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第七話 兄弟①~スマホを探す~

「えっ、息子くんが例の勇者だったの?」


 自分で持ってきた見舞いの品のお高いせんべいをかじり、ついでにヒナのために買ってきたペットボトルのお茶を飲みながら、事情をひとしきり聞き終えた先輩が今更な事を言い出した。


「え、ハ●ズ先輩気付いてなかったんですか?」

「ええ、昨日の瞬間移動は異世界人の姉の仕業だと思っていたもの。それにミスディレクションは手品……じゃなくて。黒魔術の基本よ?」

「……言わなきゃ良かった」


 目頭を抑えて天を仰ぐ。知られてしまう事は仕方ないと割り切れるものの、その相手が先輩だというのは、こう……癪だな。


「観念なさい、あなたの力は黒魔術研究部の発展に役立てて貰うわよ」


 トリックなしの切断マジックならいつでも協力するんだけどな。


「それで、救出作戦でもするのかしら」

「あーいや、もっと根本的な解決をしようかなって」


 顎の先を掻きながら、少しだけ考える。確かにあの二人をあのままには出来ないのだが、それを攫った所で一時凌ぎにしかならない。となると、俺のやるべきことは。


「根本的?」

「あのユーミリアに処刑を取り下げさせようかなって」


 あの二人があんな目に遭ったのは、勇者の正体を隠すという『失態』を犯したせいだ。なら始めから失態など起きない状況にしてしまえばいいんだ。


 それに王家の狙いもわかっている。魔王討伐の名誉のため、邪魔な俺を排除したい……なら話は簡単だ、俺が奴らに勝てば良い。ボコボコにしてどうだこれでも魔王と相打ち止まりなんだぞと教えてやれば、まぁ考え直してくれるだろう。


「そんなこと出来るの?」

「そこはまぁ、何とかします」


 直接出向いて物理的に頼むしかないだろう。


「そう……それでその異世界のお姫様は何処にいるのかしら」

「それが調べても出てこないんですよね……って当然ですけど」


 SNSで目撃情報でも探していたのだろうが、当然魔法を使える彼女達が簡単に見つかるはずもない。生活している場所も非公表なのは、まぁマスコミが黙ってはいないからだろう。


「そうだ先輩、ミカエルとアリエスの住所ってわかりませんか? 理事長の孫パワーで」

「ふっ、良いところに気がついたわね」

「おお、流石」


 鼻を鳴らして優雅に髪をかきあげる、優しくて頼りになる先輩。さてそこに向かうとしますか。


「……知らないわ」


 思わず膝を崩してしまう。やっぱり空気の読めないちんちくりんは駄目だな。


「だって仕方ないじゃないの、必要以上に素性を探らないことが受け入れの条件だったんですもの」

「あ、ハン●先輩もうハン●行って良いですよ」

「新宿以外閉まってるわよ」


 えっこの人都内のハン●の営業時間把握してるの?


「あのお姫様みたいにGPSとかつけてれば良いんだけどね」

「GPS……あっ」


 と、ここでヒナの言葉に思わず手を叩いてしまった。いやあるじゃんGPS。

 

「えっ、異世界人にGPSつけてるの? こわ……」

「今日俺の古いスマホをあげたんですよ!」


 自分のスマホを取り出し、メーカーのクラウドサービスにミカエルのアカウントでログインして、っと。


「で、『スマホを探す』っと」


 都内の地図と一緒に、画面上には赤い点が表示された。あ、思ったより近いなここタクシー使えばすぐかもな。


「キングダムホテルね、小さいけど静かで豪華過ぎない良いホテルよ。高いけど」


 そのままスマホでホテルの名前を調べると、すぐにホームページが表示された。百五十年続く伝統をあなたに、というキャッチコピーに違わない庭付きの大きな洋館の写真がトップページに乗っていた。ちなみに予約ページには『現在設備改装中により予約を受け付けておりません』と書いてある。


