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忘れてますけど悲しいですね

「王家の血筋でも、全ての元素に適性のある者はごく限られております。魔力量も十分に持っていなければ、使いこなすことはできません。適性の無い王たちは、魔術を憎んだのでございます」


 王家は民から崇められなければならない存在だ。自分達より地位の低い者が易々と魔術を使いこなす姿を前にして、適性のない王たちは苛立ち恐れた。


「それって、八つ当たり……ですよね」


「その通り。そいつらからしたら、ロワイエやラサはぶっ潰したい国だろうな。けれどそんな事をすれば、お互い無傷じゃ済まない。だから手っ取り早く魔術を国から消したのさ」


 エリアスの言葉に、マリーが俯いたのをアリシアは見逃さなかった。


「マリー、何か知っているの?」

「お嬢様が忘れていることを、私が口にするのは」

「かまわないわ、教えて」


 するとマリーは両手を握りしめ、静かに語り出す。


「奥様が亡くなられて、暫くしてからの事です。お嬢様は毎晩、書庫で魔術の本を読んでおられました」

 日々勉強と公務に追われるアリシアの唯一の息抜きは、書庫で本を読むことだったとジェラルドが話してくれたのを思い出す。


「ある晩、旦那様が書庫にいるお嬢様を見つけ酷く叱責されました。そして翌日、奥様の形見でもあった魔術に関する書物を全て焼いてしまわれたのです。旦那様をお止めしようとした者は、罰としてむち打ちをされました。私はまだ幼かったので、三日間の食事抜きで済みましたが……」

「あの人、そんな酷い事をしたのね。巻き込んでごめんなさい、マリー」

「いいえ」


 アリシアの心にあるのは悲しみではなく、「アリシアという少女に起こった悲劇」に対する同情と怒りだ。ただそれ以上に、マリーを含めた心ある使用人達にも被害が及んだことが辛かった。


「君の父上を悪く言いたくないが、随分と愚かな男だ。ラサ皇国では国を出る者に、餞別として魔術書の写本を渡すのだと義姉上から聞いている。一冊で小国が買えるとさえ言われる貴重な品だ。……いや、アリシアにとっては何にも代えがたい大切な本を焼くなんて」


 まるで己が傷つけられたかのように怒ってくれるエリアスに、アリシアは胸の奥がつんと痛む。


「私、お母様と……昔の自分のためにも、絶対に完璧な魔術を習得するわ」

「それがよろしゅうございます」


 頷くヨゼフに、アリシアは目尻から零れそうになった涙をさりげなく拭いて前を向く。


「先生、続きを伺ってもよろしいですか?」

「では何故多くの国から魔術が消えたのか、感情論を抜いた視点からご説明いたします」


 ヨゼフがエリアスに視線を向けると、彼が鞘に収めた状態の剣を机に置いた。


「この剣には、炎を纏う、放つ、剣自体を一時的に炎と化す三つの魔術が施されております」

「では先程の魔術は、エリアスが呪文を唱えたわけではないのですね?」

「あー、つまりあらかじめ唱えた呪文を封じておいて、使いたいなーっと思ったときに魔力を剣に流し込むんだ」


 随分適当な説明だが、話しているエリアス本人はいたって真剣だ。


「こうした手間のかかる魔術は、事前に用意しておくことが基本なのです。ちなみにこちらの剣に施した呪文は、この本に載っております」

「……え?」


 ヨゼフが机を叩くと、薄い文庫本程の魔術書が出現した。


「あの、もしかして……これに書かれている呪文を、先程私がしたように剣を手にして唱えたのですか?」

「正解。いやー、途中で間違って二週間かかったんだ。でもって、壊れた時用に三本ほど作ったから……全部まともに扱える状態にするまで半年……だったっけ? 師匠」

「半年と十日でございます」


 マリーが剣とエリアスを交互に見つめる。


(魔術が廃れた理由、なんか分かってきたわ)


 一度魔術を施してしまえば後は魔力でどうにでもなるが、非常に非効率なのだ。


「質問、よろしいですか?」

「どうぞ」

「この剣は、炎に関する魔術しか使えないのでしょうか?」

「一応俺も全部の属性持ちだから、色々使えるけど。異なった属性を重ねる魔術は、呪文が複雑で面倒なんだよ」


 それに一つの剣に幾つもの属性を施すと、剣そのものの耐久性も落ちるのだとエリアスが続ける。


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