで新しい世界を発見したかのように、目を輝かせた。その様子は、まるで子供のように純粋な喜びに満ちている。


「おーっほっほっほっ! ルナ、わたくしが注文した伝説の香辛料を使ったカレーは、もっと素晴らしいですわよ!」


ルクリアは、誇らしげに伝説の香辛料を使ったカレーを手に取り、一口味わった。そのカレーは、一般的な黄金のスパイスカレーよりも、さらに色が深く、複雑な香りを放っていた。一口食べると、これまで味わったことのないような、神秘的な香りが口いっぱいに広がる。それは、単なる辛さや甘さだけではなく、魂を揺さぶるような、奥深い味わいだった。


「くっ……! なんて完璧な味わいですこと! このカレーは、まるで宇宙の神秘を凝縮したかのようですわ! 口の中で広がる無限の香りが、わたくしの美貌をさらに磨き上げますわね!」


ルクリアは、恍惚とした表情で目を閉じ、自らの料理に酔いしれた。彼女は、一口食べるごとに、詩的な言葉でその味を表現し、高笑いを響かせた。


「なっ……てめぇ、そんな姑息な手で!」


ルナは、ルクリアの伝説の香辛料を使ったカレーの存在に気づくと、一瞬で不機嫌な顔になった。彼女は、自分の黄金のスパイスカレーを高速で平らげると、ルクリアの料理へと手を伸ばそうとする。


「てめぇのカレーも寄越せ! あたし様のカレーの方が美味いに決まってるが、てめぇの伝説の香辛料とやらも試食してやるよ!」


「おーっほっほっほっ! 何をおっしゃいますのルナ! これはわたくし専用の料理ですわ! あなたのような野蛮な食べ方をする方に、この芸術品を味わう資格などありませんわ!」


ルクリアは、料理を胸元に抱え込み、ルナから守ろうとする。その表情には、普段の傲慢さとは異なる、子供のような純粋な所有欲が浮かんでいた。


「んだとぉ!? てめぇ、このクソアマ! あたし様に食わせねぇってのか!? いい度胸してやがるな! 爆裂撃滅弾バースト・エクリプスでぶっ飛ばしてやる!」


ルナの掌から、再び紫色の魔力の光が集中し始める。店内の空気は一瞬で張り詰め、他の客たちは震え上がって後ずさる。


「ひぃぃぃぃぃぃ! ちょっとお待ちくださいませルナ様! わたくしはただ、あなたにわたくしの魔法の素晴らしさを知っていただきたかっただけでございますのよ! ほ、ほら、これ、一口だけ、一口だけですから!」


ルクリアは、慌てて料理の一部をルナに差し出した。ルナは、その料理をひったくるように受け取ると、一口味わった。


「ちっ……まぁ、悪くはねぇな。だが、あたし様のカレーの方が、もっとパンチがあって美味いぜ!」


ルナは、そう吐き捨てると、すぐに自分の黄金のスパイスカレーを再び平らげ始めた。結局、二人は、それぞれのカレーを高速で食べ尽くし、テーブルの上に残ったのは、空になった皿の山だけだった。店主は、呆然とした顔で、大量の皿の山と、信じられないほどの請求額が記載された伝票を眺めていた。彼の顔は青ざめ、額からは冷や汗が流れ落ちていた。


食事を終え、ようやく落ち着いたルナは、満足げに腹をさすると、ゼフィロスに指示を出した。


「よし、ゼフィロス。腹も満たされたことだし、情報収集だ。この町で娘が消えたという商家の場所を聞き出すぞ!」


「かしこまりました、ルナ様。しかし、この町は人が多すぎますし、どこから情報を集めれば……」


ゼフィロスは、弱々しい声で答えた。


「うるせぇ! 金を使えば、喋らねぇ奴なんかいねぇんだよ! お金は、もちろん王室持ちで頼むぞ!」


ルナは、そう言い放つと、店主に向かって高額な金貨を放り投げた。店主は、驚きながらも、すぐに商家の場所を教えてくれた。その表情には、王室への請求よりも、目の前の大金に目を奪われているのが明らかだった。


商家の家は、町の中心部から少し離れた、比較的大きな通りに面していた。家は、他の建物と同じように石造りで、どっしりとした構えだ。しかし、窓は固く閉じられ、どこか人影が薄いように見える。玄関の前に立つと、町の喧騒が、どこか遠くに聞こえる気がした。


商家の当主である老夫婦は、憔悴しきった表情でルナたちを出迎えた。彼らの目には、娘を失った悲しみと、そしてどこか諦めのような色が浮かんでいた。彼らの顔の皺は、深い悲しみを刻みつけているかのようだった。


「娘が、突然姿を消してしまって……。王都の貴族の娘さんたちも、同じように消えていると聞いて、どうすればいいか分からずにおりました……」


老婦人が、すすり泣きながら語る。その声は、震えていた。彼らの話を聞きながら、ゼフィロスの心は重くなった。彼は、この町を覆う不穏な空気の根源を、この老夫婦の悲しみの中に見た気がした。


ルナは、腕組みをして、老夫婦の顔をじっと見つめた。彼女の表情は、いつになく真剣だった。

「安心しろ。あたし様が、その娘を必ず探し出してやる。ただし、その代わり、あたし様には報酬が必要だ」


老夫婦は、驚いてルナの顔を見た。彼らは、まさか、王室からの調査員が無償で助けてくれるものだと思っていたのだろう。


「お、報酬でございますか……? どのようなものがよろしいでしょうか……?」


老当主が、恐る恐る尋ねる。彼の声は、わずかな希望と、そして不安が入り混じっていた。


「フン、そうだな……。お前らの家には、代々伝わる『商人の羅針盤』ってのがあるんだろ? それを、あたし様によこせ」


ルナの言葉に、老夫婦は絶句した。彼らは、まさか、王室からの調査員が、家宝を要求するとは思ってもみなかったのだろう。彼らの顔から、血の気が引いていく。


「そ、それは……代々伝わる、我らの一族にとって、かけがえのないものでございます……」


老当主が、震える声で答える。彼の額には、冷や汗がにじんでいた。


「うるせぇな! てめぇの娘の命と、家宝と、どっちが大事なんだ!? あたし様が本気を出せば、娘なんざすぐに見つかるんだぞ! 早く決めろ!」


ルナの掌から、再び紫色の魔力の光が集中し始める。その光は、老夫婦の顔を青白く照らした。彼らは、ルナのただならぬ雰囲気に、恐怖で震え上がった。その場で、まるで石像のように固まってしまう。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ! か、かしこまりました! 娘が無事に戻って参れば、必ず『商人の羅針盤』を、あなた様にお渡しいたします!」


老当主は、観念したように頭を下げた。彼の声は、絶望に満ちていた。ルナは、満足げに頷くと、口角を吊り上げた。


「おーっほっほっほっ! ルナ! あなたはなんて強欲なことを! わたくしは、報酬など一切求めませんわ! ただ、わたくしの美貌と才能が、人助けに役立つことこそが、わたくしへの最大の報酬なのですわ!」


ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。その言葉は、まるでルナを嘲笑っているかのようだった。しかし、彼女の瞳の奥には、どこか満足げな色が宿っている。


「うるせぇ! てめぇは黙ってろ! あたし様は、欲しいもんは欲しいんだよ!」


ルナは、ルクリアをにらみつけ、再び二人の口論が始まった。ゼフィロスは、その喧騒の中で、老夫婦の前に深く頭を下げた。彼の胃は、もう何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。


商家の家を出たルナたちは、再び美食亭へと戻った。今度は、本格的な情報収集のためだ。町の人々は、王都からの調査員であるルナたちが、町に入ったことに驚いているようだった。彼らは、ルナたちの出現を、何か異変の始まりだと感じているかのようだった。彼らの目には、期待と不安が入り混じったような感情が浮かんでいた。


ルナは、カウンターに座り、ゼフィロスに命じた。

「ゼフィロス! この町で一番耳の早い奴を見つけ出して、消えた娘が会っていた男について、詳しく聞き出すぞ! 金はいくらでも使っていいからな!」


「かしこまりました、ルナ様。しかし、この町は人が多すぎますし、どこから情報を集めれば……」


ゼフィロスが言いかけたが、ルナは彼の言葉を遮った。

「うるせぇ! 目立って何が悪い! 目立てば、情報が集まるんだよ!」


ゼフィロスは、ため息をつくと、美食亭の隅でひそひそと話している商人たちに近づいた。彼は、王室の身分を明かし、丁寧に話を聞き始めた。商人たちの顔は、どこか疲れており、商売の厳しさを物語っている。


「そう言えば、あの商家の娘さん、最近、妙な男と会ってたって噂があったな……。いつも夜遅くに、町の外れにある、『暗がりの路地』で会ってたらしいぜ」

商人の一人が、顔をしかめて語る。彼の声は、どこか震えていた。

「ああ、あの男なら、いつも黒いローブを羽織ってて、顔もよく見えねぇって話だ。まるで影のように現れて、夜の闇に消えるってな。姿を見た奴は、皆、全身が凍りつくような冷たさを感じたって言ってたぜ」

別の商人が、身震いしながら続けた。

「噂では、そいつは人間じゃねぇって話も……。娘さんも、会うたびに、なんだか生気がなくなっていくような気がしたって、親が心配してたんだよ。まるで、魂を吸い取られているかのように、日に日に顔色が悪くなっていったそうだ。その上、金遣いが荒くなっていったと……」

さらに別の商人が、不安げな表情で加える。

「その男、妙に声が低かったとか、喋り方が不自然だったとか……。それに、娘さんと会うたびに、この町の闇が少しだけ、濃くなっていったような気がするんだ。特に新月の夜には、町のどこかで不気味な声が聞こえてくるんだ」


「そうそう! 新月に夜には、町のどこかで、妙な物音が聞こえるんだ。そして、その翌日には、町のどこかで、誰かしらが消えてるんだ……。どうやら、この町は、何かに狙われているようだ……」


町人たちは、それぞれが知っている噂を、次々とゼフィロスに語った。彼らの顔には、恐怖と不安が入り混じっていた。彼らの視線は、どこか遠くを見つめ、まるで闇の向こうに、見えない恐怖が潜んでいるかのように感じられた。ゼフィロスは、それらの情報を注意深く聞き取り、頭の中で整理していく。彼の心の中には、不気味な男の姿が、次第に鮮明に描かれていく。そして、町の異変と、消えた娘たちが、その男と深く関係していることを確信した。


ルナは、ゼフィロスが情報を集めている間、黙って美食亭の様子を観察していた。彼女の鋭い視線は、客たちの顔から顔へと移り、わずかな変化も見逃さない。彼女の頭脳は、既にいくつかの仮説を立てているようだった。


「なるほどな……。暗がりの路地で、闇の中から現れる男、か。そして、会うたびに生気がなくなる……。そして、町の闇が濃くなる……。新月の夜に不気味な声が聞こえ、人が消える……。どうやら、今回の事件は、ただの誘拐事件じゃなさそうだな。この男は、人間ではない何か……そして、娘たちの生気を吸い取っているとすれば、かなりの実力者と見た。そして、王都の貴族の娘たちも、同じような手口で消えているとすれば……」


ルナは、そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、新たな「獲物」を見つけたかのような、狩人のような光が宿っていた。彼女にとって、この不気味な事件は、新たな挑戦であり、そして新たな美食への道標となるかもしれない。彼女の胃袋は、もうすでに、事件解決後の祝宴を想像しているかのようだった。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしは、この町で最高の甘い菓子を手に入れましたわ! これぞ、わたくしの美貌をさらに引き出す、最高の逸品ですわ!」


ルクリアは、どこからともなく取り出した、色とりどりの美しい菓子を掲げ、高笑いを響かせた。その菓子は、この町でしか作られない、幻の菓子だとゼフィロスは知っていた。当然、莫大な値段がする。


「てめぇ! また勝手なことしやがって! 後でぶっ飛ばしてやるからな!」


ルナの怒鳴り声と、ルクリアの高笑いが、商都バザールの美食亭に響き渡る。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに胃を抱え込み、天を仰いだ。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、静かに魂を失いかけていた。



商都バザールの夜は、昼間の喧騒とは打って変わって、どこか静まり返っていた。しかし、その静寂は、ゼフィロスの胃を襲う激痛の前では無意味だった。宿屋のベッドに横たわりながら、彼は王室の財政と、自身の胃の終焉を同時に想像し、冷や汗を流していた。ルナとルクリアが食い尽くした膨大な量のカレーと菓子、そして彼らが要求した家宝の数々が、彼の脳内で莫大な金額となって積み上がっていく。


「くっ……このままでは、王室の財政が破綻する……いや、その前に俺の胃が……」


彼の脳裏には、王室の財政が破綻し、自分が牢獄に繋がれる未来と、胃が破裂して救急車で運ばれる未来が交互にちらついていた。


隣の部屋からは、ルナの規則的ないびきと、ルクリアの寝言が聞こえてくる。


「むにゃむにゃ……究極の肉……もっと、もっとだ……」


「おーっほっほっほっ! わたくしの美貌は、夜闇に映えて、さらに輝きを増しますわ……」


ゼフィロスは、その声を聞きながら、深いため息をついた。彼の心は、絶望と疲労で完全に麻痺していた。この旅の終わりには、自分が一体どうなってしまうのか、想像もつかなかった。


翌朝、商都バザールは、まだ深い眠りの中にあった。空は藍色だが、東の地平線が、かすかに茜色に染まり始めている。町の通りは、昼間の活気が嘘のように静まり返っていた。


「ゼフィロス! 早く準備しろ! 腹減っただろうが!」


ルナの声が、廊下から響き渡った。彼女の顔には、長旅の疲れなど微塵もなく、むしろ朝から漲るような活力が宿っている。彼女の金色の髪は、昨夜の寝相の悪さからか、あちこち跳ね上がっていたが、それさえも彼女の奔放さを際立たせていた。彼女の瞳は、次の美食への期待で、キラキラと輝いている。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの朝食は、昨日と同じく、この町の伝説の香辛料を使ったカレーと、最高級の紅茶でよろしくってよ! もちろん、茶器は純金製で、紅茶は、この商都の朝露で淹れたものに限りますわ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で廊下に現れた。彼女は、商都の清々しい朝の空気を吸い込むかのように、大きく胸を張っている。彼女の言葉は、ゼフィロスの胃をさらに抉る。