 ちなみに料金は……よしっ、さっさと行くとするか。


「ふっ、決まりのようね」


 俺とヒナが立ち上がれば、先輩がまた優雅に髪をかきあげる。


「これからこのわたし……天津原高校理事長、西園寺俊蔵の孫である西園寺ミノリの」


 先輩は持ち込んでいたショルダーバッグから有名な鉄製のリング――繋がったり離れたりする手品の奴――を二つ取り出すと、勢い良く振り下ろしてつなげようとした。


「一世一代の黒魔術ショーの……始まりよ!」


 が、リングはもう片方のリングを持っていた左手の指に直撃し、握られていたリングは虚しく床に落ちるだけだった。もっとがんばりましょう。


 じゃなくて。


「いや、先輩は普通に帰って下さい……!」


 何でこの人着いてくる気でいるんですかね。







「ふぅん、ここがキングダムホテルね」


 本当に着いてきやがってよぉ。


「帰れって言いましたよね?」


 あの後俺達は手早く準備を済ませて、タクシーに乗り込んで件のホテルへと向かった。遅い時間に高校生だけで乗り込むのは気が引けたが、それでも俺が外国人観光客のフリをする事で事なきを得たのだ。すみませんでした人の良さそうな運転手さん。


「あのねぇ、わたしだって不安なのよ……あの異世界人の姉弟がどうなったのか気になるわ」


 俯きながら、先輩が自分の心情を吐露する。この人にとってあの二人は、もう他人では無いのだろう。


「それになにより、大事な後輩二人が」


 顔を上げ、俺達の顔を見て先輩が微笑む。


 そうかミカエルとアリエスだけじゃない、先輩にとっては俺達だって――。


「こっ、こんな時間にホテルに行くとか言うから……!」


 顔を真っ赤にしてそんな事を言い出すハレンチ先輩。違いますよキングダムホテルは百五十年の伝統を誇る由緒正しきホテルですよハレンチホテルの名前じゃないですよ。


「成り行きですからね!?」


 今度はヒナが顔を赤くして反論する。いやだから普通の豪華なホテルだって。


「『成り行き』!? 終電逃したの!?」

「自分でハレンチ捏造しないで下さいよ!」


 最早ホテルより先に耳鼻科に行ったほうがいい先輩に今度は俺が反論する番だった。


「いやああああ後輩二人がハレンチすぎるううううう!」


 両手で自分の体を抱き、ゾクゾクとかいう擬音が聞こえそうな下賤な笑みを浮かべるハレンチ先輩。おめーが一番ハレンチだよさっさと帰れ。


「ちょっと君たち」


 と、ここで警備員さんに声をかけられる。有名な警備会社のロゴが入った制服を着たその人は、おそらく普通の日本人なのだろう。


「あーほら先輩が余計な事を言うから! ユウなんとかできたりしないっ!?」


 ヒナが俺を盾にしながら、そんな事を耳元で叫んだ。


「なんとかって」


 普通の人を相手に剣で斬りかかる訳にもいかない、俺は右手を警備員に伸ばしていつか覚えていた魔法を放った。


「……『昏睡』!」


 言葉の通り相手を昏倒させ、そのまま睡眠へと誘う魔法だ。覚えた時は便利だなと思ったが、普通に倒した方が早いと気付いてからは使わなくなった魔法の一つだ。


「息子くん」

「なんですかハレンチ先輩」


 急いで倒れた警備員を抱え、そのままホテルの塀を背にして座らせていると余計な人から余計な一言が飛んでくる。


「昏睡は流石にライン超えハレンチだわ」


 ――頭の血管が切れる音が聞こえた。


 は? 何だよこの人さっきからこっちは無駄に被害を大きくしないように気を使ってるってのにだいたいさっきもタクシー代払ったの俺だったし最近マジで余計な出費多くて困ってるってのに言うに事欠いてこの期に及んでハレンチハレンチハレンチハレンチと。


 そこまで文句言うならさぁ。


「……じゃあハレンチ先輩がなんとかして下さいよ」

「……え?」


 手伝ってもらおうじゃないか、本格的にさ。

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