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底辺ダンジョン配信者高橋、市長になる。  作者: 松本生花店
第2章 ダンジョンの中に企業を誘致しようとしたら面倒なのに絡まれた
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第33話 歴史的意義のある議論を初めてする高橋

「亜人との共存なんて夢物語です。市民の安全を第一に考えれば、これほど軽率なことはない!」


「いや、亜人がいなければ市の経済は回らない。市長の決断は正しい。市の未来を見据えた正しい一歩です」


「でもやり方がまずいんですよ。タイミングが悪すぎます。反発が強まることは容易に予測できたはずです」


「それぞれの立場や利害がある中で、ここまで露骨に公開したのは無策と言われても仕方がない。ダンジョンで利益を得ている者も、過去に家族を失った者もいるんです」



 全員協議会は、嵐のように白熱した。非公開ということもあり、議員たちは普段より率直に、感情をあらわにしながら自由に意見を交わしていた。

 ある者は亜人に対する嫌悪感を隠さず、家族を失った過去の経験を語りながら強く反対の意を示した。ある者は亜人の労働力を認め、共存を推進するべきだという意見を示した。

 また、進め方に対して疑問を投げかける者も多く、方向性は支持しつつも、その方法を疑問視する声も飛び交った。

 高橋は冒頭で自分の意見を述べた後は、黙って聞き役に徹した。

 今回の目的は、これまで公然とは語られなかった亜人問題に、全議員が正面から向き合い、率直に自分の考えを述べる場を作ることにある。

 だから、自分は口を挟まない方が良いと判断したからだ。


 結局、全員の意見が出揃ったが、議論は収拾がつかず、統一された結論は出せなかった。議長が時間の経過を気にしながら、終わらせようとしたところで、高橋が静かに声をかけた。


「議長、最後に一言、述べさせていただけますか?」


「どうぞ、ご発言をお願いします」


 議長に促され、高橋はゆっくりと立ち上がった。


「本日は私が貴重なお時間を頂戴し、亜人問題について皆さんと議論する機会を設けられたことに感謝申し上げます。今まで誰も触れようとしなかったこの議題を、皆さんが真正面から捉えてくれたことは、備後市にとって大変意義深いことです。ダンジョンがある自治体は、どこも当市と同じ亜人との歴史や関係を抱えています。しかしどこの自治体でも、これを議論した例はありません。国会や都道府県議会でも話題に上ることはありません。ですが、備後市では今日、この議論を始めました! この議論こそが日本の地方自治史に残る大きな一歩なのです! 皆さんは今日、その歴史的瞬間を作り上げたのです! ご協力に感謝します!」

 

 高橋の言葉が部屋に響くと、一瞬の静寂が訪れた。やがて、ぽつりぽつりと拍手が聞こえ、その音は広がり、部屋全体を包んでいった。そんな中、1人の議員が立ち上がり、口を開いた。


「すみません、確かに今日の議論は意義があるものだったと思います。ですが、今起こっている、市外からやってきた人間達によるヘイトスピーチにはどう対処されるおつもりでしょうか? 自分は亜人を受け入れらないという考えを持っていますが、あの様な行為は放置できません。一刻も早く対応していただきたいのです」


 高橋は議員を見据えながら、ニヤついた。


「良い事聞いてくれましたね。実は今日、この状況が一変することを仕込んでいるんですよ。俺の企画した事がバレちゃうと、上手くいかなくなっちゃうかも知れないんで、議事録から削除してくれるなら話しますけど、皆さんどうします?」


「では決をとります。これから市長が発言する内容を、議事録から削除することに賛成の方は挙手をお願いします」


 議長の言葉に、出席した議員全員が躊躇することなく手を上げた。


「賛成多数により、市長のこれからの発言は議事録から削除されます。なお、今回の協議に関する発言についても、匿名での議事録記載を希望する方は、後ほど申し出てください」


 高橋はニヤリと笑い、得意気に話し始めた。


「実はですね……今日のゆずさんの配信で、俺が考えたこんな企画をやってくれることになったんですよ」


 企画の全容を聞き終わった議員たちは、様々な反応を見せる。


「企画はイマイチですが、ゆず様ならなんとかしてくれると思います!」


「そんなんで大丈夫なのかよ……。まあ、他に手は無いか」


「やはり、備後市を救うにはゆず様の影響力に頼るしかないのですね……議員として無力なのが恥ずかしいです」


「企画は良いと思うが、配信するのはゆず希だろ? 余計ヘイトが広がるんじゃねえか?」


 議員たちは、各々の意見をつぶやいたが、やがて1人がため息をしてつぶやいた。


「なんかもう考えるのめんどくせえな」


「とりあえず、いい気持ちで終わるために拍手を再開しようぜ」


「そうだな。高橋市長、素晴らしい議論をさせてくれてありがとう」


(あれ? 皆に大うけして絶賛されるって思ったんだけどなあ)


 再び拍手が議会中に響き渡る中、少し苦笑いしつつも高橋は感謝の意を表した。

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