「は、はい! かしこまりました……」


ゼフィロスは、よろよろと食堂へと向かった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、無感情に機能していた。


朝食は、昨日と同じく、大量の料理が並べられた。ルナは、肉料理を豪快に平らげ、ルクリアは、伝説の香辛料を使ったカレーを優雅に味わう。二人の食欲は、昨夜の事件の捜査など、全く頭にないかのように旺盛だった。ゼフィロスは、もはや食事をする気力もなく、ただ黙って二人を見つめていた。彼の心の中には、この旅路の終焉を願う、かすかな祈りが芽生えていた。


朝食を終え、馬車は『商都バザール』を後にした。町を出ると、道は次第に上り坂となり、周囲の景色は、これまでとは一変した。広大な平原は姿を消し、代わりにゴツゴツとした岩肌の山々が、遠くの地平線まで連なっている。道沿いには、背の低い針葉樹がまばらに生えており、その枝には、冷たい風が吹き付けているのか、常に不気味な音が聞こえてくる。空は、鉛色に厚い雲が覆い、太陽の光はほとんど届かない。


「ちっ、なんだか薄気味悪いところだな。こんな場所にも美味いもんがあるのかねぇ?」


ルナは、馬車の窓から外の景色を眺めながら、不機嫌そうな顔で呟いた。彼女の顔には、美食への期待よりも、不穏な雰囲気に苛立っている様子が伺える。彼女の金色の髪も、鉛色の空の下では、心なしかくすんで見える。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! この荒々しい景色が、わたくしの美貌をさらに引き立ててくれますわ! まるで、わたくしがこの世界の支配者であるかのように、輝きを放っていますわね!」


ルクリアは、扇子を広げ、荒々しい風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そしてどこか不穏な雰囲気を楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。彼女の言葉は、不気味な静寂に吸い込まれていく。


「うるせぇな! てめぇの高笑いが、せっかくの静寂を台無しにしてるだろうが!」


ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。二人の口論は、もはや旅の日常風景と化していた。


ゼフィロスは、二人の口論を聞きながら、静かに景色を眺めていた。道は、荒れた岩だらけの道となり、馬車はガタガタと大きく揺れる。周囲の山々は、まるで巨人が眠っているかのようにそびえ立ち、その頂は雲に隠れて見えない。空気はひんやりとして、どこか乾いた土の匂いがする。彼の心には、かすかな不安感が芽生えていた。この場所は、これまで訪れたどの町とも異なり、明確な危険の匂いがした。


「ゼフィロス! そろそろ腹減っただろうが! 飯にしろ!」


ルナの声が、馬車の中に響き渡った。彼女の食欲は、どんな不穏な雰囲気にも揺らぐことがなかった。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしも、そろそろお腹が空いてまいりましたわ! 今日の昼食は、わたくしの美貌に相応しい、上品で繊細な料理でよろしくってよ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で、食事の催促をした。


ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、もう何も感じない。彼は、もはや思考を伴わず、ただひたすらに食事の準備を続ける機械と化していた。


馬車の中には、商都バザールで補充したばかりの、大量の食料が積まれていた。ルナは、それらの食料の中から、燻製肉の塊と、固いパンを取り出した。


「フン、こんな山奥じゃ、こんなもんが精々か。まぁ、美味いなら食ってやるよ」


ルナは、そう言いながら、豪快に肉を齧り付いた。肉汁が口いっぱいに広がり、彼女は満足げな唸り声を上げる。


「おーっほっほっほっ! ルナ、あなたのような野蛮な食べ方では、わたくしの魔力が濁ってしまいますわ! ゼフィロス、わたくしには、この商都バザールで手に入れた、最高級のドライフルーツと、甘い菓子を用意なさいませ!」


ルクリアは、肉を食べるルナを見て、顔をしかめた。彼女は、優雅にドライフルーツを口に運び、それに続く菓子を丁寧に味わっていた。彼女は、一口食べるごとに、詩的な言葉でその味を表現し、高笑いを響かせた。


「うるせぇな! 美味いもんは美味いんだよ! てめぇの能書きはいいから、さっさと食え!」


二人の言い争いは、再び馬車の中に響き渡った。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに食事の準備を続ける。彼の胃は、もはや何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。


旅は順調に進み、午後になると、遠くの地平線に、巨大な城のシルエットが見えてきた。その城は、岩山の上にそびえ立ち、周囲の風景に溶け込むかのように、鈍い灰色をしている。城の周囲には、小さな村の建物が点々と見える。しかし、その村は、まるで時が止まったかのように、不気味なほど静まり返っていた。


「おお! あれが『古城の村ロックフォール』か! やっと着いたぜ!」


ルナは、馬車の窓から身を乗り出し、興奮したように叫んだ。彼女の瞳は、古城の歴史と、そしてそこにあるかもしれない新しい「獲物」への期待で、キラキラと輝いている。


「おーっほっほっほっ! なんて歴史を感じさせる古城でしょう! まるで、わたくしの美貌が、この古城の歴史に刻まれるかのようですわ! ゼフィロス、わたくしの写真を撮りなさいませ!」


ルクリアは、扇子を広げ、古城の風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして古城の神秘への期待が浮かんでいる。


ゼフィロスは、古城の村ロックフォールを見て、わずかな安堵の息を漏らした。彼の胃は、町の景色を前に、ほんの少しだけ痛みが和らいだ気がした。しかし、彼の心には、新たなトラブルへの予感と、そして王室への請求額が増えることへの絶望が入り混じっていた。


馬車が村へと近づくと、村の様子が次第に明らかになってきた。村は、古城の麓に位置しており、石造りの家々が並んでいる。しかし、町の活気は、これまでの旅で訪れたどの町とも異なり、異常なほど静まり返っていた。人影はほとんどなく、まるでゴーストタウンのようだ。窓は固く閉じられ、そこからは何の音も聞こえてこない。


「ゼフィロス……この村、おかしくねぇか?」


ルナは、馬車の窓から外の風景を眺めながら、不審そうに呟いた。彼女の表情には、美食への期待よりも、警戒の色が濃く浮かんでいた。彼女の金色の髪が、風になびいて揺れる。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! あの方たちは、わたくしの美貌に魅せられて、わたくしを歓迎するために、静かに並んでいるのかしら!」


ルクリアは、呑気に高笑いを響かせた。彼女は、村の異常な静けさには全く気づいていないようだった。


「ルナ様、ルクリア様……この村は、何か異変が起きているようです……」


ゼフィロスは、そう呟くと、手綱を握る御者に指示を出し、速度を落とさせた。彼の心臓は、薄暗い霧の中で、ドクドクと音を立てていた時と同じように、強く鼓動していた。彼は、これまでの町で経験してきたトラブルの予感と、そして新たな事件の匂いを敏感に感じ取っていた。


