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5話

章分けをしました。プロローグを1話にしたので、話数が変わってます。

 客間でミズハを待つ事暫し、彼女が持ってきた食事は日本人である武己にとって非常に馴染み深いものだった。

 木製のトレーにのった、木製のお椀。炊いた白米に味噌の香りがする汁物と焼いた魚に漬物。そして、木製の箸。どの角度から見ても和食にしか見えない。


「和食だ……」

「ワショクですか? これは一般的なヤマト飯と呼ばれるものですが……ヤマシロ様のお気に召したようで安心しました」

「う、うん……食べてもいいかな」

「はい。お召し上がりください」

「い、いただきます……!」


 完全に予想外、しかし良い方向のものに嬉しさを隠しきれない武己は早速食事に手を付ける。その味はとても食べ慣れた和食そのものと言っても過言ではないものであった。


「美味い……。味噌汁の出汁もいい味だし、魚の塩気も丁度いい……」

「そう言って貰えて良かったです」


 思わず頬をほころばせる武己にミズハが嬉しそうな笑みを向ける。美味しいご飯のお陰か、武己の口は軽い。


「故郷の食事……和食っていうんですけど、殆ど一緒なんです。白米に味噌汁、焼き魚……とても食べ慣れたもので」

「ディアマンテは島国なので魚がよくとれます。1年中、様々な魚がとれるのですよ」

「へぇ……日本と同じなんですね」


 話しながらも武己の使う箸の動きは止まらず、あっという間に食べ終えてしまった。するとそこへタイミング良く、程よくヌルいお茶が湯呑で出てくる。ここまで同じだと、武己は可笑しくて笑えてしまう。


「食事のお茶まで同じなんて……、ははっ、ここが異世界なんて信じられ無いです」

「少しでも食事で気が晴れたのでしたら幸いです……」


 お茶を飲み終えた武己が湯呑をテーブルに置く。そして、改めて姿勢を正すとミズハと視線を合わせた。気は進まないが、話をしないことにはどうしようもないと思い、会話を始める。


「……それじゃあ、話を聞かせて貰えますか」

「はい。先ずは私の名前から……。私はミズハ・ヤマト。この国ディアマンテの第一王女であり、女神様の巫女を務めさせていただいております」

「王女で巫女……? あ、だから髪の毛が」

「はい。陛下は私の実父になります」


 ケンシンと同じ色の髪を梳く彼女の言葉を聞き、武己は顔色を悪くする。ついさっき無理矢理抱かせろと暴言を放った相手が王女様だった。とんでもない事をしてしまったと頭を抱えそうになる武己にミズハが慌ててフォローする。


「ヤマシロ様。どうか気になさらないでください。私の胸の内に収めますし……その、覚悟していたのも本当です。私がヤマシロ様に行った非道を思えば、何てことありません」

「……」


 はい、ありがとうございます。と言えるほど武己の精神は強くない。彼にできる事は、この空気を壊すために話を進めることしかなかった。


「その、女神の巫女っていうのは?」

「この世界を守護する女神様から神託を受ける役割を持つ者を巫女と呼びます。邪悪なる存在を封じたのも女神様ですし、魔獣に対抗するためガードガイナーを私たちに下賜してくださったもの女神様なのです。そして、ヤマシロ様を召喚するように神託を受けました。その後、陛下に報告をし、召喚を行う事となったのです」

「……納得は、出来ない。だけど、理解はしました」


 武己は国王ケンシンから聞いた話を思い返しながらミズハの話を聞く。ケンシンが国中の適合者を探したが誰も居なかったと言っていたのを思い出し、顔をしかめる。


「ガードガイナーにこだわる理由は? 異世界人の召喚が良くないことだと、わかっているのでしょう?」

「ガードガイナーには魔獣から邪悪な存在の力を奪い、再封印する能力があるのです。それは女神様から下賜されたガードガイナーにしか行えない事で、国の力だけではどうにもならないのが現状です」

「だから異世界人を召喚してまで、ガードガイナーで戦う事を強いるのか……」


 事情を聞き、理解できてしまう。他に手段はなかったのだと。ガードガイナーが動かなければ彼らに訪れるのは破滅だけ。破滅を避ける為にこの悪行いせかいしょうかんを行ったのだと。


「もし、僕が戦わないければ殺しますか? 代わりの適合者を呼べば僕は要らないでしょう?」

「いいえ。必要最低限生活は保証いたします。ですが、自由な行動は出来ず、監視も付きます。元の世界に戻す方法は邪悪なる者を封じた後、女神様から教えていただく手筈になっていますのから、全てが終わるまで不自由な生活を送ってもらうことになるかと」

「……はは、正直に言うんですね」


 1人呼べるなら2人目だって呼べるはず。そう思いついた武己の問いにミズハは嘘偽り無く答える。それが理不尽を強いる者が示せる誠意だと信じているのだ。

 力無く笑う武己だったが、彼女の誠意を確かに感じていた。諦めるしか無い状況だと理解して武己が感じたのは、自分のような目に合う人は自分ひとりで十分だ、という思いだった。

 もし、自分が戦うことなく次の異世界人召喚が行われ、家族や友人が召喚されたらと思うとゾッとする。


「僕の望みは全て終わった後、元の世界に戻ることです。その為に……戦うしかないなら、戦います」

「はい」

「戦う条件があります。僕が戦っている間は……絶対に、異世界人の召喚を行わないでください」

「はい……必ず……!」


 武己の言葉にしっかりとミズハが頷く。戦いを強いられてなお、他者への優しさを感じさせる言葉を話す彼の姿に涙が出そうになる。しかし、強いる側のミズハが泣く訳にはいかない。本当に泣きたいのは、きっと武己なのだから。


「私は……私は必ず、ヤマシロ様が元の世界に戻れるよう尽力致します。何があっても、貴方は必ず……!」

「……よろしくおねがいします、巫女様」


 武己の手を両手で握るミズハ。彼女の手を温もりを感じながら、武己はゆっくりと頷くのであった。

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