シスツィーアと護衛騎士
「アルデス子爵令嬢!」
「え・・・?あ・・・・・フォーン騎士・・・・・さま」
アランがシグルドたちの前で『女神の部屋』へ入った翌日
シスツィーアが使用人用の門を通り抜けたあたりで、ラルドに声を掛けられる。
ラルドのことをなんと呼んでいいのか分からず、シスツィーアが騎士にさまをつけて呼ぶとラルドは苦笑して
「ラルドで良いんだが、ま、殿下が嫌がるかな。今から殿下のところか?」
「はい」
先日の顔合わせのときに比べて、にこやかに話しかけられてシスツィーアは思わず身構えてしまう。
(・・・・・なにかしら?)
アランを含めて会った時にはアランの機嫌が良くなくて、ラルドたちに話しかけることも出来なかった。
それからはシスツィーアがお休みだったり、一緒に仕事をする時だっていつもアランが居たし、特に話すこともなかったから、ラルドとこんな風に話しかけられるのは初めて
この間と違いすぎることに警戒しながらシスツィーアがラルドを見上げると、相手にも伝わったようでばつが悪そうな顔をして
「その、先日は態度悪くて、悪かった」
「え?」
綺麗に90度頭を下げられて、シスツィーアはぽかんとラルドを見つめる。
「あっ!あの!頭をあげてください!」
たっぷり数秒はぽかんとして慌ててシスツィーアが言うと、なぜかラルドはすっきりした顔をしていて
「初日の印象悪かったろ。オレたち初めての名誉ある任務って、舞い上がって。アンタにも負けないようにって、ちょっと意気込みすぎた」
「えっと、気にしてません。むしろ当然と思いますよ?」
ラルドたちは騎士団に入団して、ずっと積み重ねてきて抜擢されたのに、シスツィーアは下積み無しのぽっと出での側近採用
(せめて高位貴族だったら違っていたんでしょうけど)
後ろ盾がないもない下位貴族、しかも女性。
ラルドたちが面白くないのは当然だと、そう思っている。
「ありがと。そう言ってもらえると助かる。ロイも謝りたがってるから、謝罪受けてやってくれ」
「はい」
シスツィーアの言葉にラルドはほっとした顔で笑いながら、シスツィーアを促して歩きはじめる。
「今日の殿下のご様子を伝えておくな」
「え?」
「情報を共有する方がいいだろ?その・・・・・同じ方にお仕えするんだし」
照れた顔で言うラルドから、シスツィーアと打ち解けようとしてくれることが伝わって
「ありがとうございます!どんなご様子でしたか?」
嬉しい反面、昨日のアランの様子を思い浮かべて、どこかドキドキしながら尋ねる。
「先日の疲れはないようだな。今日は全部の授業を受けてらしたし。食事も問題なく召し上がっていた。特に気になることもなかったぞ」
「そうですか。良かった」
アランの様子がいつもと変わらないと聞いて、ほっとするシスツィーア
そのあとも、仕事の話は続いて
「今度は孤児院訪問だって?」
「ええ。10日後ですね。孤児院はわたしも初めてなんですが、フォーン騎士さまは?」
「小さいときに母親に連れられて行ったけど、違う院だったからな。たぶん雰囲気は同じだと思う」
「そうなんですね。よければ、アラン殿下に孤児院の様子をお話しして下さいませんか?殿下も身近に感じると思いますし」
「ああ。そうだな・・・・・」
アランの力になれるとラルドが喜んでくれるかと思ったのに、予想とは違って歯切れの悪いラルドにシスツィーアは首を傾げる。
「どうかなさいましたか?あ!あまり覚えていないとか?」
「いや。何度か訪れたし、仲の良い子もできたから話すことはできるが・・・・・・・その、殿下と気軽に話すことは・・・・・・」
「難しいですよね」
シスツィーアもアラン以外の王族へは、たぶんラルドと同じような反応をする。
それに、アランはラルドたちに怒った様子を見せたこともあった。今はアランもラルドたちに普通に接しているけれど、なにが地雷でアランを怒らせたのか分からないなら、ラルドが積極的になれない理由も分からなくはない。
「でしたら、わたしから話を振りますね。えっと・・・すぐには難しいかもしれませんが」
「ああ。構わない。きっかけがあるだけでも助かる」
「いつもはアラン殿下とはどんな話を?」
「話しかけて下さるから、返事をするが・・・・・・正直、緊張してな」
先日のシスツィーアと初めて顔を合わせたときとアランの前での様子を見ると、ラルドは緊張すると固く仏頂面になるようで
(もしかしたら、フォーン騎士さまの緊張がアランは気に入らないのかしら?)
緊張するなって言うのは無理な話だし仕方がないとはいえ、アランからしてみれば近くにいる者から恐れられているような感じがして、余計な気が張って面白くないだろう
「そのうちに打ち解けますよ。そうだ!わたしのこともシスツィーアと呼んでください」
「それは・・・・不味くないか?」
恐ろしそうな顔をするラルドへ、シスツィーアはくすくす笑う
「殿下が仰ったのは、「愛称で呼ばせない」ですから。問題ありません」
「・・・・・まあ、そのうちに」
それでもアランが恐ろしいのか、ラルドは引きつった顔で頷いた。
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次話もお楽しみいただければ幸いです。




