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8話

 玉座の間を出た武己たちは王城を出て、離れた国軍基地に向かい歩を進めていた。しかし、昨日歩いた神殿よりさらに遠い位置に国軍基地はある。

 ミズハと護衛騎士たちは慣れた様子で歩き続けているが、普通の大学生で得に運動系サークルにも入っていない武己にとって、ひたすら歩くという行動は大いに疲労を感じさせるものだった。

 それでも歳下の女の子であるミズハに情けない姿は見せられないと懸命に歩く。先頭を歩く彼女に疲労を感づかれ、歩くペースが落ちているのだが、それに気づく余裕が武己には無い。 

 歩き続けること暫し、ようやく国軍基地に到着した。王城で聞いた金属音は更に大きくなり、うるさく感じるほどだ。


「ヤマシロ様。陸上戦機は屋外で稼働しています。こちらにどうぞ」

武己

 ミズハの案内で武己たちは基地の敷地内へと入っていく。広大な敷地は踏み固められた土で構成されており、いくつかの建物が点在しているものの、大部分は何も無い真っ平らな平地だった。


 その中を進む、全長10メートルほどもある四角い金属の塊がある。高い金属音を鳴らしながら回転するホイールに連動して回る楕円形のキャタピラ。それに支えられたこげ茶色の車体の下半分はそのままに、上部が右に軸回転し、ボディから突き出された大きな砲身が上下左右に動く様は凄まじい迫力を放っている。しかし、この造りに良く似た物を武己は知っており、初めて見た気がしなかった。


「戦車だ……」

「戦車、ですか? この機体は陸上戦機『トウシャ』と呼びますが……もしかして、ヤマシロ様の居た世界にも似たような兵器が存在するのですか?」

「うん……。キャタピラで動くし、主砲だってあるし……殆ど一緒に見える」


 大きな金属音が響く中、武己はあっけにとられたように眺め続ける。そんな彼にミズハは戦機の解説をしていく。


「ヤマシロ様のおっしゃる通り、トウシャはキャタピラで陸上を進みます。多少の悪路も難なく踏破する性能を誇っております。武装は主砲一門、副砲が二門です。動力は人工クリスタルから供給される魔力です」

「人工クリスタル……。もしかしてガードガイナーの……」

「はい。研究過程で開発されたものです。人工クリスタルに予め魔力を込めておき、稼動する際に使用します。その為、誰でも戦機は動かすことができるのです。武装はそうもいきませんが……あ、ヤマシロ様。ちょうど主砲をを使うようですよ!」


 解説を続けるミズハの前で動き回っていたトウシャのキャタピラが動きを止める。狙いを定めるように主砲がゆっくりと動き、止まった。砲弾を撃つと思い、慌てて両手で両耳を塞ぐ武己だったが、ミズハや護衛騎士たちは微動だにしない。


 主砲の砲身、その先端に赤色の魔法陣が浮かび上がる。次の瞬間、魔法陣から紅蓮に燃え盛る炎が噴き出すと、細長い針のような形状で固定された。その状態のまま、トウシャは砲身を左右や上下、斜めと振り回すように動かし始める。流れるような砲身の動きに合わせて、炎の刃が残光を残す。戦車が剣を振っているように見える動きに呆気に取られ、耳から手を離した武己へ、ミズハが再び話しかける。


「今の魔法は炎刃フレイムエッジといい、炎の刃を作るものです。主に敵が接近してきた際に用いられますが……ヤマシロ様、耳を塞いでどうされたのですか?」

「……いや、主砲を撃つなら凄い音がすると思って……」

「撃つ……? トウシャの主砲と副砲は搭乗者の魔法を強化するものですが……?」


 武己の言葉にミズハが首を傾げ、ミズハの言葉に武己がきょとんとしてしまう。主砲に対する認識の違い故の事であった。対して音がしなかったにも関わらず耳を塞いだ恥ずかしさを誤魔化す、武己は直ぐに話をふる。


「えっと、僕の世界の戦車は……砲身から砲弾っていう金属の塊を撃つんだ。その時、凄い音とかガスとかが出るって聞いた覚えがあるんだけど……素人だから、間違っているかもしれない……」


