第27話 【悲報】愛護おばちゃん、人懐っこい益獣モンスターを〇してしまう
「勝手な妄想で人のこと決めつけて、ふざけんじゃないわよ!」
核心を突かれてしまったことが、よっぽど頭に来たのだろう。熊森が怒鳴り散らしながら暴れはじめた。
高橋がそれを見て、どうしたものかと考え込えていると、ポケットのスマホが鳴る。
「もしもし。お疲れ様です。……分かりました。協力します」
電話の内容はとんでもないものだった。これを、熊森に悟られる訳には行かない。
高橋は急いで電話を切り、冷静を装った。しかし、その間に状況はさらに悪化していた。
「ヒッヒイイイ! なにすんのよ!」
「うるさいわね。アンタも殺すに決まってんでしょ?」
電話に気を取られた隙に、ゆず希が剣を構え、熊森に斬りかかろうとしていた。
高橋は、慌てて間に入る。
「ちょっと、ゆずさん! 止めてください!」
「だからさっきから言ってんじゃん。分院にすぐに連れて行けば、蘇生できるから別に良いでしょ!?」
「それをしないって約束で、僕が論破したんじゃないですか!」
「別に良いじゃない! 減るもんじゃないんだし!」
高橋達は口論に夢中で、自分の事を忘れているようだ。
逃げるならば、今がチャンスかも知れない。
熊森は恐怖で震えながら、そそくさと、この場を離れた。
◇
「はぁ、はぁ……早くここから出なくちゃ……どうして私がこんな目に合わなきゃいけないのよ」
息を切らしながら走り続ける熊森の視界に、ダンジョンの出入口近くにある小屋が見えてきた。
「ふん……覚えてなさいよ。高橋! 絶対に後悔させてやるんだから!」
そう吐き捨てて小屋の横を通り過ぎようとした時、気づかぬうちに壁に埋め込まれた古びた石板に肩が当たってしまう。
石板は突如、強い光を放ち始めた。
「ええ!? いったい何が起こってるの!?」
光が熊森を包み込む。
気づくとそこには見覚えのない場所が広がっていた。
「な、な、なんのよ!? ここ!?」
周りには見慣れない植物や奇妙な景色が広がり、熊森はパニックに陥った。
その時、草むらからガサガサと不気味な音が聞こえてきた。
「だ、誰かいるの!?」
草むらの中から現れたのは、1メートルほどもある黒と紫の斑模様の外皮で覆われた、巨大なミミズのような生物だった。その不気味な姿に、熊森は恐怖する。
「な、なによこれ!?」
巨大なミミズはぬめぬめとした身体を揺らしながら、熊森の方にゆっくりと向かってきた。
「きゃあああ! こ、こっち来ないで!!」
近くに落ちていた太い木の枝を手に持ち、ミミズの頭部と思われる部分を強く殴打した。
激しい打撃を受けた巨大なミミズは、悲しげなうめき声を上げて、体をくねらせながら倒れ込んだ。
「この化け物! 化け物! 化け物!」
倒れ込んだミミズの頭を熊森は叩き続けた。ミミズはうめき声を上げながら身体をくねらせ続けた。
だが。やがて静かになり動かなくなった。
しかし安心できない熊森は頭部を完全に破壊しようと、さらに強く叩き続けた。だが、ミミズの外皮は予想以上に硬く、いくら打ちつけても表面が少しへこむ程度で、完全に破壊することはできない。
「なんで壊れないのよ! なんでよ!」
苛立ちながら熊森がさらに力を込めようとした瞬間、背後で地面が大きく揺れたような不気味な音が響く。
恐る恐る振り向くと、3メートルはあろうかという巨大なミミズが姿を現した。今までとは比べものにならないほどの大きさに、熊森は完全に固まってしまう。
「な、なんなのよ……あれ……!?」
その巨大なミミズは、明らかに怒りを感じさせるように全身をくねらせながら、倒れた小さなミミズに向かって近づいていく。そして、守るかのように体を覆いかぶせた。
「う、嘘でしょ……親……なの?」
