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9話

 会話が途切れてしまい無言の状態になると武己は気まずさを覚えてしまい、何か話さないといけないと考え、話題になりそうなものを探し周りを見渡す。ミズハも同じ気持ちでだったが、この場で話せそうなことが無く、次に基地の内部へ移動しようと誘うとした時である。


『あれ? ミズハ様! 何かご用ですか?』


 いつの間にか動作が止まっていた陸上戦機トウシャから声が聞こえた。そして、トウシャの車体の後方の1箇所が開き、中から今までトウシャを操作していた搭乗者が姿を現す。


 搭乗者は若い女性であり、彼女は胸部から腹、腰まわりと重要な場所だけ守る軽鎧を着込んだ騎士を思わせる格好をしていた。武己よりやや歳下、ミズハと同年くらいの赤い髪を頭の後ろで結ったポニーテールが特徴的な綺麗な女の子。

 トウシャから地面に飛び降り、歩いて武己たちの方に歩く姿は、スレンダーな体躯と体幹のしっかりした美しい歩き方も相まってとても絵になるものだった。


「おはようございます。クレハ隊長がトウシャの操縦していたのですね」

「おはようございます! はい。各地で魔物が発生しており、何時王都の近くに現れてもおかしくありません。練度を保つためにも訓練は欠かせないです」


 ミズハの前まで来た女騎士クレハが直立し、完璧な敬礼を行う。彼女の視線が会話の受け答えが終わると共に武己に移る。


「クレハ隊長。こちらの方はガードガイナーの適合者、ヤマシロ様です。王城でトウシャの音を聞いたのでこちらに案内していたところです」


 ミズハが見知らぬ男と一緒に居るのは珍しい事だと思っていたクレハだが、納得がいったとばかりの表情をつくる。そして、ミズハに向けた敬礼を武己にも行いながら口を開く。


「お初にお目にかかります。陸軍第一部隊の隊長を務めております。クレハ・カグチと申します。適合者様と共に戦う陸上戦機の指揮を担当させていただく者です。以後、お見知りおきを」


 騎士らしくはきはきと話す彼女の強い眼差しに圧倒され、武己はどう返事をすれば良いのかわからなくなってしまった。そんな彼にミズハが助け舟をだす。


「ヤマシロ様。彼女は魔法騎士としてとても優秀で、若くして第一部隊の隊長に任命されるほどです。必ずヤマシロの力になってくれると思います」

「その、よろしくおねがいします……。戦いに関して素人なので色々教えてもらえると助かります……」

「はい。なんでもお聞きください。適合者様、私もヤマシロ様とお呼びしてもよろいしでしょうか?」

「はい。大丈夫です、カグチさん」

「さんは無くても構いませんよ?」

「はは、慣れたらそう呼ばせて貰いますね……」


 会話こそ繋がったものの、若くして人を纏める立場になれる能力を持つ相手と知り、武己は素人の自分が敬われる扱いを受けて気が重くなってしまう。容姿の整ったクレハに冗談めかした笑みを向けられても、素直に提案を受け入れられなかった。


「隊長!! 訓練機を戻してください! 順番なんですから!!」


 そう叫びながら幾つがある内の1つの建物からクレハの軽鎧と似ているが、男用にデザインされ直したものを着ている男騎士が走ってくる。その走る速度はかなり速く、かなりの距離があるにも関わらずあっという間に距離を詰めてくる。

 武己が目を見開いてしまうが、騎士が魔法で走る速度をあげていると知っているミズハとクレハは驚くことはない。

 近づいてくるに途中で、クレハがミズハと話していたことに気づいた彼は、武己たちの前に到着するやいなや直立し、ミズハにむけてビシッ、と敬礼する。


「巫女様! おはようございます! カグチ隊長とのお話しを遮ってしまい申し訳ありません!」

「かまいませんよ。お勤めご苦労様です、ヤツマタ副長。それと、貴方にも紹介します。こちらのお方がガードガイナーの適合者、ヤマシロ様です」

「よろしくお願いします」


 ミズハの紹介に合わせて頭を下げた武己を、第一部隊の副長であるジョウ・ヤツマタが見る。

 武己の身体は戦う人とは思えない普通の体型だ。整えられた黒髪やパッと見の顔つきは悪くないものの特別印象に残りそうな感じがしない。

 その一方でジョウの身体はよく鍛えられており、顔もイケメンと十分呼べるものだ。薄緑色の髪をした20歳の青年である彼は心の中で武己を戦士ではない、と認識した。だが、適合者である武己を軽く扱うような真似はせず、表向きは礼儀を重んじる国軍兵士の形をとり、敬礼してみせる。


「第一隊副長を務めます、ヤツマタです。よろしくお願いします」

「訓練の邪魔をしたみたいで申し訳なかったです。直ぐに戻りますから」

「そうなのですか? てっきり自分は適合者様が訓練場ココを使いたくてカグチ隊長に交渉しているのかと」


 そう言いながらジョウがクレハを見る。『まさかただ雑談するだけの為にトウシャから降りたのですか』と言いたげな眼差しに、クレハは誤魔化すように笑い、手を叩く。


「そう、要件を聞こうと思って降りたのでした」

「特別な用はありません。訓練の様子を見るのが目的でしたから。訓練を中断させてしまって申し訳なく思います」

「いえ! 私が勝手に降りただけですから!」

「隊長……」

「わかりました! 直ぐに戻してきますから!」


 批難めいたジョウの声に返事をするやいなや、クレハはトウシャに戻る為に走り出す。ものすごい勢いで走っていき、園勢いのまま跳び乗ると、トウシャを再起動した。土煙と轟音を上げながら倉庫に戻っていく様を横目に、ジョウが溜息をはく。


「騒がしくて申し訳ありません、巫女様」

「ふふっ、いえ、元気なのがクレハの良いところですから」

「まぁ、そうですが。それとこれとは別です」


 口調にはトゲがあるものの、彼の表情は穏やかだ。


「それでは自分も訓練がありますので。失礼します」

「はい。私たちもこれで戻りますので。クレハ隊長にもお伝えください」

「了解しました!」


 ジョウがミズハに敬礼し、続けて武己にも敬礼をする。武己が軽く会釈したのを確認した彼は、来た時と同じく一気に加速すると、あっという間に遠ざかっていくのだった。


「それでは王城に戻りましょうか」

「はい。……あ、いや……」

「他に何かご希望がありますか?」


 ミズハの言葉に一度は頷いた武己だったが、歩きそうとしたところで言葉に詰まった。迷う素振りをする彼にミズハが話を促す。


「……ガードガイナーに一度乗ってみる事はできますか?」


 クレハやジョウといった騎士が搭乗できないガードガイナーを本当に素人の自分が搭乗できるのか。光り輝くペンダントが証だと言われても、この世界の住人ではない武己には全く実感がない。


 今は彼にはどうやっても騎士たちに迷惑をかけるイメージしか持てなかった。それ故に、先ずは一度搭乗してみたいと思ったのだ。


(戦うと決めたからには、やるべき事はやらないと……) 


 武己の生真面目さを好ましく思う一方、この世界に慣れるより早く戦う準備を始めて良いものか、ミズハは悩む。


「わかりました。一度ガードガイナーに搭乗してみましょう。ですが、動作の訓練はまた後日です。順番に慣れていきましょう」

「そう、ですね。巫女様の言うとおりにます」


 悩んだものの、武己の望みを叶える事に決めたミズハ。彼女の言葉に武己は素直に頷いて見せるのだった。

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