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財政破綻目前みたいです

(笑い事じゃありませんよ)


 勘違いを訂正しようとしたが、その前にエリアスがジェラルド医師に問う。


「レンホルム公爵はどうしている? 我が国を訪れた際、酷く混乱していたように見受けられたが」

「公爵はお戻りになってから、ずっと部屋に閉じこもってまして……昨日やっと出てきたと思えば、アリシア様に裏切られたと誰彼かまわず食ってかかる有様で。使用人達はみな怯えてます」

「たちの悪い暗示魔術をかけられた者が陥る、精神混濁の症状に似ているな」

「公爵が魔術をかけられたと、エリアスは考えているの?」

「ロワイエの国境で騒ぎを起こしたときから、疑ってはいたんだ」


 屋敷の者達は、突然出て行ったレンホルム公爵が、何の目的でどこへ向かったのかも知らされていなかった。

 帰国した公爵は一言も喋らず部屋に籠もり、同行した従者から話を聞けたものの、彼らも公爵の奇行に怯えてその日のうちに辞めてしまったのだという。


「公爵の件は、大体予想が付いた。では国庫はどうなっているか分かりますか?」

「それが、マレク王子は農民に配る余裕はないと仰るのですが……毎晩豪華な夜会を開いているので、食料はそちらに使われているようです。隣国から穀物を買い付ける話も出たようですが、あれこれ理由を付けて引き延ばしていると……」


 ジェラルドは宮廷医の立場を使い、王に近い貴族達から様々な噂を聞いていた。


「信じられないとは思いますが。国庫はかなり厳しい状況にあるようです。このままでは国の財政が破綻しかねないと、宰相は悩んでおられました」

「マレク王子もダニエラも、自身の立場を理解していないのね」


 アリシアはため息を吐く。

 国王不在の今、国政を担うのはマレクだ。王都の荒れ具合からして、地方の領主達から窮状を訴える書簡が届いている筈である。


 いや、そんな陳情がなくともここ数年の冷害を知っているなら、何かしら手を打つべきだ。


「それでも危機感を持たないという事は、つまり補填するあてがあるということでしょうか」


 いくら豪華な夜会を毎晩開いても、こんな短期間で国庫が傾くなどあり得ない。

 ラサの密偵が調べたところ、軍にかなりの金が流れていると分かった。


「やはり他国に侵攻するつもりだな。領地を奪ってしまえば、買い付ける必要も無くなる」


 なにかの間違いであってほしい。もし密偵の言葉が正しかったとしても、マレクは正しい道を選ぶだろう。

 そうアリシアは思っていたが、そんな悠長に構えていられない現実を突きつけられる。


「アリシア、覚悟を決めてほしい。民を救うには君の決断が必要だ」


 エリアスの言葉に声を上げたのはマリーだった。


「お嬢様に何をさせるおつもりですか」

「マリー」

「誓約を破った国の王は、罰を受けることになる。強い魔力を持った者が宣誓書を読み上げることで、王及び加担した者全てに罰が下る」

「だったら、エリアス様でもよろしいのでは?」


 必死に訴えるマリーに、エリアスは穏やかな眼差しを向ける。

 いくら優秀なポーション師でも、マリーはアリシアのメイドに過ぎない。罰せられることを覚悟で主人を守ろうとするマリーに、アリシアは彼女の手を取り首を横に振る。


「ありがとうマリー。貴女の気持ちは嬉しいわ。けれどラサとバイガルを繋ぐ者として、私の力が必要なの。そうよね、エリアス」

「ああ、繋がりの深い者が唱えれば、術の効果は確実なものとなるんだ。マリー嬢。アリシアは俺が守ると約束する。どうか俺を信じて、アリシアを託してはくれないか?」


「それにラゲル王からも、頼まれたのだもの。その時から覚悟はしているわ」


 二人から諭され、マリーが涙目になる。


「では私も同行させてください! いえ、なんと言われようとお嬢様について行きます!」


 腕に縋り付くマリーに、アリシアは静かに頷いた。


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