ダンス ③
シスツィーアの迎えに来ていたアルツィード。
「お兄さま、お願いがあるの」
「なんだ?」
妹が会った時から、何か言いたそうにしているのを気が付いていたが、何も言わないから黙って歩いて
「その・・・・お昼休みにね・・・・ダンスの練習に・・・付き合ってもらえないかしら?」
シスツィーアも何とかしてダンスを上手に踊りたくて、アルツィードに練習相手を頼んでいた。
「そりゃ構わないが、パートナーって決まってたのか?」
「う・・・ん。そう」
「その相手に頼んだ方が良くないか?」
香夜祭にパートナーと踊るために練習するのなら、練習にもパートナーに相手をしてもらった方が、当日の練習にもなるだろう。
そう考えたアルツィードだけど
「お相手の方とも練習するわ。けど、足とか踏みそうだし」
ぼそぼそと小さな声で言われて、
「相手にいいとこ見せたいのか?」
「え・・・うん。そうね」
パートナーには上達した姿を見せたいと言う、妹にしては珍しい理由。
「ツィーアにも、そう思える相手が出来たんだな」
兄としては寂しい気持ちもあるけれど、妹が好意を寄せている相手に、良い所を見せたいと言う、その気持ちが微笑ましくて
アルツィードの口が自然と緩む。
「いいぞ。明日からな」
その翌日から、シスツィーアとアルツィードの昼休みの練習が始まった。
「・・・お兄さま、去年もダンス踊ったのよね?」
「・・・ああ。まあ」
さすがに、裏庭でダンスの練習をするのは止めて
アルツィードとシスツィーアはそれぞれの教室から移動しやすい、空き教室を使って練習を始めていた。
音楽がないけれど、曲は覚えているからふたりで踊り始めてすぐのこと
「・・・・・お兄さまって、ダンス苦手だったのね」
「・・・・去年は、まだ踊れた」
ほんのはじまりの部分だけなのに、シスツィーアはアルツィードから足を踏まれること、踏まれそうになること数回
さすがに足が痛いし、なによりこんなに下手では、兄のパートナーが気の毒で
「去年のお相手の方の、足を踏んだりは・・・」
「してない。相手は避けてくれた」
アルツィードのパートナーは騎士科の女生徒。運動神経は抜群で、アルツィードに足を踏まれるなんて、そんなへまはしていない。
アルツィードは知らなかったが、「足を踏まれるなんて、運動神経が鈍いからよ」と、一度も踏まれることなく踊り終えた者は、「運動神経抜群ってことね」と、得意気にしていたし、「何回足を踏まれたか」と、賭けの真似事までしていて
シスツィーアが何度も踏まれたのは、運動神経か鈍いからと言うことで
兄妹そろってダンスが苦手なことに、内心「練習にならないわよね」と、ため息をついていた。
そんな練習の2日目
「あ!いたいた!」
そっと扉が開いて、シールスが入ってくる。
「どうしたの?」
「ん。アルもダンス苦手だし、練習に付き合おうかと思って」
にこりと微笑むシールスは、練習が上手くいかないことを予想していたのか、手にオルゴールを持っていて
「これでも、音楽がないよりマシだから、これ使って練習しよう。アル、交代して」
シールスがパートナー役となり、音楽が鳴り始めると、シスツィーアをぐっと引き寄せて、
「・・・踊りやすいわ!シールスは上手ね!」
「っていうか、ツィーアが遠慮しすぎなんだよ。もっと相手に任せて大丈夫だから」
こそっと耳元で「足踏んだらとか考えたら、殿下と距離をとることになる。そうすると踊りにくいと思うよ」と囁く
「・・・・・そうね」
無意識のうちに距離を取って、それでアランのステップとタイミングが合わなくて踊りにくくて
何曲か練習するうちに、シスツィーアもコツを掴めて、シールスと会話する余裕が出てきた。
「母さんに教わりながら、ダンスしたときのこと思い出すね」
「あのときも、シールスの足をたくさん踏んだわね」
礼儀作法の一環として、ルグラン夫人にダンスを教わったとき、パートナー役はシールスだった。そのときのことを思い出して、ふたりで顔を見合わせて吹き出して。
それからも、シールスがお昼休みに練習に付き合ってくれて、アルツィードもシールスを真似してコツを掴む。
そんな日が続いて
「ん。これなら大丈夫だと思うよ」
「ありがとう!これで、相手に迷惑かけずに済むわ!」
シールスから及第点を貰って、シスツィーアは声を弾ませる。
「ああ。ずいぶんと踊りやすくなった」
アルツィードも一緒に練習したおかげで、ずいぶんと上達して、これならパートナーの足を踏むこともないと、密かにほっとしていた。
「せっかくだから、当日も踊れたらいいね」
「ああ。妹のドレス姿も見ておきたいしな」
シスツィーアも、せっかくならドレス姿を兄に見て欲しいし、当日もふたりと踊りたくて
(ふたりなら、踊っても大丈夫よね)
まったく知らない生徒なら無理だけど、ふたりならアランも許してくれる。
「ええ。一緒に踊りましょう」
そのときが楽しみで、満面の笑みで頷いた。
最後までお読みくださり、ありがとうございます
2024.3.19
タイトルを間違えていましたので、訂正いたしました。




