アルツィードとレオリード ②
「あの、一つ質問してもよろしいでしょうか?
「構わないよ」
どうしてそこまでシスツィーアのことを気にかけるのか、アルツィードは気になってしまって、思い切ってレオリードへぶつけてみる。
「その・・・なぜそこまで、妹のことを心配してくださるのでしょうか?」
「・・・・自分でも、おかしいとは思っているよ。一人に肩入れするのではなく、心配するなら、城で働く全ての者の心配をするべきだ。とも。けれど・・・そうだな・・・」
じっと考え込むレオリード。しばらくすると、どこか口元を目を緩めて
「・・・・アランが、元気になった。からかな」
「アランディール殿下ですか?」
「ああ。これまでのアランは、ずっとベッドで寝たきりだった。毎日を過ごすのがやっとで、俺みたいに生活することなんてできなかった。それが、シスツィーア嬢と知り合ってからのアランは、毎日がとても楽しそうで。張り合いができたとでも言うのか?これまでとは違って、ベッドで過ごす時間も少なくなってきた。学問も、公務も、身体を動かすことも、人並みに出来るようになって。君には想像がつかないだろうが、毎日をベッドで過ごすと言うのは、かなりつらい。生活も制限されるし、弱音を吐きたくとも立場上難しい。俺も気にかけてはいたものの、アランにとっては俺が気遣うことも苦痛だったんだろうな。いつも諦めた目をして、じっと耐えて・・・・それが、シスツィーア嬢には・・・・友人のように接しているし、彼女もアランの為に頑張ってくれている。それが俺には嬉しいんだ」
寝たきりの異母弟が毎日を楽しそうに過ごし、明日を楽しみにしている。
レオリードはそれが本当に嬉しくて、それでシスツィーアのことも気にかけている。
そうアルツィードは理解して、
「殿下方のお役に立てたのであれば、妹も喜ぶでしょう」
「ああ。本当に感謝している」
そう言って笑顔を見せるレオリードは、今まで見たこともないくらい嬉しそうで
アルツィードもつられて笑顔になる。
「レオリード殿下は、弟君と本当に仲がよろしいのですね」
「そうだな。本当なら、あまり干渉しない間柄でもおかしくはないだろうが、アランはずっと俺のことを慕ってくれて。いつもあとをついて来てたんだ。それが幼い俺にはくすぐったくて、頼りにされていると嬉しくて」
少し昔を懐かしむように、レオリードは遠い目をして続ける。
「昔・・・それこそ、物心つくころか?熱を出したことがあるんだ」
「はい」
「自分で言うのもなんだが、俺は幼いころから健康でね。覚えている中では、初めてのことだったんだが・・・本当なら、異母弟は熱が移らないようにと隔離される。それなのに、気が付いたら俺の手を握って、ベッドにうつ伏せになって寝ていて」
くすくすと思い出し笑いをしながら、レオリードは続ける。
「メイドたちも困ったと思うよ?けれど、アランは頑固だから。どうにかして手を離そうとしても全然離れないし、いつの間にか俺もまた眠ってしまって。次に目を覚ました時には、アランだけでなく王妃さまもいてね。さすがに叱られるかと思ったら、額に手を当ててくれて「熱は下がったわね」と嬉しそうに笑ってくださって」
アランのことを謝るレオリードへ、ミリアリザは「気にすることはないわ」とそう言って、手ずから冷たいタオルを額に載せてくれた。
「いつの間にか起きたアランも、一緒になって看病してくれた。それが自分でも驚くくらい嬉しくてね。熱が下がったあとも、アランは「良かったぁ」と抱きついてきて」
それまでも可愛かった弟を、さらに可愛く思って。
慕ってくれる弟に、みっともないところは見せたくないと、学問も身体を動かすことも人一倍頑張って
「俺が今、こんな風になれたのもアランのおかげかな」
そう言って笑うレオリードは、どこか誇らしそうで
「君も、妹のことが可愛いだろう?」
「ええ。そうですね」
アルツィードへも屈託なく笑顔を向けて問うレオリードは、アルツィードがシスツィーアを可愛いと思っていると、疑っていなくて
アルツィードも、思わずつられて笑顔を向けながら答える。
なんだかんだ言っても、妹は可愛い。
(殿下も同じってことか)
身分が違っても、弟妹は可愛い。
それはアルツィードにとっても、よく分かること。
弟妹のことを可愛いと思うことに、変わりはないのだと
レオリードのことが少しだけ、これまでよりも身近に感じることができた日だった。
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