次の瞬間、その巨大なミミズは口から紫色の粘液を吐いた。不覚にもその粘液は熊森の口内に飛び込んでしまう。
「ゲホッゲホ……なによ……こ……う!」
粘液を吐き出そうとするも、身体は急速に麻痺し、動かなくなっていった。呼吸も苦しくなり、意識はどんどん薄れていった。
◇
「こっちよ! 高橋!」
熊森がいなくなったことに気づいた2人は、すぐに周囲を探し始めた。
ダンジョンに常駐している市役所職員や探索業者も捜索に加わる中、ダンジョン観測小屋に設置された33階層の希少モンスター保護区域に通じるテレポートインフラが起動したことが判明。
迅速に状況を確認するために高橋は、最も高性能な移動速度と広域スキャン機能を持つ、ゆず希のドローンカメラを先行させた。
ドローンカメラは33階層についてすぐに、保護モンスターであるダスクワームを虐待する熊森の姿をLIVE配信で映し出した。
高橋はその姿をスマホで確認しながら、必要なスタッフを集めて遅れて現場に到着した。
「嘘……ダスクワームの子供が。なんてババアなの」
いち早く現場に駆け付けたゆず希は凄惨な光景を見て言葉を失った。
ダスクワームは不気味で恐ろしい外見だが、非常に穏やかで人懐っこい性格をしている。危害を加えない限り、人間を攻撃することはない。さらに土壌を肥沃にして、植物の成長を助ける益獣モンスターとして重宝されている。だが、個体数が少なく繁殖も難しいため、希少モンスター保護法によって厳重に保護されていた。
動かなくなった子供のダスクワームに、親ダスクワームは寄り添いながら、悲痛なうめき声をあげている。
ゆず希は、瞳を潤ませ立ちすくんだ。
”これ、どうすんだよ。マジかよ”
”普段はモンスターちゃんを守るとか言ってたのに、こいつ何やってんだ”
”ダスクワームが希少種だって知らなかったのか? 馬鹿じゃねえのか!”
”モンスター保護団体トップがこれとか、さすがに笑えねえな”
ドローンカメラを通じて、全てを見ていたゆず希のリスナー達は、コメント欄で怒りや悲しみの声を上げ始めた。
「ちょっと待ってください!」
高橋が動かなくなったダスクワームの子供に駆け寄り、その脈を確認した。
「ゆずさん、まだなんとかなるかも知れません!」
「嘘言わないで! モンスターの蘇生は分院に運んでもできないじゃない!」
「いえ、まだ死んでいません! わずかにですがまだ脈があります。モンスター治療ができる職員も一緒に来ていますから、見てもらいましょう!」
同行した職員はすぐに診療を開始した。
「今すぐ、手術をすれば助かります。分院に運んでいる時間はありません。必要な道具はありますんでここでやります。」
職員はすぐに準備を整えて、手術をし始めた。
診療結果を聞いたリスナー達は、驚きと安堵が入り混じった反応を見せた。
”まじで助けられるのか?”
”早くしろよ!もう時間がない!”
”頼むぞ……”
親ダスクワームも言葉の意味を理解したのか、こちらに攻撃をする様子もなく緊張感を保ちながら、わずかに身体を揺らしている。
それを横目で見ながら高橋は、ダスクワームの毒で絶命した熊森の遺体を担ぎ上げた。
ゆず希は高橋に複雑な視線を向ける。
「蘇生するの?」
「ええ。ゆずさんも知ってる通り、あの職員はウチの分院には勿体ないくらい優秀なモンスター獣医です。それよりも伝えた通り、この後、色々面倒くさいことがありますんで、早くこれを生き返らせます」
「高橋、今さらだけどゴメン。アンタの言うとおり先走って熊森を殺そうとしなきゃこんなことにはならなかった」
「分かってくれたらいいんです」
そう言いながら、目を潤ませるゆず希の肩をポンポンと叩いた。
(どうせいつもみたい、寝て起きたら忘れて同じことするんだろうなあ……)
高橋はダンジョン内分院に向かって歩きながら、心の中で、そう呟いた。




