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アルツィードとレオリード ①

「アル、少し良いだろうか?」

「へ・・・?」


ある日のお昼休み。


アルツィードが騎士科の友人たちと食堂でのんびり雑談をしていると、レオリードが声を掛けてきて


「あの・・・、キアルさまではなく?」

「キアルは職員室だろう?君で間違いないよ」


ぽかんとした顔をしていたのだろう。


レオリードが苦笑しながら近寄り、友人たちに「邪魔してすまないが、アルを借りても?」と言うと、アルツィードと同じようにぽかんとしていた友人たちは、勢いよく椅子から立ち上がり、ぶんぶんと首を縦に振っている。


そんな様子にも、「気楽にして構わないよ」とレオリードは苦笑し、その場で話すのは躊躇われるのか、アルツィードとともに食堂外の、ちょっとした庭のようなところに連れていかれる。


(こんなところ・・・気がつかなかった)


アルツィードもこの学園の全てを知っているわけではないが、まわりがしんっとしていて、隔離されたような不思議な空間。


そんな様子がおかしいのか、レオリードは微笑んでアルツィードへ話しかける。


「すまない。せっかくの昼休みに」

「いえ。あの、なにか?」


知らず知らずのうちに、迷惑を掛けてしまったのだろうか?


それとも、先週シスツィーアが休んだことで、殿下に迷惑を?


そんな考えが浮かぶが、レオリードは穏やかに微笑むだけで


「君に頼みがあるんだ」

「頼み・・・?」

「ああ・・・その、シスツィーア嬢のこと、なんだが・・・・・」




先日の、魔道具の事故があったあと


「アルはさ、城でなんかあったの知ってる?」

「ああ。城のあたりが騒がしかったし、キアルさまが休みだったからな。それ以外は知らないが」

「そっか、ツィーアは知ってるかな?」

「知ってはいるだろうが、緘口令が敷かれてるんじゃないか?」


放課後、生徒会室へ向かう途中でアルツィードはシールスと偶然会い、そのまま一緒に向かう


「リューミラさまは、なにがあったか知ってるかな?」

「ツィーアがなにか話してるかもな」


城での騒動は何も知らず、暢気に話しながら歩く二人。


けれど生徒会室へ入ると


「え?レオリード殿下?」


レオリードは一人で机に向かい、書類を整理していた。


「ああ、アルにシールス。すまないが、今日は急いでいてね。もう帰らないといけないんだが、あとは任せていいだろうか?」


城であった騒動で早く帰らないといけないのだろうとあたりを付け、アルツィードとシールスは頷く。


「ありがとう。急ぎのものは終わっているから・・・すまないが今週は来れるかわからない。用があるときは、昼休みには生徒会室へ来るから、そのときに知らせて欲しい」

「わかりました」

「今週、予定していたことは終わらせておきます」

「ありがとう。頼む」


机を片付けると、レオリードはアルツィードへ視線を向け


「その・・、シスツィーア嬢のことだが」

「妹も城へ向かうように伝えた方が?」


てっきりシスツィーアへの伝言を頼まれると思ったアルツィードだが


「いや。アルデス子爵家へは使いをやったが・・・そうか、知らされていないか」


言いよどむレオリードは、どことなく落ち込んでいるように見えて


「あの、妹がなにかご迷惑を?」

「いや、そうではない。むしろ迷惑を掛けたのは、俺の方だ・・・・・・」


「詳しくは話せないが」と前置きして、レオリードが話した内容は・・・・・


「つまり、先日のお城での騒動で、妹がお役に立ったと?」

「「役に立った」どころではない。シスツィーア嬢がいなければ、騒ぎがおさまるまで、どれほどの被害が出ていたか・・・・いくら感謝しても足りないくらいだ。ただ、そのせいで、シスツィーア嬢には負担をかけてしまい。申し訳ない」