馬車が村の入口に差し掛かると、突如として、馬車の前方に巨大な影が現れた。その影は、ゆっくりと実体を帯び、やがて、恐ろしい姿の怪物が現れた。その体は、漆黒の鱗に覆われ、鋭い爪と牙を持つ。瞳は血のように赤く輝き、頭からは、ねじれた角が生えている。背中からは、巨大な蝙蝠のような翼が生え、その翼が、風を切る音を立てる。その存在感は、村全体の空気を一変させるほどだった。


「なっ……なんだ、あれは!?」


ゼフィロスは、その怪物の姿を見て、恐怖で凍り付いた。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、絶望で震え上がっていた。


「おーっほっほっほっ! なんて醜い姿ですこと! まるで、わたくしの美貌とは対極に位置する存在ですわね!」


ルクリアは、怪物の姿を見ても、顔色一つ変えずに高笑いを響かせた。しかし、彼女の声には、わずかに緊張の色が混じっている。彼女は、扇子を広げ、警戒しながら怪物の姿を見つめている。


「ちっ、こんなとこで面倒なやつに遭遇しやがって……。てめぇ、何者だ! あたし様の邪魔をするんじゃねぇ!」


ルナは、怪物の姿を見ても、怯むことなく、むしろ挑戦的な笑みを浮かべた。彼女の掌から、紫色の魔力の光が集中し始める。その光は、怪物の漆黒の鱗に反射し、不気味な光を放つ。


怪物は、ルナの言葉に反応することなく、ゆっくりと口を開いた。その口から、低く、重苦しい声が響き渡った。その声は、まるで地の底から響いてくるかのようで、ゼフィロスの全身を震わせた。


「我が名は……純魔族ピュア・デーモン、『影の支配者』ヴォルグ……。我が領域を侵す愚かな人間よ……。貴様らの命、ここで終わりとする……!」


ヴォルグは、そう言い放つと、巨大な爪を振り上げた。その爪は、空気を切り裂くような鋭い音を立てる。ゼフィロスは、その光景を前に、もはや何も考えられなかった。彼の胃は、絶望の淵に沈んでいた。


「純魔族だと!? 面白ぇ! てめぇのその醜いツラを、あたし様の爆裂魔法でぶっ飛ばしてやるぜ!」


ルナは、そう言い放つと、迷うことなくヴォルグへと向かって、紫色の稲妻を放った。それは、まるで生き物のように蠢きながら、ヴォルグへと襲いかかった。


「おーっほっほっほっ! ルナ! わたくしの美しき氷晶魔法で、あの醜い魔族を、一瞬で凍りつかせて差し上げますわ! わたくしの美しき氷晶魔法に、酔いしれるがよいのですわ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で胸を張り、白い光を放った。それは、凍てつく氷の刃のように、ヴォルグへと突き進む。その光は、ヴォルグの漆黒の鱗に当たり、カキンと音を立てた。


ルナの紫色の稲妻と、ルクリアの白い氷の刃は、ヴォルグの体に命中した。しかし、ヴォルグの体はびくともしない。漆黒の鱗は、魔法の攻撃を弾き返し、まるで無傷であるかのように見えた。


「フン……。人間如きが、この我に傷を負わせられるとでも思ったか……?」


ヴォルグは、低い声で嘲笑った。その赤い瞳は、侮蔑の色を帯びている。


「なっ……なんだと!?」


ルナの顔から、一瞬にして笑顔が消えた。彼女の攻撃が通用しなかったことに、驚きと苛立ちを覚えているようだった。


「おーっほっほっほっ! なんて頑丈な体ですこと! ですが、わたくしの魔力は、このような下等な存在にも通用しないとでもおっしゃるのですか!?」


ルクリアもまた、普段の余裕が消え去り、焦りの表情を浮かべた。彼女の氷の刃が通用しなかったことに、プライドが傷つけられたかのようだった。


「ゼフィロス! てめぇ、あいつの弱点はねぇのか!? さっさと調べろ!」


ルナは、ゼフィロスに怒鳴りつけた。ゼフィロスは、恐怖で震える体で、震える手で魔物図鑑を取り出した。ページをめくる手が、まるで震える老人のようだった。


「は、はい! 純魔族ヴォルグ……弱点……弱点……!」


彼の視線は、魔物図鑑の文字を追う。しかし、純魔族に関する記述は、ほとんど存在しない。それは、純魔族がこの世界にほとんど存在しない、あるいはその存在自体が秘匿されていることを示唆していた。


「あった! こ、これです! 純魔族は、物理攻撃には非常に強いですが、精神的な攻撃には弱いとされています! 特に、憎悪や絶望といった負の感情が、純魔族の力を増幅させますが、逆に、強い希望や愛といった正の感情をぶつけることで、その力を弱めることができると……!」


ゼフィロスは、震える声で読み上げた。彼の脳裏には、ルナとルクリアが、希望や愛といった感情をぶつける姿が、まるで想像できないほどかけ離れたものに思えた。


「希望だとぉ!? 愛だとぉ!? そんなもん、あたし様が持ってるわけねぇだろうが! ゼフィロス、てめぇ、ふざけてんのか!?」


ルナは激怒し、ゼフィロスをにらみつけた。彼女の掌から、再び紫色の魔力の光が集中し始める。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! なんて無責任な情報を! わたくしは、愛を振りまくのは得意ですわ! しかし、この醜い魔族に、愛など注げるわけがありませんわ!」


ルクリアもまた、顔をしかめてゼフィロスをにらみつけた。彼女は、ヴォルグの醜さに、純粋な嫌悪感を感じているようだった。


その間にも、ヴォルグは再び巨大な爪を振り上げた。その爪は、馬車へと向かって振り下ろされる。


「くそっ! やるしかねぇか!」


ルナは、そう言い放つと、ヴォルグへと向かって突進した。彼女の体からは、紫色の魔力が放出され、全身を包み込む。それは、まるで魔力の塊が、ヴォルグへとぶつかっていくかのようだった。


「おーっほっほっほっ! ルナ! わたくしの美貌で、この魔族を魅了して差し上げますわ!」


ルクリアは、そう言い放つと、ヴォルグへと向かって、優雅な舞を踊り始めた。彼女の体からは、キラキラと輝く白い魔力の光が放出され、まるで光の粉が舞い散るかのようだった。その光は、ヴォルグの周囲を取り囲む。


ルナは、ヴォルグの体に体当たりした。彼女の体から放出された紫色の魔力が、ヴォルグの体にまとわりつく。その魔力は、ヴォルグの漆黒の鱗に亀裂を入れ始めた。


「ぐっ……! な、なんだ、この力は……!?」


ヴォルグは、呻き声を上げた。ルナの魔力は、物理的な攻撃力を伴うだけでなく、その触れたもの全てを内側から破壊するような、特殊な性質を持っていた。それは、彼女の感情が暴走すればするほど、その破壊力を増すものだった。


