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プロローグ 産まれた理由
そこに勇者がいた。英雄と持て囃され、明日も知らぬ人の未来を守るべく、王道を往く男がいた。
そこに魔王がいた。王の座に祭り上げられ、幾千幾万の怨嗟を一身に受け、覇道を歩む女がいた。
剣を交えた。魔法を打ち合い、その拳で殴り合い。月が赤く輝く夜に、その決着は果たされる。
魔王が逝く。全てを賭け、負けた女は笑って逝った。その身を焦がし続けた渇きが満たされた事を知って。
勇者は願う。勝利の代償として己が死を悟った男は、その役目に似合わぬ些細な事を願った。
もしも、生まれ変われるのならば。
剣も魔法も必要のない、遠い遠い平和な世界であって欲しいと。
瞼を閉じ、そんな淡い夢に微睡むように……その生涯に幕を下ろした。
――で、俺が産まれたってわけ。