 聞きかじりの知識な為、武己の言葉は自信無さげだ。それでもミズハには十分通じたようで、しっかり頷きながら彼女も口を開く。


「どうやら見た目は近くとも全くの別物のようですね。そうですね、例えをだしますと」


 ミズハがゆっくりと人差し指を空に向けて立てる。自然と武己の視線が指の先に定まったところで、彼女は魔法を使い、指先の上に小さな光の弾を作り出した。この世界に来て初めて身近で見る『魔法』の存在に、武己は目を瞬かせるしかできない。


「これは照明ライトという魔法で、光の玉を作り出すものです。主砲と副砲は搭乗者が使う魔法の威力を強くするという機能を持つものになるのです」


 戦機の搭乗席には、搭乗者の手元で発動する魔法を吸い上げ、代わりに主砲か副砲の先端で発動するという機能が付けられている。吸い上げられた魔法が砲身を通過していく間にその威力を徐々に引き上げていく仕組みな為、砲身が長ければ長いほど威力が上がっていく反面、発動までに時間がかかる。その為、高い威力の魔法が発動する主砲と、主砲に比べ威力は控えめなものの直ぐに発動する副砲が戦機には装備されているのだ。

 武装が誰にも使えない理由は、搭乗者の使う魔法に依存するからであり、魔法の使えない者が乗っても手法や副砲が使えないという事にある。

 ミズハの説明はわかりやくす、武己は感心しながら相槌をうちながなら話を聞いていた。


「なるほど……つまり主砲も副砲も魔法の増幅器なんですね」

「はい、その認識で問題ないと思います」


 トウシャの武装について納得した武己だったが、それよりも気になる事が芽生えてしまう。冷静さを努めながらも、隠しきれぬ期待を胸に言葉を続ける。


「あの、魔法って僕でも使えますか……?」

「ヤマシロ様は魔法が使えないのですか?」

「「……」」


 再びお互いに無言で見つめ合う状況になってしまう。

 武己がミズハから話を聞くことに注力し、日本の事をあまり話そうとしていないのが原因である。意図的にしていることなので、彼にとっては自業自得なのだが。


「……僕の居た国には魔法が無くて空想上の存在なんです」

「魔法が無い……? ということは魔力も?」

「魔法が無いので、魔力という存在があるのかも怪しいと思うのですけど……魔力に代わる動力はあります」

「魔力に代わる動力、ですか。どういったものかお聞きしても?」

「いや、僕はただの一般人市民だったから仕組みはわからないんです。すみません」


 日本の事情に興味を示すミズハから武己は頭を下げて謝罪する。彼は日本のことを必要以上に語るつもりはない。【適合者として元の世界に戻るまで共に戦う】というビジネスパートナーのような関係を望んでいるからだ。


(戦車みたいな、戦いに関する事は別だけど……)


 頭を下げられてはミズハもそれ以上聞くことはできず、日本の事情に関する話題から元の話題に戻すしかなく。


「私の方こそ申し訳ありませんでした。それでは、後でヤマシロ様に魔力があるのか調べてみましょう。魔力があれば魔法を覚えることは可能なはずです」

「ありがとうございます。よろしくおねがいします」


 どうしても武己とのやりとりが固いものになってしまう。彼との心の距離がそのまま現れているかのように感じるのは間違っていないだろう、とミズハが思うのも当然のことだった。

陸上戦機『トウシャ』 訓練機


全長10メートル 全高3メートル

キャタピラで走行する武装車両

動力は人工クリスタルに蓄積した魔力


特徴

装甲はこげ茶色

キャタピラで悪路を進む事ができる

主砲と副砲のある機体の上半分は360度回転し、あらゆる方角からの襲撃に対応可能。主砲、副砲共に上下左右に動き、狙いを定める事ができる


武装

主砲 ✕ 1

副砲 ✕ 2

共に搭乗者の使う魔法を吸い上げ、増幅し、砲身の先から放つ事ができる。砲身の大きな主砲はチャージが長い分、増幅率が高い。副砲は小回りが効き、発動までの時間が短い。

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