「フン! あたし様の破壊衝動は、てめぇごときには理解できねぇだろうがな!」


ルナは、そう言い放つと、さらに魔力を集中させた。彼女の全身から、稲妻が迸り、ヴォルグの体を焼き尽くす。


その間にも、ルクリアの光の舞が、ヴォルグの周囲を取り囲んでいた。その光は、ヴォルグの視界を遮るだけでなく、その精神を揺さぶるような効果を持っていた。


「くっ……! この光は……! わ、我が精神が……!」


ヴォルグは、苦悶の表情を浮かべた。ルクリアの魔法は、直接的な攻撃力こそ低いものの、相手の精神に干渉し、その力を弱める効果を持っていた。そして、彼女の自信と、自らの美しさへの確信が、その魔力をさらに増幅させていた。


「おーっほっほっほっ! ルナ! わたくしの美しき光の舞で、この醜い魔族を、さらに弱体化させて差し上げますわ!」


ルクリアは、高笑いを響かせながら、さらに優雅に舞い続けた。彼女の舞は、ヴォルグの精神を蝕み、その動きを鈍らせていく。


ルナは、その隙を見逃さなかった。彼女は、渾身の力を込めて、ヴォルグの体に紫色の稲妻を叩き込んだ。


爆裂撃滅弾バースト・エクリプス!!!」


ルナの叫びと共に、紫色の稲妻がヴォルグの体に直撃した。その瞬間、爆発的なエネルギーが放出され、ヴォルグの体は、大きく吹き飛ばされた。漆黒の鱗が飛び散り、血しぶきが舞い上がる。ヴォルグの体は、地面に叩きつけられ、大きな土煙が上がった。


土煙が晴れると、そこには、巨大なクレーターができており、ヴォルグの体は、その中央で横たわっていた。漆黒の鱗は剥がれ落ち、そこからは、ドス黒い血が流れ出ている。その赤い瞳は、もはや輝きを失っていた。


「ハッ! こんなもんか。純魔族とやらも、あたし様の爆裂魔法には敵わねぇな!」


ルナは、そう言い放つと、満足げに鼻を鳴らした。彼女の顔には、強敵を打ち破ったことへの達成感と、そしてどこか、物足りなさのようなものが混じっていた。


「おーっほっほっほっ! ルナ! わたくしの美しき光の舞がなければ、あなたもここまで苦戦したことでしょうに! やはり、わたくしの存在は、この世界に不可欠ですわ!」


ルクリアは、優雅に扇子を閉じ、高笑いを響かせた。彼女の顔には、自らの活躍に満足しているかのような表情が浮かんでいた。


ゼフィロスは、その光景を呆然と見つめていた。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、ただただ虚無感に満ちていた。彼は、この二人の女性が、一体どれほどの破壊力を持っているのか、改めて思い知らされた。そして、この旅の終焉を、心から願っていた。


ヴォルグを倒した後、ルナたちは古城へと足を踏み入れた。城の中は、ひんやりとしており、湿った空気が漂っていた。長い間、人の手が入っていないのか、蜘蛛の巣があちこちに張られ、埃が積もっていた。


「ちっ、汚ねぇな。こんなとこに、娘たちが閉じ込められてるのかねぇ?」


ルナは、不機嫌そうな顔で呟いた。彼女は、城の奥へと足を踏み入れた。


城の奥深くには、巨大な広間があった。そこには、薄暗い光が差し込み、中央には、奇妙な祭壇が置かれている。祭壇の上には、数人の少女たちが横たわっていた。彼女たちは、顔色が悪く、生気が感じられない。しかし、まだ息はしているようだった。


「やはり、ここに閉じ込められていたか」


ルナは、そう呟くと、少女たちへと近づいた。彼女の表情は、いつになく真剣だった。


「おーっほっほっほっ! なんて哀れな娘たちですこと! わたくしの美貌の輝きで、この娘たちを癒して差し上げますわ!」


ルクリアは、優雅に少女たちに近づき、掌から白い光を放った。その光は、少女たちの体にまとわりつき、彼女たちの顔色が、少しずつ回復していく。


「ゼフィロス! こいつらを早く保護しろ! そして、こいつらが何者なのか、詳しく聞き出せ!」


ルナは、ゼフィロスに指示を出した。ゼフィロスは、震える手で、少女たちを一人ずつ抱きかかえ、安全な場所へと移動させた。


少女たちの話を聞くと、彼らは、純魔族ヴォルグによって、この古城へと連れてこられたことが分かった。ヴォルグは、彼女たちの生気を吸い取り、自身の力を増幅させていたという。そして、王都の貴族の娘たちも、同じように連れてこられていたことが判明した。


「なるほどな……。やっぱり、あいつが原因だったか」


ルナは、そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、事件の真相を解き明かしたことへの満足感が浮かんでいる。


「おーっほっほっほっ! やはり、わたくしたちの美貌と才覚があれば、どんな難事件でも解決できますわね!」


ルクリアは、高笑いを響かせた。彼女の顔には、自らの活躍に満足しているかのような表情が浮かんでいた。


古城の村ロックフォールに、ようやく朝の光が差し込み始めていた。夜半の激戦で荒れた村の入り口は、まだ生々しい戦闘の痕跡を残している。ゼフィロスの胃は、昨夜の激痛が嘘のように鎮まっていたが、それは単に痛覚が麻痺しただけなのかもしれない。宿屋で一晩を過ごし、夜明けとともに目覚めたルナとルクリアは、再び美食への飽くなき欲求に駆られているようだった。


「ゼフィロス! 早く朝飯だ! 腹減っただろうが!」


ルナの声が、廊下から響き渡った。彼女の顔には、純魔族ヴォルグとの戦いの疲れなど微塵もなく、むしろ新たな美食への期待で、目が輝いている。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの朝食は、昨日と同じく、この村の特産品である岩塩を使った、風味豊かな肉料理と、最高級のワインでよろしくってよ! もちろん、ワインは、この古城の地下で熟成された、幻のヴィンテージに限りますわ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で廊下に現れた。彼女の言葉は、ゼフィロスの胃を再び抉る。


「は、はい! かしこまりました……」


ゼフィロスは、よろよろと食堂へと向かった。彼の胃は、もはや痛みさえ通り越して、無感情に機能していた。


朝食は、昨日と同じく、大量の料理が並べられた。ルナは、肉料理を豪快に平らげ、ルクリアは、岩塩で調理された肉料理と、古城の地下から見つけ出されたという幻のワインを優雅に味わう。二人の食欲は、昨夜の激戦など、全く頭にないかのように旺盛だった。ゼフィロスは、もはや食事をする気力もなく、ただ黙って二人を見つめていた。彼の心の中には、この旅路の終焉を願う、かすかな祈りが芽生えていた。


朝食後、ルナたちは、昨日救出した娘たちが保護されている場所へと向かった。古城の地下牢は、湿った空気が漂い、薄暗い。しかし、そこに集められた娘たちの顔には、安堵の表情が浮かんでいた。彼女たちは、まだ少し顔色が悪いが、危険な状態ではないようだった。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、わたくしの美貌とルナの武勇が、この娘たちを救い出したのですわ!」


