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終幕・2

 数年後。

 元バイガル国の王都へと戻ったアリシアとエリアスは、新たな国の統治者として国民から迎えられた。

 町には人が溢れ、以前のような活気を取り戻している。




 城内の一室で、アリシアとエリアスは地方領主からの報告書に目を通していた。


「――それにしても、冷害の原因が「氷キノコ」だったとは驚いた」


 氷キノコとは、その名の通り冷気を放つキノコの一種である。見た目も氷のように透き通っており、群落を作る性質を持つ。


「ホワイトの助言がなければ、分からないままでしたね」


 旅の途中でアリシアとエリアスはホワイトの背に乗り、辺境の隅々まで探索した。その時、氷キノコの群生地が異常拡大していることに気付いたのである。

 本来、氷キノコは人の立ち入らない山奥で育つ。繁殖能力は非常に高いが、魔獣が好んで食べるので増えることはまずない。


 しかしバイガル王が魔獣を狩り尽くした事で、群生地が広がってしまったのだ。一部は人里近くまで群生地を広げており、その冷気が農地に冷害という形で影響を及ぼしていた。


「魔獣の生態に詳しくない村人からすれば、氷キノコの冷気が作物に害を為しているなど分かるはずもないからな」


 そもそも見かけること自体まれなキノコだし、自生地は魔獣の縄張りだ。

 おまけに煮ても焼いても不味いので、食用には適さないので農民が摘み取ることもない。


 だがそんな氷キノコにも、利点はあった。ポーション師が魔術を使った調合を行えば、火傷や熱冷ましなど様々な薬になる。


 異常繁殖の報告を聞いたマリーが、氷キノコを特産品として売り出すことをすぐに思いついたのだ。

 さらには王都にポーション師の育成所を作り、自前で氷キノコを使った薬の販売までできるまでにこぎ着けたのである。


 一方エリアスは、旅の先々で他国と交渉し、氷キノコの販路を開いた。


「お陰で財政が数年前倒しで回復できたのは幸いだったね」

「……ですが私、エリアスやマリーに頼ってばかりで何もできてません」


 今でも政務関連は宰相達が担い、財務管理も専門の部署が請け負っている。なのでアリシアは、気ままに魔術の勉強を続ける日々だ。


「自分が政務に向いていないことは分かっていますが。こんなにも人任せでよいのか、申し訳なくなるんです」

「別にいいんじゃないか? 何もしていないと思い込んでいるようだけど、新たな魔術の開発は君に向いている」


 確かに召喚術以外にも、危険な魔獣を遠ざける魔術や天候を予知する魔術などを考案し実用化にこぎ着けている。

 最近は鉱山の開発用に、一点集中の爆破魔術を実演した。何も知らされず同行したマリーに叱られたけれど、成功したのに小言を言われて少しだけへこんだ。


「適材適所というだろう? それにこの国の民は、君が女王となってから安定した日々を送れるようになった。なにも特別な事をしなくても、国を思う君のような存在が必要なんだよ」

「ありがとう、エリアス」


 いつもエリアスは、アリシアを勇気づける言葉をくれる。

 彼の支えなくして、今の自分はない。


「さあ、そろそろ出かける時間だ。お祝いの言葉は憶えたかい?」

「何とか暗記したけど、緊張するわ」


 今日はヨゼフの協力を得て設立された、魔術学校の開校式だ。元バイガルでは禁止されていた魔術も今では誰しもが使用してよいことになっている。


「なんだかんだ言って、マリーも学長就任を受けてくれたのだから。やっぱりあの子は魔術が好きなのよ」

「……うん……君が突拍子もない魔術開発を止めるまで、彼女はポーション師として腕を磨き続けるだろうね」


 立ち上がったエリアスが、アリシアに手を差し伸べる。


「気をつけて、アリシア」

「大丈夫よ」


 アリシアの体には、エリアスとの子が宿っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  全て丸めてハッピーエンド。  読後がさっぱりしていて長編なのに中だるみもしない作品としてよくできているのは流石だなあと思いました。 [気になる点]  忌避感のある部分の記憶を失うのは防衛…
[一言] ん~!!! 主人公記憶喪失になったけど報われてよかった戻らなくて困ったことなんかなくてよかった 黒魔術も審判の書ってなって呪い返しなったとこなんかキャー!ってなりました。 純喫茶で美味しいコ…
[良い点] 読ませていただきました、面白かったです [一言] 最初はエリアスのこと好きじゃなかったけど それ以上に主人公が無茶するから「まぁ仕方ないか・・・」ってなってしまった マリー、お労しや・・・…
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