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クレストル王立軍学校第38期外伝 続デミルズ統一戦記11 統一へ カンガコウ平原の戦い編2 クレストル王国の栄光

 これでやっと終了です!ここまで来るのに一年半かかりました。


 グリと近衛五将の弓使いレボーグ・ガイラーは馬に乗ったままニッカロ山中を駆け抜け、戦いを続けていた。

 二人の戦力差は馬術ではグリが、射撃術ではレボーグが若干有利な状況で、二人は30~50mの距離で騎射し合っていた。


「この山の中での乗馬術も見事だけど、それよりも驚いたのは射撃術だ、こんなに正確な騎射が出来る奴がいたなんて・・・」


 グリはこの世界初の騎射隊の隊長として騎射術には自信を持っていた。しかし、レボーグの騎射は正確さに於いてグリに劣るどころかむしろ上回っている様に思えた。

 レボーグは『狩人』と呼ばれる近衛五将”最巧”の男、その弓の腕は100m離れた位置からも正確に人の胸を射抜くとされている。騎射になればさすがにそこまでの正確性は発揮できないだろうが、その腕が脅威である事には変わりがない。


 今現在グリとレボーグの距離は40m程、グリが逃げ、レボーグが追いかける形になっている。先ほどから手数ではレボーグが圧倒している、というのもレボーグは追う立場なので前を向いて弓を引けるが、グリは追われる立場なので馬上で体をひねって弓を引かなければならない。それでも反撃出来ているのはグリの巧みな乗馬術によるところが大きい。

 グリは矢筒を背負い、さらに長く太い矢筒を馬に提げていた。


≪キンッ!≫


 レボーグが正確にグリの体を狙った矢を、グリは手にした弓で辛うじて弾く。


「後ろに付かれてちゃ勝負にならない!ちょっと面倒だけど・・・」


 グリは馬の手綱を操り、馬を木が立ち込める林の中へと進めた。


「クソッ!あの小僧、巧みに馬を操りやがる。弓なら負けぬが山中の騎射はどうも勝手が違う。さすがはリキ軍の騎射隊長という訳か」


 レボーグもグリを追って林に馬を乗り入れる。


≪ヒュンッ!≫


 レボーグが林に入った瞬間に矢がレボーグめがけて飛んでくる。


「ふんっ!」


 レボーグも手にした弓でこれを打ち落とす。しかし、その一瞬の動作でレボーグはグリの姿を見失った。


「ちっ!最初からそれが目的か!」


 レボーグは舌打ちをして矢が飛んできた方へ馬を進める。が、当然既にグリの姿はない。


≪ヒュンッ!カッ!カッ!≫


 レボーグは思わず馬上で倒れ込み矢を躱す、矢はレボーグの頭上をすり抜け後ろの木に突き立った。

 今の弓弦(ゆんづる)の音は一つ、しかし矢は二本飛んできた。


「二本(つが)えか!しかも正確な射撃だ!」


≪ヒュンッ!≫


 また矢が飛んでくる。


(速い!止まっていては狙い撃ちだ)


 レボーグは慌てて馬を走らせる。しかし、グリの射撃は止まらない。


(くそう!こちらの位置は把握されている。このままでは埒が明かん!)


 レボーグは矢の飛んでくる方向とは全く違う方へ走り出した。一旦離れて仕切り直しを計る為である。

 お互いが十分に離れ互いに相手の位置が掴めなくなった。


「これで良し・・・」


 グリの方でもレボーグの意図を推し量っていた。結局この戦いは追う者と追われる者の戦いだ、どちらが追う者になるのかが勝敗の分かれ目、先に相手の位置を掴んだ方が有利と考えた。

 グリは慎重に馬を進める。

 実の所グリはある程度近づけば相手の存在に気付ける自信があった。それは馬の存在だ。レボーグがいくら気配を消そうとも馬はそうはいかない。呼吸、いななき、足踏み、馬は様々な音を発する。子供の頃から馬に親しんできたグリにはそれらを敏感に感じる事が出来る。レボーグの存在に気づけなくても、馬の存在には気付ける自信があったのだ。


(いた!)


 グリが馬の気配を感じて近づくと、先の方に馬の尻尾が上下しているのが見えた。


(良し!気づかれない様に背後から・・・)


≪ガサッ!≫


「えっ!?」


 不意に頭上で音がして見上げると、頭上にある木の枝からレボーグが短剣を振りかざして飛びおりてきた。


「うわっ!」


 グリはとっさに弓をかざしてこれを防ぐ。しかし、とっさの事で体勢が悪かったのかグリは落馬してしまった。


「くっ!」


 グリは急いで立ち上がり追撃に備えたが、レボーグはそのまま走り去り、馬に乗って行ってしまった。どうやら馬を囮に誘い出された様だ。


「あっ!!!しまった!!」


 グリが手元の弓を見ると弓弦が切られていた。恐らくレボーグの狙いはこれだったのだろう。


 レボーグは会心の笑みを浮かべていた。


「これで奴に近づきさえしなければ負けはない。距離を保って狙い撃ちだ!」


 レボーグは慎重に距離を取りつつ、グリの正面に回る。10mほど離れた所で弓に矢を番えながらグリの前に躍り出た。


「貴様の負けだ!死ね・・・なっ!」


≪パーンッ!≫


 乾いた音がニッカロ山に木霊する。


「ふぅ・・・。この距離ならさすがに鉄砲でも当たるよね」


 馬上で鉄砲を構えたグリが大きなため息を漏らす。


「僕がただの騎射隊だと思ったのがお前の敗因だよ。リキは僕に馬上で鉄砲を撃てって言うんだよ。リキは騎射隊ならぬ騎砲隊なんてものを作ろうとしてるんだ。無茶苦茶な話だと思ったけど、結局そのおかげで命拾いしちゃったよ」


 額を撃ち抜かれたレボーグは即死。グリとレボーグの騎馬戦はグリに軍配が上がった。



 グリが麓に戻ると、怪我をしているシムズとランベルトと無傷なのに落ち込んでいるシアダドがいた。


「みんな!無事!?」


 グリが呼びかけると、


「おう、グリ!お前も無事だったか!俺もちっとばっか肩ぁやられちまったけどよ、まあ何とか勝ったぜ。シアダドとランベルトもな」


「グリ、お疲れ!」


「・・・・・・」


 三人の様子を見てグリは、


「ねぇ、シアダドはどうしたの?落ち込んでるみたいだけど」


 と尋ねるとシムズが、


「ああ、シアダドのヤツ知的な戦略だと思ってたのが単なる馬鹿力の力押しだったんで凹んでやがんのよ。知的ってキャラかっつうの」


「うるせえぞ、シムズ!俺は今アンニュイな気持ちに浸ってるんだ・・・」


「アンニュイってそういう意味だったか?」


「違うと思う」


「小難しい言葉を使えば偉いと思ってるんだあいつは」


「はは・・・で、ライリュウは?」


「あそこだ」


 ランベルトが指さした先でライリュウと近衛五将”最凶”の男セレーゾ・デルダンテが対峙していた。セレーゾは『人斬り伯爵(カウント・マーダー)』と呼ばれる男で、過去に何度も辻斬りの様な事をしでかしているが、なぜか証拠不十分などで一度も捕まった事がない。というのも実はセレーゾは現聖王の妾腹の子なのだ。母の身分が低かった(庶民だった)為認知せず、デルダンテ家へ養子に出したのだ。

 セレーゾは幼少時より剣の才能を発揮し、その腕は八歳上の異母兄にして前上将軍のゲネスよりも上と見られていた。

 聖王の実子でありながら王族と認められなかった事はセレーゾの人格形成に暗い影を落とし、剣を得てからはそれを狂気の犯行へと利用する様になっていった。

 セレーゾの凶行に頭を悩ませた首脳部は彼を近衛軍に入れ、バーブ・イリ宮殿に閉じ込める事で問題の解決を図った。近衛五将の筆頭に列せられる事でセレーゾの自尊心はある程度満足したのか、それ以後は凶行が止んでいる。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 先ほどからライリュウとセレーゾはじっと見合ったまま身じろぎもしない。

 すると二人の間に戦闘の流れ矢が付き立った。


≪ギィィンッ!≫


 互いに打ち込み合った剣が火花を散らし、二人はまた距離を取ってにらみ合う。


「驚いた。『幻影(ファントム)』と『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』以外にもこれほどの剣士がクレストルにいるとは」


「私も驚いた。リキ殿とシャクリーン殿以外にまだこれほどの腕を持つ者がいるとはな。やはり世界は広い」


「同感だ!」


 ジッと見合ったまま動かなかった今までとは打って変わって激しい攻防が繰り広げられる。

 二人の腕はほぼ互角、驚いた事にセレーゾの剣は我流の殺人剣ではなく、何らかの流派にのっとった正統派の剣技だった。しかし、ライリュウはその剣の根底に流れるモノを感じ取っていた。


「邪悪な剣だ。貴様の剣は剣気が濁っている。貴様の剣は戦いの為の剣ではなく、殺人の為の剣だ」


 ライリュウの看破にセレーゾは、


「剣術は殺人の為の技、いくら綺麗事を言ってもその本質は変わらん!」


 と言って鼻で笑い飛ばした。


「剣術は殺人術、それは否定しない。しかし、剣を以て殺すのと、殺すために剣を使うのとはまったく違う!貴様は剣士ではない、殺人者だ!」


 ライリュウが反論するも、


「ふんっ!詭弁だな。貴様は感じぬのか?相手を斬った時の優越感を、自分が男として相手よりも優れているという満足感を!」


 セレーゾは真っ向から否定する。


「是非もなし。剣士として貴様の剣を封じねばならん・・・」


 ライリュウは『霞の構え』を取る。


「ぬ!?」


 実戦ではあまり目にしない構えにセレーゾは警戒心を強くする。


「ゲン流剣士ライリュウ、参る!『狼牙』!」


 ライリュウは『霞の構え』から最短距離を一直線に突いた。これがゲン流最速の突き、左片手突き『狼牙』である。


≪キィィンッ!≫


 しかしセレーゾは難なく『狼牙』を捌いて見せた。


「馬鹿な!我が最速の技を!?」


 見ればセレーゾの体が輝きを放っている。


「【錬氣】か!一体何の!?」


「『狼牙』か、大仰な名前だな。しかし俺には通用しない!」


 【錬氣】使いと言うのは厄介なものだ。その[能力]が分からなければうかつに手を出す事も出来ない。

 ライリュウはもう一度『狼牙』を放つ。しかしこれもセレーゾは難なく捌いた。


(わからぬ・・・『狼牙』を防いだのが【錬氣】のおかげなのは間違いない、しかし[能力]の正体がわからん。それが分かれば対処法も考えられるのだが・・・)


 一転してセレーゾの攻撃が激しくなる。それも今までとは違って的確にライリュウの隙を付いてきて圧倒してきた。


「ふふふ、『狼牙』といったか?あれはもう俺には通用せぬぞ!?」


 ライリュウが再び『狼牙』を放とうとして右足を引こうとするとセレーゾが見透かしたようにそう言った。


(読まれている?どういう事だ?癖を見抜かれた?そんなはずはない、右足を引くなど戦いの場ではよくある事だ。まさかこれが奴の・・・)


「その通りだ、俺の【錬氣】能力は『悟り』。俺には相手の行動が読めるのだ」


 セレーゾは『悟り』と言っているが、実際にはリキの『思考加速』とほぼ同じものだ。相手のちょっとした動きや目線、呼吸などからその行動を瞬時に予測できるという[能力]だ。『悟り』という言葉を使ったのはブラフ、ハッタリだ。心まで読まれているという心理的圧迫を加える為のものである。


(『悟り』とは【錬氣】は恐ろしいものよ、心の内まで読まれていては勝ち目はない。いっその事わざと奴の剣を受けて相討ちに持ち込むか?いや、死ぬ訳にはいかん!シーイを、妻を悲しませる訳にはいかん!妻を悲しませるなど・・・)


 ここまで考えてライリュウはハッとした。心が読まれているかもしれないのに何を自分は考えているのだと。ライリュウは恥ずかしさのあまりに赤面してしまった。しかし、


「何を悶えている?そちらが来ぬならこちらから行くぞ!」


 再びセレーゾの怒涛の攻撃が始まる。

 確かにセレーゾはライリュウの動きを読んでいる。しかしそれは心の中、心理を読んでいる訳ではないのではないかとライリュウは疑った。


(確かめてみる必要がある・・・)


 ライリュウは攻撃に転じた、それは流れるような流麗な攻撃、まるで剣舞の様な美しさだ。

 これはゲン流の型をなぞるもの。

 ライリュウの学んだゲン流は師ゲンボクの家に伝わる流派で三十二の型から構成される。今ライリュウが見せているのは入門した時に体が覚えるまで繰り返し繰り返し学んだものだ。既に体の髄にまで覚え込ませており、いちいち考えずとも自然に体が動くように刷り込んである。

 この華麗な剣戟もセレーゾはいとも簡単にさばいて行く。


(間違いない、こいつは心を読んでいるのではない。こいつの【錬氣】能力『悟り』とは読心術ではなく、優れた行動予測の事だ)


 ライリュウはセレーゾの【錬氣】能力に確信を持った。もしセレーゾの『悟り』が読心術なら今の攻撃に戸惑うはずだ、なぜなら今の攻撃は意図して、考えてやったものではない。セレーゾが心を読んでいるのなら、今の無心の攻撃に戸惑わないはずがない。


(ならば手はある!予測ではわからない要素(ファクター)を加えればいい)


 ライリュウは再び『霞の構え』をとる。


「ふんっ!その技は効かぬと言っているだろう?あきらめの悪い奴だ」


 あざ笑うセレーゾにライリュウは、


(やはり・・・ここまでは『狼牙』と一緒だがここからが違う!)