ルクリアは、優雅に胸を張り、高笑いを響かせた。彼女の言葉は、地下牢の空気を震わせるかのようだった。


「フン、当たり前だろうが。あたし様にかかれば、こんな雑魚魔族なんて、屁でもねぇからな」


ルナは、そう言い放ち、娘たちの顔を一人ずつ確認していく。彼女の瞳は、娘たちの様子を注意深く観察していた。


ゼフィロスは、娘たち一人ひとりの身元を確認し始めた。彼の心臓は、薄暗い地下牢の空気の中で、ドクドクと音を立てていた。彼は、この事件の真実が、まだ明らかになっていないことを感じていた。


しかし、身元確認を進めるうちに、ゼフィロスは、あることに気づいた。救出された娘たちは、皆、商家の娘ばかりで、王族や貴族の娘は一人もいないのだ。彼は、商都バザールで耳にした「王都の貴族の娘たちも消えている」という噂を思い出し、胸騒ぎを覚えた。


「ルナ様、ルクリア様……恐れながら、報告がございます……」


ゼフィロスは、緊張した面持ちで二人に告げた。


「なんだ、ゼフィロス。早く言え! 次の美食の場所を探すのに忙しいんだからな!」


ルナは、不機嫌そうな顔でゼフィロスをにらみつけた。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしは、今、わたくしの美貌をさらに輝かせるための、新たな衣装を考えていますわ! わたくしの邪魔をするなど、許しませんわよ!」


ルクリアもまた、扇子を広げながら、ゼフィロスをにらみつけた。


「実は……救出された娘たちの中に、王族や貴族の娘は一人もおりません。全員、商家の娘たちでございます……」


ゼフィロスの言葉に、ルナとルクリアは、一瞬にして顔色を変えた。彼らの顔から、笑顔が消え去る。地下牢の空気が、一瞬にして凍りついたかのようだった。


「なんだと……!? 王族や貴族の娘がいねぇだと!? じゃあ、あいつは、ただの雑魚だったってことか!?」


ルナの顔には、驚きと、そして激しい苛立ちが浮かんでいた。彼女は、手強い純魔族を倒したことに、手応えを感じていたはずだ。しかし、それが単なる「雑魚」だったと知ったことで、プライドが傷つけられたかのようだった。


「おーっほっほっほっ! なんてことですのルナ! わたくしたちの美貌と武勇が、このような下等な魔族に力を費やしたというのですか! なんて無駄な時間でしたこと!」


ルクリアもまた、激しく怒り、高笑いを響かせた。彼女の顔には、純魔族ヴォルグに騙されたことへの憤りが浮かんでいる。


ゼフィロスは、二人の怒りに震えながら、震える手で魔物図鑑を再び開いた。


「は、はい! 純魔族は、階級によって力が異なります。ヴォルグは、純魔族の中でも、最も下位の階級である『兵隊』に過ぎません……。そして、その上に、さらに強力な魔族が存在すると記されております……」


ゼフィロスの言葉に、ルナとルクリアは、再び絶句した。


「なんだとぉ!? 兵隊だとぉ!? じゃあ、あたし様は、あんな雑魚に本気を出したってことか!? くっそぉぉぉぉぉぉ!」


ルナは、激しく地団駄を踏んだ。彼女の顔は、怒りで真っ赤になっている。彼女の周りの空気が、魔力で歪み始めている。


「おーっほっほっほっ! なんて屈辱ですこと! わたくしの美貌が、こんな下等な存在に力を注ぐなど、許されることではありませんわ! ゼフィロス! その強力な魔族とやらを、いますぐ特定しなさいませ! わたくしが、その醜いツラを、美しく粉砕して差し上げますわ!」


ルクリアは、優雅に扇子を閉じながら、高笑いを響かせた。彼女の瞳は、怒りの炎に燃え盛っている。


ゼフィロスは、商家の娘たちの話から、さらに情報を集め始めた。娘たちの証言は、ヴォルグがただの「兵隊」に過ぎないことを裏付けるものだった。彼女たちは、ヴォルグが、常に「主人」と呼ばれる存在の命令に従っていたと語った。そして、その「主人」は、ヴォルグよりもはるかに強力な魔力を持ち、その存在を隠すのが得意なのだという。


「なるほどな……。生気を吸い取るのは、ヴォルグの仕事で、その生気を、主人とやらに送っていたってことか……。そして、王族や貴族の娘は、もっと別の場所にいるってことだな……」


ルナは、腕組みをして、深く考え込んだ。彼女の顔には、事件の核心に近づいていることへの興奮と、そして見えない敵への警戒心が入り混じっていた。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしは、この町の娘たちの話から、ある重要な情報を手に入れましたわ! その『主人』とやらは、闇に紛れて行動することが得意で、特に新月の夜に、その姿を現すことが多いそうですわ!」


ルクリアは、優雅に扇子を広げながら、高笑いを響かせた。彼女は、情報を集めることにも、天才的な才能を発揮しているようだった。


「新月の夜、か……。なるほどな。あたし様の勘が当たったぜ。そして、その主人の目的は、単なる生気吸収だけじゃなさそうだ。王族や貴族の娘を集めているってことは、何か、もっと大きな目的があるはずだ……」


ルナは、そう呟くと、ニヤリと口角を吊り上げた。彼女の瞳には、新たな「獲物」を見つけたかのような、狩人のような光が宿っていた。この見えない敵は、ルナにとって、これまでで最も手強い「獲物」となるだろう。


「よし! ゼフィロス! 次の目的地だ! 王族や貴族の娘たちが最後に目撃された場所はどこだ!?」


ルナは、ゼフィロスに指示を出した。彼女の顔には、事件解決への強い決意が浮かんでいた。


「は、はい! 調べたところ、最後に王族や貴族の娘が目撃されたのは、王都の北に位置する、『聖なる森のエルフの里』でございます! そこは、精霊の力が宿る場所として知られており、かつては、王族や貴族が、休暇で訪れる場所でもありました……」


ゼフィロスは、震える声で答えた。彼の心臓は、新たな危険を予感して、激しく鼓動していた。聖なる森のエルフの里……そこには、一体何が待ち受けているのだろうか。そして、彼の胃袋は、この旅の果てに、一体どうなってしまうのだろうか。


古城の村ロックフォールを後にして、馬車は『聖なる森のエルフの里』へと向かった。道は、これまでとは異なり、鬱蒼とした森の中へと続いていた。木々は、背が高く、太陽の光はほとんど届かない。空気はひんやりとして、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。


「ちっ、なんだか鬱陶しい森だな。こんなところで、美味いもんがあるのかねぇ?」


ルナは、馬車の窓から外の景色を眺めながら、不機嫌そうな顔で呟いた。彼女の顔には、美食への期待よりも、森の暗さに苛立っている様子が伺える。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! この神秘的な森が、わたくしの美貌をさらに引き立ててくれますわ! まるで、わたくしがこの森の精霊であるかのように、輝きを放っていますわね!」


ルクリアは、扇子を広げ、神秘的な森の風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そして森の神秘への期待が浮かんでいる。


