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何ごともまずは基本から

 席に着くと、正面の教壇に立ったヨゼフが杖を振るう。すると壁に大きな白紙の掛け軸が出現した。

 ヨゼフが杖で紙面を叩くと、図形と文字が浮かび上がる。


「まずは基本でございます。魔術は四大元素からなり、そこから枝分かれをしております。それに人間の持つ魔力が加わり、魔術として使用できるようになります。ここまでで、何かご質問はございますか」

「あのヨゼフ先生、私ドラゴンの召喚魔術を知りたいのです」


 早速アリシアが手を挙げ声を張り上げた。


「本気だったのですか、お嬢様!」


 呆れるマリーの横で、エリアスが笑いをかみ殺しているのが見える。


(そんなに変かしら?)


 何故マリーは反対するのか、そしてエリアスが先日「召喚できればの話だけどな」などと意味深な物言いをしていたのも気にかかる。


「ドラゴンの召喚でございますか……」

「アリシア。どうして君がドラゴンに拘るのか聞いてもいいか?」

「なんとなく……? かしら」


 理由など特にない。だから正直にそう答えたのだけれど、皆は納得していない様子だ。


「宿屋の方も言ってらしたでしょう。「なんとなく」付けたと」

「例の旅人ギルドか」


 確かにあれは、本来のギルドとしての体を為してはいない。しかし言葉というのは不思議なものだ。「格好いい」と思える雰囲気が出れば、その言葉に憧れや希望を持つ人々が自然に集まり、実際にギルドとして繁盛している。


「物事を始めるのなんて、軽い気持ちでいいと思うんです。崇高な使命とかあるに越したことはありませんが……でも、なんとなくで始めたって、いいじゃないですか」


 過去、自分は父から虐待に近い抑圧を受けていた。

 幼い子どもにあり得ない量の教育を受けさせ、公爵としての仕事まで押しつけた。そしてアリシアが過酷な労働から逃げようとする度に、父は「これは公爵家の令嬢として生まれた者の使命である」と告げた。

 そんな過去は憶えてないけど、アリシアが旅立つ前にジェラルドが涙ながらに語って聞かせてくれた。

 きっと幼い頃の抑圧が解放された反動なのだろうと、アリシアは自己分析する。


「やってみたいなって思うのに、理由は必要なのでしょうか? あ、でもすごく危険とか、禁止された魔術なのでしたら諦めます」


 ヨゼフはアリシアの答えを聞くと、暫しその長い髭を摘み考えた後にこりと笑う。


「いいでしょう。許可します」

「ありがとうございます」

「ですがその前に、魔術の成り立ちの講義と、基本的な術式は勉強することを約束してください。基礎の理解がなければ、怪我の元となります。これは王族であっても、必須科目ですので」

「分かりました」


 その後はごくごく基本的な魔術の説明が続いた。魔術に関して全く知識の無いアリシアでも理解できる内容を、ヨゼフは飽きないように面白おかしく話してくれる。


「――基礎は以上でございます。アリシア様の目標は、召喚魔術。マリーさんは、学びたい魔術はございますか?」

「私は特に何も」

「マリーはポーション好きなんでしょう? 適性もあるのだし、作り方を学んだらどうかしら?」

「ですから、好きなわけではありません」

「散々私にポーション作りを勧めたから、てっきり好きなのかと思ってたのだけど」

「お嬢様を危険な目に遭わせたくないのですよ」


 マリーの言い分も分からなくはないが、かといってドラゴン召喚を諦めるつもりはない。

 と、ここで、ヨゼフが助け船を出してくれる。


「ではこう考えてみるのはどうでしょう。アリシア様が魔術に失敗されて怪我をした場合でも、マリーさんが治癒のポーションを持っていればすぐに処置ができます」

「確かにそうですけど……」

「優秀なポーション師は、その場ですぐに最も適したポーションを生成することが可能です。マリーさんには、その適性があるのですよ」

「……分かりました。私、ポーション師を目指します」


 頷くマリーを前にして、アリシアはほっと息を吐いた。



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