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出会いの治癒

オルレン・レザがシスツィーアに初めて会ったのは、高等科の図書館ではなかった。


オルレンがそのことに気が付いたのは、シスツィーアに王族用の魔道具を使っての治癒の最中


シスツィーアは覚えてなかったし、オルレンも自分を治癒してくれたのがシスツィーアだとは知らなかったが




(このあたたかさだ)


治癒の魔道具を通じて流れてくる、シスツィーアの魔力


その柔らかなあたたかさに、オルレンは一年前の記憶が蘇る




オルレンの視力が弱いことが分かったのは、5歳の時。


当時はまだ幼く「自分自身の治癒能力を損なわない為に」と魔道具を使っての治癒ではなく、医師の指導のもと視力回復の治療を行うことになった。


子どもだったことが幸いしてかオルレンの視力はある程度回復し、矯正器具(めがね)を掛けていれば生活に不自由はなかったのだが、高等科へ入る前に「今後レオリード殿下の側近として、弱点になりそうなものはない方が良い。魔道具を使って治癒してしまおう」と両親の判断で、レザ家に連なる親族から一番オルレンと魔力性質の近い治癒の魔導士が選ばれ治癒を行ったのだが・・・・・・・


結果は芳しくなく、オルレンの視力はほとんど回復しなかった。


魔道士の腕が悪かったわけでも魔道具に問題があったわけでもなく、その時に初めて分かったが、オルレンは他人の魔力を受け付けにくい特異体質だったのだ。


だから、治療するためには魔術科へ進み、魔道具を使って自分で治療するしかない。


オルレンは将来魔術科へ進むつもりだったし、それは両親の希望でもあったため、そのまま眼鏡を掛けて生活することになった。


そんなことがあって高等科へ進んでも眼鏡を掛けたままでいたのだが、二年生の夏季休暇に神職へ入った叔父から珍しく手紙が来た。


父であるレザ侯爵とそりがあわず、レザ家の意向で神職へ入ったレザ司祭(おじ)とは親族の集まりがあれば顔を会わせるが、個人的に親しく話したことはなかったため、なにごとかと首を傾げながら手紙を開くと内容は短く


『君の視力の治療ができるかもしれない。興味はあるか?』


そう書かれていた。


さすがに短すぎるだろうと思いながらも、興味が湧いたオルレンは叔父に会いに行くことにした


叔父からの手紙をもらった翌日と急な面会にも拘わらず、にこやかにオルレンを出迎えるレザ司祭。


「久しぶりだな。君がレオリード殿下の側近になった祝いの宴以来か?高等科進学おめでとう。進学祝いの集まりには出席せずに悪かったな」

「いえ、お気になさらず。お久しぶりです、叔父上」

「ああ。元気そうで何よりだ。手紙に興味をもったか?」

「はい」


オルレンが興味を惹かれて来ることが分かっていたようで、楽しそうに笑うレザ司祭。


「先日、初級の治癒の魔道士資格を取ったばかりの者でね。私とリドファルドが指導していたから腕は確かだが、初級だろう?兄は気に入らないと思って、直接君に手紙を出したんだ」


たしかに、オルレンの父は実力主義ではあるが保守的で、いくら腕が良く弟の推薦があっても、ある程度の実績を持つ中級以上の魔導士ではないと治癒を認めないだろう。


レザ司祭の言葉にオルレンは納得しながらも、期待してダメだったことを考えると迷いがあって


「治ると思いますか?」

「さあ?だが、治らなくても現状は維持できるだろう。どうする?」


肩を竦めて言うレザ司祭に、オルレンは苦笑する


たしかに、上手くいかなかったとしても現状維持が続くだけで、治ったら幸運。そう考えておけばいい。


「そうですね。お願いします」

「ああ。分かった」

「できれば、学園が休暇のうちにお願いしたいのですが」


夏季休暇中ならオルレンも時間がとれるし、治癒を行った後の経過観察もしやすいだろう


それはレザ司祭も考えていたのか、軽く頷き


「ああ。その方がこちらとしても都合が良い。だが、魔道士本人がいま王都にいなくてね。戻ったら連絡するから、少し待っていてくれるか?そうだな、そろそろレオリード殿下と避暑地へ行くのだろう?帰ってくるまでには日程を決めておく」