「うるせぇな! てめぇの高笑いが、せっかくの神秘的な雰囲気を台無しにしてるだろうが!」


ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。二人の口論は、もはや旅の日常風景と化していた。


ゼフィロスは、二人の口論を聞きながら、静かに景色を眺めていた。森の奥深くへと進むにつれて、空気は澄み切っていき、鳥のさえずりが心地よく聞こえてくる。地面には、苔が絨毯のように広がり、木々の間からは、かすかな光が差し込んでいた。彼の心には、わずかな安堵感が芽生えていた。しかし、同時に、この神秘的な森の奥に、新たな危険が潜んでいるのではないかという不安も感じていた。


「ゼフィロス! そろそろ腹減っただろうが! 飯にしろ!」


ルナの声が、馬車の中に響き渡った。彼女の食欲は、どんな神秘的な雰囲気にも揺らぐことがなかった。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしも、そろそろお腹が空いてまいりましたわ! 今日の昼食は、わたくしの美貌に相応しい、上品で繊細な料理でよろしくってよ!」


ルクリアもまた、優雅な仕草で、食事の催促をした。


ゼフィロスは、深いため息をついた。彼の胃は、もはや何も感じない。彼は、もはや思考を伴わず、ただひたすらに食事の準備を続ける機械と化していた。


馬車の中には、商都バザールで補充したばかりの、大量の食料が積まれていた。ルナは、それらの食料の中から、燻製肉の塊と、焼きたてのパンを取り出した。


「フン、こんな森の中じゃ、こんなもんが精々か。だが、美味いなら食ってやるよ」


ルナは、そう言いながら、豪快に肉を齧り付いた。肉汁が口いっぱいに広がり、彼女は満足げな唸り声を上げる。


「おーっほっほっほっ! ルナ、あなたのような野蛮な食べ方では、わたくしの魔力が濁ってしまいますわ! ゼフィロス、わたくしには、この森で採れる、珍しいキノコを使ったスープと、甘いベリーを用意なさいませ!」


ルクリアは、肉を食べるルナを見て、顔をしかめた。彼女は、優雅にキノコのスープを口に運び、それに続くベリーを丁寧に味わっていた。彼女は、一口食べるごとに、詩的な言葉でその味を表現し、高笑いを響かせた。


「うるせぇな! 美味いもんは美味いんだよ! てめぇの能書きはいいから、さっさと食え!」


二人の言い争いは、再び馬車の中に響き渡った。ゼフィロスは、その喧騒の中で、ただひたすらに食事の準備を続ける。彼の胃は、もはや何も感じない。ただ、漠然とした疲労感だけが、彼の全身を支配していた。


聖なる森の奥深くへと馬車が進むにつれて、ゼフィロスの胃は、これまで感じたことのない、鉛のような重さに襲われた。それは、物理的な痛みではなく、心臓の奥底から込み上げてくるような、不穏な予感だった。森の空気は、徐々に冷たく、そして重くなり、鼻腔を突き刺すような、奇妙な腐敗臭が漂い始めた。


「ちっ、なんだこの匂いは。気分が悪くなるぜ……。エルフの里ってのは、もっと清らかな場所なんじゃねぇのかよ?」


ルナは、馬車の窓から外の景色を眺めながら、不機嫌そうな顔で呟いた。彼女の顔には、苛立ちと、そしてどこか不快感が浮かんでいる。彼女の金色の髪も、森の淀んだ空気の中で、心なしかくすんで見える。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! この淀んだ空気が、わたくしの美貌をさらに際立たせてくれますわ! まるで、わたくしがこの森の瘴気を浄化する女神であるかのようですわね!」


ルクリアは、扇子を広げ、澱んだ森の風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そしてどこか不穏な雰囲気を楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。しかし、彼女の言葉は、森の瘴気に吸い込まれるかのように、どこか虚しく響いた。


「うるせぇな! てめぇの高笑いが、せっかくの不気味な雰囲気を台無しにしてるだろうが!」


ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。二人の口論は、もはや旅の日常風景と化していたが、この森の空気の中では、どこか滑稽に聞こえた。


ゼフィロスは、二人の口論を聞きながら、静かに景色を眺めていた。木々は、生命力を失ったかのように黒ずみ、地面には、枯れ葉が厚く積もっている。森の奥へと進むにつれて、太陽の光はほとんど届かなくなり、あたりは薄暗い闇に包まれていった。空気はひんやりとして、どこか乾いた土の匂いがする。彼の心には、明確な不安感が芽生えていた。この場所は、エルフの里というよりは、まるで死の森のようだった。


馬車は、森の奥深くへと進んでいった。しかし、エルフの里に到着するはずの場所には、何もない。あるのは、濃い瘴気と、生命の気配が全くしない荒れ果てた森だけだった。


「なっ……なんだ、これは!? エルフの里はどこだ!?」


ルナは、馬車から飛び降り、周囲を見回した。彼女の顔には、驚きと、そして激しい苛立ちが浮かんでいる。瘴気に包まれた森は、まるで生き物のように、不気味なうねりを上げていた。


「おーっほっほっほっ! なんてことですの! わたくしの美貌を歓迎するはずのエルフたちが、一人も見当たりませんわ! まるで、この森が、わたくしに歓迎を拒んでいるかのようですわ!」


ルクリアもまた、馬車から降り、周囲を見回した。彼女の顔には、純粋な驚きと、そしてどこか不満げな表情が浮かんでいる。


ゼフィロスは、震える手で、魔物図鑑を再び開いた。彼の脳裏には、嫌な予感がよぎっていた。


「は、はい! 聖なる森のエルフの里は、かつては精霊の力が宿る場所として知られており、常に清らかな空気に満たされていました……。しかし、もし瘴気で包まれているとすれば……それは、非常に危険な状態にあることを示唆しています……」


ゼフィロスは、震える声で読み上げた。彼の視線は、魔物図鑑の文字を追う。瘴気に包まれた森……それは、精霊の力が失われ、闇の力が森を支配していることを意味していた。


「ちっ、こんなところで足止め食らってられるか! ゼフィロス! 瘴気を払う方法はねぇのか!?」


ルナは、不機嫌そうな顔でゼフィロスをにらみつけた。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの美しき光の魔法ならば、この程度の瘴気、一瞬で浄化して差し上げますわ! わたくしの魔力の輝きに、酔いしれるがよいのですわ!」


ルクリアは、自信満々に胸を張り、掌から白い光を放った。その光は、瘴気に包まれた森を照らし、わずかに瘴気を払いのける。しかし、瘴気の濃さは、彼女の魔法では、完全に払いきれるものではなかった。


「フン! なんだ、その程度の力か! てめぇの魔法じゃ、埒が明かねぇな!」


ルナは、そう言い放つと、掌から紫色の魔力の光を放った。その光は、ルクリアの光よりも強力で、瘴気を吹き飛ばしていく。しかし、ルナの魔法も、森全体を覆う瘴気を完全に払いきれるものではなかった。


