第34話 高橋プロデュースの動画で世論大逆転!
「こんばんわ! ゆず希です! 今日はいつものバトル中心の探索とは少し趣向を変えて、コボルト族の隠れ家に潜入生配信します!」
ドローンカメラに笑顔を振りまきながら、ゆず希はコボルト族の集落がある洞窟の中へ足を踏み入れた。
コメント欄は瞬く間に賑わい始める。
”ゆず様! 本当に大丈夫ですか? 危ないです!”
”そうです亜人は危険な化け物です!”
「コボルト族は狼のみたいな怖い顔してるけど、日本のアニメが大好きなオタクの亜人だって言うのは、皆知ってる有名なことですよね。でも、どれだけアニメが好きなのか、どんなグッズを集めているのかはまだ知られていません。なので今回はそれを探るべく直接会いに行きたいと思います! レッツゴー!」
”すみません、知りませんでした”
”本当に有名なんですか?”
”化け物に日本のアニメの素晴らしさが分かるはずありません”
コメント欄が更に賑わう中、ゆず希は恐ろしい顔でカメラを睨みつけた。
「うっさいわねえ! コボルトがアニメ大好きなのは誰でも知ってる有名なことなのよ! 少なくともアタシの中では有名なの! だから世界中でも有名なの! あとさっきから亜人ヘイトほざいてる奴、マジウザいから死んで!」
コメント欄は、一気に静まり返ったが、ゆず希は気にすることなく洞窟の奥へと足を進める。
洞窟の奥へ進むと、アニメのポスターが壁一面にびっしりと貼られ、沢山のフィギュアが丁寧並べられたオタクの聖地のような光景がカメラに映し出された。
「わぁ、もう入り口からすでに圧巻のグッズコレクション! 皆さん、見てください! これ全部、彼らの宝物なんですよ!」
ゆず希が大げさなリアクションをとると同時に、コメント欄は再び盛り上がる。
”すごい、本当にオタクだ!”
”嘘みたいな光景だけど、何か親近感が湧く”
”これが亜人の趣味なんて信じられない!”
「皆さん驚いてますね! 私も話には聞いてましたが、実際見るとビックリです! では、私が普段の仕事でお世話になっている特別ゲストを紹介します! コボルト族の族長のガルムさんです!」
ゆず希が紹介すると同時に、威厳あるコボルトがカメラに映し出された。
「よく来たな!俺たちは、アニメを通じて日本の文化に心から感謝してるんだ。アニメは俺たちに人生を教えてくれた!」
「素晴らしい!ガルムさん、早速ですが、どんなアニメが好きなんですか?」
「やっぱりナ〇トとかドラゴ〇ボールだな。でも最近は鬼〇の刃や僕の〇ーローアカデミ〇も最高だぜ!」
「なるほどジャ〇プ系がお好きなんですね。ジャ〇プ系漫画の良さを皆さんに改めて教えてください!」
「ジャ〇プは俺たちに勝利、努力、そして友情の大切さを教えてくれたんだ! 戦いだけじゃなく、仲間と共に生きることの大切さを教えてくれる。狼として群れで生きている俺たちにとっては正に聖典だよ!」
ガルムの熱弁に、コメント欄は盛り上がり始めた。
“友情!努力!勝利!”
”コボルトの生き様とジャ〇プの精神、相性良すぎる!”
”マジで感動した、見直したわ!”
「ところでガルムさんは原作漫画派ですか? それともアニメ派ですか?」
「アニメ派だな。俺たちコボルトは文字という文化がないからな。読める奴もいるけど、そんなのは極少数だ。その代わりにアニメは皆で熱心に見てるんだ。映像と音で伝わるから、俺たちには最高のエンタメなんだよ!」
「でもさっきジャ〇プは聖典って言ってましたよね? 文字が分からなきゃ聖典も読めないって思うんですけど」
「読み書きできる少数の仲間が、最新号や気に入った単行本をみんなに読み聞かせているんだ。そのおかげで文字を覚えた奴も少しだけだがいるな」
コボルトの識字率の向上に、日本のアニメや漫画が大きく貢献している。この事実に驚いた視聴者たちから、コメント欄に感嘆の声が上がった。
”コボルトも勉強してるなんてすごい!”