「妹は、その、怪我でも・・・・・・?」

「いや、怪我はしていない。だが・・・その、負担をかけてしまって・・・・もちろん、回復するまでは城で様子を見る。当分は学園も休むことになるが・・・・・」


歯切れ悪く言うレオリード。


だが、アルツィードはシスツィーアが無事なことが分れば、それ良くて


「妹が無事ならかまいません。その、ご迷惑をお掛けしますが、妹のことをよろしくお願いいたします」

「ああ。アルデス子爵へも改めて、シスツィーア嬢のおかげだと手紙を書くつもりだ」


アルデス子爵へもレオリードから連絡してくれるなら、シスツィーアが連絡できなくても、肩身の狭い思いをすることはないだろう。


ひとまずは安心していていい。


「ありがとうございます。その、妹に」

「なんだろう?」

「あ、いえ・・・・・」


シスツィーアへなにか伝えようと言いかけ、さすがに王子を伝言役に使うことはできないと、慌てて言い直すアルツィード。


「いえ。なんでもありません。お気になさらずに」

「シスツィーア嬢にも、君が心配していたと伝えておこう。それくらいは、かまわないよ」

「ありがとうございます」


苦笑しながらレオリードが請け負うと、恥ずかしさで顔を染めるアルツィード。隣では、シールスが必死で笑いを堪えていた。


「では、すまないがあとは頼む。キアルとオルレンもしばらくは来られない。みんなにも伝えておいてくれ」

「分かりました」

「お気をつけて」


慌ただしくレオリードが生徒会室を出て行くと、ぽつぽつと他の役員たちがやって来る。


そのあとで来たリューミラの様子がおかしかったことは、覚えているが・・・



あの日から一週間経った。


(もしかして、やっぱり何かやらかしたのか?)


お城でお世話になった妹が、何かやらかして


レオリードにも迷惑を掛けて、それでアルツィードへ声を掛けてきた。


そんな考えがアルツィードを支配して


どう切り出して良いのかと悩む様子のレオリードへ、アルツィードは恐る恐る尋ねる。


「あの、妹がなにか?」

「いや・・・・・その・・・シスツィーア嬢は、城へ歩いて来ているだろう?」

「ああ。そのことですか」


高位貴族でもないシスツィーアは、馬車なんて気軽に使うことは出来ないから、歩いて城まで行っている。それがレオリードの知るところにより、心配しているのだろうとアルツィードは納得がいって


(・・・いや、おかしくないか?なぜ、殿下がそこまでツィーアを気にかけるんだ?)


不思議に思いながらレオリードを見ると、恥ずかしそうにしながらレオリードは続ける。


「その・・・恥ずかしながら、俺のまわりには高位貴族がほとんどで、実際に歩いて城へ来る者のことは、考えが及ばなかったんだ」

「そう・・・・・・かもしれませんね」

「それで、女性が一人で歩いて帰ると・・・その・・・これから暗くなるのも早いし、危ないだろう?」

「ええ、まあ・・・・・」


たしかにアルツィードもそれは心配している。


けれど、シスツィーアがいつ城へ行くのか、いつごろ帰るのかなど、聞いていいことなのか分からず


(お城の仕事内容にもよるだろうし、俺から聞くのはなぁ)


それでも妹のことは気になるし、帰り道のことは、いずれシスツィーアと話そうと思っていた。


「生徒会での、魔道具の手入れももう終わると聞いている。時間がかかりそうなものもあったのに、アルは仕事が早いとオルレンも褒めていた。忙しいのに無理をしてくれたんだろう。ありがとう」

「いえ、そこまで難しくはありませんでしたので」

「それで・・・良ければ、これからも香夜祭が終わるまでは、手伝ってもらえないだろうか?」

「それは・・・構いませんが・・・・」


レオリードの申し出は、アルツィードにとって問題ない。どちらにしろ香夜祭前日の設置、当日の様子、翌日の片付けは手伝うつもりだったのだ。


「それと・・・・その・・・・」

「はい・・・・」

「・・・・差し出がましいのは、十分わかっている。だが、どうしても気になってしまって」

「・・・・はい」


歯切れの悪いレオリードの態度に「ここからが本題か」と、アルツィードはなぜだか緊張してしまい


「・・・・シスツィーア嬢へ・・・その・・・城の寮を勧めた。よければ、アルからも・・・その・・・」


城で働く者の為の寮。シスツィーアも入る資格があるので、それをアルツィードからも勧めて欲しい。


そう言われて、アルツィードは面食らう。


(なぜ・・・・そこまで・・・?)


「それに、良ければ遅くなる日は迎えに・・・・その、君の都合を考えずに頼むのは可笑しいと分かっている。だから、断ってくれて構わない。だが、良ければ考えて」


どこか顔を赤くして、申し訳なさそうに言うレオリード。


アルツィードはどう考えて良いのか分からず、視線をうろうろさせる。


「弟がシスツィーア嬢を送って行くことは、できないから・・・」


シスツィーア(側近)のためにアラン()が送って行くなど、聞いたこともない話だ。


(そんな話、冗談じゃないぞ・・・)


アルツィードもあり得ないと分かっていても、万が一そんなことになってしまったらと、想像するだけでぞっとして


「殿下にはご心配をお掛けして、申し訳ありません。妹と話してみます」

「ありがとう。すまないが、よろしく頼む」


アルツィードが勢いよく言った言葉に、レオリードはほっとした笑みを浮かべた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

2025.6.26 少し修正いたしました。

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