「くっ……! なんてしつこい瘴気ですこと! まるで、わたくしの美貌を妬んでいるかのようですわ!」


ルクリアは、顔をしかめ、不満そうに呟いた。


「ちっ、時間の無駄だ。ゼフィロス! この瘴気を完全に払うには、どれくらい時間がかかるんだ!?」


ルナは、苛立ちながらゼフィロスに尋ねた。


「は、はい! この規模の瘴気を完全に払うには、強力な浄化魔法の使い手が、数日間は必要かと……」


ゼフィロスの言葉に、ルナとルクリアは、一瞬にして顔色を変えた。彼らの顔から、笑顔が消え去る。


「なんだとぉ!? 数日だとぉ!? そんな暇があるわけねぇだろうが! 王族や貴族の娘が、まだ見つかってねぇんだぞ!」


ルナは、激しく地団駄を踏んだ。彼女の顔は、怒りで真っ赤になっている。


「おーっほっほっほっ! なんてことですの! わたくしの美貌と才覚が、こんな無駄な時間で浪費されるなど、許されることではありませんわ! ゼフィロス! 他の道は、ないのですか!?」


ルクリアは、優雅に扇子を閉じながら、高笑いを響かせた。彼女の瞳は、怒りの炎に燃え盛っている。


聖なる森の奥深くへと馬車が進むにつれて、ゼフィロスの胃は、これまで感じたことのない、鉛のような重さに襲われた。それは、物理的な痛みではなく、心臓の奥底から込み上げてくるような、不穏な予感だった。森の空気は、徐々に冷たく、そして重くなり、鼻腔を突き刺すような、奇妙な腐敗臭が漂い始めた。


「ちっ、なんだこの匂いは。気分が悪くなるぜ……。エルフの里ってのは、もっと清らかな場所なんじゃねぇのかよ?」


ルナは、馬車の窓から外の景色を眺めながら、不機嫌そうな顔で呟いた。彼女の顔には、苛立ちと、そしてどこか不快感が浮かんでいる。彼女の金色の髪も、森の淀んだ空気の中で、心なしかくすんで見える。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス、ご覧なさい! この淀んだ空気が、わたくしの美貌をさらに際立たせてくれますわ! まるで、わたくしがこの森の瘴気を浄化する女神であるかのようですわね!」


ルクリアは、扇子を広げ、澱んだ森の風景を背景に、優雅にポーズを決めた。彼女の顔には、美への飽くなき探求心と、そしてどこか不穏な雰囲気を楽しんでいるかのような表情が浮かんでいる。しかし、彼女の言葉は、森の瘴気に吸い込まれるかのように、どこか虚しく響いた。


「うるせぇな! てめぇの高笑いが、せっかくの不気味な雰囲気を台無しにしてるだろうが!」


ルナは、不機嫌そうな顔でルクリアをにらみつけた。二人の口論は、もはや旅の日常風景と化していたが、この森の空気の中では、どこか滑稽に聞こえた。


ゼフィロスは、二人の口論を聞きながら、静かに景色を眺めていた。木々は、生命力を失ったかのように黒ずみ、地面には、枯れ葉が厚く積もっている。森の奥へと進むにつれて、太陽の光はほとんど届かなくなり、あたりは薄暗い闇に包まれていった。空気はひんやりとして、どこか乾いた土の匂いがする。彼の心には、明確な不安感が芽生えていた。この場所は、エルフの里というよりは、まるで死の森のようだった。


馬車は、森の奥深くへと進んでいった。しかし、エルフの里に到着するはずの場所には、何もない。あるのは、濃い瘴気と、生命の気配が全くしない荒れ果てた森だけだった。


「なっ……なんだ、これは!? エルフの里はどこだ!?」


ルナは、馬車から飛び降り、周囲を見回した。彼女の顔には、驚きと、そして激しい苛立ちが浮かんでいる。瘴気に包まれた森は、まるで生き物のように、不気味なうねりを上げていた。


「おーっほっほっほっ! なんてことですの! わたくしの美貌を歓迎するはずのエルフたちが、一人も見当たりませんわ! まるで、この森が、わたくしに歓迎を拒んでいるかのようですわ!」


ルクリアもまた、馬車から降り、周囲を見回した。彼女の顔には、純粋な驚きと、そしてどこか不満げな表情が浮かんでいる。


ゼフィロスは、震える手で、魔物図鑑を再び開いた。彼の脳裏には、嫌な予感がよぎっていた。


「は、はい! 聖なる森のエルフの里は、かつては精霊の力が宿る場所として知られており、常に清らかな空気に満たされていました……。しかし、もし瘴気で包まれているとすれば……それは、非常に危険な状態にあることを示唆しています……」


ゼフィロスは、震える声で読み上げた。彼の視線は、魔物図鑑の文字を追う。瘴気に包まれた森……それは、精霊の力が失われ、闇の力が森を支配していることを意味していた。


「ちっ、こんなところで足止め食らってられるか! ゼフィロス! 瘴気を払う方法はねぇのか!?」


ルナは、不機嫌そうな顔でゼフィロスをにらみつけた。


「おーっほっほっほっ! ゼフィロス! わたくしの美しき光の魔法ならば、この程度の瘴気、一瞬で浄化して差し上げますわ! わたくしの魔力の輝きに、酔いしれるがよいのですわ!」


ルクリアは、自信満々に胸を張り、掌から白い光を放った。その光は、瘴気に包まれた森を照らし、わずかに瘴気を払いのける。しかし、瘴気の濃さは、彼女の魔法では、完全に払いきれるものではなかった。


「フン! なんだ、その程度の力か! てめぇの魔法じゃ、埒が明かねぇな!」


ルナは、そう言い放つと、掌から紫色の魔力の光を放った。その光は、ルクリアの光よりも強力で、瘴気を吹き飛ばしていく。しかし、ルナの魔法も、森全体を覆う瘴気を完全に払いきれるものではなかった。


「くっ……! なんてしつこい瘴気ですこと! まるで、わたくしの美貌を妬んでいるかのようですわ!」


ルクリアは、顔をしかめ、不満そうに呟いた。


「ちっ、時間の無駄だ。ゼフィロス! この瘴気を完全に払うには、どれくらい時間がかかるんだ!?」


ルナは、苛立ちながらゼフィロスに尋ねた。


「は、はい! この規模の瘴気を完全に払うには、強力な浄化魔法の使い手が、数日間は必要かと……」


ゼフィロスの言葉に、ルナとルクリアは、一瞬にして顔色を変えた。彼らの顔から、笑顔が消え去る。


「なんだとぉ!? 数日だとぉ!? そんな暇があるわけねぇだろうが! 王族や貴族の娘が、まだ見つかってねぇんだぞ!」


ルナは、激しく地団駄を踏んだ。彼女の顔は、怒りで真っ赤になっている。


「おーっほっほっほっ! なんてことですの! わたくしの美貌と才覚が、こんな無駄な時間で浪費されるなど、許されることではありませんわ! ゼフィロス! 他の道は、ないのですか!?」


ルクリアは、優雅に扇子を閉じながら、高笑いを響かせた。彼女の瞳は、怒りの炎に燃え盛っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