 ライリュウは突きを繰り出すと同時に右足を一歩踏み込んだ。


「ぬっ!?右手の突きか!?それも俺にはお見通しっ!!!???」


 セレーゾがライリュウの剣を弾こうとした時、ライリュウの体が金色に輝いた。


「そんなばごっ!!!」


 弾こうとするセレーゾの剣をものともせずライリュウの剣がセレーゾの胸板を貫いた。


「ゲン流裏刺突『虎牙(ふうが)』」


「き、貴様も【錬氣】能力者だったのか・・・」


「俺の【錬氣】能力は『衝撃力増強』、お前は俺の『虎牙』は読めてもその威力は読めなかった。くる事が分かっていても止められないなら意味がない」


「くっ!くそぅ・・・クレストルの田舎者に・・・」


「ふっ、一応訂正しておくが俺はドガの人間だ。聖王国に田舎者呼ばわりされるいわれはない」


「ドガだと!?敵に尻尾を振る犬め!」


「クレストルには敵をも受け入れる懐の深さがあった。貴様らの軍にいったい何人のハイバル国の人間が参加している?それがクレストルと貴様らの違いだ、ドガも人の事は言えんがな」


「な、なぜ俺がこんな奴に・・・お、俺は王の・・・」


 セレーゾは無念の表情を残して絶命した。

 ライリュウは剣に付いた血をぬぐい、鞘に納めた。


「皆無事か?」


 ライリュウが周りに声をかける。


「何とかな、お(めえ)の相手、とんでもなかったな。何となく強さは分かった、俺達じゃとても敵わない奴だった」


「ああ、強敵だった。しかし、一人も死なずに済んで何よりだ。一人でも死んでいればリキ殿に合わせる顔がなくなるところだったぞ」


「リキは仲間思いだからね」

 

 グリが笑いながらそう言った。

 そこに、


「おーい!」


 シャクリーンが人一人を抱えてニッカロ山を駆け下りてきた。


「みんな無事だったのだ?」


「えっ?あっ、ああ」


 大の大人を抱えて山を駆け下りてくる。あまりに突拍子もない光景に皆引き気味だ。


「シムズ達がいたのは分かっていたのだが、ミアナから勅命を受けてしまったのでそっちを先に片づけてきたのだ!」


 シャクリーンはその場の空気も気にせずにそう言った。


「勅命って、そいつが何か関係あんのか?ってえかそいつ誰だよ?」


 シムズが肩に担いでいる男について尋ねる。


「これはヴィクター様なのだ!ヴィクター様はこれから本陣に出頭するのだ!」


「出頭って出陣命令を無視した事でか?」


「そうなのだ!これから出頭して、一生懸命謝って許してもらうのだ!」


「謝ってって、気を失ってるじゃねえか」


「向こうに着いたら起こすから問題ないのだ!・・・!シムズ、ちょっとヴィクター様を持って欲しいのだ」


 シャクリーンはヴィクトルをシムズに渡すと、しゃがんでこぶし大の石を拾い、山に向かって投げつけた。


≪バキッ!メリメリメリ!!!≫


 シャクリーンの投げた石はかなり離れた所に生えていた木に当たり、何とその木が倒壊した。


「ちっ!逃げられたのだ。やっぱりリキみたいに上手くは行かないのだ」


「何だシャクリーン、何かいたのか?」


 ランベルトが尋ねると、


「こっちを監視してた奴がいたのだ。恐らくシムズ達の戦いを監視していたのだ」


 とシャクリーンは答えた。


「何と!俺にも気配を読ませぬとは。シャクリーン殿、そ奴は相当な手練れですか?」


 自分でも気づかなかった監視者を容易く見抜いたシャクリーンに感嘆しつつライリュウが尋ねる。


「気配遮断はほぼ完ぺきなのだ。あれに気付けるのはシャクリーンかフォクレスくらいのものなのだ。逃げ足も速く、ここからじゃ追いつけないのだ」


「山でシャクリーンが追いつけないって言うんなら相当なものだよね」


 山でのシャクリーンの凄さを知るグリが信じられないとの感想を漏らす。


「まあ逃げられてしまったものはしょうがないのだ。それより山上の軍はルギリスが率いて下りてくるから、最初の作戦通りペリッツ少将とソルダ将軍と協力して近衛軍とスプシュレ軍を叩くのだ!サゴラ隊が突出していて危険だから早く助けに行くのだ!」


「サゴラが!?よし!シアダド隊はサゴラ隊を救出に向かう!シムズ、先に行くぞ!シアダド隊、続けー!!!」


 シアダドは自分の隊を引き連れてサゴラ隊救出に向かった。

 シャクリーンはシムズからヴィクトルを受け取ると、


「じゃあシャクリーンは行くのだ!行きがけに少し手伝っていくのだ!またな!みんな死ぬなよ!」


 そう言い残して敵陣の中を突っ切り、周りにいた聖王国兵達を片手で薙刀を振り回してなぎ倒しながら去っていった。


「・・・なんかもうシャクリーンとかリキって人間離れして無茶苦茶になってきたよね・・・」


「何かよお、俺達が苦労した近衛五将とかもあの二人なら独りで相手にしちまうんじゃねえかって思えるよな」


「・・・あながちないとは言えないのが笑えんな・・・」


 グリ、シムズ、ランベルトがあきれたような口調でそうこぼした。



 ―――聖王国軍本陣―――


「ただいま戻りました!」


 ランフェリアは息も絶え絶えに聖王の前に進み出た。


「どうしたランフェリア?そちがそれほど取り乱すとは?」


 聖王は楽し気に尋ねた。


「どうもこうもありませんわ!何、あのシャクリーンって子。100m以上離れていたし、気配もちゃんと消していたのに気づかれたんですよ!?それどころかこんなでっかい石を投げてきて、もう少しで直撃するところでしたわ!」


 ランフェリアは今あった事を早口でまくし立てた。


「ははは!そちが気取られるとはさすがは『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』という所か。それで

幻影(ファントム)』の方はどうした?」


「いませんでしたわ、それと近衛五将は皆敗れましたわよ?」


「何だと!!!」


 興奮して叫んだのは総参謀長コリン・エラードだ。


「全員見届けましたわよぅ?陛下、残念ながらセレーゾ・デルダンテも」


「そうか、あ奴は性格はともかく剣の方はほんの少しだけ才能があったのだがな」


「それともう一つ、ヴィクトルはシャクリーンによって拘束されましたわ」


「何だと!!!」


 コリンはまたしても叫び声をあげた。


「なぜ『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』が・・・。『幻影(ファントム)』ならば間違いなく衝突したものを・・・」


「敵もそこまで読んでおったからわざわざシャクリーンを寄こしたのであろう。カーラ・ボーデンハウス、中々の知恵者よのう」


 聖王はそう言ってカーラを褒めたが、実際にシャクリーンを向かわせたのは”天才”カーラ・ボーデンハウスではなく、”魔女”メリーシュメリー・タヌルバルドの方だった。


「そんな・・・」


 コリンはその場にへたり込み、うなだれるように俯いた。


「まあ、あなたよりカーラ・ボーデンハウスの方が賢かったって事じゃない?陛下、どうなさいますか?このままでは南の戦線が崩されるのは時間の問題ですわよぅ?」


 コリンにはランフェリアの嫌味も聞こえていない。ただ呆然と座り込んでいるだけだ。


「やむを得まい」


 聖王はゆっくりと急造りの玉座から立ち上がる。


「陛下?」

「どうなさいますの?」


 コリンとランフェリアが同時に声をかけた。


「この戦は負けよ、こうなった以上ここから逆転するには敵の女王、ミアナ・ポンフォス・クレストルの首を挙げるしかあるまい?」


「た、確かにそうですが・・・」


 コリンはすがる様に聖王に訴えた。


「ニッカロ山にシャクリーンが来たという事はミアナの側にはリキ・サーガがおるのだろう。ディオは既に亡く、スキシノーもセレーゾも死んだ今、余以外の誰に『幻影(ファントム)』リキ・サーガを討てるというのだ?」


「しかし陛下、それは・・・」


 諫めようとするコリンに聖王は、


「構わん。どうせこの戦で負ければ後はない、この場を逃げても早いか遅いかの違いでしかないわ。それならば余自ら打って出てミアナの首を挙げてやるまでよ」


「しかし・・・」


 尚も言い募ろうとするコリンを(なだ)め、


「よい。ふふふ、数十年ぶりに剣士としての血がたぎっておるわ!デラゴ、ランフェリア!(とも)をせよ」


 傍らに侍した護衛のデラゴと愛妾ランフェリアに供を命じた。


「はっ!」

「承知いたしましたわ」


「コリン、そちがスキシノーの軍の指揮を執れ。クレストル軍を抑え、余の道を開けよ!」


「はっ!このコリン・エラード、必ずや陛下の覇道を妨げる虫どもを蹴散らして見せましょう!」


「うむ、参るぞ三人とも」


「「「はっ!」」」



 コリンは敢えて北側のベーラミの軍を前に進めてバーデルとエリアスの軍を抑えさせ、ペリッツが聖王を狙ったルートよりも南側を開けさせてスキシノーの軍を通させた。


 この動きはクレストル本陣にもすぐに伝わり、それを聞いたカーラは、


「いよいよ最終局面だな、我が軍は南から、敵は北から突破口を開こうとしている。ただ位置的には我々の方が遠回りをしている分時間的には不利だ。リキ、準備をしておけ。シャクリーンが戻り次第お前に出てもらう事になる」


 とリキに呼びかけた。

 するとメリーシュメリーが、


「スキシノーの軍は誰が率いておるのじゃ?スキシノーはリキ殿が討ち取っておるのじゃろう?」


 とカーラに尋ねた。


「スキシノーの軍は四万近く、軍の規模から考えるとコリン・エラード自身が指揮を執っているのでは?」


「もう一つ、近衛軍が南に向かい、スキシノー軍が前線に出てきた。では今聖王を守っておる兵はおるのかえ?」


「確かに・・・、近衛軍やスキシノー軍の一部を残しているのでしょうか?」


「さらにもう一つ、スキシノー軍じゃがこちらの本陣を目指しとるにしては陣形・隊列がおかしい。これではまるで我が軍を抑えるのが目的の様じゃわえ」


「・・・言われてみれば確かにそうですね。考えられるとすれば、敵がさらなる精鋭部隊を隠し持っていて、それを本陣に突入させるための道を開いている、とかでしょうか?」


「そんな所かのう?あたしらが知らん隠し玉がまだおるという事かもしれぬわえ」


 するとそこへ泡を食った兵士が駆け込んできた。


「本陣に侵入者!男二名女一名、男の一人は聖王を名乗っております!!」


「何じゃとお!!」


「リキ!姫様の側を決して離れるな!」


「応!」


 カーラはリキに指示を出すとティアを見て、


「ティア」


 と声をかけた。


「・・・」


 ティアは黙って頷き本陣入口の方へと歩いて行った。



 クレストル本陣に侵入した聖王は自ら剣を取っていた。手にしているのは『鳳翼の剣』、かつてディオが所持し、今はディオから奪ったリキからクレストル王家へと献上された『飛龍の剣』と一対をなす宝剣である。


「デラゴ、そちはここに留まれ。もしシャクリーンが現れたならばここで奴の足止めをせよ。さすがに余でも『幻影(ファントム)』と『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』の二人を相手にするのは骨が折れる。余がリキ・サーガとミアナ・ポンフォス・クレストルを斬るまでここでシャクリーンをとどめておけ。そちの[能力]であれば可能であろう?」


 聖王はニヤリと笑った。


「承知いたしました。どうかこちらの事はお任せください。この場にて陛下の凱旋をお待ちしております」


 群がる警備兵を斬り捨てて聖王は進む。

 すると聖王とランフェリアの前に一人の剣士が立ちはだかる。


「失礼ながらあなたが聖王か?」


「いかにも。余が第34代聖王である、そちは何者か?」


「シャクリーン軍大隊長ティア」


 ティアは名乗って腰の剣を抜く。


「陛下、ここは私に任せて陛下はお先に。ここまでくればもう邪魔も入りませんわ」


 ランフェリアが聖王を促す。


「よかろう、女は女同士で方を付けるがよい。ランフェリア、先に参るぞ?」


「はい、すぐに片づけて後を追います」


 聖王は歩いてティアの脇を通り抜けた。


「あら!?行かせても良かったのかしらぁ?」


 ランフェリアが挑発する様にティアに聞いた。


「姫様の側にはリキがいるので心配ない。貴様、ランフェリア・セーグリッドだな?カレンから話は聞いている」


「あら、そぉ!カレン将軍はお元気?ホウショ様は?私あの子嫌いだったのよねぇ、ホウショ様って無駄に良い子じゃない?高貴な家に生まれて良い子とか何か虫唾が走るわぁ」


「貴様とて貴族なのだろう」


 ランフェリア・セーグリッドと名乗っている限りはセーグリッド家という貴族の出だとティアは思ったのだ。

 しかしランフェリアは、


「違うわよぅ、セーグリッドは陛下に頂いたファミリーネーム。私は庶民の生まれ、それも底辺の孤児。親の顔も知らないわぁ。預けられた孤児院がまた最低でねえ、院長が寄付を懐に入れていたものだから子供たちはいつも汚い格好でおなかをすかせていたわぁ。だから私はねぇ、食べる物、着るもの、住む所は良いモノが欲しい。それを全て持ってる子供が大嫌い!だから私はねぇ、ホウショ様が大嫌いなのよぅ」


 と顔をゆがめながら言った。


「ふっ、あさましいな」


「何ですって!!」


「己の境遇を嘆いて(ねた)んでいるだけではないか」


「黙れ!お前に何が分かる!」


「どうした?地が出てきているぞ?先ほどまでの穏やかなしゃべり方は演技か?」


「殺す!」


 ランフェリアは右手を順手に左手を逆手にして二本のナイフを構えた。ランフェリアは諜報員、武器は携帯に便利なナイフを愛用している。身に着けている物はほぼ全身を隠した黒装束、手袋もつけており、外に露出しているのは目だけだ。


「涼しくなってきたとはいえ、そんなものを着込んで暑くないのか?昼間からその恰好では却って目立つだろう?」


「任務の後で着替えるひまがなかったのよ!でも結果的にはよかったわ。私はねぇ、あなたみたいないい子ちゃんも嫌い。シャクリーン軍大隊長ティア、クレストル王立軍学校第37期卒業生。卒業後王都勤務を経て一年後に結成されたミアナ軍に編入、『ワヌーサの大会戦』では『双剣』のフェニムを討ち取る。ミアナ軍解散によりシャクリーン軍に移籍、現在に至る。特にカーラ・ボーデンハウス参謀部副議長からの信頼が厚い。ご立派な経歴よねぇ、性格は明朗快活、美人でスタイルも良く軍中でも人気が高い。ここまで揃うと嫌味よねぇ、性格だけはちょっと印象が違うわね。私はあなたみたいな幸せで苦労の一つもしていませんって人間が大嫌いなの!」