「お忙しい方なのですね」


きっと、他にも治療を望む者がいるのだろう。


資格を取ったばかりならば、実績を積むためにも遠くへ行っていてもおかしくない


オルレンは連絡を待つことにし、予定通りレオリードたちと避暑地へ向かった。


移動を含めて10日程王都を離れ家に戻ると、レザ司祭から連絡が来ており指定された日は3日後。


「治癒を行った日と翌日にも診察を行うから、泊りの準備をしてくるように」


と指示があったので、両親には「叔父のところで神殿にまつわる魔術式の勉強してくる」と適当に言い含め、レザ司祭が手配した馬車に乗って指定された場所へ向かう。


治癒を行う場所は、街から少し外れたレザ司祭の私邸。


神職に入ったレザ司祭の息抜きの場所としてオルレンの祖母が用意したこの館は、こじんまりとして王都にある男爵家の別邸くらいの大きさしかない。


「もう準備はできている。それと、ここの使用人は老夫婦しかいない。自分のことはできるだけ自分でするように」

「わかりました」


老夫婦に軽く挨拶すると、オルレンはすぐに治癒を行う部屋へと案内される。


そのままこの部屋で泊まることになるし、すぐに横になれるように部屋着に着替えるように言われて身支度を整えて


「すぐに魔道士が来るが、魔導士へは決して声を掛けることなく、治癒の最中は目も開けないように。相手は顔を知られたくないからフードを被っているが、君が目をつぶったらフードはとって治癒するから心配しなくていい」

「わかりました」


レザ司祭に言われた通り、オルレンはベッドに腰かけると黙って魔道士を出迎える


(子ども・・・・・・・?)


部屋に入って来た魔道士はオルレンよりはるかに小柄で、直感でまだ未成年だと思い


(このことが父に知れたら、怒り狂うな)


治癒の魔道具は人の身体に直接作用するから、たとえ転んでできた傷でも、未成年に治癒させるものではない。それなら自然治癒を待つ方がマシだ


オルレンの父はそう考える人だった。


フードが微かに動くと、魔道士と一緒に部屋に入って来たリドファルドが魔道具をオルレンにつける。


「目をつぶりなさい」


レザ司祭に言われオルレンが目をつぶると、ひやりとした感触が目から頬へと走って


次の瞬間には、空気が柔らかくなった。


優しい、あたたかなものが目のまわりに広がり、それが外側からオルレンを包み込む。


そして、オルレンの内側からも自分の魔力が湧き上がり、目のまわりへと流れて


あたたかさが静まったころ、付けられていた魔道具が外れるのを感じて


「ゆっくりと目を開けてください」


リドファルドの言葉に、オルレンが恐る恐る目を開ける。


白くぼんやりとした視界が段々と輪郭を捉え、目の前には険しい顔つきのレザ司祭とその後ろにはフードを再び被った魔道士


「みえ、ます」


眼鏡を掛けていないのに、眼鏡を掛けている時と同じくらい景色がはっきりと見えた。


魔道士もその言葉を聞くまでは緊張していたのか、ふわっと緊張がほぐれて空気が軽くなる。


「ありがとう。あとはこちらで診るから、君は休んでいなさい」


レザ司祭の言葉にフードが微かに揺れ、魔導士が部屋の外へ出ようとする。


「あの!ありがとうございました!」


声を掛けるなと言われたことも忘れ、思わずオルレンが叫ぶ。


扉へ向けられていた身体を少しだけオルレンへ向け、微かにフードが揺れる。


その時、少しだけフードから茶色の髪が見えた。


だからオルレンは、自分の治癒をしてくれた人は平民の魔導士だと思っていた。


今はまだ未成年だが、それでも腕のいい魔道士だ


成年になるにつれて頭角を現し、いずれきっとその名は王都へ轟く


そうしたら、治癒のお礼をしよう。


自分に出来るだけの援助をして、その魔道士が働きやすいように後ろ盾になってもいい。


そう考えていたのだが・・・・・・・・・・








流れてくる魔力がだんだんと弱まり、完全に流れてこなくなる


シスツィーアの瞼がゆっくりと開かれて


「あなただったのですね」

「?」


オルレンの呟きが聞き取れなかったのか、きょとんとした顔のシスツィーア


きっと、シスツィーアも覚えてないのだろう


彼女にとっては、大勢治療したうちの一人


きっと、それだけだ


「あの、なにか?」

「いえ、ありがとうございます。痛みがすっかりなくなりました」


なおも不思議そうなシスツィーアに、オルレンは微笑んで首を横に振った。



最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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