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美味しい料理は平和の証

「師匠、マリーのこと気に入ったみたいだな」

「そうなのですか?」

「元々はポーション師として薬屋をしていたそうだ。有能なポーション師がいると知った祖父は、一目で師匠がとんでもない魔力を持っていると見抜いて城に招いた。で、祖父の口車に乗せられて、気が付いたらあれこれ役職を任されてたってことらしい」


 今後の予定を簡単に決めた後、アリシアはエリアスに誘われ一緒に遅い昼食を摂る事になった。

 一方マリーはヨゼフの強い勧めで、早速魔術学校に入学手続きに向かったのだ。

 王都を一望できるベランダで、わざわざ用意されたテーブル越しにエリアスと向かい合い、アリシアは彼の話に耳を傾けていた。


「白身魚のマリネと、薬草のサラダでございます」


 給仕が運んできた銀の皿には、薄く切られた魚が花のように盛り付けられている。サラダの薬草は見たことがなかったが、みずみずしい色合いで食欲をそそる。


「この魚は、あの海で捕れたものだよ」

「まあ」


 薄いピンクがかった白身を一切れ口に運ぶ。歯ごたえと甘さが絶妙で、アリシアは思わず頬に手を当てる。


「美味しい!」

「気に入ってもらえて良かった」


 嬉しそうに微笑むエリアスに、アリシアははしたない声を上げた事に気付いて俯いた。


「私ったら……」

「気にしてないよ。何より俺としては、自然体の君でいてほしい」


 それに今更だろ、と冗談めかして笑うエリアスに、アリシアも頷く。考えてみれば、初対面での遣り取りはお互いに失礼なものだった。


(それに今の私は、名ばかりの公爵令嬢ですものね)


 ロワイエでの療養が終わっても、国に帰るつもりはないしレンホルム家の名を使うつもりもない。けれどバイガル国の貴族名鑑には、まだアリシアの名は残っている。

 貴族名鑑からの削除は、本人が王に申し出て許可を得る必要があるのだ。


(面倒だけれど、一度は帰らないと……)


 しかし今だけは、そんな面倒ごとは頭から切り離し食事を楽しもうと切り替える。


「ロワイエの料理は美味しいですね。こちらに来て初めて食べる料理も多いですけど、全部美味しくて驚いてます」

「西側が海、東には山があってそこそこ平地もあるからな。食材は豊富なのさ。それと傭兵に出ていた者達が各国の料理を憶えて帰ってきて、自国風にアレンジしてこれらの料理ができたんだ」


 ランチと言うには豪華な料理が、次々に運ばれてくる。

 ワインで煮込まれた分厚い肉は臭みがなく、口に入れるとほろほろと蕩ける。野菜を包んだ一口サイズのクレープは、それぞれの味が調和し口の中をすっきりとさせてくれる。

 他にもスープやパイなど、盛り付け彩りも凝った料理に目を奪われた。

 どれも美味しく量もほどほどに抑えられているので、アリシアはぺろりと食べてしまう。


「――どうかしましたか?」


 デザートのタルトを食べていたアリシアは、エリアスの視線に気づいて問いかける。


「いや、君はとても幸せそうに食べるから、なんだか嬉しくてね。楽しく食事ができるのは平和な証拠だと、父上が言っていたのを思い出していたんだ」

「確かにロワイエは平和ですよね。貴族も民も、皆さんおおらかで優しくて」


 ふとバイガルでの僅かに残る記憶を思い出す。

 出立の日、見送りに来た僅かな「アリシアの大切な友人」と名乗る貴族達がいた。彼らは簡単な挨拶を済ませると、こぞってダニエラの元に行き何かしら囁いてはアリシアを指さし笑っていた。

 貴族達が何を思ってそんな行動をしたのか分からない。けれど、自分に対して悪意があることだけは理解できた。

 馬車を見送る民の表情は暗く、痩せた子どもが目立っていたことが今でも気がかりだ。



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