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適性確認、とは?

「適性確認?」

「体に宿る魔術の流れを診て、向き不向きを確認するのさ」


 すぐにでも魔術の勉強ができると思っていたので少しばかり不満はあったけれど、魔術に詳しくないアリシアはエリアスの指示に従った方がいいと判断する。


「この絨毯の上に乗ってください」


 ヨゼフに促され、アリシアは深紅の絨毯に足を踏み出す。見た目は芝生の上に敷かれた薄い絨毯だが、まるで雲にでも乗っているかのようにふわふわとした感触が足から伝わってくる。


「円の真ん中で、深呼吸をしてください。……おお、やはり素晴らしい」


 手にした水晶を覗き込み、ヨゼフが感嘆の声を上げる。


「どうなんだ師匠」

「アリシア様は、全ての魔術に適性がございます。これほどのバランスの取れた方は、先代の王以来ですな」

「親父と同じか。そりゃすごい」

「そういえば、エリアスのお父様は……?」


 ふと気になって、アリシアはエリアスに問う。現在ロワイエを統治しているのは、エリアスの兄であるラゲルだ。

 先代の王と王妃は生きているはずだが、まだ挨拶もしていない。


「兄さんに王位を譲ってやーっと自由になったから、今は母上と二人で悠々自適に旅行中だよ」

「お二人だけで、ですか?」

「水入らずで旅行がしたいって大騒ぎした挙げ句、目眩ましの魔術を使ってまで護衛を振り切って今は行方知れずさ」


 あははと笑うエリアスに、ヨゼフが首を横に振る。


「全く、王と王妃には散々な目に遭わされましたよ。――アリシア様、適性確認は終わりましたのでこちらに。ではそちらのお嬢さん、どうぞ乗ってください」

「わ、私ですか?」


 アリシアが絨毯から降りると、ヨゼフがマリーを手招く。まさか自分も適性確認をするとは思っていなかったようで、マリーが狼狽える。


「私はアリシア様のメイドで、魔術なんてとても使えません」

「メイドでしたら尚更ですよ。主人に万が一の事が起きたとき、魔術が使えれば何かと便利です。それに魔術の適性は、誰でも何かしら持っているものです。さ、どうぞ」


 そこまで言われてしまうと流石に断り切れず、マリーも恐る恐る絨毯に乗った。


「ふむ……魔術の力は平均ですが、バランスが非常によろしい。木と水、そして風が少々ですな」

「あの、どういうことなのでしょう。マリーは何に向いてるとか、分かるのですか?」

「マリーさんは、ポーション作りの適性があります」

「……ポーション」


 複雑そうな面持ちで、マリーが呟く。


「ここまで適したバランスの持ち主は、なかなかおりません。マリーさんはポーション作りを極めれば、大陸一のポーション師となるでしょう」

「良かったじゃないマリー! あなたずっとポーションに拘ってたものね」

「それはお嬢様にドラゴンの召喚なんていう危険な魔術の習得を諦めさせたいからであって、私は別に……」


 がっくりと肩を落とすマリーに、ヨゼフがうんうんと頷く。


「人生はままならないものですよ。しかしこれは天賦の才と言っても過言ではない。アリシア様さえよければ、是非マリーさんを貴族の魔術学院に入学させたいのですが」

「ええ、喜んで。マリーはずっと私のために働いてくれたのだもの、いい機会だから勉強してきて」

「お嬢様……」


 泣きそうになっているマリーに歩み寄り、アリシアは彼女を抱き寄せる。


「知識はあなたの力になるわ。お母様が生きていたら、きっと賛成するはずよ」


 法律や簿記などの知識は綺麗さっぱり忘れてしまったけれど、貴族が憶えるべき基本的な学問はアリシアの頭には残っている。しかしメイドだったマリーは学校に行くことを許されず、文字の読み書きだけで精一杯だ。


「じゃあ決まりだな。マリーが学院に行っている間、アリシアは師匠と俺で面倒見るから安心してくれ」

「……エリアス様、くれぐれもお嬢様を頼みますよ。万が一、アリシア様になにかあったら。お覚悟ください」


 スッと真顔になったマリーが、エリアスに頭を下げる。


「もう、マリーったら。そんなに心配しないで」


 心なしエリアスが青ざめているように見えたけれど、ヨゼフの言葉でアリシアの意識は彼に向く。


「では早速、明日から通えるように手配をしておきましょう。本日はお二人に、魔術の基本と成り立ちをご説明いたします」


 歩き出したヨゼフに続き、庭の隣に用意された部屋へアリシアはマリーと共に向かう。その後を硬直していたエリアスが、少し遅れて追いかけてきた。



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