 嫌悪と憎悪の目を向けるランフェリアをティアは嘲笑する様に鼻で笑った。


「ふん、聖王国情報部の諜報能力も大したことないな。性格についてはこちらが地だ。私が苦労をしていないだと?いいだろう、お前の昔語りを聞かせてもらったので私の昔語りも聞かせてやろう。

 私はドガ王国西部の貧しい農村の生まれだ。ドガでは男尊女卑の考えが強く女だった私は生まれた時から厄介者扱いだった。私は自分の名前も覚えていない。親からは”おい”とか”お前”としか言われてなかったからな。両親の記憶で残っているのはとにかく暴力、私の体で両親に殴られていない、傷を付けられていない箇所など一つも存在しない。六歳の時、このまま家にいては殺されると思い、私は家を出た。わかるか?六歳の子供が両親を恐れて親を捨てたのだ。町に出て残飯をあさり、物乞いをしたり、盗みをしたりして生きてきた。幸いな事にある程度の大きさの町には大抵無法者の住む裏町と言うものがある、私はそこで生きてきた。十歳の時にシンヨウの裏町で男に襲われそうになってクレストルのギョウへと逃げた。まだ子供だったので国境を超えるのも簡単だったよ、疑われることはなかったしな。そして私はそこでヴォルフ様に出会った。子供が残飯をあさっているのを見て不審に思ったそうだよ。クレストルでは福祉が充実している、親がいるなら残飯をあさるような真似をする必要はないはずなのだ。ヴォルフ様は私の生い立ちを聞き、私をお屋敷に引き取ってくださった。子供たちの話し相手になる様にと。”ティア”という名前をくれたのもヴォルフ様だ、ボーデンハウス家に引き取られた当時私は嬉しくて泣いてばかりいたのでティア(涙)と名付けて下さった。親の愛情を受けた事がない、褒められた事も抱きしめられた事もなかった私にボーデンハウス家の方々は家族の愛情をくれた!だから私は誓った、私の命はボーデンハウス家の為に使うと!軍学校へ入ったのはその翌年にカーラが姫様と入学する予定だったからだ。先に入学して学校内部を調べる為だった。そして仲間を得て、それも私の宝になった。

 私が苦労していないだと?食べる物も、着るものも、住む所もあった貴様とは違う!私は幸運にもヴォルフ様に拾ってもらったが、私の幼少時代を苦労の一つもしていないと言われるのは心外だ。それに私は貴様の様に憎悪や妬みを引きずってはいない!」


 ティアは感情を高ぶらせて自分の生い立ちを吐き出した。


「むっ!?」


 途端に奇妙な感覚に襲われている事にティアは気づいた。


「そうなのぅ?あなたも苦労したのねぇ。時間稼ぎに付き合ってくれてありぐぁとう、長々としゃべってくるうぇたんで助かっちゃっとぅわぁ。すうぉろすうぉろ効いてきとぅあんじゅあぬぁいぃ?」


 視界は霞がかかったようにぼやけ、ランフェリアの言葉も聞き取りにくくなっている。


「ふふふ、私の【錬氣】能力は『誘惑』、敵の五感を鈍らせるというものよ。って言ってももう聞こえてないわよねぇ。なんでわざわざこんなものを着てたと思ってるの?【錬氣】の行使を悟らせないためよぅ」


 全く見えない訳ではない、全く聞こえない訳でもないが、既にティアはランフェリアを認識できなくなっている。剣を握っている感覚もあやふやになってきて、どうやら触覚も侵されてきているらしい。


「うふふ、変な気持ちでしょう?まるで宙に浮かんでいる様な。陛下もキョウセイもこの感覚が好きだったわよぅ。この感覚でスルと気持ちいいんだって、男って馬鹿よねぇ?」


 ランフェリアが何かしゃべっている。しかしもうティアには聞き取れていない。一度この[能力]に捕らえられたならば、ランフェリアが【錬氣】を切らない限り五感が戻って来る事はない。


(認識できないならばいっそ・・・)


 ティアは目を閉じた。


(さっきリキから話を聞いたばかりだ。目で追わず、耳で追わず、感覚を研ぎ澄まして相手の剣気を追う。奴の場合はこの憎悪の気配だ。見つけ出せ、この憎しみの根源を!)


「剣の達人さんは面白い事するのねぇ。心の目で視るってやつ?そんな事が本当に出来るの?」


 ランフェリアがティアの顔を斬りつける。右の頬に赤い線が走り血が流れ落ちる。


「全然視えてないわよぅ?」


 ランフェリアは次々と斬りつける。決して致命傷にならない様にうっすらと切り刻むように。


「あははははは!どうしたの!?全然大人しいわよ?ねえ?いい子のティアちゃん?悪い子に切り刻まれる気分はどう?あなたを始末したら次はあなたの大事なお友達のカーラ・ボーデンハウスを殺してあげるわ!先にあの世で待っていなさい!!」


 ランフェリアはティアの背後からナイフを突き入れる。


(視えた!)


「何っ!?」


 ティアは半身になってランフェリアのナイフを躱した。


(今突然奴の殺気が大きくなった、これが奴の剣気、憎悪の源)


「馬鹿なっ!?本当に視えているのか!?」


 ティアの首筋を狙ったランフェリアのナイフをティアは手にした剣で打ち払う。


(信じられない!本当に私が視えている!・・・しかし、これならどう!?)


 ランフェリアはティアに向かって手にしたナイフを投げつけた。ナイフは気配を発しない、これならば躱しようがない。


「ぐっ!!」


 ナイフはティアの喉元に当たった。

 思わず膝を着くティア。


「死ね!!」


 ティアにとどめのナイフを突き立てようとランフェリアが襲い掛かる。


「そこだあああああ!!!!」


≪ザンッ!!≫


 ティアの剣がランフェリアを捉えた!


「な、なぜ・・・確かにナイフが喉元に・・・」


 右手を斬り落とされ、胸をザックリ斬り割られたランフェリアが苦しそうに(うめ)く。


「こいつに当たったんだよ」


 ティアは首にかけた認識票を取り出した。


「これは私達仲間の絆の証、仲間の絆が私の命を救ってくれた」


「た、ただの偶然じゃない・・・。クレストルの卑しい犬が・・・」


「最後に私の名を教えてやろう。私の名前はティア、ティア・ボーデンハウス。侯爵ボーデンハウス家の出来の悪い養女だよ」


 ティアは血まみれになりながらも誇らしそうに自分の本名を名乗った。


「陛下・・・申し訳ございません・・・私は先にあの世でお待ちしております・・・どうか・・・ごゆるりと今生を楽しんでから・・・おいでください・・・ませ」


 ランフェリアは最後まで聖王を気遣いながら息を引き取った。


「悲しい女だったな・・・。一歩間違えばこいつは私だったのかもしれない・・・」

 

 俯きながら剣を納め顔を挙げると、

 

「さて、リキならば問題ないとは思うけど、早く駆け付けなくっちゃね」


 すっかりいつものティアに戻って本陣の奥へと駆け出した。




 本陣の入り口でも戦いが始まろうとしていた。


「お前は誰なのだ!?」


 ヴィクトルを担いで戻ってきたシャクリーンをデラゴが妨げる。


「俺はデラゴ、聖王陛下の護衛を務めさせていただいている者だ。聖王陛下のご命令で貴様の相手をさせてもらう」


「お前がシャクリーンと戦うのか?」


「そうだ」


「おい!」


 シャクリーンは集まってきた兵の一人に、


「ヴィクトル将軍が出頭してきた、ちょっとヴィクトル将軍を頼むのだ」


 と言ってヴィクトルの体を兵に預けた。


「お前達も近寄るな、こいつとはシャクリーンが独りでやるのだ」


 シャクリーンの指示を受けて兵達が一斉に下がる。


「準備はいいのか?シャクリーンはいつでもいいのだ!」


「こちらもいつでもどうぞ」


 シャクリーンは薙刀を、デラゴは剣を構える。


「お前はあまり強そうには見えないのだ」


 シャクリーンは瞬時にデラゴの実力を見抜いた。そこそこ使えるがシャクリーンはおろかティアやカレンにも及ばないだろう。シャクリーンが相手では足止めにもなりそうもない。

 シャクリーンはさっさと終わらせることにした。


「ほっ!!」


 一気に踏み込み、デラゴの剣を跳ね上げてその右手を斬り飛ばした。


「その手ではもう戦えない、終わりなのだ。おい!こいつを縛り上げるのだ!」


 シャクリーンが周りの兵達に命じる。

 今本陣を守っているのは残された本軍の兵とシャクリーン軍だ。周りにいたシャクリーン軍の兵士が縄を片手にデラゴに近づく。しかし、


「しょ、将軍、こいつ!」


 見ると斬り落とされたデラゴの右手の切断面から新たな手が生えてきた。と同時に斬り落とされた方の手は砂のように崩れて消えた。


「ん!!!お前いったい何者なのだ!?」


 デラゴは不敵にニヤリと笑うと、


「俺は『不死身』のデラゴ。俺の【錬氣】能力は『再生』、俺の体は切られても刺されても再生する。かつて貴様達の国にいたパシャ・ローレンの様ないい加減な『不死身』ではない、文字通り『不死身』だ。」


 と言った。


「ならばこれでどうだ!」


 再びシャクリーンは薙刀を振るい、今度はデラゴの首を斬り落とした。


「これでも生き返って来るのか!?」


 息を詰めて見ていると、おぞましい事に本当に斬られた首が再生した。

 あまりにもおどろおどろしい光景に見ている兵の中に吐く者が続出する。


「これでわかったか?確かに俺はお前より弱い。しかし俺は負ける事はない、たとえお前が世界最強の『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』だったとしても俺は負けない。俺は世界最強ではないが、世界最強の奴でも俺には勝てない!」


 たった今目にした光景とデラゴの言葉に周りに兵達は恐怖にかられパニックを起こし始めた。


狼狽(うろた)えるな!!」


 シャクリーンが兵達を一喝する。


「生き物として生まれたからには必ず死ぬのだ!いくら【錬氣】だからと言ってそんなに都合のいいものがある訳がないのだ!」


 シャクリーンはさらにデラゴを肩から脇腹にかけて一刀両断にした。

 それでも下半身から上半身が生えてくる。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ―――」


 シャクリーンは何度も薙刀を振るい、頭、両手、両足、胸、腰とバラバラに切り刻む。それでも一番大きな塊から手足が生えて元通りになってしまうのだ。


「ふははははははは!!!無駄だ、無駄無駄ぁ―――!!!どんなに切り刻もうとも、どんなにこの身を破壊しようとも俺はよみがえる!俺を殺す事は不可能なのだあ!!!!」


 デラゴはいわゆるいじめられっ子だった。幼いころから体が大きかった割には引っ込み思案な性格で近所の同世代の子たちからはいつもいじめられていた。その日もデラゴはいじめられていた。その日のいじめは死んだネズミを口に入れさせようというものだった。デラゴは必死に抵抗し、その結果【錬氣】に覚醒した。しかし、デラゴの身に何の変化もなかった。当たり前である、『再生』すべき傷がなかったのだから。その後デラゴは何度も自分の【錬氣】を試してみたが、間の悪い事にいつもケガなどのない状態で試したために『再生』は起こらず、【錬氣】能力は不明のままだった。

 段々いじめはエスカレートしてゆき、ついには暴力を振るわれるようになった。

 ある日、いつもの様に殴られて帰ると、デラゴは悔しさのあまり無意識に【錬氣】を行使していた。

 するとたちどころに殴られて腫れていた目が元通りになり、怪我が治っていた。

 ここでデラゴは初めて自分の【錬氣】能力を知った。自分の【錬氣】能力を知る事でデラゴはいじめを恐れなくなった。暴力を振るわれてもすぐに治してしまえばいいのだ。

 さらにデラゴは自分の【錬氣】能力を研究し、【錬氣】を行使していれば殴られてもその場で回復し、痛みもほとんど感じない事に気付いた。この事を知った事でデラゴはいじめを無視する事が出来るようになった。

 いじめっ子たちはそんなデラゴに腹を立て何とかひどい目に遭わせてやろうと考えていた。

 少し経ったある日、街中を聖王の馬車が通るという事があり、住民たちは沿道に出て聖王に歓声を送る事を強要され、デラゴ達も駆り出されていた。

 そして聖王の馬車がデラゴ達の前を通った時、デラゴは後ろからいじめっ子に思い切り押され、聖王の乗る馬車に倒れ込んでしまった。

 その場でデラゴは逮捕され、不敬罪で死刑を宣告された。

 刑場に引き出され、打ち首にされる瞬間、デラゴは【錬氣】を行使した。すると驚く事に斬り落とされた首が砂と消え、新たな首が体から生えてきたのだ。

 急遽死刑は中止され、デラゴの【錬氣】能力について調査が行われた。デラゴの【錬氣】能力は未知のもので、研究者によって『再生』と名付けられた。

 デラゴの死刑は取り消され、聖王の護衛として採用されることが決まった。まだ未成年だったデラゴには、聖王のお側近くに仕える事は大変な名誉だったし、信じられないほどの高給を約束された。

