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話は戻って、アリシア達は

(よいのでしょうか……)


 はあ、とアリシアがため息をつくと、隣を歩くエリアスが少し慌てたように声をかけてくる。


「城からずっと歩き通しだからな。少し休もう」

「お城に戻られますか? お嬢様」


 後ろに控えているマリーにも気遣われ、アリシアは慌てて首を横に振る。


「疲れていないから大丈夫よ。それに早く宿屋へ荷物を引き取りに行かないと」


 実際アリシアは疲れてなどいない。

 あの断崖に建つ城には王族専用の魔術階段が設置されており、十段ほど降りれば山の麓についてしまう。

 そしてその麓には馬車が通れるほどの広い道が整備されているのだが、これもまた魔術が施されていて、港や国境の検問所へ徒歩十分程度で行ける仕組みになっている。

 門番の魔術師に伝えれば、こうして町中へ続く歩道も作ってもらえるのだ。

 これらの道は普段は隠されているので、悪用されることも無い。

 そんな便利な道を散歩がてらに歩いてきたので、アリシアとしては全く疲れていないのだ。


「……しかし先程から浮かない顔だが。何か不安なことがあれば正直に言ってくれ」

「ではお言葉に甘えて……実はその……こんなに歓待して頂けるとは思っていなくて。私はバイガル国の使者でもありませんし、公爵家との繋がりも絶たれた同然の身の上。ロワイエ国に益をもたらす力はなく……」


 城に入った翌日、王妃御用達の仕立屋が呼ばれアリシアを頭のてっぺんから足の先まで採寸して帰って行った。王妃のローゼ曰く「大切な忘れ形見から、ドレスや礼服も持たせず国から出すとは言語道断」と怒り、当面の衣服を仕立てる事となったのだ。


 ドレスの費用は全ては王妃のポケットマネーから出ると聞いて、アリシアは卒倒しそうになった。しかしそれだけでは終わらない。


 私室として新しく整えられた部屋は、王族が使うと勘違いしそうな豪華な部屋だったのである。カーテン、絨毯、家具類も公爵家で使っていた物より数段上の品だと一目で分かった。

 有り難い事にマリーもメイドの共同部屋ではなく、隣に個室を与えられたのだが……そちらもメイド長が使う立派な作りだった。

 ただマリーは可哀想なくらい恐縮してしまい、王に仕える執事が直々に説得をして、やっと部屋の鍵を受け取ったという経緯がある。


 失礼な事をしてしまったと、我に返ったマリーは倒れそうになった。だがどうやらロワイエ国の人々は本当におおらかな気質の人ばかりのようで、城の使用人達からは微笑ましい笑い話として好意的に受け止められている。


「……何もお返しができないことが辛いのです」

「そんなことを気にしていたのか」

「そんなこと、ではありません!」

「君は義姉上の血縁で、家族も同然だ。アリシアの家族や元婚約者を悪く言いたくないが、随分と失礼な人達ばかりじゃないか。話からするに、記憶を無くした君を心配する様子もないし従者もマリー一人だけで療養へ出すなど、公爵家のする事じゃないだろう」


 何故か怒っているエリアスに、アリシアは不思議な気持ちになる。

 数日前に出会ったばかりの彼が、自分を「家族」だと言いこんなにも親身になってくれる。彼だけではない。王や王妃、そして城の人々はみなアリシアに対して好意的だ。

 来週には貴族を集めて、正式に歓迎パーティーを開くことも決まっていると、今朝方に伝えられたばかりだ。


「だからこそ、お返しがしたいのに……」

「そこまで言うなら、仕方ない。だが君の気持ちは尊重するけど、それは今ではないさ」

「どういう意味ですか?」

「当初の目的は、療養だろう? まず体と心を健康にすることが先決だ。お返しはその後で考えればいい。アリシアは魔術を習いたいんだろう? だったら、有益な魔術を憶えて貢献してくれればいい」


 確かに、とアリシアはエリアスの言葉に納得する。


「何もできないと悩んでいるより、前向きに考えるべきですよね」

「そうですよお嬢様。エリアス様の仰る通りです。ですから……ポーション作りなどで、貢献されるのが良いですよ!」

「え、ドラゴンの召喚じゃ駄目かしら?」

「お言葉ですが、ドラゴンを召喚してどうするのですか?」


 マリーの真顔の突っ込みに、アリシアは言葉に詰まる。

 すると意外なことに、エリアスが助け船を出してくれた。


「いいんじゃないか、ドラゴン! 荷運びや炎を使って大鍋料理を作ることもできるし、使い道は色々ある」

「そう、それよ!」

「――まあ、召喚できればの話だけどな。ああここが君達が逗留する予定だった宿だ」


 なんとなく物言いに引っかかりを憶えたけれど、エリアスに問う前に彼が足を止めて宿屋を指さす。

 そこはアリシアも旅の途中でよく見かけた、平民用の宿屋だった。


「ここですか……」

「どう見ても、病気療養で滞在する施設ではありませんね。私とメイド長がもっとしっかり調べていれば……申し訳ありません」

「貴女は悪くないわマリー」


 もしマリーやティアが気付いて阻止しようとしても、彼女が使用人の言葉を聞き入れるとは思えない。


「さてと、荷物を受け取って引き上げよう。ロワイエはどこも治安はいいが、ここはお嬢さん方が長居する場所じゃない」


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