”アニメが文化を超えて繋がるってすごいことだよね”
”教育の力、恐るべし!”
コメント欄を確認しながら、ゆず希は笑顔を浮かべる。。
「皆、感動してくれてるみたいだね!」
「ありがとう! 俺たちの生活は日本人のおかげでこんなに大きく変わったんだ!」
ゆず希は頷きながらドローンカメラを操作して、集落全体を映し出した。
画面には、他のコボルトたちがアニメのTシャツを着ている姿や、スマホでアニメを視聴している姿が映し出される。
驚きと感動のコメントがさらに増えていった。
”本当にアニメがここまで浸透してるとは…”
”亜人の生活、ちょっと憧れちゃうな”
”Wi-Fiとかどうやってるんだろう?”
「Wi-Fiとかどうやってるんだろう?って、コメントがあったけど本当にどうやってんの?」
「ダンジョンでN〇Tと中〇電力関係の仕事を請け負ったことがあって、そのつながりで電気とインターネット回線を俺たちの集落にも引いてもらったんだよ! もちろん回線の使用料と電気代はきちんと払ってる。最近じゃゲーミングPCを使ってオンラインゲームにハマる奴も出てきたんだ!」
「じゃあ最後になにか、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします!」
「俺たちコボルトは、アニメを通じてたくさんのことを学んできた。俺たちの生活も変わったし、文化の交流ができた。これからも日本とアニメを通して繋がっていきたい。集落のみんなもそう思ってるさ!」
その言葉に合わせるように、集落の他のコボルトたちが、ドローンカメラの前に集まり手を振り始めた。
「日本、最高! アニメ、バンザイ!」
そう、ボルトたちは一斉に声を揃えて叫び、笑顔でカメラに向かって手を振り続けた。
”すごい、一体感あるな!”
”これだからアニメはやめられない!”
”感動した…コボルトたちがこんなに親日だったなんて!”
コメント欄は感動の声で溢れかえった。
「皆、ありがとう! 次はオーク族の日本料理を振る舞う居酒屋風の集落にお邪魔するから楽しみにしててね」
ゆず希はカメラに向かってウィンクして、配信を締めくくった。
◇
「高橋、アンタの台本通りに撮ったけど、これで良かった?」
コボルトの集落での配信が終わった後、ゆず希は高橋に電話をかけた
「ええ。バッチリでした。ありがとうございます」
「ってかさあ、コボルトの集落なんて何度も来てるから、初めての振りするの大変なんだけど」
「視聴者にとっては新鮮なんです。配信で映すのは、全国でゆずさんが初めてじゃないですか!」
「……それに、人間にとって都合のいい部分だけ切り取ってるのもどうかって思う。亜人も人間に家族殺された奴が沢山いて、複雑な感情を持ってるのに」
「まずはこっちの印象を変える必要がありますから」
「あとなんで備後市じゃなくて、日本や日本人を強調するわけ?」
「亜人ヘイトのネット世論は市外の愛国者だと自分を思い込んでいる層が一番煽ってるんですよ。だから備後市より日本に好感を持ってる事を強調する方が、効果的なんです。日本大好きをアピールする外国人の動画ってそういう層にすごく刺さるじゃないですか! それの応用です!」
「で、どうなったの?」
「配信終了後、ネット世論は反亜人ヘイトに凄い勢いで動き始めました。ゆずさんのおかげです。本当にありがとうございます!」
「……別に。私も亜人ヘイトは嫌いだし。それに高橋の役に立てるのが嬉しくて……」
「すいません、最後の言葉、耳がおかしくなって聞き間違えたみたいです。本当に申し訳ないですが、もう一度言ってもらえますか?」
「うっさいわね! なんでもないわよ!」
照れと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、ゆず希は電話を切った。