 その後二十年近くデラゴは文字通り”体を張って”聖王を護ってきた。時に刺されたり、斬られたりしたこともあったが、デラゴの『再生』の前では何でもない事だ。

 デラゴは今の環境に満足している。貧しい庶民に生まれた自分には夢に見たような生活だ。他人を蹴落としてでも今の地位を守る、それがデラゴの信条だ。


「俺は絶対にここから貴様を逃がさん!そうすればやがてミアナとリキ・サーガを殺した聖王陛下が御戻りになろう。その時が貴様の死ぬ時だ!」


「ミアナにはリキが付いてるのだ!絶対にリキは負けない!!!」


「それはどうかな?」


「リキが負けるはずがないけど、シャクリーンも早く行った方が良さそうなのだ。お前はここで殺す!!」


「不可能だと言っているだろおおおおおおおお!!!!」


 シャクリーンは静かに息を整え、【錬氣】を行使する。


「切っても突いても死なないのなら・・・木っ端みじんにするのだ!!!」


 シャクリーンが【錬氣】を全開にし、『筋力強化』と『武器強化』を行使すると、シャクリーンの氣が薙刀に集まり、その氣の大きさは数mにも達した。


「ま、待て!!何だそれは!?」


 デラゴが怖気づいて後ずさる。


「この世から消えてしまえええええええ!!!!」


≪ズガ―――――――――ンッ!!!!!≫


 とてつもない轟音と爆風が吹き荒れる。

 土煙が消えた後、そこには直径10m深さ3mほどの大穴が開き、デラゴの姿は跡形もなくなっていた。


「ふぅぅぅぅぅ!」


 シャクリーンは大きなため息をつき、精も根も尽き果てたとばかりにその場にへたり込んだ。



「化け物め!右半身がほぼ吹っ飛んじまったじゃねえか!」


 デラゴは生きていた。

 シャクリーンが全力を込めようと一瞬大きく振りかぶったので何とか身をよじる事が出来たのである。そして土煙に紛れて脱出し、兵舎の陰に隠れたのだ。


「畜生!何なんだこれは!ちっとも『再生』が進まねえじゃねえか!」


 デラゴの体は『再生』を始めている様だが、シャクリーンの氣に浸食されているのか『再生』が遅々として進んでいなかった。


「くそう!どうする!?今度やったら確実に殺される!塵も残らぬほど木っ端みじんにされたらさすがに『再生』出来ねえ!ありゃあ本物の怪物だ!」


「同感だな」


「何!?誰っぐぁっ!!」


 デラゴはその場に崩れ落ちた。


「相性が悪かったな、俺の”奥の手”は何も斬らない、何も壊さない。ただ息の根を止めるだけだ」


 デラゴの腕を掴んだフォクレスがすでに息絶えたデラゴに語り掛ける。


「ああ―――っ!フォクレス!もうそいつを殺してしまったのか!?」


 シャクリーンがデラゴの気配に気づいて駆け付け、倒れたデラゴを見てフォクレスに問いただした。


「横取りしてしまったみたいで済まなかったなシャクリーン。こいつが逃げたのに気が付いたんで追って来たんだ」


「そうか!フォクレスの()()()ならこいつを簡単に殺せたのだ!」


「ああ、腕も大したことないし、相性的に俺なら簡単だった。しかし、シャクリーンの力技も凄いな、こいつを力尽くで消滅させるってどんなだよ?」


「シャクリーンが勝つにはあれしか方法がなかったのだ!」


「本当、シャクリーンが世界最強なのかもな」


「それより早くミアナの所へ向かうのだ!」


「そうだな!」


「お前達はこの場に留まって、これ以上本陣に敵を入れるな!」


 シャクリーンは兵達にそう指示を出してフォクレスと共にミアナの元へと駆けて行った。




 ミアナの控える本陣中枢まで聖王は単身乗り込んできた。


「止まれ」


 ミアナの警護をフェイ・デンボーらシャクリーン軍の将達に任せリキが聖王の前に立った。


「貴様が『幻影(ファントム)』リキ・サーガか?」


 聖王は立ち止まりリキに尋ねた。


「そうだ、クレストル軍大将軍リキ・サーガだ」


 リキが答える。


「聖王国第34代聖王である。ミアナ・ポンフォス・クレストルの首をもらい受けに来た」


「たった一人でか?」


「見てわからぬか?」


「すごい自信だな」


「知らぬというのは罪なものよ。貴様は己が世界で一番強いとでも思っておるのか?」


「そこまで自惚(うぬぼ)れているつもりはない。お前こそこの状況で生きて帰れると思っているのか?」


 既にこの場所は千人以上のクレストル兵に囲まれている。


「貴様だけなら余独りで何とかなろう、他の者は雑魚にすぎぬ、余が手を下す事もあるまい」


 聖王は手に提げた『鳳翼の剣』を構える。


「聖王、悪いが確実性を取らせてもらう。槍衾!」


 リキが号令をかけると二十人程の槍兵が聖王を取り囲んだ。


「無粋な奴よ。余は貴様とミアナの首を取れば満足するというのに・・・」


「やれ!」


 リキが合図を送ると槍兵達は一斉に360度全方向から槍を突き入れた。


「ぎゃっ!」

「ぐぶっ!」

「ぴっ!!!」

「うばっ!」


 槍兵の中心に聖王の姿はなく、八人もの槍兵が聖王の手にかかって斬られた。


「速い・・・」


 見れば聖王は包囲の輪から逃れていた。目で追えたのはリキだけ、他の者には何が起こったのかすらわからない。


「引け!!聖王の相手は俺がする、お前達では無駄死にするだけだ!」


 リキの決断にカーラが驚きの声を上げる。


「リキ!お前が姫様の側を離れるのは―――」


「大丈夫だ、奴が俺から目を離しミアナを狙うなら俺が奴を斬る。そして奴を斬れるのは俺しかいない。シャクリーンが戻ればこちらが俄然有利になる。それまでは俺がこいつの相手をするしかない。他のヤツでは殺される、こいつは俺かシャクリーン以外では相手は出来ない!」


「そんなにか!?」


「ああ、久しぶりにこんな化け物を見た。ディオ・バウンス以来だよ」


 リキとカーラの会話に聖王が割り込む。


「貴様らが頼りにしている『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』だが、あ奴は来ぬぞ?」


「何!」


「あ奴には余のとっておきを残してきた。『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』と言えどもデラゴを殺すことは出来ぬ。余ですらデラゴを殺す事は不可能だ」


「そのデラゴとやらはあんたの護衛の男かえ?」


 口をはさんできたのはメリーシュメリー・タヌルバルド元帥だ。


「元帥閣下、御存じなのですか!?」


 リキが問いかける。


「ああ、聖王の護衛は”人の壁”として有名じゃわえ。どんなに大怪我を負ってもすぐに護衛任務に復帰する不思議な男じゃわえ」


「良く知っておるな『魔女メリー(メリー・ザ・ウィッチ)』。いかにも、余の護衛のデラゴである」


「リキ殿、面倒な相手じゃ。シャクリーンでもすぐには片づけられんかもしれぬわえ。その事を頭に入れておいとくれ」


「心得ました。だがなあ聖王、シャクリーンをなめるなよ?あいつが殺せない者などいるものか、常識で考えると痛い目を見るぞ」


「なるほど、デラゴでも危ういという訳か。ならば尚更時間稼ぎをさせる訳にはいかぬな」


 聖王は再び『鳳翼の剣』を構える。


「聖王国第34代聖王、参る!」


「クレストル軍大将軍リキ・サーガ、受けて立とう!」


 二人は互いに間合いを詰めると、超高速の乱打戦となった。驚いた事に聖王の速さはリキに勝るとも劣らない。両者は驚きを以て一旦離れる。


「貴様のその刀『天雲切(てんのくもきり)』だな?なぜその刀が貴様の手に?」


「これはクレストル王家の宝物庫にあったものを俺に下賜されたものだ」


「そうか、クレストル家が盗み出していたか。それはそもそも聖王家に伝わる家宝の神剣、聖王家が世界の王となる証、貴様などが持っていて良い物ではないわ!」


「神剣だと?」


「そうだ、教えてやる。楼丸国を知っておるか?世界最古の王国だ」


「・・・ああ」


「かつて楼丸国の王は世界を支配した、そして王には三人の息子がいた。王は三人の息子に一本づつ神剣を与え、三人の内最も強い者に楼丸国を継がせると言った。長男には『天の太刀』を、次男には『地の大剣』を三男には『人の小刀』を与えて三人を競わせた。結果三男が勝利をおさめ、こ奴が現在の楼丸国国王の祖先よ。余の祖先である長男は大陸の端に己の国を建てたが、今から四百六十年ほど前に当時の王が大陸を追われこの大デミルズ島へと渡り、聖王国を建国した。次男は己の弱さを恥じ、剣の道に入った。

 伝承では楼丸国を治める者は三振りの神剣のうちの一本を持っていなくてはならず、神剣を三本集めた者は世界の覇者になると言われておる。

 わかるか?その『天雲切』は世界の王の末裔たる余にこそ相応しい。貴様の様な土塊(つちくれ)の中

から生まれた者が持つべき物ではない」


「話は分かった。しかしな、こいつは俺がミアナからもらったものだ、お前にくれてやる訳にはいかん」


「ならば力尽くで奪い返すまでよ!!」


 再び両者は向き合うも、今度は乱打戦にはならず、一撃一撃をかみしめるような展開になる。


「貴様の刀術、それはキリウ流か?」


 聖王の問いにリキは困惑して答える。


「俺の刀術は父に習ったもの、流派は知らん!」


「リキ・サーガ、サーガ・・・。そうか!貴様の父はバラキ・サーガか!?」


「!父を知っているのか!?」


「ああ、知っておるとも。バラキ・サーガ、かつて世界最高の剣客と言われたキリウ流家元ソウゲン・キリウの高弟だ。当時間違いなく世界最強の一角だったぞ、余も一度手合わせしたいと思っていた」


「親父と・・・?キリウ流?」


「ん?待てよ、まさか貴様『地の大剣』も持っているのではあるまいな?」


「『地の大剣』?」


「そうだ、銘を『地裂夜叉王(ちれつやしゃおう)』と言う。始まりの三兄弟の内次男の血筋がキリウ家よ。ソウゲンの代で『地裂夜叉王』は失われたと聞くが、高弟バラキ・サーガに伝えていたのではあるまいか?」


「『地裂夜叉王』は知らんが、『夜叉王』ならば確かに俺が親父から受け継いだ」


「あっはっはっはっは!!!これは驚いた!まさか三振りの神剣の内の二本を揃えておるとは!良いぞ良いぞ!それは余の血筋にのみ所持を許された神剣、余がまとめて引き取ってやろう」


「断る!それになあ、話を聞いてりゃこいつはどうも俺にも所持する権利がありそうだ」


「何だと?」


「俺の母の名はレイラ・サーガ、旧姓はガトー、レイラ・ガトーだ!俺は楼丸国現国王レオ・ガトーの甥にあたる。歴とした楼丸国の血筋だ!」


「そうか!二十八年前の御家騒動で行方をくらませたレイラ・ガトーと共に逃げたのがバラキ・サーガか!何と言う運命のいたずらか、ガトーの娘とキリウから『地の大剣』を託された高弟が出会うとは!そしてその息子が『天の太刀』をも得て余の前に現れるとは!」


「興奮している所を悪いが俺は『天雲切』も『夜叉王』も渡すつもりはない。神剣がどうだとか楼丸国がどうだとかも興味がない。それよりも聖王、この戦争の決着を俺とお前でつけよう」


「ふははははは!!!聖王と()()()()て二十余年、久々に剣士の血がたぎるわ!」


 再び二人は斬り結ぶ。戦況は互角、二人の速さは互角、技術は聖王に分があった。リキは力で上回り、辛うじて互角の展開に持ち込んでいた。

 これは今までのリキの戦いとはまったく違う、いつもなら速さで上を行き、技術でも優位に立つというのがリキのパターンだった。それがこの対聖王では速さが互角なのだ、これはリキにとって初めての経験である。ディオ・バウンス戦でも速さだけはリキが優位に立っていた。


「聖王国ってのは一体何なんだ!?ディオ・バウンスも化け物だったが、聖王自身もとんでもねえな!」


 リキが悔し紛れに吐いた言葉に聖王が答える。


「当然だ。余とディオ・バウンスは同門の兄弟弟子、余とディオの間に力の差などなかったぞ?余は世界を統べる王になる故、最強の名はディオに譲ったまで。聖王が最強になっても意味がない」


「どういう事だ?」


「余は聖王となった時に死んだのだ。聖王とは人ではない、国の一機関だ。人格も意志もいらず、ただ国の為に存在するだけの機関だ。それ故名前も失った、聖王に名前は必要ない、聖王は聖王でしかないのだからな。最強の称号は人間が持つからこそ意味がある。一機関にすぎぬ余が持っても意味がない」


 戦いの天秤は聖王に傾きつつあった。この二人の戦いでは速さこそが最も重要で、次いで技術、力はあまり重要な要素ではない。力でしか上回れぬリキが苦戦するのはある意味当然だった。


「信じられん・・・あのリキが押されている・・・」


「リキ・・・」


 カーラは茫然とし、ミアナは祈っている。

 戦いは圧倒的にリキが受けに回ることが多くなった。


「あのリキ殿が・・・聖王は確か五十を大分越えているはずじゃぞ?」


 メリーシュメリーの言う通り聖王は今年で五十五歳になる。それでもリキと同じ速さで動き、圧倒し始めている。


「ぐっ!!」


 遂に聖王の『鳳翼の剣』がリキを捉えた。リキは左の二の腕を浅く斬られた。


「どうした?こんな物か?バラキ・サーガの息子よ。これではちと期待外れだな、ひりひりする様な命のやり取りがしたいのだ。聖王ではなく剣士として死ぬならそれも悪くない」


 聖王の目は狂気を宿している。だが、聖王として、一機関として個人を押し殺してきたが、その抑圧の蓋が外れ、さらにリキの腕を斬った事で剣士としての自分を取り戻し、失った人格が戻ってきてもいる。


「ちっ!こっちが先に奥の手を出す事になろうとはな」


 リキは【錬氣】を行使する。


「行くぞ!?ここからが本番だ!」


 リキは『加速』によって間合いを一気に詰めて聖王に斬りかかった。

 今度は明らかにリキの方が速い、聖王は必死に防戦するも受けきれない斬撃によって傷が増えて行く。

 しかし聖王はむしろ満足そうに、


「ふむ、これが貴様の『加速』か。良いぞ!戦いはこうでなくては面白くない。これならば余も全力を出せよう」


 と言うと、聖王の全身が輝きだした。


「まさか!?」

「【錬氣】?」

「聖王も【錬氣】が使えるのかえ!」


 ミアナ達が驚くのと同時にリキは危険を感じて跳び退(しさ)った。

 だがリキが跳び退くのに合わせて聖王は踏み込みリキの左の胴を薙いできた。


(間に合わない!)

