ダンス ②
「・・・・・リオンはダンスの練習って、してる?」
「なに言ってんの?」
夕食の席でアランがリオリースに話しかけると、呆れた顔で返される。
「そんなの、とっくにやってるよ。踊れないと困るでしょ」
「じゃ、練習付き合ってよ」
「えっ!?どうやって!?」
リオリースは5歳を過ぎたあたりからダンスの授業があったけれど、それは当然男性パート。
「アラン兄上の練習って、兄上、女性の方を踊るの?」
「何言ってんの?僕は男性側で踊るから、リオンが相手役やってよ」
「むり!そんなの踊ったことないし!」
女性パートなんて、恥ずかしくて踊りたいとも思わないリオリースは、さっさと食事を終わらせて部屋に戻ろうと、料理を次々に口に運んでいく。
「はぁ・・・・ダメ?」
「嫌だよ・・・メイドに頼めば?」
「んー。だけど、ツィーアほど背の低いメイドいないし」
お行儀悪く、フォークで主菜をつつくアラン。
「ダンスを踊りたい相手って、シスツィーアさま?」
「そう」
「今日の練習は、上手くいかなかったのか?」
黙って聞いていたレオリードが口を挟むと、「うん」とアランは返事をして
「なんかさ、足踏みそうで怖いし、手を取るにしても力加減も難しいし」
「そうだな・・・」
レオリードもリオリースの方を、じいっと見つめて
なんだか嫌な予感がして、リオリースは食事の手をさらに早める。
「たしかに、メイドよりもリオンの方が、練習相手には良いかもしれないな」
「でしょ?さすがにリオンの方が背は低いけど、それはどうにでもなると思うんだよね」
「そうだな。リオン、アランの相手を」
「ぜったいに、いや!」
力を込めてリオンが拒絶するけれど、レオリードが食い下がる。
「だが、」
「だったら、レオン兄上が相手したら?」
「何言ってんの?僕は背の低い相手で練習したいんだよ」
「じゃあ、シスツィーアさまに、相手になって貰えば良いじゃない」
「そうなんだけど、ツィーアの足踏んでケガさせそうで怖いし」
「知らないよ」
リオンはさっさと食事を終わらせて、デザートを給仕に頼む。
「それに、女性の方なんて踊れないよ。そしたら意味ないじゃん」
「これを機会に覚えたら?なにが役に立つかわからないし」
「ぜったいにいや!恥ずかしいよ」
運ばれてきたデザートをリオリースが食べ勧めると、はぁっとアランがため息をついて
「僕、もういいよ。ごちそうさま」
まだ途中なのに席を立って、とぼとぼと食堂を立ち去るアラン。
リオリースはチクリと胸が痛んで、少しだけ罪悪感を覚えて、デザートを食べる手が止まる。
「・・・・・なに?」
「いや」
出て行くアランを見ていたリオリースだけど、レオリードにじっと見つめられているのに気づき、じろっと睨む。
「リオンが恥ずかしいと思う気持ちも分かるが、アランは頼める相手が限られているからな」
「けど、シスツィーアさまが練習してくれるなら、それでいいじゃない」
「だが、シスツィーア嬢のために上達したいのだろう?」
「そう言ってたね」
さっきのアランと同じように、リオリースはスプーンでデザートのをつついて
「リオン。アランはこれから、これまで以上に貴族たちが注目する。失敗は許されないんだ」
「そうだろうけどさ・・・・・」
「俺たちだけでも、ずっと味方になって協力してやらないか?」
リオリースだって分かっている。アランの一挙一動は注目されて、誰にでも気軽に頼めないことくらい。
だから、アランが貴族たちから少しでも嗤われないように、協力したいとも思うけれど、それよりも恥ずかしいと、男なのにと言う想いの方が、勝ってしまうのだ。
なんだか、そんな自分も情けなくて、リオリースは俯いて
「けど・・・・恥ずかしいよ」
「そうだな。それなら」
長兄が提案した、リオリースへの交換条件。
「・・・・・うん」
「よかった。それじゃあ、さっそく俺の部屋でやろう」
アランと練習する前に、リオリースの練習を
その日は深夜まで、レオリードの部屋には明かりが灯っていた。
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