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ダニエラ・あの女がいなくても、何も困ってませんわ


「あいつら全然使えないじゃない! なにが「裏社会に通じてる情報屋」よ。銀貨を三十枚も払ったのに!」


 報告書を読み終えたダニエラは、それを勢いよく破いて暖炉にくべた。

 賞金までかけたのに、誰もアリシアを狙わない。それどころかロワイエを中心にばらまいた手配書やゴシップ記事は、読まれることなく捨てられていると書かれていたのだ。


「まあいいわ。ちょっと怖がらせるだけのつもりだったし」


 母が酒場で働いていた頃に知り合った「親しい友人」からの紹介だったが、やはり場末の酔っ払いは当てにならないとため息をつく。


「で、公爵家の資産管理と領地の視察はどう?」

「はい。商会から派遣された会計士が滞りなく取り仕切っております。視察はエルガ男爵様の事、問題ないかと」


 淀みなく答えるメイドに、ダニエラは満足げに頷いた。


「そうね、男爵は真面目だものね。お戻りになったら、ご褒美を差し上げないと」


 意味ありげに微笑み、ダニエラはワインを持ってくるよう命じる。真っ昼間からワインを嗜む令嬢などあり得ないが、ここにはダニエラを咎める者は存在しない。

 家の一切を任されていたアリシアが屋敷を去った後、不安に狼狽える使用人達をとりまとめたのはダニエラだ。


 実際、ダニエラの指示に従えばアリシアがいなくとも全ては問題無く回ると気付いた使用人達の大半は、今ではすっかり手駒となっている。


(メイド長のティアと、医者のジェラルドは私とお母様を警戒してるけど、焦ることはないわ。それにあの二人は、使用人達を纏めるためにも必要だしね)


 ただ気になる事があった。


「アリシアったら魔術を勉強し始めたんですって。馬鹿馬鹿しい」

「そうでございますね、お嬢様――」

「なんて言うと思った? 主人の話は最後まで聞きなさい」


 同意したメイドに手にしたワインを頭からかけてやる。泣きそうに顔を歪める少女を、ダニエラは感情の無い瞳で見据えた。


「今日はそのまま仕事をなさい。このワイン、一瓶であなたの一年分のお給金なのよ。贅沢しちゃったわね」

「……ありがとうございます、お嬢様」


 深く頭を下げたメイドに、やっとダニエラが口の端を上げた。


「そうそう、召使いは素直でなくちゃ。ちょっと気分が良くなったから、面白いものを見せてあげるわ」


 そう言うとダニエラは、机の引き出しから一冊の古びた本を取り出した。


「ダニエラお嬢様、それは……!」


 年かさのメイドが気付いたらしく、青ざめた顔で口元を覆う。


「お父様には内緒よ。あの人、魔術を毛嫌いしてるからね。見つかったら燃やされちゃうもの」


 それはレンホルム家にはあるはずのない、魔術書だった。


「以前お母様が、旅の魔術師を助けたときにお礼にって頂いたの。書いてあるのは簡単な魔術ばかりで、誰でもすぐに使えるんですって」


 この話は、半分は嘘である。

 そもそもこの魔術書は、ツケを払えなくなった男から取り上げたものだ。ボロを纏った男が魔術師かどうか、今では知るよしもない。

 それだけは許してくれと泣き叫ぶ男を用心棒達が押さえつけ、盛り場の女王だった母が魔術書と使い方を教えれば料金はチャラにすると持ちかけて奪ったと聞いている。


「魔術は勉強しないと使えないって言われてるけど、そんなことないわ。お母様はすぐ使えたんだもの」


 既にこの本に書かれている魔術が簡単に使えるというのは、母が実証済みだ。


(狙った人間を衰弱させて殺す呪いは、辛気くさいあの女の母親に良く効いたわ。それにジェラルドにも呪いの魔術は見抜かれなかった)


 アリシアの母を殺したのはダニエラの母エリザだ。


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