 

 とっさにリキは刀で受ける事を諦め、『天雲切』の鞘を引き上げて聖王の『鳳翼の剣』を止めた。


「ほう、そのような技があるとは・・・。キリウ流も中々面白い」


「これしかないからやっただけだ!流派は関係ねえよ!!ってかお前も『加速』が使えるのか!?」


 リキの問いに聖王は大きく頷き、


「そうだ、余の【錬氣】能力は『加速』、貴様のとは違って単純に『加速』するだけだ」


 と言った。


「俺の【錬氣】能力を知っているのか?」


「勿論だ、貴様と『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』は最大の敵、ランフェリアが詳細に調べておるわ」


「そのランフェリアは死んだわよ」


 そこにランフェリアとの戦いを終えたティアが現れた。


「貴様はティアといったか・・・。そうか、ランフェリアは死んだか、かわいそうな事をした。余が貴様を斬っておればランフェリアは死ななかった。許せランフェリア、先にあの世で待っておれ」


「ティア!無事だったか!」


 カーラが安堵した様に声をかける。


「ええ、大分苦戦して昔の傷口を(えぐ)られたけどね。リキ、あなたのおかげで勝てたわ!ありがとう。それで、私も手伝おうか?」


 ティアがリキに共闘を持ちかけるもリキは、


「すまないが足手まといになる、手を出さないでくれ。ティアはミアナを頼む」


「うわっ、はっきり言われた。でもリキがそう言うならそうなんでしょうね。わかったわ、姫様の事は任せておいて」


「ああ、頼むぞ。こいつは化け物だ、少なくとも俺やシャクリーンと同等以上だ」


「そこまで・・・」


 思わずティアが言葉を失う。一国の王が世界最強レベルだとは思ってもみなかったのである。


「さて、あまり時間をかけて『ちっちゃな怪物(タイニービースト)』まで戻ってこられては面倒だ、さっさとミアナの首を取らねばならんな。リキ・サーガよ精々余を楽しませるがよい!」


 互いに【錬氣】『加速』を行使しての攻防、それでも聖王はリキの上を行く。


(信じられないがこいつ、俺より速い!)


「そうか、お前が『光速の貴公子(プリンス)』アレックスか!」


「ほほう、これはまた懐かしい二つ名と名前が出てきたものよ。いかにも、余がかつて捨てた名がアレックスよ。その歳で良く知っておったな」


「俺が【錬氣】能力に目覚め、天狗になっていた時に親父から聞かされた。世の中には俺より速いヤツなどごまんといる。なかでも『光速の貴公子(プリンス)』アレックスが世界最速だとな!」


「バラキ・サーガがそんな事言っておったか。で?貴様は世界最速の余とどう戦う?」


 【錬氣】を行使した聖王の速さはリキを越えるものだった。このまま打ち合っては分が悪いとリキは判断し、距離を取ってから腰に提げた短剣を聖王めがけて投擲した。


(シャクリーンと違って聖王には初見だ、これが避けられるか!?)


 リキが放ったのは投剣術の奥の手『影』、投げた一本目の短剣と全く同じ軌道で二本目を投げ、一本目を弾いてもその陰に隠れていた二本目が突き刺さるというものだ。かつてあのディオ・バウンスでさえも体勢を崩し、踏み込む隙が生まれた技である。


≪キンッ!キンッ!≫


 しかしこれも超高速の二連撃で難なく打ち落とした。


「投剣術とは面白い技を使う。さすがはキリウ流よな、千年の長きにわたり剣の技を磨いてきただけの事はある。だがこんな小手先の技では余は殺せぬぞ?」


 再び聖王は間合いを詰めて打ち合いに持ち込む。何とか耐えていたリキだったが、遂に聖王の『鳳翼の剣』がリキを捉え、リキは脇腹を切り裂かれた。


「うぐうっ!!」


 傷口も深く、出血も多い。


「その傷ではもはや力を発揮できぬか。あっけなかったな、もう少し楽しめると思ったが。良いのか?このままではミアナ女王は死ぬぞ?ミアナが死ねばクレストルは終わりだ、後はどうとでもなる」


 聖王は勝ち誇りリキにそう宣告する。

 リキは歯を食いしばって立ち上がり、


「残念だが聖王よ、今ここでミアナを殺したとしてもお前達に勝ち目はない。俺達が創ってきた国は、王独りに全てを背負わせて捧げる国とは違う!ミアナがいなくてもタンドナ様がいる、ルーリー様がいる、ヤモンド様がいる!クレストル王家は滅びない!そして勿論俺はミアナを死なせはしない!!!」


 と大声で叫んだ。


「リキ!」

「リキ・・・」

「リキっ!」

「リキ殿・・・」


「若さとは時に恐ろしい力を発揮するものよ、その傷でまだ立ち上がるか。良かろう、見事余を殺して見せよ。余を聖王ではなく、剣士としての死を与えてみせよ!」


 リキは【錬氣】を全開にして聖王に挑む。斬り、薙ぎ、突く、持てる力の全てを注いで挑むもその切っ先は聖王に届かない。


「見事な腕だリキ・サーガよ。だがしかし、それでは余を聖王の座から引きずり降ろす事は出来ぬ。やはり余は聖王として生きねばならぬ様だ」


 聖王はリキの『天雲切』を跳ね上げ、そのまま斬り下ろす。

 鮮血が飛び散り、肩から斬り下ろされたリキはそのまま前のめりに倒れた。


「リキぃぃぃぃ!!!」

「リキ!!!!」

「リキッ!」


 ミアナ達の悲鳴が上がる。

 その声を聞いてもリキの体はピクリとも動かない。


「クレストル王国女王ミアナ・ポンフォス・クレストルよ、余の妃となれ。余の妃となるなら命を助けよう。そして余の子を産めばその子に元のクレストルの領土くらいはくれてやっても良いぞ?それでこの戦争は終わる、貴様の望んでいた平和な世がやってくるのだ」


 聖王の誘いにミアナは一歩前に進み出た。


「姫様!」

「姫様!」

「陛下!」


 心配するカーラ達にミアナは黙って頷き聖王に正対する。


「断る!あなたの統べる国にあるのは平和ではない!誰かの顔色をうかがいながら忍従する奴隷の日々だ!先ほどリキ・サーガの言った通りだ!今ここで私が死んでもクレストルは決して屈しない!私の想いは必ず弟が、妹が、甥が継いでくれる!私達は決して貴方の好きにはさせない!」


 ミアナは胸を張り、決然と言い放った。


「わからん女だ。貴様の意志などどうでもよい、クレストルの女王が余に屈する事が重要なのだ。拒否するならばこの場にいる者を皆殺しにして貴様を(さら)うまでの事よ」


 聖王がミアナに手を伸ばす。


「ティア!私達はここで死ぬぞ!何としても姫様を逃がすのだ!」


 カーラは護身用に携帯している剣を抜き、決死の覚悟を決める。


「落ち着きなさい、カーラ・ボーデンハウス!!私は逃げないし、死なない。だって!リキは私を死なせないと言ったもの!!!リキ!お願い!起きて!!」


 ミアナは涙を流して絶叫する。


「何泣いてやがんだポンコツ姫、俺がこのくれえで死ぬ訳ねえだろ」


 ミアナの声に遂にリキが上半身を起こして反応した!


「リキぃぃぃぃ!!!」

「リキっ!!」

「リキ!」

「リキ殿!」


 リキはゆっくりと立ち上がる。その表情は苦痛と怒りによって歯を食いしばって激しくゆがんでいる。


「ミアナを手前(てめえ)の妃にだと?ミアナに手前(てめえ)の子を産ませるだと?聖王!手前(てめえ)寝ぼけた事言ってんじゃねえぞ!!!ミアナはなあ!俺の嫁になるんだよ!!俺の子を産むんだよ!!!手前(てめえ)などに指一本触れさせるものか!!」


 リキは激情に任せて咆哮した。


「リキ・・・」


 ミアナは胸に手を当てて涙を流す。


「聖王・・・望み通り剣士として殺してやる、死ぬ覚悟が出来たらいつでも来い」


 リキは【錬氣】を行使したまま『天雲切』を鞘に納めて鯉口を斬り、前傾姿勢で腰を落とした。


「キリウ流の抜刀術か、良かろう。剣士アレックス、受けて立つ」


 聖王は『鳳翼の剣』を正眼に構えじりじりと詰め寄る。

 リキも腰を落とした体勢のまますり足でにじり寄る。

 聖王がリキの抜刀術の間合いに入る。


(『()雲切』による『()速』の抜刀術『()光』!)


「『天・瞬・雷』!!!!」


≪ドオォォォォォンッ!!!ォォォン≫

 

 あたりに轟音と衝撃波が走る。


≪ギンッ!!!≫


 『加速』した最速の抜刀術にすら聖王は『鳳翼の剣』を合わせてきた。

 リキが今持てる最高の技『天瞬雷』を止めて聖王は勝利を確信した。しかしそれは少々気が早かった。


「うあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 リキは止められた事も構わず力尽くで聖王の『鳳翼の剣』を跳ね上げて振り切った!


 あたりに衝撃波が走ったせいで誰も今の勝負を確認できていない。


「うううっ!」


 リキがその場に倒れる。


「リキっ!!」


 ミアナが思わずリキのもとに駆け寄った。


 聖王はゆっくりと振り向き、


「三十年前なら俺の勝ちだった・・・老いとは残酷なものだ・・・ゴプッ!!」


 口から大量の血を吐き聖王はその場に崩れ落ちた。


「リキっ!リキっ!しっかりして!ねえリキっ!」


 ミアナがリキを助け起こす。


「まだだ、聖王の首を取るまで油断するな・・・」


 リキはフラフラと立ち上がり聖王の元へ歩いて行き、倒れた聖王を見下ろして問いかける。


「アレックス、剣士として死ねたな。これで満足か?」


 聖王はにこりと笑って、


「ああ、これで俺は人間として死ねる。最後の勝負にも満足している。歳を経た者が若者の力によって屈服させられるのはどの世界でもある事だ。惜しむらくはこの数十年鍛錬を積んでいなかった事だ。していれば勝ったのは俺だったろうよ・・・」


「冗談じゃねえよ、今のお前にだってやっとこさ勝ったってのに、これ以上ってんならそれこそシャクリーンと二人がかりじゃねえと勝てねえよ」


「ふふふ、死にゆく俺にとっては最高の評価だな。バラキ・サーガの子にして楼丸国の末裔リキ・サーガよ、お前に一つだけ忠告してやろう。楼丸国には関わるな、あれは親子兄弟が血で血を洗う修羅の国よ。関われば否応なしに修羅の業に取り込まれる。出自を隠せ、関わるな」


「わかった。忠告を心に留めておこう」


「それでいい。そしてこれをミアナにやれ」


 聖王は首にかけたペンダントを外した。大きな赤い宝石がペンダントトップについている。


「それは聖王の証、それがあれば抵抗を止め降って来る者も多かろう。なるべく民に犠牲を出さんでくれ、最後くらいは王らしい事もしてやらねばな」


 リキはペンダントを受け取った。


「リキ・サーガよ、武人として最後の頼みだ、介錯を頼む。なろうことなら『地の大剣』を見てみたい」


「いいだろう。ティア、悪いが俺の天幕から『夜叉王』を持ってきてくれ」


 ティアはすぐにリキの天幕から『夜叉王』を持ってきた。


「これが『夜叉王』だ」


 リキは『夜叉王』を抜くと聖王に手渡した。


「おお!これは素晴らしい!天地の神剣が揃うとは・・・うむ、これでもう心残りはない、ランフェリアが待っておる・・・早くヤツの元へ送ってくれ」


 聖王は首を前に差し出した。


「聖王にして剣士アレックスよ、お前が俺にとって最強の大きな壁だった!」


 リキは『夜叉王』を振り下ろし聖王の首を取った。

 第34代聖王、旧名アレックス、かつてディオ・バウンスと共に世界最強とうたわれた男は王となるために人をやめ、最後に剣士として人に戻ってその人生を終えた。享年55歳。



「ミアナ!!!無事か!?」


 ヴィクトルを抱えたシャクリーンがフォクレスと共に現れた。


「シャクリーン!あなたも無事だったのね!」


「勿論なのだ!それで聖王はどうしたのだ!?どこにいるのだ!?」


 あたりをきょろきょろ見渡すシャクリーンにカーラが、


「落ち着けシャクリーン、聖王はリキが仕留めた。リキは今そこでアスクレアの治療を受けている」


「リキが怪我をしたのか!?聖王はそんなに強かったのか!?」


「ああ、とてつもない強さだった。私は見ていて何度もリキの死を覚悟したよ」


「そんなに強かったのかぁ、シャクリーンも戦ってみたかったのだ」


「シャクリーン、やっぱり無事だったか」


 そこに治療を終えたリキが現れた。


「おお!リキ、もう大丈夫なのか?」

「リキ、治療は終わったのか?」

「リキ!もう少し休んでなさいよぅ!」


 シャクリーン、カーラ、ミアナが駆け付ける。


「いや、大丈夫だ。傷口さえ縫合してしまえば後は【錬氣】で何とかするさ」


「医師の立場からすると無茶苦茶な話ですけどね。リキは人間離れしているので医術の常識が通用しませんよ」


 アスクレアが両手を広げておどけた仕草で苦笑いを見せる。


「ところでシャクリーン、お前何を抱えているんだ?」


 リキが尋ねるとシャクリーンは、


「あっ!しまった、起こすのを忘れていたのだ!」


 と言ってヴィクトルを降ろし、気つけを入れるとミアナに向かって罰悪そうに言った。


「ヴィクトル・タヌルバルド将軍、出頭してきたのだ!」


 シャクリーンは罰悪いくらいで済んだだろうが、ヴィクトルにとっては地獄の様だった。

 目を覚ましたら目の前に、ミアナ、カーラ、メリーシュメリー、リキが勢揃いだったのだから。


「小僧、弁解はあるか?」


 メリーシュメリーが抑揚のない冷淡な言葉でヴィクトルに詰め寄る。


「何も・・・ありません・・・」


 ヴィクトルはうなだれたまま顔を挙げる事も出来ない。


「待って欲しいのだ!ヴィクター様は騙されたのだ!裏切る気などなかったのだ!だから許して欲しいのだ!お願いします!お願いします!シャクリーンに出来る事なら何でもするのだ!将軍を辞めてもいい、爵位も返上するのだ!ご褒美もお給料もいらないのだ!だから・・・だからヴィクター様を許して欲しいのだ!お願いします!お願いします!」


