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婚約破棄? え、私達政略結婚じゃ……


「――という訳だ。本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する。私の愛は、二度と彼女に向けられることはない」


 その宣言を聞いた瞬間、頭がズキズキと痛み出す。

 アリシアは立ち竦んだまま、少し離れた場所に立つ二人を見つめていた。

 自分の身に降りかかった現実に目眩がする。

 第一、声高らかに婚約破棄を言い渡した彼、つまりバイガル国の第一王子であるマレクとは政略結婚なのだ。


「そして私は、新たな婚約者としてダニエラ嬢を迎える」

「ごめんなさいね、お姉様。私が良かれと思って、寂しくしていらっしゃるマレク様のお話相手を務めたばっかりに……マレク様のお心を奪ってしまったの。本当にごめんなさい」

「ああ、ダニエラ。君は何も悪くないよ。君の優しさが、どれだけ私を救ってくれたことか。それに奪ったのではない、私達は真実の愛に目覚めただけだ」

「なんて優しいお言葉……私の全てはマレク様に捧げますわ」


 涙をこぼしマレクに縋り付くのは、妹のダニエラだ。

 妹、とはいっても血は半分しか繋がっていない。

 数年前に母が亡くなり、暫くしてから父が再婚をした。ダニエラはその相手の連れ子、つまり義理の妹という訳だ。


 再婚相手は夫を亡くした男爵夫人だと紹介されたけれど、実は父が長年囲っていた愛人であるのは周知の事実である。


 茶色の髪に茶色の瞳、容姿も地味なアリシアとは違い、新しい妹は金髪碧眼で美しい容姿の持ち主。更に社交的となれば、あっという間に彼女はパーティーでの華になった。

 仕事に追われ婚約者が主催するパーティーに顔を出せず困っていたアリシアに「お姉様の代理で出席するわ」と提案したのはダニエラだ。その時は、なんて優しい妹だろうと素直に喜んだものだ。


 しかしそれが彼女の策略だったと気が付いたときには既に遅く、マレクの心は完全にダニエラへと向いていた。


「婚約者である私の開くパーティーに顔も出さず、屋敷に籠もってばかりの社交性のないアリシアに将来妃が務まるはずもない」

「いえ、それは陛下から依頼された書類を……」

「うるさい! 言い訳など見苦しいぞ! 私への愛があれば、いついかなる時でも側にいるべきだろう!」


 全く聞く耳を持ってくれないマレクに、アリシアは困惑する。


(愛? 婚約破棄? え、私達って政略結婚じゃ……)


 レンホルム公爵家のアリシアと王子マレクの結婚は、お互い生まれたときには既に決められていた。

 これは王家と貴族達の対立を避け、国の平穏を維持するための完全な「契約」である。


 だからそもそも、愛だの恋だのなんて関係ない。


(ちょっと待って。こんな簡単に破棄したら、宣誓書とか契約書類の変更はどうするの? 私の持参金も、とっくにマレク様が個人名義で運営されてる商人ギルドに投資しちゃってるわよね……)


 頭の中を一瞬にして婚約破棄された場合の、賠償やら契約関連の長ったらしい法律の文言がぐるぐると駆け巡る。


「聞いているのかアリシア!」

「叱らないであげて、マレク様。お姉様の頭では、置かれている状況を理解できないんです」

「ダニエラは本当に姉が好きなのだな。それに引き換え、お前は保身ばかりを訴えようとしてなんと醜い」


 どこをどう解釈すればそんな台詞が出てくるのか理解に苦しむが、本人は悦に入っている。


「可哀想なお姉様」


 分かりやすい泣き真似をしながら、ダニエラがニヤニヤと笑う。

 ハンカチで口元を隠しているけれど、王子以外には丸わかりだ。

 現に遣り取りを見守っている貴族達は、前代未聞の事態にどうしたらいいのか分からず唖然としている。


「もういい! お前は私の婚約者ではなくなったのだ。分かったら出て行け」


 決め台詞が広間に響く。

 こうなってしまったら、自分の取るべき道は一つしかない。


(早く帰って、書類の書き換えをしなくちゃ。王家側の法務に連絡して……会議になるわよねえ。数日はかかるから、文官の皆様にお食事の用意もしないと。それから、ええと)


「ほらほら、ぼーっとしてないで早く出てってよ。お姉様」


 手にした扇子でダニエラが、アリシアを追いはらうような仕草をする。

 将来王妃となる者がするべきでない無作法な振る舞いだけれど、とても咎められる空気ではない。

 アリシアは一つため息をついて、二人に頭を下げた。


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