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side:栗坂亜紀 『閉ざされた心』



 俺は、人間が嫌いだ。

 あの日から俺は、世界から目を逸らした。



 ◆



 十年前、俺が小学一年の時に事故で両親を亡くした。

 そんな俺は、母方の従兄弟である瑞希(みずき)の家に引き取られた。

 悲しみはなかなか癒えなかったが、瑞希や瑞希の両親に温かく迎えられ、次第にこの家に馴染んできた。


亜紀(あき)


 俺にはこの頃親友と呼べる友が居た。

 いや、正確には俺が思っていただけだったのだが。


「●●●」


 もう名前は忘れてしまった。

 多分、忘れたかったからだろう。


「大丈夫か? お前、今従兄弟の家に居るんだろう?」


「大丈夫だよ、みんな優しくしてくれてる。いつまでも悲しんでるわけにはいかないから」


 彼は両親を亡くした俺に、気遣いつつもいつも通りに接しようとしてくれていた。

 その気持ちが、何より嬉しかった。

 だがしかし、それは俺の勝手な思い込みでしかなかったんだ。

 数年間、俺はそのことに気づいていなかった。

 それに気づいたのは、そんな俺の様子を嘲笑う誰かの言葉を聞いたときで。


「すっかり騙されてやがるな。●●●がお前なんかに優しくするわけがないだろう?」


 それはいつ言われたのかさえ、もう分からない。

 ただ断片的に、その言葉が焼き付いていた。


「っ!! 嘘だ、あいつは俺の――っ」


「いい加減に気づけよ。お前に優しくしていたのは、お前に近づくためだったんだから」


 そう、俺が親友だと思っていた彼は、俺のことが好きだったある女の子が好きだったらしい。

 彼女に近づきたくて、俺を利用した。

 だから本当は、友達だなんて思っていないのだと、そう言われて。


「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!」


「……嘘じゃない、俺はお前が嫌いだったんだ」


「●●●……」


 ふと後ろから現れたあいつに、酷く残酷な真実を突き付けられた。

 あいつは俺の前に立ち、酷く冷めた顔で言った。


「今でもお前が嫌いだよ」


「――っ!!」


 親友だと、思ってた。


『なぁ亜紀、お前つらかったら俺ん家来いよ!』


『え、でもそれは悪い……』


『遠慮すんなよ! 俺達の仲だろ!?』


 まだ幼い時の記憶。

 幼いのに……いや、幼いからこそなのかもしれない。残酷な言葉をたやすく吐く。

 普通なら、ここまで傷つかなかった。

 でも俺は、両親を亡くした悲しみが重なり、とてつもない絶望を味わうこととなった。

 そのまま膝から崩れ落ち、涙が自然と流れて言葉も出なかった。

 その日から俺は、少しずつ少しずつ心を閉ざし、中学へ上がる頃には人嫌いになっていた。

 瑞希は酷く心配していたが、その頃の俺は瑞希の声さえろくに聞かなくなっていて、必要最低限の会話しかしなかった。

 そんな俺を変えるきっかけは、高校生になって隣の席のあいつに出逢ったこと。


「俺は宇都宮可名(うつのみやかな)。よろしく、栗坂(くりさか)


 そう言って、笑いかけてきた。

 明るくて、誰とでも打ち解けられような雰囲気。

 そんなあいつを鬱陶しく思った。


「……」


「何だよ、無視するなよな。あーきーくーんー?」


「……」


 俺はあいつを無視し続けた。

 早く離れて行けば良いんだ。

 しばらく無視していれば、もう俺に関わろうとしなくなるだろうと、その頃の俺は思っていた。



 ◆



 それからあいつは、朝も昼も放課後も俺に付き纏ってきた。

 ……あいつは入学式の次の日からは、何故だか女装だったが。

 そんなところも、あいつは変わっている。

 そしてある日の放課後、痺れを切らした俺は遂に口を開いた。


「ねぇ、栗坂は放課後何してるのー?」


「……お前には関係ない。鬱陶しい。ついて来るな」


「あはっ! やっと喋ってくれたね!」


 可名はひらりとスカートを揺らし、俺の前に立ちはだかる。


「ねぇ、君は何をそんなに苦しんでるの?」


 真剣な顔つきで、いつものように明るい振る舞いではなく、俺に問う。


「お前には関係な――」


「あるよ、だって栗坂の友達になるから」


「……はぁ!!?」


 彼の顔が少し緩み、穏やかな笑みを浮かべる。


「君は今日から私の友達になるの」


 有無を言わせない、強制的な態度。

 そして勝手に他人の事を決めつける。

 その態度に腹が立った。


「俺はお前の友達なんかにならない」


「いいや、なるね! 君は私の友達になる。だって私は、君を好きだから」


「何勝手なことを言って――っ」


「人を信じられない? 人を嫌い? そんな考え、俺がぶち壊してやる」


 あいつの顔がつきがまた真剣なものに変わる。

 そのくるくると変わる表情や声色に、俺の気持ちは振り回される。


「今日からお前は俺の友達だ、亜紀」


『亜紀』


 ふと蘇った幼い記憶。

 なんだ、この自分勝手なやつは。


「……自己中心的で押し付けがましい」


「構わないね! ということでよろしく。俺のことは可名で良いよ」


「……はぁ。可名、お前鬱陶しいよ。俺なんかほっといてくれれば良かったんだ」


 俺の負けだ。こんなにもしつこいやつだとは思わなかった。

 溜め息を溢して気を緩めると、思わず顔も緩んでしまったようで。


「笑った……」


「っ!? 笑ってない!!」


 これが、あいつと俺の出逢い。

 でもまだ俺は、人間は嫌いだし、信じられない。

 でも、彼らだけなら――


「少しくらい信じても良いかも、な」


 そう、思えたんだ。


栗坂亜紀(くりさかあき)

両親を事故で失い、従兄弟である瑞希の家に住んでいる。

とある事件により、人間嫌いになった。眼帯もヘッドフォンも世界から自分を隔離するためのもの。

しかし、高校に入ってから隣の席の可名に付きまとわれ、次第に心を開いていった。以前よりは笑うようになったが、まだ身内だけ。

容姿は良い。人と関わるのを嫌い、女子とは全くと言っていいほど話さないのに、椎名と同じくらい人気。

実は亜紀にとって雷稚(らいち)は癒しだったりする。

読書や音楽を聴くのが好き。嘘や同情は嫌いで、エイプリルフールは一日中家から出ない。


宇都宮可名(うつのみやかな)

生徒会副会長を務める、女装男子。亜紀とは同じクラスで友達。

友人関係を築こうとしない亜紀の、初めての本当の友達。自由気儘だが、世話焼きで思いやりもある。仲間内では兄貴ポジション。

一人称は女装時は私、男装時は俺。女装はただの趣味。女装は男子や陸に好評。よく雷稚や(ゆう)は巻き込まれている。

椎名には興味があり、亜紀同様よく振り回す。椎名と亜紀が仲良くなったら良いなぁと思って日々二人を繋いでいる。

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