 シャクリーンは額を地面にこすりつけて懇願した。


「シャクリーン・・・」


 ヴィクトルがやっと顔を挙げる。

 そしてここでリキが口をはさむ。


「陛下、ここは戦場で今は戦時中です。人事権も司法権もまだ私にあります、私に処分をお任せいただけないでしょうか?」


 リキの申し出にミアナはチラッとカーラを見ると、カーラは無言で小さく頷いた。


「よろしい、大将軍に任せます」


「ありがとうございます。さてそれではヴィクトル・タヌルバルド、処分を言い渡す。ヴィクトル・タヌルバルド、貴官を将軍職から解任し、全ての軍籍をはく奪する、以上」


 それを聞いてメリーシュメリーが慌てて口を出す。


「ちょっ!ちょっとお待ちリキ殿。小僧のした事は戦時の内応、どうあっても死罪は免れぬわえ。タヌルバルド家の者だからと言って手心を加えては示しがつかん!信賞必罰、軍規を曲げてはならぬぞえ!」


 リキも反論する。


「元帥殿、あなたは私が軍規を曲げるような人間だとお思いですか?カーラ・ボーデンハウス参謀部副議長、ヴィクトル将軍の罪状を述べよ」


「はい。まずは敵の総参謀長と接触した事を本陣へ報告しなかった報告の怠慢。次にニッカロ山を下りてソルダ将軍と共同してスプシュレ軍を攻め、リキ大将軍の進軍路を開けよという軍令を無視し、待機し続けた軍令違反です」


 カーラの述べた罪状を聞いてリキが言う。


「報告の怠慢は将軍にあるまじき失態、故に将軍を解任する。軍令違反は軍人としてあるまじき行為、故に全ての軍籍をはく奪する。どちらも軍規に(のっと)った処分ですが?」


「だからそれが敵への内応じゃと言うておる!」


 興奮するメリーシュメリーを(なだ)めるようにカーラが語り掛ける。


「元帥殿、それは想像に過ぎません。我々が掴んでいる客観的事実は報告の怠慢と軍令違反しかありません。これで死罪を言い渡す事は冤罪を招き、却って軍規に背く事になりましょう。勿論責任あるタヌルバルド侯爵家の将軍がこのような事をしでかしたのですから、女王陛下からも何らかの処分があるでしょうが、軍の処分としては至極妥当であると思われます」


 これは暗に貴族特権(具体的には爵位の)はく奪をほのめかし、それで手打ちにしようという提案である。

 メリーシュメリーとしては不本意である。まるでタヌルバルド家に情けをかけられた様な形になったからだ。しかし、メリーシュメリーもミアナやカーラの真意はそこにない事は分かっている。カーラはタヌルバルド家の為ではなく、シャクリーンの為にこの様なロジックを展開したのだ。


「陛下はそれで納得なさっておるのですか?」


 メリーシュメリーはミアナに確認する。


「はい。戦場の事は全て大将軍に任せてあります。私は大将軍の意見を支持します」


「ならあたしには何も言う事はないわえ。小僧、本陣にて謹慎しとれ!決して変な気を起こすでないぞえ?」


「承知いたしました・・・」


 ヴィクトルは近衛兵に両脇を抱えられて連れていかれた。


「シャクリーン、これが精いっぱいだ。これ以上やれば不正になる。リキすまんな、気を遣わせた」


「十分なのだ!ミアナ、カーラ、リキ、ありがとうなのだ!」


 シャクリーンは土下座の格好で感謝を述べ、リキは小さく首を横に振った。


 ミアナもカーラも知っていた。シャクリーンが小さい頃からヴィクトルの事を好いていた事を。カーラがヴィクトル排除にシャクリーンを向かわせたがらなかったのはそういう事だったのである。



「さあ!戦いを終わらせよう!聖王の死を知らしめて降伏を促そう!」


 クレストル軍は遂にミアナが直接出馬するという大胆な行動に出る。ミアナが直接出る事で聖王が死に、クレストル軍が絶対的優位を得た事を知らしめる為だ。

 その効果は覿面(てきめん)で聖王がミアナを殺しに行った事を知るコリン・エラード総参謀長が真っ先に兵をまとめて逃亡した。

 北からミアナ本軍、南からペリッツ少将率いるリキ軍、ソルダ軍、ルギリス・ペサード准将率いる旧ヴィクトル軍の三者による連合軍に攻め立てられた聖王国軍に”聖王戦死、コリン・エラード退却”の報が届くと、前線では武器を置いて降伏する者が続出し、ミアナ本軍に一番近い最も北に陣を敷いていたベーラミ・バイセラが降伏、中央に陣を敷いていたポルシン・デュボアは退却、最も南に陣を敷いていたスプシュレ・モリスレルは退却を計るもルギリス・ペサード准将によって討ち取られた。

 結局聖王国軍の死者は三万人にのぼり、五万の降兵を出し、カンガコウ平原を脱出できたのは半数以下の五万人程だった。

 クレストル側の死者も一万二千人に達し両軍合わせて四万二千人が戦死し、総兵力の実に二割以上が戦死するという苛烈な戦いとなった。



 ミアナ軍は聖王国軍が本陣を置いていた場所まで進軍すると、そこで停止し陣を敷いた。すると後方の軍から続々と捷報(しょうほう)が届き、このカンガコウ平原の戦いでのクレストル軍の勝利が確定した。


「姫様!勝ち鬨(かちどき)を挙げましょう!」


「ええ!」


 カーラの勧めにミアナが答える。


「リキ、あなたが音頭をとって」


「俺がか!?」


「この戦いはあなたのもの、あなたこそがこの戦いを締めくくるのに相応しいわ」


「そうだな、リキ、お前が音頭をとれ」


「リキ!」

「リキ殿!」

「リキ!」

「大将軍閣下!」

「隊長!!」


 将兵らに推されてリキが進み出る。


「みんな!!この戦、俺達の勝ちだぁぁぁぁ!!!いくぞぉぉぉ!!エイ・エイ!」


「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」


「エイ・エイ」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」


「エイ・エイ」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 クレストル軍の歓声は大地と大気を震わせカンガコウ平原に響き渡った。




 コリン・エラードは追いついてきたポルシン・デュボアと共にシャングリラへと撤退していった。兵力を考えれば途中の都市に立て籠る訳にはいかない、何とか聖都シャングリラまで退却して国を挙げて外交による停戦交渉に持ち込まなければならない。国をかけての大戦に敗れたのだ、交渉の見通しは明るくない。聖王も死に、新たな聖王も立てなくてはならない。

 しかしコリンはこの混乱をチャンスに変えるつもりだった。ここ十代程で聖王の絶対的権力は失われ、聖王とは国の決定に従うだけの言わばお飾りと化していた。この戦で死んだ34代の様な傑物はまれで、次代の聖王も凡庸な人物で傀儡とするにはもってこいの人物だ。

 コリンは五万の兵を連れてカンガコウ平原から退却してきたが、既に一割ほどが脱落していた。それでもまだ四万五千ほどの兵を有しており、聖都シャングリラで実権を握るには十分な戦力だ。


 ポルシンと共に計画を練り、聖都シャングリラに着いたコリンは聖都に翻る旗を見て愕然とした。城壁にはクレストル軍の旗が翻っていたのだ。




 時は少し遡り、リキ軍がようやくカンガコウ平原に入った頃、聖都シャングリラで留守を任されていた聖王国宰相ブロディ・ワシュートの元にクレストル軍参謀部議長アンヌ・タヌルバルドからの密書が届けられていた。密書には二日後にシャングリラの沖合に停泊した船の上で会談したいとの申し入れであった。本来ならば無視、もしくは軍船を率いてこれを沈めに行くところだが、密書にはブロディが無視できぬ事が書かれており、ブロディは承諾の意を伝えて使者を帰らせた。


 二日後、約束の通りシャングリラ沖に停泊したクレストル軍の大型船の甲板上でクレストル軍参謀部議長アンヌ・タヌルバルドと聖王国宰相ブロディ・ワシュートの会談が行われた。

 両者の形式的な挨拶が終わるとアンヌは冒頭から核心を突いてきた。


「単刀直入に申し上げます、ブロディ殿、貴殿にクレストル側へ寝返ってもらいたい」


「馬鹿な事を」


 ブロディはとりあえず拒否の姿勢を見せる。


「よろしいのですか?あなたが旧グレナ国との港湾使用料の一部を着服していた事を我々は掴んでいるのですよ?」


 アンヌが畳みかける。


「私がそんな事した証拠があるのか?あるならば見せてもらいたいものだ」


 ブロディはそう(うそぶ)いた。


「いいでしょう、これがその資料です。グレナ国の総統府を捜索した時に見つけました。勿論原本は持ってきていませんよ?」


 アンヌが差し出した資料に目を通すとブロディは少し焦りの色を見せたがそれを隠して、


「こんなものはいくらでも捏造出来る。証拠にはなり得んな」


 と突っぱねた。


「そうでしょうか?原本には聖王国軍情報部副部長ランフェリア・セーグリッドの署名がありましたよ?」


 ランフェリアの名前を聞いてブロディはあからさまに不審な表情を見せる。


(あの雌猫め!わしの周りまで調べておったか!?コリンの差し金か?それとも陛下の・・・)


「いかがです?」


 さらに詰め寄るアンヌに、


「さあ?わかりませんな」


 とブロディはあくまでしらを切る。


「それでは次に。ブロディ殿、あなたはバーブ・イリ宮殿に品物を納入する業者への支払いからも着服していますね?」


 アンヌは次の資料を取り出す。


「こちらが宮殿の支出の資料、こちらが業者の領収書の写しです。金額が合っていませんね?そして最終的に決裁したのはあなたです。ここにあなたの署名する欄があるはずです」


 これも原本ではないが、調べればわかる事である。


「う・・・・」


 明らかにブロディの顔色が悪くなる。


「最後にもう一つ、あなた、軍の装備品の横流しもしていますね?これについては決定的な証拠は見つけられませんでしたが、この事をコリン・エラードに洩らしたらどうなるのでしょうね?」


 宰相ブロディと総参謀長コリンが犬猿の仲なのは有名である。もしこの事をコリンが知ればブロディを蹴落とすチャンスと大喜びで調査する事は目に見えていた。そしてそうなれば事が露見するのは火を見るよりも明らかである。

 コリンの名前が出てブロディは観念した。


「どうしますか?このままではカンガコウ平原で我々が勝てばあなたは敵国の宰相として糾弾されます。もしカンガコウ平原で聖王国が勝ったならあなたは犯罪者として味方から糾弾されます。どちらでも同じ事です、避ける方法は一つしかない、お分かりですね?」


「私に祖国を裏切れと言うのか?」


 恨めし気にアンヌを睨むブロディにアンヌは辛辣に言った。


「何を今更、あなたのしてきたこれらの事は国への裏切り以外の何ものでもないではありませんか?ですが強制はしませんよ?あなたには拒否する権利がある、これは交渉ですから決裂してもこちらはあなたを害するつもりはありません。きちんと帰す事を約束しましょう。ただ、この場で返事はいただきたい、いつまでもここに停泊している訳にはいかないですからね」


 もはやブロディが何を言っても負け犬の遠吠えにすぎない、選べる道は一つしかないのだ。


「・・・受け入れよう・・・」


 ようやくブロディは声を絞り出した。

 この歳だ、死を恐れてなどいない。しかし、若造と蔑むコリンに見下されるのだけは我慢がならない。

 ブロディは国への忠誠心よりも己のプライドを取った。



 その後ブロディはアンヌの指示通りクーデターを起こし、兵と民衆に呼びかけた。


「今!この大デミルズ島はクレストル王国によって戦乱の世は収束へと向かっている!しかるに我が国は連年の出兵によって民は疲弊し苦しんでいる!しかし私を含む王侯貴族階級は民の血税の上に居座り、己一身の富貴ばかりを追い求めている。この国の王は何代も前から貴族たちの傀儡に過ぎなかった!故に私は聖王国の歴史に幕を閉じ、クレストル王国と共に新しい世界を創ろうと思う!

 諸君!クレストル王国であれば税は収入の二割五分だ、半分取られていた今までに比べて負担は半分になる。現にクレストル王国に併合されたドガ王国の各都市では経済が活況を呈しドガ王国時代に比べてはるかに豊かな生活が出来るようになったと聞く。それに比べて我が国が併合したハイバル国はどうか!?経済大国と言われたハイバル国が見る影もなく落ちぶれてしまった。兵達よ!クレストル王国では兵は志願制だ、農繁期に無理やり徴兵される事もない。税金の代わりに軍にとられる事もない。己の意志で決めてよいのだ!さらに!クレストル王国では庶民であろうと女であろうと実力があればチャンスがある!諸君も良く知るリキ・サーガもシャクリーン・ペスカニも元は庶民だ。そしてそのシャクリーンやメリーシュメリー・タヌルバルド元帥、アンヌ・タヌルバルド参謀部議長、カーラ・ボーデンハウス参謀部副議長など軍にさえ女性の起用が著しい。

 我々は全てにおいてクレストル王国に遅れていた。私は旧態依然のこの国を終わらせ、クレストル王国と共に統一されたデミルズを作ろうと思う!賛同する者は私と共に()て!ともに平和と繁栄を掴もうではないか!!!」


 ブロディは流石に長年大国聖王国の宰相を務めていただけあって演説も堂に入ったものだ。


 ブロディのクーデターを知った王侯貴族派は鎮圧に乗り出そうとしたものの、既に多くの兵と民衆がクーデターに賛同しており、近衛軍のいないバーブ・イリ宮殿はクーデター派にすぐに制圧された。

 聖都の緊急事態を受けて付近の町や駐屯地から制圧軍が派遣されたが、彼らの前に立ちはだかったのはシーイの海軍艦隊によって輸送されてきたバサット将軍だった。

 聖王国はカンガコウにほとんどの兵力をつぎ込んでおり、制圧軍は合計一万程しか集まらなかった。それに対してバサット軍は二万を超える兵力を動員してきた。これは兵に余裕のある北ドガ軍区のスラウ将軍と西ドガ軍区のメニエ将軍の協力によるものである。

 バサット軍は制圧軍を易々と粉砕して聖都シャングリラに入城し、城壁にクレストルの旗を立てた。



 そんな事が起こっていたとは思いもせず、コリンは城壁に立つクレストル軍の旗を見て愕然としてその場に座り込んだ。


「コリン様!聖都を奪い返さなくては!」


 部下達はシャングリラ奪還を主張したが、


(無理だ・・・籠城されたら攻略に一月(ひとつき)はかかる。しかしクレストル軍は十日もせぬうちに追いついてくるだろう。補給もなく内外から挟撃されればひとたまりもない。降伏するか・・・もしくは転進して港町を押さえ、何とか海上へ脱出してハイバルを目指すか・・・。再起を目指すならハイバルを目指すしかない。しかしここでまた転進を命じればまた脱走兵が増える、どれだけの兵が残るものか・・・)


