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底辺ダンジョン配信者高橋、市長になる。  作者: 松本生花店
第1章 間違えて市長になったら初めてバズった
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第18話 ボコボコにされる古参議員たち

「……っと言ったことをお伺いいたします」


「執行部の答弁を求めます。政策部長」


「はい、この質問に関しては……」


 片桐の質問が終わり、高橋は一息ついていた。


(さっきの答弁で疲れたから、もう俺に質問こねえで欲しいなあ)


 そんな事を思いながら議場を眺めていると、青白い表情の職員が息を切らして議場に駆け込んできた。


「今は本会議中だぞ! 何の用だ!?」


 危機管理部の部長が厳しい表情で職員を叱責する。どうやらこの職員は危機管理部に所属しているようだ。



「い、今、観測小屋から連絡があったのですが、ダンジョン11階層でワームホールが発生しました!」


 職員の言葉を聞き、議場内が激しくざわつき始めた。

 直後、ふたばが職員に質問する。

 


「ワ、ワームホールは発生しても、11階層ならば自動結界システムで封じ込められるはずです。その作動不備があったという報告は昨日受けていません。点検はちゃんとしていたんですか?」


「結界は作動しました。ですが、現れたモンスターに破壊されたとの報告を受けています」


「ちょ、ちょっと待ってください。市が導入した自動結界システムはA級モンスターにも対応できるはずです。それでも破壊されたのですか?」


「観測小屋からは、その様に報告を受けています」


 高橋は、職員からの報告を聞きながら思考を巡らせる。


(っというとS級モンスターがワームホールを通って出て来たのか。しかし、妙だな。S級がいるような深い階層ほど、強力なモンスター同士がそれぞれのテリトリーを維持しようとするから、逆に魔力のバランスが安定する。だから、空間が歪んで破壊されるような強力な魔力の波動は発生しにくい。人の手が加わらないために、それだけダンジョン全体の環境がおかしくなっているのか?)


 いずれにしろ今は状況を把握し、迅速に対処する必要がある。


「議長、ダンジョン内で緊急事態が発生しました。対応のため、議会を中断させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


「かしこまりました。緊急事態ですので、これで中断とします。各自、速やかに対応をお願いします。再開の日程は後日連絡いたします」


 話し終えたタイミングで、ふたばが声をかけてきた。


「し、市長、市役所に緊急対策本部を設置しましょう」


「分かった。まず、被害状況の確認を急ごう。それと、市内の討伐系の仕事を生業にしているダンジョン探索業者にも協力を要請する。自衛隊にも念のため連絡を入れておいてくれ」


 ふたばと共に議場を出ようとしたとき、天地と藤吉の声が聞こえてきた。


「見ろ! 高橋の奴! 我々の許可をとらずに市のダンジョン探索業者に依頼して、公費を使おうとしているぞ!」


「キイイイ! 専決処分で予算を勝手に使うなんて、議会軽視もいいところだ!」


 災害対応での専決処分は、正当な権限の範囲内である。何期も市議をしておきながら、高橋憎しでそれを故意に無視していちゃもんをつけている天地と藤吉に、周囲の議員は皆呆れた視線を向けていた。


「だが、高橋は無能だから、判断を間違えてダンジョンでいっぱい人を殺してしまうのは間違いないだろうな。ガッハハ!」


「キヒッヒッやっとこれで、高橋は無能な人格破綻者だということが市民に露呈するので、本当に今清々しい気分です」


 この発言で、周囲の議員は皆、2人に怒りと軽蔑の視線を向け始める。

 高橋はあまりにもクズ過ぎて相手にもしたくないので、無視して議場を出た。


”藤吉と天地ここまでクズだったか”


”誰だこんな奴らに票入れたのは!”


”本当に酷い”


”クズ議員を早く辞めさせたい”


 一方、まだ繋がっていたLIVE配信のコメント欄は、この2人の余りにも酷い発言に炎上し始めた。


「ガハハ…がふッ!」


「ヒ、ヒイイイ! 何をするんだお前達、血迷ったか」


 会派、当選回数、年齢、性別、普段の主張、それぞれが異なる市議たち4、5人が天地と藤吉を取り囲み集団で鉄拳制裁を加え始めた。


「てめえら、人が死ぬかも知れねえ時に、なに言ってんだ!」


「ヒイイイ! お前達も普段は私達と一緒に高橋を批判してるじゃないか!」


「一緒にすんな。てめえらのは根拠のねえ誹謗中傷だろうが!」


「警察に連絡するぞ! 弁護士にも訴えてやる!」


「それでビビると思ってんのか!?」


「市民のために覚悟のうえでやってんだ!」


「こんな非常時に議会の品位を落とすな!」


 暴行が続く中、コメント欄はさらに加熱する。


”これは正当な制裁だ!”


”クズ議員がシバかれた瞬間”


”議会の闇が見えた”


「やめなさい!」


 片桐の声が、議場に響き渡った。


「ですが、片桐議員……」


「皆さんの気持ちはもっともです。ですが今はこんな事をしている場合でないではないと理解はしているでしょう。モンスターがダンジョンからあふれ出すかも知れません。万が一S級モンスターが市内に出てしまったら、とてつもない大災害が起こります。そうなった時のために地元の人達やそれ以外の支持者に協力を呼びかけ、避難を支援する準備をしましょう。私は災害対策本部に行き皆さんの連絡を取りまとめすので、皆さんは市民の安全確保に全力を尽くしてください」


 片桐の言葉でハッと我に返った市議たちは一斉に手を止め、各自の地元に急いで向かい始めた。

 その背中を見送った後に片桐は、災害対策本部に向かいながら先ほどのことを思い出していた。


(完敗ね……)


 自分はどこか心の中で、高橋を侮っていたのかも知れない。


(……アナタには素晴らしい首長になる素養がある。でも、そんな間違った考えで市政を運営したら、アナタの政治生命は終わってしまう。アナタのためにも私はアナタの考えを否定しなければいけない)


 そう密かに決意しながら、災害対策本部に向かって歩いて行った。

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