ダンス ④
「あ!ゴメン!大丈夫!?」
「はい」
リオリースのダンスの授業
教師とともにやって来たダンスの相手役の少女は、リオリースから足を踏まれて痛みを堪えて歪んだ顔を、すぐに打ち消して微笑む。
「ごめん。痛かったよね」
「大丈夫ですわ」
健気に微笑む少女に、リオリースはしゅんとした顔で謝る。
「少し休む?足、冷やしたりは」
「本当に大丈夫ですから」
「お気遣いありがとうございます、リオリース殿下。ですが、姪は大丈夫ですわ。それよりも、先ほどより上達されておいでです。感覚を忘れないうちに、もう一度致しましょう。あなたも、もう少し優雅に流れるようにやってみましょう」
「はい。叔母さま」
少女が困った顔で教師であるアルスラッデ夫人を見上げると、夫人が仲裁に入り、またダンスの練習が再会される。
そんな様子を、レオリードは少し離れた場所で見学していた。
先日、アランからダンスの練習相手を頼まれたリオリース
「男なのに女性側を踊るなんて嫌だ」という恥ずかしさはあるものの、アランの頼みを断ったことへの罪悪感
そして
「俺が女性の踊りをリオンに教えよう。そうすれば、他の者に知られることはないだろう?」
とレオリードから言われて、結局のところ承諾したのだ。
けれど、レオリードも女性のステップを完璧に再現できるわけでもなく、ふたりで試行錯誤しながら練習をしても仕方がないとの結論に達して
それで今日は、ダンス教師に「弟のダンスの練習風景を見て見たい」と無理を言って、練習を見学していたのだ。
「少し休憩にしましょう」
練習が始まって小一時間ほどたったころ、メイドが頃合いを見計らって飲み物を持ってくると、リオリースと少女は椅子に座って休憩となる。
「すまないな。私がいるので気が散ってしまうのだろう?今日だけだから、大目に見てくれ」
「とんでもありません!いついかなるときも、慌てることなく優雅に振る舞うのが淑女。姪もレオリード殿下のおかげで成長できますわ」
「レオリード殿下にお会いできて、嬉しいです。申し訳ありません、先ほどからお見苦しい姿を見せてしまって」
「何言ってんの!オレの方が足踏んじゃって・・・・・ごめん、なかなか上達しなくて」
「まあ!リオリース殿下は上達が早いですわ。姪へのお気遣い、ありがとうございます」
リオリースと同じ年の少女が申し訳なさそうに言うと、レオリードはちくりと罪悪感で胸が痛む。
少女は表情がくるくると変わって、リオリースに踏まれたときは思い切り痛そうにしながらも、「大丈夫」と心配かけないようにすぐに笑うところが可愛らしいと、レオリードも微笑ましく練習風景を見ていた。
けれど、今日のレオリードの目的は女性パートを覚えること
そのために、少女の動きをじいっと凝視してしまい、少女が余計に緊張して、いつもよりぎこちない踊りとなったと想像できたのだ。
「良ければ、一曲お相手願えないだろうか?」
「えっ!?」
レオリードが椅子から立ち上がり、少女に手を差し出しダンスを申し込むと、少女は戸惑い教師とレオリードを交互に見る。
「練習を見せてもらったお礼・・・・・・・にはならないが、良ければ」
「まぁ!よろしいのですか?」
「ああ。もちろん」
戸惑う少女にレオリードがにこりと微笑み、またアルスラッデ夫人も「せっかくですから、踊って頂きなさい」と少女を促して
少女は顔を赤くしておずおずとレオリードの手に自分の手を重ねると、レオリードのエスコートで立ち上がって場所を移動する。
「緊張しなくて良い。大丈夫、君の踊りは上手だ」
「はい」
消えそうなほど小さな声で少女が返事をし、流れる音楽に合わせてダンスをはじめる。
最初はレオリードに遠慮してぎこちなく踊っていた少女も、もともとダンスは好きなのだろう
すぐに楽しそうに笑いながら、レオリードの足を踏むことなく一曲踊り終えたのだった。
その日の夜
「違う!そこはこうだろう?」
レオリードの部屋でリオリースはダンスの練習をしていた。
もちろん、踊るのは女性パート
今日の練習を見て、すっかり覚えてしまったレオリードの指導は容赦がなくて、リオリースは「え?え?」と言いながらなんとか踊っていた。
(見ただけで覚えるなんて、どうしてできるの!?)
物覚えよくなんでも人並み以上にこなしてしまう長兄に恨みがましい目を向けながらも、リオリースは懸命に踊って
「どうして、すぐに覚えれるの!?」
「男性に合わせて女性の足運びは変わるだろう?自分の踊りを覚えていれば、そう難しいことじゃない」
リオリースが「信じられない!」と叫ぶように尋ねても、レオリードは「踊れて当然だろう?」と言わんばかりで
挙句の果てには
「今日、俺があの令嬢と踊っているのを見ていただろう?」
と、レオリードと踊る少女の動きを見ていたのだから、覚えたはずだと疑っていなくて
できの良い長兄と自分を比べて悲しくなりながらも、リオリースは懸命に踊る。
そんな練習を繰り返した数日後・・・・・・・・
夕食後、レオリードの部屋に呼ばれたアランは、なんとか女性パートを覚えたリオリースとダンスの練習していた。
「アラン、ここはこうだ」
「えっと、こう?」
「イタ!ちょっと、アラン兄上!」
「ごめん!」
ダンスを習い始めたころより上達したとはいえ、まだまだ動きにぎこちなさが残るアランとリオリースはお互いの足を踏みながらも、それでもどこか楽しそうで
レオリードの表情も柔らかく、身振り手振りでふたりに懸命に教えていて
「あ!今の感じ!?」
「そうだ!それで良い!」
「オレも出来た!」
なんとなくコツが掴めてきて、動きが滑らかになってきたアラン
「ふたりとも、ありがと!」
そんな微笑ましくて、あたたかな同異母兄弟の時間が流れていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
約1年ぶりの投稿となり、申し訳ありません。
月日が経つのは早いですね。びっくりです。
次話も投稿予定ありますので、お付き合いいただければ幸いです。