 敗軍に脱走兵はつきものである。『ワヌーサの大会戦』の前にも二万三千いたクレストル兵が一万人まで減ってしまった事があった。


 コリンはとりあえずシャングリラの様子を調べる事にした。結果として決断を先送りにするというこの事がコリンを破滅させることになる。

 斥候の報告ではシャングリラにいるバサット軍は二万を超えており、攻略はかなり厳しい状況だった。それにもましてコリンを激怒させたのはシャングリラ陥落の原因がクーデターであり、その首謀者がよりにもよってコリンと犬猿の仲のブロディだという事だ。

 しかしこれで降伏は出来なくなった。ブロディがクレストルに通じているのなら間違いなくコリンは始末される。なので一刻も早くこの場を離れなくてはならなくなった。

 コリンは南西の港町パルクへの転進を命じた。予想通りシャングリラを目の前にして脱走兵が相次ぎ、四万人を切っていた兵はさらに二万人ほどにまで減ってしまった。さらにここまで行動を共にしてきたポルシン・デュボア将軍が離脱した。ポルシンは降伏を主張し、コリンと対立してしまった。説得も粛清もしている暇のないコリンはポルシンを放置して自分についてくる兵だけを連れてパルクへと向かった。

 しかしコリンが港町パルクで見た物はまたしてもクレストル軍の旗だった。実はコリンがシャングリラ城下で斥候を放ってシャングリラの情勢を調べている間に、アンヌがシーイに依頼してバサット将軍配下の偏将ベンゾウと参謀サクザをパルクに派遣していたのだ。アンヌはコリンが逃亡するならば海上しかないと読んでいた。近場で船が調達できる場所と言えばパルクしかない。そこで先にパルクを押さえてしまったのだ。


「ああ、我が命運もここで尽きた・・・。ここまで先回りされていては手の打ちようがない。これは『魔女アニー(アニー・ザ・ウィッチ)』アンヌ・タヌルバルドの仕業だろう。聖王国には俺しかいなかったが、クレストルには『天才』カーラ・ボーデンハウスと『魔女メリー(メリー・ザ・ウィッチ)』メリーシュメリー・タヌルバルドを戦場に出してもまだ『魔女アニー(アニー・ザ・ウィッチ)』アンヌ・タヌルバルドがいる・・・。個人の力量で負けているとは思わぬ、なれど国としての人材の豊富さで負けたのだ・・・。お前達は逃げるなり降伏するなり好きにしろ。俺は遅ればせながら陛下の元へ参る」


 コリンはそう言い残して自害して果てた。聖王国において『天才』と呼ばれた男は祖国の滅亡と運命を共にしたのだった。



 コリンの死から三日後遂にリキがシャングリラに入った。ミアナはシャクリーン、メリーシュメリーらと王都へ戻っており同行はしていない。バーブ・イリ宮殿の前ではバサット将軍とアンヌ議長が出迎えた。


「大将軍閣下、既に捷報は聞き及んでおります。見事な大勝利、おめでとうございます!」


「おめでとうございます!」


「いやいや、バサット将軍とアンヌ議長の方こそほぼ無傷でシャングリラを落としてしまうとはお見事です。初めにフォクレスに聞いた時には本当にそんな事が出来るのかと疑っていましたが、本当にやってしまうとは・・・恐れ入りました」


「フォクレスが非常に良い情報を持ち帰ってくれましたからね、ブロディとしては転ばざるを得ない状況でした」


「アンヌ、そのブロディはどうした?」


 カーラが当のブロディが出迎えにいない事を(いぶか)しんだ。


「死んだわ。反対派の貴族に殺されてね」


「・・・そうか。皇太子はどうした?」


「押さえてあるわ。はっきり言って毒にも薬にもならない人間、自分の意見と言うのを持たない人物よ。こちらとしては扱いやすいけど」


「聖王と言うのはそういうものらしいぞ、聖王自身が言っていた、”聖王とは国の機関であって人間ではない、人格も意志もいらずただ国の為に存在するだけ”と」


 リキが聖王の残した言葉を教えるとアンヌは、


「なるほど、つまり彼はまさに聖王の後継者って訳ね」


 と納得した。


「で?皇太子の協力は得られそうなのか?」


 再びカーラが尋ねる。


「ええ、問題は皇太子よりもむしろ貴族の方ね、こちらにいい顔している奴らの中にも相当数反対派がいるはずよ。尻尾を出してくれればそこを突破口に出来るんでしょうけど中々上手くいかないわ」


「宰相を殺した奴からはたどれないのか?」


 リキが尋ねるとそれにはなぜかカーラが答えた。


「うーん、それは無理なのだよ」


「何でさ?」


「後で説明してやるから今は黙っておけ」


 挨拶もそれくらいにしてリキ達はバーブ・イリ宮殿に入った。

 とりあえずここを臨時の大将軍府として聖王国の掌握に努める事になった。


 執務室でカーラと二人になってからリキはカーラに尋ねた。


「なあ、さっきのあれは何だったんだ?何で宰相を殺した奴からは反対派をたどれないんだ?」


「ああその事か。それはな、宰相を殺させたのは恐らくアンヌだからだよ。宰相ブロディ・ワシュートは海千山千の政治家だ、そんな男が我々の懐にいるのは危険極まりない。直接命じたか反対派に情報を流しただけかはわからないが、アンヌが関わっている事は間違いない」


「何でそんな事がわかるんだ?」


「簡単な事だ、私でもそうするからだよ。躊躇なく祖国を裏切る切れ者の政治家など百害あって一利なし、一刻も早く切り捨てねば何を企んでくるかわかったもんじゃない」


「本当お前ら怖えよ!手回しが早すぎる!」


「ふふふ、それが私達の仕事だ。私達にしてみればお前の戦場働きも充分怖いぞ?」


「そんなもんかね?」


「そんなものだ」



 翌日のシャングリラ視察中に事件が起こった。リキはカーラ、アンヌらと町を視察中に不意に強い殺気を感じた。殺気の元を辿ると、とある屋敷(恐らくは貴族の邸宅だろう)の庭の木の陰に男がいた。


(鉄砲だ!!)


 いち早く気付いたリキは【錬氣】を行使してカーラとアンヌをかばう様に前に出た。


≪ターンッ!キンッ!≫


 射撃音と金属音がほぼ同時に聞こえた。


「あの屋敷の庭だ!!鉄砲を持っている!!」


 リキの声に反応してシアダド、シムズ、ランベルトが手勢を率いて屋敷に乗り込み狙撃手を確保してきた。

 カーラが驚いた表情でリキに尋ねる。


「リキ、お前まさか今、鉄砲の弾を斬ったのか!?」


「ああ、前々から可能なんじゃないかとは思ってたんだがまさか試す訳にもいかなくてな。『天雲切』だから斬れたんだろうな、他の刀じゃ刃がダメになってたかもしれん。こいつは俺の加速した抜刀術にも耐えたほどの頑丈さだからな。『三不の剣』は伊達じゃないって事だな」


「そっちじゃない!!お前には鉄砲の弾が見えているのか!?」


「えっ?ああ、見えてるぞ。俺の『思考加速』なら認識速度も速くなる。見えてるが問題は身体が間に合うかという方だな、認識出来ていても斬るのが間に合わなければ意味がない」


「驚いた・・・人間の範疇を越えていますね」


 アンヌもあきれ顔だ。


「カーラ、アンヌ議長も、これくらいで驚いていてはリキ軍は務まりませんよ?こいつは非常識の塊なんですから」


 相変わらずイスティは手厳しい。


「そうだぜカーラ、リキだのシャクリーンだのってえのは昔っから人間離れしてただろ?」


 戻ってきたシムズも同調する。


「そうだそうだ!」

「うちの隊長は化け物じみてますからね!」

「同じ人間だと思っちゃダメっすよ」

「ってか人間じゃないのかも」


 リキ隊の兵士達まではやし立てる。


「なあ、俺って大将軍になったのにちっとも尊敬されてないよな?」


 リキは口をとがらせて、すねるように言った。


「しかしこれはいい手掛かりになりましたね」


 アンヌが微笑む。


「?何のだ?」


「この屋敷の所有者から反対派がたどれるかもしれません。なにせ狙撃手、暗殺者と言い換えてもいいかもしれませんが、彼がこの屋敷にいたのですから。貴族の邸宅とは簡単に侵入出来るものではありませんよ?家主が協力者なら話は別ですが」


 アンヌの目論見通りこの屋敷の主から反対派が芋づる式に発覚し、アンヌは容赦なく反対派を粛清して旧聖王国領とシャングリラの統治を安定させた。



 結局リキとカーラは三か月ほどシャングリラに滞在した。その間に聖王国領の掌握に努め、大デミルズ島の聖王国領についてはほぼ掌握できた。いささか拍子抜けな感じだが、どうも聖王国の国民と言うのは反抗するという考えがあまりないらしい。少なくともクレストル王国が勃興してくるまではデミルズ地方最大の大国であった訳であり、生活水準も高く、税率も他国と変わらない(クレストルが突出して低いだけだ)ので不満と言えば徴兵ぐらいしかなく、政府に対する反抗心がない代わりに政府に対する興味もないといった状態だった。なので戦争がなくなるのは大賛成というだけで、聖王家がクレストル家に取って代わられる事にも反対はなく、すんなり受け入れられたのだ。

 シャングリラにはソルダ将軍とパルディー将軍が残り、旧聖王国領を管轄する事になった。いずれは分割して軍区に再編する事になるが、当面はソルダ将軍を司令官とすることで落ち着いた。

 バサット、ジェリスタ両将軍とヴィクトル軍を預けられたルギリス・ペサード准将はアンヌと共にグレナ軍区へ向かい、小デミルズ島に残る聖王国の残党征伐に備える事になった。



 リキとカーラらのリキ軍が帰都すると王都は大騒ぎで戦勝パレードが始まった。ミアナが帰都した際にも戦勝パレードは行われたのだが、そんなことはお構いなしに王都の市民はリキやカーラなどのリキ軍を担ぎ上げてお祭りにしてしまった。

 あちこちで歓迎され、連れまわされてゴダール館の玉座の間に着いたのは夜もとっぷり暮れてからになっていた。

 リキとカーラは待ちくたびれて少し拗ねているミアナの前に跪き、


「大将軍リキ・サーガ及び参謀部副議長カーラ・ボーデンハウス、大デミルズ島南部を平定し帰還いたしました」


 聖都シャングリラを落とし、南部を平定した事を報告した。

 ミアナは玉座を下りて己も跪いて二人の手を取り、


「ご苦労様でした。あなたたちのおかげでこの大デミルズ島に統一をもたらすことが出来ました。この偉大な功績は歴史的な偉業であり、筆舌に尽くしがたいほどの大功です。何を以て報いれば良いのか思案に暮れますが、今は只この言葉を送ります。ありがとう、あなた達の様な臣を持てた事が私が王として最も誇らしい事実です。感謝しています、本当にどうもありがとう」


 と頭の上に差し上げて感謝の意を述べた。



 その後四か月の間にバサット将軍とアンヌ議長を中心とした討伐軍が小デミルズ島の旧聖王国軍の残党を平定し、デミルズ地方はクレストル王国によって歴史上初めて統一が達成された。




 ――――――――――――――――――――――――――――――


 統一がなされた後王都では統一記念式典が行われ、その席でミアナ・ポンフォス・クレストルの女王退位とタンドナ・ピレリー・クレストルの新王即位、ヤモンド・パーライズ・クレストルの皇太甥指名が発表された。

 国民は驚き、反対の声を挙げたが、続く知らせを聞いて一転して祝福に転じた。ミアナ・ポンフォス・クレストルとリキ・サーガの結婚発表である。二人は実に十余年の交際を経て遂に結婚にこぎつけた。

 もはや二人の仲に難色を示す者などなく、国の人気者の二人の結婚は国を挙げて祝福された。



 ―――リキ・サーガ―――

 リキはミアナ退位と共に臨時職であった大将軍の職も解かれ、退役したダグ・ファーレン将軍に代わって筆頭将軍に就任した。しかし、八か月後に急遽辞任した妻ミアナに代わって元帥に就任する事になり、将軍の座も退いた。

 さらには侯爵へと昇爵し、四大侯爵として貴族界でも影響力を持つようになる。

 『統一の大英雄』、『統一三傑』の筆頭、などと呼ばれ、その後もクレストル軍に重きをなし、その威名は世界に轟く事になる。


 ―――ミアナ・ポンフォス・クレストル―――

 ミアナは王位を退き、メリーシュメリーが退任した元帥の後任に就いた。これは新王タンドナが、ミアナが全ての役職から退く事に難色を示したからだ。

 しかし、元帥に就任して八か月後に妊娠が発覚し辞任、その職を夫リキ・サーガに引き継いだ。

 リキとの間には一男二女をもうけ、育児に奮闘する。

 女王退位後、新王タンドナから公爵位を贈られた。クレストル王国では建国の父『英雄王』ウィズリー・クレストルが聖王国の公爵であったことから、ウィズリーに敬意を表し公爵位は欠員であったのだが、クレストル王国史上初めてミアナがその爵位を得た。

 クレストル王国の貴族社会では夫婦別姓も珍しくないが、ミアナは敢えてクレストル姓を捨て、サーガ姓を名乗り『サーガ公』と呼ばれ、『サーガ卿』と呼ばれたリキと区別されていた。だがしかし、後にとある事情から王位に復帰する事になり、元のクレストル姓に戻す事になる。


 ―――カーラ・ボーデンハウス―――

 カーラはミアナの退位と共に侍従の職を辞したが、タンドナの慰留を受けて参謀部副議長の地位にはとどまった。

 そして父ヴォルフとの話し合いによって正式にボーデンハウス家の跡継ぎを辞退し、新たにボルデンハイム家という家統を興した。ボーデンハウスを名乗らなかったのは後継は養子を迎えるつもりだったのでボーデンハウス家の血が入らない家統をボーデンハウス家と名乗る訳にはいかないというカーラの遠慮から出たものだった。しかし、後継には妹リリアの子を養子にしたおかげでボルデンハイム家にもボーデンハウス家の血が入る事になった。

