ダンス ①
「ではそこでターンを」
「・・・・わっ!」
「きゃっ」
お城でのダンス練習の初日。
シスツィーアは授業で習っているけれど、運動神経も良くないし「なんとか踊れる」レベルでしかなくて、アランはアランでダンス自体初めてだから、ステップの基礎から教わって
教師が認める「王族に相応しい優雅な踊り」には、程遠いふたり
教師もふたりの踊りが及第点にも程遠く、「香夜祭までに・・・大丈夫か?」と、不安で頭を悩ませるけれど、アランが全くの初心者であることも考慮して、体力の限界が来る前に初日の授業は終わりになった。
「・・・・・ありがとうございました」
「今日教えたところは、復習しておくように」
椅子から立ち上がることのできないアランを置いて、シスツィーアは廊下まで教師を見送る。
シスツィーアも授業とは違って、指摘を受けることが多くて
(・・・・わたしのダンスって、下位貴族の及第点だったのね・・・)
ステップやターンのタイミングは分かるし、頭ではダンスを踊る自分をイメージできる。けれど、アランと踊っていると身体が音楽に付いて行かなくて、アランの足を踏まないようにするので精一杯だった。
授業ではもう少し踊れていると思うけれど
「・・・・まあ、あなたはそれでいいわ」と教師が言っていたのは、きっと下位貴族だから。
(先生も、授業に悩むはずよね)
夏季休暇あとに始まったダンスの授業は、上位貴族は踊れて当たり前だからと、授業中は生徒それぞれがホールで思い思いに過ごしていて
シスツィーアだけが、教師からステップを教わっている個人授業状況だった。
クラスメイトは何も言わないし、教師も「みなさまにお教えすることはありませんわ。お好きにお過ごしください」と、最初からホールにいれば何をしていても良いと、そう言っていて
(授業なのに、それで良いのかしらって不思議だったけれど、ご家庭で教わるなら教える必要ないものね)
教師としては各家庭で雇っている家庭教師と、余計ないざこざを避ける意味もあるのだろう。
そもそも、上位貴族は学園に入る前に社交界デビューをする。デビューの夜会では、王族とダンスを踊るのが慣例だから、それまでにはダンスを踊れて当たり前。
だから「この授業は交流の場」と、そんなところなのかもしれない。
それでもシスツィーアが踊れていたら、授業は違っていたかもしれないと、そう考えただけで、申し訳なさでお腹のあたりがズンと重くなって
せめてアランとの練習では足を引っ張らないように、気合を入れたのだった。
教師の姿が見えなくなり、シスツィーアがホールに戻るとアランはぐったりと椅子に座って、机に突っ伏している。
「はい。果実水よ」
「ありがと・・・・・・おいしい・・・・」
ほとんど一気に飲み干して、グラスをシスツィーアに戻すとまたぐったりする。
「騎士の方たちと一緒に、剣の訓練していたわよね?」
あまりにもぐったりするから、体調がおかしいのかと心配になって尋ねると、力なくアランは頷く。
「ん。けど、使う筋肉違うし・・・・」
アランも今日の授業前にステップは教わっていて、踊れるように練習していた。
けれど、実際にパートナーがいて踊るのとは感覚が違っていて
それに
(ツィーアの足、踏みそうで怖い・・・・)
シスツィーアがアランの足を踏んでも痛くないけれど、アランが踏んだらシスツィーアの足は壊れてしまう。
そんな恐怖があって、足運びがぎこちなくなってしまったのだ。
「もう少し練習する?」
「ん・・・今日は無理。明後日にしよう」
「ええ。わかったわ」
シスツィーアがお城に来る日に、教師がいなくても練習しようと約束して、公務を行うために執務室へと向かったのだった。
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