 カーラは『統一三傑』の一人としてタンドナから侯爵の爵位を受け、これによってタヌルバルド家、ボーデンハウス家、ボルデンハイム家、サーガ家の四つの侯爵家とミアナの公爵位とで貴族界は”一公四侯”体制となった(後にミアナが女王に復帰した事から公爵は廃止され、四大侯爵家となる)。


 ―――シャクリーン・ペスカニ―――

 シャクリーンもミアナの退位と共に将軍及び近衛隊長を辞めるつもりであったが、これもタンドナに慰留され将軍職にはとどまる事になった。ミアナの護衛からも外れ、地方の軍区を任されることもあり、王都を離れる事も多くなった。

 シャクリーンも子爵へと昇爵し、何とヴィクトルを婿に迎えた。シャクリーンは初恋を実らせたのである。ヴィクトルとの間には何と四男三女をもうけ、リキやカーラからは”よくもまああの小さな体でポンポンポンポン産むものだ”と驚かれていた。


 ―――アンヌ・タヌルバルド―――

 『統一三傑』の一人。ヴィクトルの廃嫡によってメリーシュメリーより後継の指名を受け、タヌルバルド侯爵家を継ぐ。

 元帥リキと共に参謀部議長として軍制を統括するが、仕事人間の為事務処理を一手に引き受け、リキに楽をさせている。しかし代わりに地方の仕事をリキに回してアンヌは王都でのんびり暮らしており、あれから望み通り二児をもうけた。


 ―――シムズ シアダド ランベルト―――

 シムズとシアダドはそのままリキ軍に残ったが、リキが元帥に就任しリキ軍が廃止されると、リキ軍を受け継いだペリッツ将軍の軍にそのまま移った。

 シアダドは約十年後、シムズは約十五年後に将軍に昇進しており、元リキ軍ではさらにバーデルも将軍になっており、実にリキ軍から四人の将軍を輩出する事になる。

 いくつになってもこの二人は寄ると触ると喧嘩を始め、リキやカーラからは”仲がいいのも大概にしておけ”と言われている。

 ランベルトはリキ軍が廃止になった時に軍を退役して郷里に帰って実家の農業を継いだ。と言っても王都近郊の農村であり、ちょくちょく王都に出てきて昔の仲間達と会っている様だ。


 ―――ティア・ボーデンハウス―――

 ティアもミアナの退位と共に軍を退役した。そして結婚したのだが、相手は何とゲルト・ボーデンハウス、義弟である。どうも以前から恋仲になっていたらしく、ゲルトがボーデンハウス家の後継に指名されたことでその仲が発覚。クレストルの法律上血のつながっていない姉弟の結婚に問題はないが、そこは侯爵家、姉弟で結婚させる訳にはいかず、ティアはタヌルバルド家の分家に一旦養子に行き、改めてボーデンハウス家に嫁に来るという手順を踏んでの結婚になった。

 この結婚を一番喜んだのはカーラで、盛大に行われた結婚式では人目も(はばか)らずにティアと抱き合って大泣きしていたのが目撃されている。


 ―――グリ チャス ゴン―――

 グリは軍に残った。リキの騎砲隊構想は鉄砲の量産化が困難な事から大規模化できず五百人程度の規模にとどまっている。関わってしまったグリは退役が許されなかったが、戦争が終わって却って暇が多くなり、大好きな馬の世話に精を出している。

 チャスはミアナの退位と共に先科研(先端科学技術研究所)へ異動になった。天候の予測技術(ありていに言えば天気予報の事)の開発に協力する事になったのだ。この世界では科学的な観測などは出来ないので経験則に頼ったものとなるが、チャスの知識が大いに生かされた。

 ゴンは警備隊の仕事を続けていたが、ある時誘いを受けて軍学校の教官に転身した。後にゴンを追って軍学校の教官に転身してきた警備隊時代からの同僚と結婚する事になる。


 ―――フォクレス―――

 フォクレスはリキ軍廃止の時に軍を辞め、『闇の目』に加入する。その後一切見かける事はなくなるが、リキやカーラはその活動を把握しているらしい。


 ―――シン イスティ―――

 シンはリキ軍を引き継いだペリッツの元で参謀を続けている。カルナとイスティが抜けた事で負担が増えたが、やりがいを感じているという事だ。

 イスティはそのままリキの秘書になった。元帥には参謀は付かないのだが、とにかくイスティがいないとリキは仕事が回らないので、拝み倒して秘書になってもらった。

 そんなわけで毎日リキはイスティ母さんに叱られているそうだ。

 ちなみにミアナが双子を生んだ時に乳母の役を買って出てくれたのもイスティ母さんである。


 ―――イリア・レシゲネ セイア・レシゲネ―――

 セイアは財務担当としてタンドナ政権でも重きをなして貢献した。しかるべき貴族の子弟を婿の迎えてレシゲネ家の分家として男爵家を興したのだが、独身貴族を謳歌する姉のイリアが度々訪れてはレシゲネ男爵家を引っ掻き回してゆく事に頭を悩ませている。


 ―――カルナ・デンボー ラライネ・ピクル―――

 カルナはリキ軍廃止の時に軍を辞め、カーラの元に通い詰めていたが、ある日突然結婚した。相手はルギリス・ペサード将軍、軍学校時の同期生だ。彼女たちの結婚式はカオスで、新郎はミアナの元に、新婦はカーラの元に行ったきりで二人が並ぶことはほとんどなかった。それでも仲は悪くなかった様で計四人の子供をもうけている。

 ラライネはリキ軍からペリッツ軍に移り、後にさらにバーデル軍に移る。仕事が楽しいらしく独身だが、実家のピクル家には山のように見合い話があるらしい。


 ―――シーイ ライリュウ―――

 シーイは海軍提督として活発になった大陸との交易の航路の安全を確保する役目に追われている。ライリュウも再びリキ軍からシーイの元に戻り、夫婦で戦艦に乗って暮らしている。子供も三人産まれたが、シーイよりもライリュウの方がデレデレで、子煩悩な父親になっている。


 ―――ホウショ カレン―――

 ホウショは正式にルーリーとの婚約が決まり、クレストル王家に迎えられる事になった。カレンも周りから身を固めるように勧められているが、”ホウショ様がご結婚なさるまでは”と縁談も断っているらしい。最近ではホウショはカレンの事を”我が姉上”と言っているという話だ。


 ―――メリーシュメリー・タヌルバルド―――

 メリーシュメリーはミアナの退位と共に元帥を辞任し、タヌルバルド家の家督をアンヌに譲って隠居した。しかしリキが元帥に就任するとリキに乞われてリキの相談役である軍事顧問に就任する事になる。九十九歳で大往生するまでその任に就き、リキを助けた。


 ―――ヴォルフ・ボーデンハウス―――

 タンドナ政権でも宰相として辣腕を振るっていたが、息子ゲルトとティアの間に子供が出来ると隠居を考え始め、数年後に引退。自宅で大勢の孫たちに囲まれて余生を過ごしたという。


 ―――レイラ・サーガ―――

 リキの母レイラは某国に軟禁されていたが、息子リキ、もしくは孫達と会えたとか会えなかったとか・・・。



  

 という事でリキたちのお話はここまでです。

 この後大陸編というのも考えてはいたんですがやめました。理由は年齢。このお話が終わった時、リキとミアナは27歳。もう少年でも少女でもないですね、やはりこういう話は少年少女が主人公だというのが王道でしょう。このまま大陸編に進むとリキ達は三十路を越えてしまいます。私としてはそれはどうだろう?という思いがあるのでここで終わりにしたいと思います。

 しかしせっかくなので大陸編の構想を少しだけ披露します。


 統一を成し遂げてからしばらく経って、対岸の大陸の国バチスルで王位継承があった。これ自体は先王の死去による通常の王位継承だったのだが、新政権の高官の中にバルカの名が。調べてみるとバルカは新王の腹違いの兄である事が発覚。しかしクレストルとしてはバルカはワナード、ルーミガの二人の王を暗殺した犯人、引き渡しを要求するもバチスルはこれを拒否。クレストルとバチスルの関係が悪化してしまう。一触即発の空気の中、海軍同士が偶発的な衝突を起こしてしまう。この衝突自体はクレストル側の圧勝に終わるも、バチスルは報復としてクレストルの商船を襲い、これを沈めてしまう。当初は戦線不拡大方針を掲げていたクレストル政府も民間船に被害が出た事で方針を転換、全面衝突に発展してしまう。リキ、カーラ、アンヌの軍首脳は周辺国に周到に根回しをして、中立を保証させてから出兵。数百年間戦乱の世をくぐり抜けてきたクレストル軍と平和な世しか知らないバチスル軍では勝負にならず、クレストル軍が勝利し、バチスルは滅亡、バルカは逃亡した。

 このバルカだが、王の子だが側室の子だったので王位継承権がなかった。バチスルでは家長制度が絶対で、家族兄弟は父・兄に絶対服従という習慣があった。バルカは長男だったが正室の子である弟に仕えねばならず、”自分が兄なのに”という鬱屈した気持ちを持っていた。さらに父は側室の子であるバルカに一切興味がなく、会った事もほとんどない。母も父王の寵愛を繋ぎ止める事に必死でバルカの事は乳母、家政婦に丸投げでこちらも会いに来ることはほとんどなかった。このような環境がバルカの人格形成に大きく影響していたのである。

 バルカがクレストルに潜入したのは父王の命令で、クレストル政府の上層に食い込み、クレストルを動かしてバチスルの利益を図る為だった。当時クレストルは中堅国家ながらも経済的に豊かで資源も豊富だった事から目を付けたらしい。バチスルは大陸の八大国同盟の中でも最も小さく軍事的にも経済的にも他の七か国に脅威を感じていたので、デミルズ地方に解決の糸口を求めたという事なのだ。

 結局バチスルは滅び、その地位・立場はそっくりクレストル王国が継ぐことになった。

 しかし、クレストルの軍事力を脅威と感じた周辺三か国が連合して旧バチスルのクレストル領に侵攻、クレストルが大陸に駐屯させている兵はあまり多くなく(他の国家を刺激したくなかった為)、大敗を喫してしまう。

 そこで旧バチスルに派遣されていた司令官は王都に救援を要請、御前会議の結果元帥リキ自らカーラ、シャクリーンなどを率いて出陣する事になる。

 リキはカーラの助言に従って策を用い、敵を分断させて各個撃破し旧領を回復、しかる後に八大国同盟中の大国である楼丸国と西の帝国に停戦の仲介を依頼、両国が間に入る事で停戦が実現する。

 クレストルが停戦を求めたのは、これ以上の領土を大陸に持っても経営が出来ない事、領土を増やせば却って他国の警戒を呼び今回のような事が起こりかねない事などが理由であった。

 戦争が終わって平和になったリキの元にある情報が寄せられる。母レイラ・ガトーの軟禁場所が判明したというのだ。リキは王であるタンドナ(この時点ではまだヤモンドに王位を譲っていない)に願い出て単身レイラ救出に向かう。無事母との再会を果たすも、聖王の警告通りリキは楼丸国の後継者争いに巻き込まれ、伯父や従兄弟と争う事になる。結果リキが勝ち、『天・地・人』三本の神剣をリキは手に入れるが、母を失ってしまう。リキは『人の小刀』を従兄弟に渡し、楼丸国を託して帰国する。

 その後は楼丸国の弱体化を見て西の帝国が動き出し、それに対抗するためにリキ達は他の六か国と同盟を強化し、連携してこれに当たろうとするが、帝国側も切り崩しを図ってきて・・・。

 みたいなのを考えていました。まあ妄想ですが。



 今回の話に少し触れておくと、近衛五将対リキ軍の将は最後くらいリキ以外の将に活躍の場を、という意図で書きました。特にグリに活躍させてあげたかったんです。グリとフォクレスは非常に重宝したキャラで、二人とも当初の設定を越えて成長してくれました。フォクレスにも前回ボルボ戦という形で活躍の場を与えました。今回もデラゴ戦でおいしい所だけ持っていきましたが、あれはシャクリーンが勝つのは当たり前なので、少しひねってみました。グリも騎馬兵という特徴を上手く出して活躍してくれました。騎砲隊の元ネタはまんま伊達政宗です。

 ティアも最後に活躍の場を与えました。ティアの設定はかなり前から決めていました。具体的には『ギョウ巡行編』の時です。あの話を書いて後から読み返した時違和感を感じたんですね。”侯爵家の跡取り娘のカーラならもっと良い護衛を付けられるのに、なぜわざわざ軍学校の学生から護衛を選んだんだろう?”と。

 そこで後付けとしてカーラとの特別な関係、義理の姉妹という裏設定を作りました。一応におわせていたつもりではいたのですがどうだったでしょうか?やたらとカーラと親しかったり、決定的なのはカーラにとって自分の命よりも大事なミアナの護衛を任せたりという事を書いてきたんですが・・・。作中でカーラがミアナを任せるのはリキとシャクリーンとティアだけです。

 そのうち明かそう明かそうと思っている内に最終話になってしまいました。

『三振りの神剣』の話は最初から設定にありました。大陸の楼丸国編で大きな意味を持つ設定として考えていましたが、こんな形になりました。

 最後の決戦がリキと聖王の一騎打ちになる事も当初の予定通りでした。リキと同じ[能力]を持ち、リキよりも速い相手と戦うというものでした。結果は御覧の通りになりました。一つだけ補足しておくと、『加速』した『雷光』に刀が耐えられたのは『天雲切』だからです。他の刀だったらグレナでミアナを助けた時のように刀は折れ、リキの負けだったでしょう。ある意味武器の勝利で、剣士としては聖王アレックスの方が若干上というのが私の見解です。



 さて、そろそろ終わりにしますが、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。初めて書いた小説で読みにくい点もあったかと思いますが自分としては満足しています。

 読者の方の中でお一人いつも感想を送ってくださる方がいるのですが、名前を書いていいものかどうかわからないので控えますが、毎回感想をいただけるのが本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

 しばらくは投稿する事はないでしょうが、その内新作かリキたちの子供か孫世代の話を書くかもしれません。半年後くらいに三崎太郎で検索していただければ、書いているかもしれないのでよろしくお願いします。


 それでは皆様本当にありがとうございました!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも読みのを楽しみにしていたのに終ってしまい残念です。ミアナが再度王位に就くとありましたが、その理由が書かれておらず気になります。番外編でその点について書いてもらえるとうれしいです。
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